妖艶三国志

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247無名武将@お腹せっぷく:03/04/06 18:23
「張宝、張梁。ずいぶん見ないうちに大きくなったわね」。
 「姉様。半年たったぐらいでは、大きくなりませんよ」。
 張宝は笑ってほっぺをふくらませる。
 「ふふ、そうね」張角は笑って返す。
 姉妹と会うのは半年ぶりである。一年出会えるのは限られているので、そう思っても仕方が
ないことだった。
 「ちゃんと、勉強してる?」
 「してるよ、ねえ張梁?」
 張宝はとなりにいる張梁に顔を向けた。
 だが、張梁の顔は(してないよ)という顔で見つめている。
 「ちゃんと、聾都様の授業を聞かなければだめですよ?」
 「わかってるよ、姉様」張宝は大きな声で返事した。
 「あなたたち、おなかがすいているんじゃない?」
張角の前には村人たちが差し入れしてくれたのか、近くで採れた野いちごや川で釣った小魚を煮物にしたものが
茶碗に入って置いてある。
「いいよ、さっき、お昼食べたばっかだから。姉様こそまだなんじゃ」
 「私はいいの、近くで食べてきたから。張梁は食べない?」
 張梁は「うん」とうなずくと、野いちごを口に入れた。
 「あっずるい。私も食べる。」張宝もすかさず野いちごを口に入れた。
 二人の姉妹の愛らしい笑顔を見ていると、長旅の疲れも癒される。張角はこのままずっと時が止まってくれれば
とすら思ってしまうのであった。

続く
248無名武将@お腹せっぷく:03/04/11 23:46
「姉様―姉様」
 張角は張宝の声で我に返った。
 「どうしたの」張宝が心配そうに張角の顔を見つめる。
 「なんでもないのよ、なあに」。張角は笑顔で返した。
 「ううん、別に」。
 「そう、それならよかったわ。あなたたちも元気でやっていることだし、お姉ちゃん安心したわ」。
 妹たちに告げると、張角は立ち上がった。
 「姉様!」張宝は張角に呼びかける。
 「うん、どうしたの張宝?」張角は張宝のほうに顔を向けた。
 「今夜は・・・いてくれるんでしょう?」張宝は心細い声で言った。
 もっと話したいことは山ほどある。張宝はいや妹の張梁だって姉の張角と少しでも一緒にいたいのだ。そんな思いが張宝の顔から
見てもよく取れる。だが、張角は今夜、劉備の家で彼と会うことになっている。この村からおよそ直線にして西へ二〇キロメートル先に
劉備の実家がある涿(たく)県楼桑(ろうそう)村がある。今からなら、昨晩、盗賊たちと出くわした山中を歩くことなく、迂回して行けるだろう。
 「ごめんね、いつまでもいれられなくて。今夜、会う人がいるの」。
 張宝はもしやと思った。
 (聾都様に会うのでは)
249無名武将@お腹せっぷく:03/04/11 23:48
 だが、それならば今夜じゃなくてもいいはずだ。おそらく、自分の知らない誰かと会うのだろう。
 「姉様―言っちゃやだー!」張宝は大声で叫んだ。目元には涙がにじんでいる。後ろで張梁も言葉こそ出さないが、
必死に涙をこらえようとしている。
 張角は胸が痛んだ。私だって、せめて今日の夜ぐらいは姉妹水入らずの時間を過ごしたい。だが、それはかなわない。
 なぜなら、私は何十万人の信徒を抱える教祖なのだから。
 だだをこねる張宝を張角はしかりつけた。
 「お願い、わかってちょうだい。お姉ちゃんを困らせないで!」張角の剣幕に
張宝は黙ってしまった。だが、それでも目元からとめどもなくこぼれる涙はこらえようがなかった。
 「お願い・・・わかって」張角は二人をそっと抱き寄せた。

 張角は村を出発する前に妹たちの教育係である聾都に会った。
 聾都は、まだ講義室にいた。聾都は書物を読んでいたが、張角が講義室に入ってきたのであわてて
本を教卓の下にある物入れに入れた。
 「そんなあわてることもないのに・・・」張角は微笑しながら聾都に近づいた。
 「すみません」。聾都は顔を赤くしながら、顔を下に向けている。
 張宝、張梁の前では毅然とした態度をとる彼だが、張角の前ではおどおどしている。
 緊張しているのか、それから先の声が出ない。
 「あう、えっと・・・」。
 「別に緊張することないのに・・・ふつうにしてくれれば・・・」
 「あい、すみません」。聾都は顔を上げた。
 目の前には魅惑的なまなざしをなげかける女性がいる。思わず、ゾクッとさせられる
セクシーな目の色に、聾都は再び顔を赤くしてしまった。

続く
250無名武将@お腹せっぷく:03/04/16 20:27
「なーに、赤くしてんのかな?」張角はいたずらぽっく笑う。
 その笑顔を抱きしめたくなるほど、可愛い。
 「いや、これは・・・」隠しようがない自分の顔を説明できるわけがない。その返事に困っていた。
「聾都はいつも私と会うとき、顔を赤く染めるわよね、どうして?」張角は不思議そうに言う。
「そんな、別にその深い意味はないです・・・」。
「深い意味って何?」。
「それは・・・」。
 張角の目線が聾都を捕らえる。きらきらと輝く魅力的な目が余計、心臓の鼓動を増幅させる。聾都は息苦しささえ感じていた。
 もしかしたら、張角は聾都が自分を好いているということがわかっていて、こんな遠まわしに声をかけているのかもしれない。それならば、
なおのこと自分の思いを彼女の前ではっきりさせなければならない。
(張角様は、私を待ってくれているのだ。ここは、男としてそれに応えなければならない)
「張角様、私は・・・」。
だが、聾都はようやくでかかった声は、講義室の外から張角を呼ぶ声にかき消されてしまった。
「支度の準備が出来たのね、そろそろ行かなくては」。
「はあ?」一瞬、聾都は張角が何を言っているのかがわからなかった。
「実はこれから、ある人と会うことになっているんです。今から行けば、夜のうちに会えると思いますので・・・」。
 ようやく、事情を飲み込めた聾都は張角に言った。
「そうですか、わかりました。張宝様、張梁様は大事にお守りしますので心配しないでお出かけになってください」。
 「ありがとう、聾都。そう言ってもらえると安心するわ」。聾都はなにか後ろ髪をひかれるような思いを抱いたまま、張角を見送った。

続く
251山崎渉:03/04/17 10:39
(^^)
252無名武将@お腹せっぷく:03/04/18 22:11
期待アゲ
253山崎渉:03/04/20 05:20
   ∧_∧
  (  ^^ )< ぬるぽ(^^)
254無名武将@お腹せっぷく:03/04/20 17:35
 男は三日三晩、山中を駆け巡っていた。
 男は、片手に八尺五寸(約二メートル 漢代の一尺は二三.七五センチ)あろうかという大刀を持ち、肌着のような汚れた着物に、帯のようなものを締めている。その帯には、
水を入れるための瓢(ひさご)が2つぶら下がっている。彼の家は?郡范陽の裕福な肉屋に生まれている。裕福と聞くと、さぞ気品にあふれ、金持ちにふさわしい風貌をしている
と思いきや、その男は身長八尺、豹頭環眼(ひょうとうかんがん さいづち頭にどんぐりまなこ)、燕頷虎鬚(えんがんこしゅ 豊かなあごと虎ひげ)といういかつい顔をしていた。
 親の仕事上、店先に立つこともあったが、巨鐘のような声とその風貌が客を怖れさせるということで、もっぱら猪豚狩りをしていた。山で捕らえた猪豚を解体して、店で売るのである。
 男の名は、姓は張、名は飛、字(あざな)は翼徳といった。建寧(けんねい)元年生まれの17歳の若者である。
 張飛は三日前から、山中に入って猪を追っていた。だが、一昨日、昨日と猪の足跡は発見できても、肝心の獲物が見つからないでいた。
 その日も朝から日没まで猪を追っていたが、ついに見つからなかった。
 「ついてねえぜ」
 張飛は干した猪の肉を鉄で作った串で刺して、焚き火の火であぶりながら、肉が焼けるのを待っている。
 (明日中には、捕ってこれねえとまずいぜ)
 張飛の実家の肉屋には、いろいろな肉の種類が店頭に並べてあるのだが、その中で一番売れているのが、猪の肉なのである。売り上げの半分は、それで占めているので、猪の肉が
手に入らないとなると、直接、店の信用にも響くのである。


255無名武将@お腹せっぷく:03/04/20 17:38
 やがて、肉の焼けるにおいが食べごろであるということを伝えると、張飛は串をとって上から
肉にかぶりついた。
 肉の染み出す脂が、口いっぱいに広がって、たまらない。張飛はしばらくその味を楽しんだ。
 しばらくたつと、肉のにおいにつられて、いつの間にか張飛の周りには狸や狐が集まりだした。
 「ほらよ」張飛は、肉の一片を彼らの前に放り投げた。彼らは一斉にそれに飛びついた。彼らは
それを巡って、激しく争う。肉は彼らによって、無残に引きちぎられて、跡形もなくなってしまった。
 「そろそろ寝るか」。張飛は焚き火をそのままにしておいて、体を横にした。
 連日の疲労と獲物が取れないストレスから、すぐに眠ってしまった。
 何時間たったことだろう。
 張飛の周りを明々と照らした焚き火の炎は一筋の煙だけを残して、消え去っていた。月の光がうっそう
と茂る森の間からかすかに張飛を照らしている。
 森は不気味なくらい静かであった。その静けさの中から、夜行性のふくろうの「ボーボー」という鳴き声が
さびしく聞こえる。
 だが、それ以上に張飛のいびきのほうが大きく聞こえた。いつもとは違う夜の森の静けさに動物たちは、
迷惑していた。
 だが、この大きな音を発する物体に興味を持った動物もいた。体長が八尺、重さが五〇〇斤
(一〇〇s以上)はあろうかという、雄の猪である。
 猪は荒い鼻息を鳴らしながら、張飛の目の前まで接近していた。
 猪は張飛の顔をのぞいた。
 明らかに自分とは違う顔をしているが、猪の記憶には3日前にこれと似た顔を見たことが
あった。猪は急に不安にかられ、張飛に背を向けて、歩き出そうとした。 
 ガサッ
 猪は背後に音がしたので、後ろを振り向こうとしたとき、頭に鋭い衝撃が走った。目の前が
真っ暗になり、意識が遠のいた。それは一瞬のことであった。

続く

二十歳未満では、字、無いと思うんだけどね…。
成人が二十歳なのは現代日本の話だと思うが。
258無名武将@お腹せっぷく:03/04/23 23:30
 張飛はその日の朝、山を下山した。昨夜、偶然自分の前を通りかかった猪の後頭部めがけて1発殴ったら、そのまま猪は昇天してしまった。張飛は
五〇〇斤以上もあろうかという猪を軽々と持ち上げると、それを背負って、山を下りると、自宅がある范陽の街へ真っ先に向かった。
 范陽の街は朝からたくさんの人たちが行き来していた。そんな人ごみの中に混じって、頭一個分抜きんでた張飛の姿は、異様であった。
 彼らの注目は、張飛に集まった。 
 (見せ物じゃねえんだぞ)
張飛は迷惑そうな顔をしながら、足早に自宅に向かった。
自宅は、街の中心部からやや西よりにある商店街の一角にあった。自宅は一階が店になっていて、二階が住居になっている。
 自宅の前には、開店前だというのに早くも何人か、客がいた。
 そのうちの四十代の太り肉(じし)の男が張飛に声をかけた。
 「おおっ誰かと思えば張さん家の翼徳じゃねえか」。
 「楊さんか、まだ店は開かないぜ」。
 楊と呼ばれたその客は、店のお得意さんであった。
 「ここ二、三日見かけないと思ったら、狩りに出かけていたのか?」
 「まあな、こいつは昨晩仕留めたやつだ」。
 張飛は、背負った猪を地面に下ろすと、それをみんなに見せてあげた。
 「でけえな、八尺はあるんじゃねえか?」二十代の男性が言った。
 「それ以上はあるんじゃないかい?」五十代の女性が言った。
 客はみな、仕留めた猪をまじまじと見つめている。張飛はそれを見ていて、少し鼻が高くなった。
 「そうだな、こいつを持ち上げたヤツは、ただでくれてやるよ」。
 「な・・何言ってんだよ。翼徳。こんな五〇〇斤はあろうかという猪を一人で持ち上げられるわけないだろ」。
 「そうだよ、こんなことができるのは街の中で翼徳さんぐらいなものだよ」。
 「まあ、当然だろうがな」。
 張飛が得意げに言うと、客の中から「よし、やってやろう」と言う男の声が聞こえた。
259無名武将@お腹せっぷく:03/04/29 19:54
 「なにを馬鹿な」。
 張飛や彼を取り巻く客が声のあった方向に目線を向けると、そこには、九尺(約二〇七センチ)もある大男が立っていた。彼の身長にも驚いたが、
さらに眼を見張ったのが漢人には珍しい彼の腰まである長い髯(ひげ)である。
 「この辺じゃ、見かけない顔だな、誰だお前!」
 客の一人が長身の男にふっかける。
 「拙者、関羽雲長と申す」。
 「関羽雲長?知らんな。まあいいや、雲長さんよ、あんた、本当にこの猪を持ち上げるきかい?」
 関羽は、毅然とした態度で言った。
 「拙者、嘘は言わん。なんなら、今からその証拠を見せてやろう」。
 関羽は、猪の前にしゃがむと、右手を猪の頭の下に差し込み、左手は腰の辺りを持って、
掛け声と共に一気に猪を持ち上げた。
 「どうだ、これでもまだ不満か?」
関羽は、目を丸くしている張飛や客を見回した。
「ないなら、こいつはもらっていくぞ」。
 関羽は、猪を両手で持ったまま、彼らに背を向けようとすると、虎鬚の男がなにやら騒いでいる。
 「ちょっと待ってくれー!確かにおめえは猪を持ち上げた。それは認めよう。だが、今それを持っていかれてしまったら、今日の商売ができなくなってしまう」。
 関羽は言った。
 「なら、どうすればよい?」
 「おめえが気に入った肉の部分をもっていくというのはどうだ?」
 「気に入った部分?」
 「ああ、どこでもいいぞ。ももでもばらでも」。
 関羽はしばらく考えると、「ならばこれをもらっていく」と言って、猪の頭のほうをあごでしゃくった
 「それでいいのか?」驚いた張飛は、関羽を見上げると、彼は首を縦に振った。
 「わかった。そのままでいいからちゃんと持っていてくれよ」。
張飛は腰にぶらさげている大刀を右手に持つと、一気に刀を猪の首へ振り下ろした。
 血が飛び散るかと客の誰もが思ったが、意外にも血は飛び散らず、切り落とされた猪の頭は地面に転がっていた。
 「こんなのでいいのか?」。張飛は切り落とした猪の頭を関羽に手渡すと、「ああ、これで酒の肴にでもする」と言って、それを受け取った。
 「今度は、もっと、どでかいヤツを獲ってきて、肝をつぶしてやるからな」。
260無名武将@お腹せっぷく:03/04/30 23:30
「ふふ・・・楽しみに待っているぞ」。関羽は含み笑いをすると、店の前から立ち去った。
 張飛が関羽の後ろ姿をいつまでも眺めていると、客の楊が張飛に声をかけた。
 「どうしたんだよ、翼徳」。
 「いや、別に。ただ、なんとなく見とれていただけだ」。
 「見とれていただ?」楊がいぶかしげに言うと、
 「勝負には負けたが、なんかこう気持ちがすがすがしいというか・・・」。
 「勝負事には人一倍執念を燃やすお前が?」
 「ああ、負けても悔しくはなかった・・・」。
 張飛はそういうと、黙ってしまった。
 これが関羽と張飛の最初の出会いであった。
 
 後漢王朝の帝都、洛陽の都を一望できる丘に、二人の青年武者がそれぞれ馬に乗って、並んでいた。
 「中華最大の都市、洛陽もここから見ればたいしたことではないな」。
 童顔の少年は、自分より十歳以上も離れている年上の男に話しかけた。
 年上の男は言った。
 「だが、西の長安、南の襄陽に比べれば、大きい。さすがだよ」。
 洛陽は黄河中流南岸、現在の河南省西部に位置した。洛水の北に位置し、そのため洛陽と名がついた(古代中国では、
河の北を陽、南を陰とした)。地理的な位置としては
最高であり、山々に囲まれ古くから"河山拱戴、形勢甲於天下"と称され、歴代兵家必争の地となった。洛陽の面積15208.6平方メートル、
人口590万人である。
洛陽は非常に悠久な街であり、紀元前770年に始まり東周、東漢、曹魏、西晋、北魏、隋、唐、後梁、後唐の九つの王朝がここに都を
置いたことにより、九朝古都と呼ばれた。
261無名武将@お腹せっぷく:03/05/07 18:02
童顔の少年は言った。
 「それにしてもすごい人の数だ」。
 洛陽の街の中心部は、地方からやってくる買い物客、兵士、貴族など身分問わず多種多様な人々がいた。それらが
集まって、黒い人だかりを形成している。
 「故郷の沛とは比べ物にならないな」。
 年上の男は苦笑いした。
 年上の男は、曹操といった。彼より一〇歳ほど若い少年は、彼の従兄弟である曹仁といった。
 曹仁は、街の中でひときわ目立つ建物に指差した。
 「あそこが帝の住む宮廷だな。たいしたものだ」。
 それは、街の中心部を南北に貫く幹線道路の先にあるきらびやかな宮殿であった。そこには、漢王朝十二代皇帝の
霊帝とその家族、そしてそれらに仕える宦官や外戚、「選挙」-六つの徳目―「賢良方正(けんようほうせい)、「直言」、「明経」、「有
道」、「茂才」、「孝廉」(こうれん)によって選ばれた人たち、諸生が住居を共にしていた。
 「もはや、あそこは手のほどこしようがない」曹操はつぶやくように言った。
 「曹操兄、何か言いました?」
 「いや、独り言だ。それよりこれから何進大将軍とお会いするのだ。粗相ないようにな」。
 曹操は、曹仁に苦言を呈すると、洛陽の城下へ続く道を下りていった。
 
続く
262無名武将@お腹せっぷく:03/05/15 22:44
 「曹操、参りました」曹操は従兄弟の曹仁と共に何進がいる宮廷の中にある大広間に入った。
 「遅かったではないか」そこにはまばゆいかぎりに宝石にちりばめられた鎧を身に着けた男が立っていた。何進である。
 何進は妹の何太后が霊帝の後宮に入りその寵愛を受けて皇子・劉弁(後の少帝)を生んだところから出世の糸口が開けて大将軍に
まで成り上がった人物である。今年の三月、侍中の職にあった何進が、このたび大将軍に任じられ、『太平道』鎮圧の指揮と都の防
備に当たることになった。
 「申し訳ありませぬ」曹操は素直に謝った。
 「ふん、まあいい。お前をここに呼んだのは他でもない。すでに察しがついていると思うが、例のあれだ」。
 「民間宗教法人『太平道』が起こした乱のことですか?」
 「そうだ。俗に黄巾賊ともいわれるがな」。
 「話によれば、黄巾賊の前に政府軍はあちこちで苦戦しているとか・・・」。
曹操はニヤリと笑った。
 何進は言った。
 「張角率いる黄巾軍の主力は河北にあり、わしはそこに北中朗将の魯植を派遣した。課南東部の頴川(えいせん)へは、
左中朗将の皇甫嵩(こうほすう)、右中朗将の朱儁(しゅしゅん)を派遣した」。
 「それは聞いております。河北に向かった魯植軍は黄巾軍を広宗県まで敗走させたと聞き及んでいます」。
 「うむ」。何進は自分の手柄のように喜んだ。
何進は知らなかったが、魯植はその後、戦場視察に来た宦官・左豊に賄賂を贈らなかったため讒言されて流
刑に処せられるのである。その後任として涼州の董卓が選ばれている。だが、董卓は黄巾軍を降せずに召還されている。
何進は言った。
 「河北での戦況はすこぶるいい。だが、頴川(洛陽より南にある)の戦況はあまり芳しくないのだ。そこで曹操、
貴殿には騎都尉(将校)となって、皇甫嵩の支援に向かってもらいたい」。
 「頴川へ?」
 「そこには黄巾賊の拠点がある。それを打ち破ることが出来れば、揚子江から渭水にかけて広がる黄巾賊の勢力を
一掃できる」。
 

続く

それにしても、長生きなスレだなあ。
264山崎渉:03/05/22 01:30
━―━―━―━―━―━―━―━―━[JR山崎駅(^^)]━―━―━―━―━―━―━―━―━―
265無名武将@お腹せっぷく:03/05/24 00:13
曹操は言った。
 「賊を打ち破ることはもちろん出来ますが、そのためにはなにぶん兵が足りません。出来れば何進将軍の兵を借りることは
願えませんか?」
 「しかし、わしは首都を守っているから余分に兵を割くことが出来ぬ」何進は冷たく曹操の願いを断った。
 「わかりました。ではせめて軍馬三千頭、兵糧一万石のご用立ていただきたい」だが、その要求もことごとく断られた。
 (やれやれ、噂どおりケチなお方だ)曹操は思った。

 張角が楼桑村にある劉備の自宅を訪れたのは、からすが塒のある森に帰る夕暮れのことである。
 「ここだわ」。
 村の老翁に教えてもらった劉備の実家は、とまぶきの小さな家である。土壁にはところどころ修復の後が見られる。これ
からもみられるように劉備の家は裕福とは縁のない生活を送っていることがわかる。窓からは煙が立ち昇っている。時間から
して、夕食時なのだろう。今、会うのは適当ではないと思い、しばらく家の外で時間をつぶすことにした。
 しばらくして、見覚えのある男が張角に近づいてきた。
 「やあ、昨日はどうも」。劉備である。ところどころ服が土で汚れている。畑仕事の帰りなのだろうか。
 「劉備どの、またお話したく参上しました」。張角の声は恋人とこれからデートをするかのように弾んでいる。
 「先ほどまで、家の手伝いをしていたのだ。ずいぶん待っていたのではないか?」劉備が申し訳なく言うと、「そんなことない」と張角は首を横に振った。
 「そうか、なら良かった。これから夕食を食べるのだが、君もこれからどうだい?」劉備が誘うと、張角は遠慮した。
 張角が遠慮する意味を悟ったのか、劉備は「大丈夫だよ」と声をかけた。
 「でも・・・」張角はまだ躊躇していたのだが、柳眉は張角の細いうでを手に取り、家の中に入った。
 「母さん、ただいま」。台所には、五十歳半ばの中年の女性が夕食の準備に追われている。
 「劉備かい、ちょっと、棚にあるその皿を取ってくれないかい?」母親が指差した皿を渡すと、母親は見向きもせず、
「ありがとう」とだけ言ってそれを受け取った。

続く
266山崎渉:03/05/28 16:26
     ∧_∧
ピュ.ー (  ^^ ) <これからも僕を応援して下さいね(^^)。
  =〔~∪ ̄ ̄〕
  = ◎――◎                      山崎渉
ひそかに期待
268無名武将@お腹せっぷく:03/05/31 01:06
「こっちへおいでよ」劉備は、玄関で突っ立っている張角に手招きした。張角は台所の方向を気にしていたが、
かといってここで立っているわけにもいかない。張角は劉備の横に座ると、しばらくして台所から劉備の母親が現れた。
 「さあ、ご飯にしよう」。母親が運んできたそれは、小さな鍋に入った粟の粥であった。
 「あれ、お客さんかい?」劉備の母親は、夕食の準備に気がいっていたので、張角の存在にまったく気がついていなかった。
 「お邪魔してます・・・」。張角が声低く言うと、母親はにこやかに笑って言った。
 「こんな矮屋ですいませんね。これからご飯にしようかと思っていたところなんです。よろしかったら、一緒に食べていきませんか?」
 「そんな、悪いです」。張角はやんわり断ろうとすると、
 「二人で食べるより、三人で食べたほうがおいしいですもの。どうか遠慮なさらずに・・・」母親の誘いに屈したのか、張角は「では、ご相伴させて
いただきます」と答えた。
 「なら、もう一個、器を持ってこないと・・・」母親はそう言って、台所のほうへ向かった。
 劉備は、「なっ別に遠慮しなくていいだろう」と耳元でささやいた。
 張角は「うん」と少しはにかんで言った。

269無名武将@お腹せっぷく:03/06/01 01:32
 劉備の母親は、実年齢よりも老けて見えたが、意外に明るい性格であった。初対面の人間に対しても、次々と話しかけてくるので、こちらは聞いているだけであったが、
ちっとも苦にならない。時おり混じる冗談で相手を笑わせるのは、会話の常套手段だが、劉備の母親もそれを上手く使いこなしながらやや緊張気味の張角をリードした。
 いつしか張角も、相手の会話のペースに慣れて、まるでずっと前から知り合いだったかのように気軽に声をかけていた。
 向かい側に座っている劉備の母親は、近所話に花を咲かせている。反対側に座っていた劉備が楽しそうに相槌を打つ。劉備の隣に座っていた張角は、そんな二人を
感慨深そうに見つめた。
 (仲が良いのね)
 二人を見ていると、本当に仲が良いのだなと思う。
 (親子か・・・)張角はふと、昔を思い出した。まだ、私が小さかった頃、近所の子供たちと遊び疲れて、夜遅くなって家に帰ったとき、母は家に入れてくれなかった。泣き
じゃくる私を母はがんと受け付けてくれなかった。今思えば、あれは私が悪かったのだけど、小さかった私は母に捨てられたと思って、必死になって泣き叫んでいた。私に
とって、今でも忘れられない思い出だけど、母は私を愛していたから、あんなことをしたのだと思う。
 怖かった母、でも優しかった母・・・。もう母が亡くなって何年も経つけれど、母親の顔を一度たりとも忘れてはいない。
 (お母さん・・・)張角はこみ上げてくるなつかしさに心を揺れ動かされるのであった。
 「どうしたんだい、目頭を赤くさせて・・・」劉備の母親が、心配そうに張角を見つめている。
270無名武将@お腹せっぷく:03/06/01 01:35
「いえ、ちょっと母を思い出してしまって・・・」張角は、わざと笑顔を作る。
 「あんたのお母さんは元気にしているのかい?」
 「いえ・・・あの・・・母は十年以上前に亡くなりました」。
 「それは、お気の毒に・・・」劉備の母親は、悲しそうな声で言った。
 「いえ、いいんです。ただ、劉備殿の母上様を見ていたら、自分の母親と重なっちゃってそれで、
ふと母親を思い出してしまったのです」。
 「そうなのかい・・・。それはかわいそうなことを聞いてしまったね。母親というのは、何年経っても忘れられないものだからね。
他人の母親を見ると、急に母親が恋しくなるというものさ。私はあんたの母親にはなれないけどさあ、なんか困ったことがあったら
親身になって相談に乗るよ?」そう言って劉備の母は張角の手を握り締めた。
 「ありがとうございます」。張角は感動で涙が出るくらいうれしかった。
271無名武将@お腹せっぷく:03/06/01 23:51
その日の夕食は、普段の夕食となんら変わっていないのに、張角というお客が来て、久しぶりに劉備の家は楽しい夕食となった。
 すでに食卓に並べられた粟の粥は、綺麗に片付けられていた。3人は出涸らしの茶を飲みながら、夕食後のひと時を過ごしている。
 張角は隣に座っている劉備と天下国家論について、話し合っている。それをつまらなそうに聞いていた劉備の母親は、突然それをさえぎるかのように割り込んできた。
 「ところで、二人は付き合ってどれぐらいになるの?」
 突然の母親の質問に劉備と張角は飲んでいたお茶を噴出しそうになった。
 「何言ってんだよ、母さん」流石に劉備の声は上ずっている。
 「あら、違うのかい」母親はキョトンとしている。
 「そんなわけないだろう。知り合いだよ、知り合い」。
 「あらそうなのかい、てっきし私は劉備が彼女を紹介に家に来たのかと思ったよ」。母親は残念そうに言った。
 「でも、こんなベッピンさんだろ。あんた、この娘を見て何も感じなかったのかい?」
 「それは・・・」劉備は黙ってしまった。張角もどうしたらいいのか困っている。
 「劉備はね、今年で二三歳にもなるのにいまだに女の子と手もつないだことがないんだよ。私はそれが心配でね、このまま劉備が一生、一人になるのかと思うと気が
気でないんだよ」。母親は心配そうに言う。
272無名武将@お腹せっぷく:03/06/01 23:54
「母さん、別にそんなこと今ここで話すことないじゃないか」劉備は顔を赤くして怒った。
 「何いってんだい。あんたがいつもそうやって、話を避けているから、いつまでたっても、彼女が出来ないんじゃないかい」。
 「別に一生、彼女が出来ないというわけではないだろ。たまたま今いないだけさ」。
 「そう言って、どんどん歳をとるのさ」。
 「うむむ」劉備は言い返せないでいると突然、劉備の母親が張角の両手を握り締めて媚びるような目で言った。
 「良かったら、劉備の彼女になってくれんかね」。
 「な・・・何言ってんだよ、母さん」慌てて劉備は母親の手と張角の手を引き離す。
 「失礼じゃないか、いきなり」。劉備は母を咎めると
 「別にいいじゃないか。私はあんたのために良かれと思って、言っているんだよ」。
 「彼女が困っているじゃないか!」
 「いえ・・・そんな別に」張角は控えめに言った。
 「とにかく、彼女と私はそんな特別な関係じゃない!」
 「でも、もしかしたら付き合うかもしれないだろ?」
 「・・・」。
 もう何を言っても母には通じないだろう。母は二人をなにがなんでもくっつかせたいようだ。劉備は母と話すのは止めて、張角を連れて
家の外に出た。背後で母がニヤニヤしながら見ているのが気になっていたが、無視した。

続く

 

 

続きが激しく気になります。
274無名武将@お腹せっぷく:03/06/08 00:31
外は漆黒の空の下に星たちがまるでバケツをひっくり返されたように散らばっていた。
 「満天の星空ですね・・・」張角は目を輝かせて言った。
 「そうだね」
 「この星たちは一体、いつごろの頃から瞬きだしたのかしら・・・」
 「わからないよ・・・。ただ、人類が誕生するもっと昔、僕たちの住む星が誕生するよりもっと前にはすでにたくさんの星が今のように瞬きだしたと思うんだ」
 「そうね、きっとそうだわ」。張角はうなずくと、劉備のほうへ顔を向けた。
 「今日は、どうもご馳走様でした」
 「えっいやこちらこそ。たいしたおもてなしも出来ずに・・・それに家の母がご迷惑かけたみたいで」劉備がすまなそうに言うと、張角は首を振って言った。
 「いえ、明るくて優しくてうらやましいお母様でしたわ」
 「なんか変な誤解与えちゃったみたいで・・・」
 「そんな・・・私は何も思っていませんから」
 「いえ、本当。母は恋愛沙汰になると、首を突っ込みたくなるんですよ。それで私はホトホト困ってしまって・・・」劉備が苦笑いしながら言った。
 「もう少し、劉備殿と早く出会っていれば、あるいは恋人になれたかもしれませんね・・・」
 「えっ・・・」劉備は意味ありげな発言をした張角の方を見た。当の本人は顔をうつむいたまま黙っている。
 (脈あり・・・?)劉備はちょっと期待してしまったけれど、すぐに首を横に振って撤回した。
 劉備の思惑をよそに張角は口を開いた。
 「今夜はいろいろなお話が聞けて楽しかったです」
 「それはよかった。また今度おいでよ」と、劉備は張角を誘った。
ところが張角は「・・・残念ですが・・・」と、さびしそうな声で言った。
 「当分、会えないのかい?」
 「当分・・・というよりもう一生会えないかもしれません・・・」張角は消え入りそうな声で囁くと、劉備はショックを受けた。
 張角は言った。
 「ご存知のとおり、私は黄天に仕えるものです。私が今日、劉備殿と会ったのは名残を惜しむために来たのです。今日来て、本当に良かった。これで私はなんの
心にひっかかるものなく戦場に行けそうです」
(ノД`)チョウカクタン…
276無名武将@お腹せっぷく:03/06/14 10:44
期待アゲ
277無名武将@お腹せっぷく:03/06/15 17:09
 「戦場?」劉備が問いかけると張角は答えた。
 「頴川の戦いで、黄巾軍は十万の漢軍を相手に一進一退の攻防を繰り返しています。そこで私はこの戦いを決戦の地と
定め、自ら指揮を取るために赴くのです」
 「頴川までの道のりは、一人で行かれるのですか?」劉備が心配して言うと、
 「大丈夫です。一人の方が怪しまれずにすみますから」と、ニッコリして言った。
 それを聞いて、劉備はいたたまれない気持ちになった。
 (たとえ、無事に頴川までたどり着いたとしても、そこで彼女は生死をかけた戦いに殉じるのだ)
 劉備が黙っていると、張角は「そろそろ行きますわ」と言って、劉備に背を向けて歩き出した。
 「待ってくれ」劉備は慌てて張角の後を追った。
 だが、張角は立ち止まらずに歩を進めた。振り向くのが恐いのだ。彼女の顔には大粒の涙でくしゃくしゃになっていた。
 (今生の別れになるかもしれない。もし時と場所さえ違えれば、お互いもっといろいろな話が出来たかもしれない・・・。だが、もうそんな時間は
私には残されていない。私は、黄巾賊の女なのだ。生まれ持った能力とその知識でこの国を変えるために私は行かなくてはならないのだ)
 張角は必死にあとをついてくる劉備を振り切ろうとした。だが、劉備はすがるようにあとをついて来た。
 張角は歩きながら言った。
 「これ以上は・・・別れが辛いから・・・ごめんなさい」涙を必死に抑えていても、言葉が詰まる。
 「また、会えますよね」
 だが、劉備の問いに張角は答えられなかった。
278藁藁☆玄徳:03/06/15 17:14
デブヲタ必死杉wwwwww
(´・ω・)続きまだかなぁ…。
デブヲタジャ ナイョ…
280禿:03/06/22 20:57
良スレなので張角タンのイラスト新しく描いてやる
281無名武将@お腹せっぷく:03/06/23 00:32
 張角の肩がふるえているのがわかる。劉備はそっと張角に近づいた。
 「私はもっとあなたのそばにいたい」
 張角の頬に涙がこぼれる瞬間、劉備は彼女の背中を抱き寄せた。
 「いけませんか・・・この私でもあなたの力になることができるなら・・・」
 張角は言った。
 「劉備殿は大切な母上様がいるではありませんか。母上様を置いて家を出ることなどできますまい」
 劉備は答えた。
 「母は私がいなくても一人で生きて行けます。事情を話せばきっとわかってくれると思うのです」
 「けれど・・」
 「いけませんか。それとも私が農民であるから・・・」
 「そんな、私は劉備殿の気持ちがうれしいのです。しかし、私は黄巾賊の女。あなたに危害が及ぶと思って・・・」
 「覚悟はできています」
 「でも、でも、でも」張角は涙ながらに止めようとする。
 劉備はそっと言った。
 「それに私は一人の女性を慕う男として、その女(ひと)を守りたいという気持ちをもつことはいけないことなのでしょうか」
 「えっ」張角は顔を赤らめた。
 (劉備殿は私を好いている?)
  突然の劉備の告白に張角はなんて答えていいのやら戸惑っていた。
 すると、劉備の口から
 「一緒に頴川へお供できませんか?」
 「一緒に?」
 「私もあなたと一緒に時代を開拓したいのです」
張角は劉備の決心の固さに何も言えなくなってしまった。
 劉備が答えを待っていると、張角は自分を抱き寄せている劉備の手を握ると、「ありがとう」と言って、
涙するのであった。
ε('o`)3呼んだ?
283無名武将@お腹せっぷく:03/06/27 15:41
絵を描きたいが、描いた後の置き方がわからない。初心者の質問にあるのか?
>>283
アップローダーへの上げ方が分からないのですか?
画像関連は以下のスレで扱っているので、
分からない事を書き込んでおいて下さい。
http://hobby.2ch.net/test/read.cgi/warhis/1021567628/l50
285無名武将@お腹せっぷく:03/06/28 13:41
やっぱエロエロ系ですよね
286283:03/06/29 20:46
どうもすみません。>>284さん、ありがとうございます。
287無名武将@お腹せっぷく:03/06/30 00:24
 劉備が楼桑村からこつぜんと消えてから3日後、この村に二人の体格のいい男が訪れた。
 二人がこの村を訪れたのは、まったくの偶然だったのだが、彼らにとって今後、自分の人生に深くかかわりがある人物がこの村の出身者で
あることを知る由もなかった。
 「関羽の兄貴、今夜はここで休むとしようぜ」
 どんぐり眼で虎鬚が印象的の男が自分より頭1個分でかい長身の男に声をかけた。
 「そうだな、別に急ぐ必要もないし・・・」
 声をかけられた長身の男には腰ほどまで届こうかという長い髯が風によって横に靡かせていた。
 「それにしても、関羽の兄貴。その長い髯うっとうしくないか?」虎鬚の男、張飛は前々から言おうと思っていたことを口に出した。
 「別に気にならん。私は生まれてこのかた、髯をそったことはないからな。今後も生やし続けるつもりだ」関羽がいうと、張飛が迷惑そうな顔で
 「だがな、そんな長い髯を持つから、道先々で目立ってしょうがねえや」と言うと、
 関羽は笑って
 「それはお前の顔がまるで鬼の形相に似ているから、みんな恐がって見ているんじゃないからじゃないか」と冗談めいて言った。張飛は子供が
怒ったような顔つきで
 「そりゃねえよ、兄貴。それじゃあ、俺は鬼から生まれてきた子みたいに聞こえるじゃないか」
 関羽は笑って、「違うのか?」とからかうと、「ちげーよ」と張飛は捨てセリフを吐いた。
 張飛はこれ以上、関羽にからかわれるのは厭だったので、話題を変えた。
 「ところで、兄貴。黄巾賊討伐のために政府が義兵を募集しているって知っているか?」
 関羽は長い髯をさすりながら答えた。
 「ああ、知っているとも。さっきこの村のはずれにもそんな高札が掲げられていただろ」
 「知っているなら話が早い。俺さあ、義軍に入ろうかなと思っているんだ」
 関羽は感心して言った。
 「ほう、またなぜ」
 「まあ、なんだな。勝手に家を出ちまった手前、家族に迷惑かけていることだしよ。ここいらで一発なんか手柄たてないと、申し訳ないかなーなんてなあ」
 張飛が申し訳なさそうに笑うと
 「そういうことか。それなら私も確かに同じことがいえるかもしれん」
 
 
 
カコイー
三戦板一の電波スレ
290無名武将@お腹せっぷく:03/07/06 13:00
 「はあ!?それはどういうことなんだ?」張飛が訊くと
 関羽は「故郷に訳ありの事情があってな」とうつむきながら言った。
 「関羽の兄貴もそんな訳ありの事情を抱えていたのか。よかったら聞かせてくれないか?」
 「つまらん話だぞ」
 「もったいぶらずに聞かせておくれよ」張飛がせかすと、関羽は話し始めた。
 「前にも話したが、私の出身地,河東郡解(かい)県には、"解池"と呼ばれる塩湖があるのだ。そこでは、
きわめて品質のよい塩が産出されるので、有名なところだ」
 「2度目に会ったとき、酒屋で話したことだな」
 「うむ。お前も知っていると思うが、前漢帝国の建国以来、塩は国家による専売品であり、『塩官』(官営製塩所)を
設けて、国家財源の基本としていたのだ」
 「鉄とかもそうだったんだろ?」
 「よく知っているな。多くの国家や地方軍閥政権においては、これらふたつの産出品は専売制なのだ。いうまでもないが、
塩は生活に使われるものだし、鉄は武器製造に使われる。国家はこれを個人に売買を任せるわけにはいかなかったのだ。むろん、
価格も統制されていたし、一般大衆には入手しにくい仕組みになっていたのだ」
 「そういえば、最近、塩の価格が上がったな」
 「それは、今年3月に冀州で起こった黄巾賊が起こした内乱が原因なのだ。政府はこれを討伐するために各地に兵力を送った。だが、
そのために軍事費がかさんで、国家財政を逼迫したものだから、政府は黄巾賊討伐を名目に塩と鉄の価格を上げたというわけだ」
 「結局、俺たち民が、苦しむのかよ」
 「鉄はいいとしても、塩は人間にとって欠かせないものだ。その塩が手に入りにくくなると、ひそかに塩を密造・密売するものが出てくる」
 「うむ」
 「実はかくいう私もその中に関わっていたのだ」
 「マジかよ」
 
291無名武将@お腹せっぷく:03/07/06 23:52
 「もちろん、いけないことだとわかってやっていたのだ。だがな、私はなにも金が欲しくてやっていたわけではないのだ」
 「どういうことでい」
 「貧しい人々のためだ。ひそかに解池に出かけては、塩の塊を砕いて、それを精製し、裏で安く流していたのだ」
 「やるな、兄貴」張飛は感心した。
 「しかしいつまでもこんなことを続けていけるほど世の中甘くはない。二週間前のことだ。私が自宅の裏山で塩を密造して
いるところをたまたま通りかかった官憲に見つかり、私は捕まってしまった」
 「大変なことになったじゃねえか」
 「私はその後、県の刑務所に入れられることになったのだが、その前日に、私は他の密造・密売グループの一人に助けら
れて、拘置所を脱走したのだ。その後、わたしは官憲の追手から逃れるように?県にやってきたというわけだ」
 「そういうことか・・・。でも、兄貴は悪いことやっていたわけじゃないよ。本来ならば、それは慈善事業で人に褒められることなのに・・・」
 「ありがとう張飛。でもなあ、結局それは法律に反することだから、私は罰せられても仕方ないのだ」
 「しかしよ、兄貴。法を作る人間が自分の都合のよい法律を作って民を苦しめているとしたら、話は別だぜ?」
 「うむ」関羽がうなずくと、なにやら張飛がなにかを見つけて叫んでいる。
 「兄貴、立て看板に何か書いてあるぜ!」
 
292無名武将@お腹せっぷく:03/07/08 01:02
「兄貴、立て看板に何か書いてあるぜ!」
 「なんて書いてあるんだ?」関羽が訊くと、
 「なんだ、尋ね人じゃないか?」張飛があっけに取られると、
 「こんな小さな村で、行方の知れない者がいるとは・・・」と関羽はつぶやいた。
 「なんた、家の住所が書いてあるぜ。ここから近くだな」
 「急ぐ理由はないんだ。ちょっくら人助けでもするか?」関羽が提案すると、張飛ははじめ面倒くさそうな顔をしたが、渋々合意した。
 立て看板に書かれてあった住所は、すぐに見つかった。
 そこは、とまぶきの小さな家であった。そろそろ日が暮れるというのに、炊事がされていないところを見ると、家の者が不在のようであった。
 「どうする兄貴?家の者がいないんじゃあ、しょうがねえだろう」
 「仕方ない。出直すか」
  関羽が元来た道を引き返そうとしたとき、初老の女性がこちらに近づいてくるのが見えた。
 「張飛、もしかしたらあのご婦人じゃないか?ここの家の」関羽が横にいた張飛に訊くと
 「かもしれねえな」と張飛はうなずいた。
 女性も二人の男の姿を確認した。
 「あのー何か家に用ですか?」女性がいぶかしげに尋ねた。
 自分の背丈よりもずっと高く、肩幅から見て取れるたくましい二人を見て、女性は息を呑んだ。このへんでは、見かけない顔なので
女性の顔はややこわばっている。だが、こわばった表情にも、時折、疲れたようなそんな表情もうかがえた。
 張飛が答えた。
 「別に怪しいもんじゃねえぜ。俺たちはこの村のもんじゃないが、いたって善人だ」
 女性がまだいぶかしげにこちらを見ていると、関羽が言った。
 「実は、私たちはこの村に立てられていた立て看板を見て、お宅に立ち寄ったのだ」
 すると、女性はたちまち表情を変えて、関羽に訊いてきた。
 「劉備を、いえ私の息子を見かけたのですか?」
 「い・・・いや存じないが・・・」関羽が困惑していると、「そうですか・・・」と女性は肩を落とした。
293山崎 渉:03/07/12 17:17

 __∧_∧_
 |(  ^^ )| <寝るぽ(^^)
 |\⌒⌒⌒\
 \ |⌒⌒⌒~|         山崎渉
   ~ ̄ ̄ ̄ ̄
294無名武将@お腹せっぷく:03/07/13 21:40
(この様子だと、おそらく一日中、探し回っていたに違いない)女性のやつれた姿を見て、関羽は何が何でも女性を助けたくなった。
 「ご婦人、よかったら話を聞かせてくれないか?」と関羽が言うと
 「でも・・・」劉備の母が視線を下に向けてためらった。
すると張飛があいだに割り込むように口を挟んだ。
 「俺たちは、困っている人がいるとほっとけない性質(たち)なんだ。どんなことでも俺たちが解決させてやるよ」と言ったと同時にどこからともなく腹の虫が鳴る音が聞こえた。
 一瞬、場が白けて沈黙が走ると、劉備の母親はそれがおかしかったのか顔を崩した。
 「まだ、夕食はまだなんだろ?食ってきなよ」と言って二人を家の中に誘った。
 「面目ねぇ。まだ俺たち昼から何にも食ってねえんだ」と音の発信者である張飛は頭を抱えて申し訳なさそうに言った。
 (何はともあれ話が聞けそうだな)と関羽が張飛に肘を突っつくと張飛はわざとらしくニヤリと笑うのであった。
  
 夕食後、劉備の母親は少しずつ、あの日の出来事を語り始めた。
「あれは3日前のことなのです。私が夕食の準備に追われていると、劉備が・・・家の息子が黄色い髪をした若い女性を家に招いたのです」
 「息子さんの劉備殿が若い女性を連れてくるのはしばしばあることなのですか?」関羽が訊くと、母親は「いえ、そんなことは一度も」と首を振った。
 張飛が言った。
 「もしかしたら、お袋さんの知らないところで、あんた家の息子は、その女性としょっちゅう会っていたのかも知れないぜ」
 「確かに、それは否定できませんが、あの子は昔からからっきし女性にもてない子で・・・」
 「まあ、そのへんはよくわからないがな。で、その女性はどんな印象でしたか?」
 「この辺の村の娘ではないということは一目でわかりました。ここはそんなに大きくない村ですから、村に住む人の顔と外部から来た人の違いはすぐにわかりますからね。
 女性の印象は、おとなしそうな方でした。ちょっと伏し目がちで何か重いものを背負っているというような印象を受けましたが、でも時折見せる笑顔はかわいかったね。正直、
こんな娘が家の嫁に来てくれたらいいのにと思いましたもの」
 「劉備殿とその女性についてはどうですか?」
 
295無名武将@お腹せっぷく:03/07/13 21:41
「付き合っているような感じはしませんでした。私が彼女になってくれと冗談で言ったら、劉備が怒りましたからね」
 「こうみると、まるで接点がないじゃねえか」張飛が腕組みすると、母親が思い出したように口を開いた。
 「そういえば、劉備が女性を家に連れてくる前日、いつもより遅く帰ってきましたね」
 「いつもより?」
 「はい、その日は朝から劉備が隣町まで行って、草鞋売りの仕事をしていたのです。隣町まで1時間もあればいける距離です。昼ごろに帰ってくるのですが、その日、劉備が家に帰宅したのは夜遅くでした」
 「その日に限って、寄り道してたんじゃないか?」張飛が口出しすると、
 「いえ、あの子は真面目な子ですから今まで寄り道一つしなかったのです」と母親は劉備を弁護した。
 「遅くなった理由とか言いませんでしたか?」
 「いえ、特には。ただ、あの子はちょっと面白い事を話す人と会って、つい話しこんじゃったと笑っていったのを思い出します」
 「もしかしたら、そいつがその女じゃねえの?」
 「一概にそうだとは言えまい。ただその時間、だいたい昼ごろから夕方日が落ちる時間の間で、劉備殿が誰かと話していたことは確かなようだ。その現場を目撃した人がいればわかるだろう」
 関羽は言った。
 「劉備殿が女性を家に連れてから、その後の行動を教えてくれませんか?」
 「私は、一緒に食事でもどうかと誘ったら、女性は最初遠慮していました。劉備が女性を説得して、一緒に三人と食事しました。その後、二人は家の外に出ました。その後、私は食器の片付けのために台所にいましたから、
外の様子はわかりませんでした。ただ、外から女性のすすり泣く音が聞こえたような・・・」
 「すすり泣く音?」
 
296山崎 渉

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