終わりに
「般若心経」は短い経典ですが、非常に幅広く深遠な意味が含まれていることがわかりま
したね。それを正しく理解するためには、たくさんの経典や注釈書を読んで勉強しなけれ
ばなりません。
今日は、日本の仏教との皆さんに、「般若心経」の解説をさせていただく機会を得て、
大変嬉しく思いました。日本は昔から仏教国であり、皆さんはご両親から仏教の伝統を
引き継いでこられたわけですから、仏教は皆さんのご先祖様から伝わってきた宝なのです。
私は、先祖代々から伝わる皆さんの宝について説明させていただいたわけであり、本当に
光栄だと思っています。
仏教とは、知性によって学び、智慧を育むことによって実践するべき教えなので、勉強
するということが何よりも重要です。そのためにも、まず最初に教えを聞かなければなら
ず、教えを聞かなければ、修行の方法を知ることはできません。仏教の修行は、教えを聞
き、それについて考え、瞑想する、という三つの段階を踏まええ進めていかなければなら
ないからです。
私は、すべての仏教徒の方たちに、二一世紀の仏教徒にならなければいけない、とい
うことをいつもお話ししています。現代における知識教養を得るためにも、勉強すること
が必要であり、勉強してはじめて、仏教が他の宗教と違うユニークなものであることが
わかります。
仏教では、特に智慧を重要視しているので、、機能科学者の茂木さんにお目にかかって対
談をしたように、私も過去約三〇年にわたってたくさんの科学者たちにお目にかかり、意
見を交換したり、議論をしたりしてきました。
もし、信心だけでよいのなら、科学者たちと会って話し合う必要などありません。仏教
は、知性と智慧を育むことによって実践しなければならない宗教なので、私たちは勉強す
ることによってさまざまなことを知る必要があるのです。私たち修行者は、信心だけで仏
教に従っていてはいけません。
チベット人の僧侶の中には、私たちは読経をする者であって、教えの意味を知る必要は
ない、と言う人たちがいますが、これは大きな間違いであり、勉強して知るということが
何よりも大切なのです。
日本は、仏教が広く普及している国なので、皆さんも勉強にもっと力を入れていただき
たいと思います。
ダライ・ラマ十四世 茂木健一郎 著 空の智慧、科学のこころより