\(^▽^)/新スレおめでとうございま−す♪
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 ̄ ̄ ワショーイ
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( ´Д`) < これでよしと
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ヽ | / / ⊂ ⊂ )
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∧_∧ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
( ´Д`) < またいつでも来いよ
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| | / バビューン ‐=≡ ⊂ つ
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/ |\ \ ‐=≡ し.(_)
し’  ̄
\(^▽^)/新スレおめでとうございま−す♪
其れにしても此のスレタヰトルはゐつたひ何なんだらふか。
数々のスレタヰトルを見て来た私は、軽い衝撃を感じてゐた。
未だ幼ひ少女にもかゝわらず、感情を抑へた静かな口調と
華奢な肩、さらりと真つ直ぐに肩口まで流れる黒髪、
其して伏せた瞳の奥に宿す儚気な諦念に、私は何か深く
切なひものを感じてゐた。
さふ、私は此の少女を此処に記して置かなくてはならぬと思ひ、
筆を執つたのだつた。
此れは、幼くして自らの運命を悟つてしまつた少女―――美幸の
物語で或る。
10 :
ゆき(σ'д`)σのふ:02/03/13 11:15
なんかの儀式?
あれは今から十五年も昔の事だらふか。少なくとも、元号が短かつたあの時代の話
で或る。
「ハー……」
深々と振り積む雪の中、私は凍へた掌を吐く息で包み、シヤリヽヽヽと鎖の音を残
し走り去る乗合バスの後姿を見送つてゐた。目の前には聳へ立つ雪深き山々の間、数
軒に如かぬ家屋がまるで身を寄せ合ふやうに軒を並べ佇む村――村と云ふよりも集落
と云った方が相応しひで在らふ程度の規模。其れこそ、雪の他には何も無ひと云つて
差し支へ無ひ程の寂れた村だつた。此処――下津上村にバスは日に二本しか来る事は
無ひ。私が下車し、見送つたのは今日二本目のバス、つまりは午後三時半にして終バ
スと言つた塩梅で或つた。
其して、私が此の地の果てのやうな処に来たのには理由が或つた。其の理由を説明
する前に、まづ私が何者で或るのかを説明せねばなるまゐ。私は帝都の或る大学で日
本近代史の講師として教鞭を執つてゐた。そして、私が研究してゐるテヱマは、近代
に於ひて失はれつつ在る地域風習・因習・奇習と云ふものだつた。物の謂はれとは概
ね何かしらの理由が在る。其れは思ひも拠らぬ程、時には人の業に迄迫る程奥深ひ。
研究のテヱマとしては存分にして足る物と思はれる。或る時、私は瓢な事拠り、此の
村に<語ラズ黙スルベシ>とのみ伝へられた因習が在ると聞くに及び、ゐつたひ其れ
が何なので在るのかを調査に来たのだつた。
そもそも、此の因習と云はれるものは言ひ伝へが忠実に守られてゐるらしく、<語
ラズ云々>のみが淡々と伝へられ、其の実體が微塵も見へて来る事が無ゐ、謎と云ふ
には過ぎたるもので在る。然し乍ら、頑なに護られてゐるからこそ其処に因習が存在
すると云ふ確実な証拠でもあつた。研究者として此れ程興味をそそるものは無ゐ。だ
が研究しやうにも離れた地に居ては、見へるものも見へず、聞こへるものも聞こへな
く為る事は研究者為れば自ずと判らふ。研究対象の為には足を繁く使ひ、自らの両の
目で確認し、而して判断するのが学究者と云ふものだ。斯くして、今、私は此の村に
立つてゐるので或る。
雪は止む事無く降り積もり、此の儘では明日のバスの運行も怪しひものだ。然し目
の前に横たわる寒村は余りに小さく、宿など有らふ筈も無ゐ。此の時ばかりは自分の
後先考へぬ行動力を恨みに思つたが、其れでも現状を何とかせねば為らぬ。兎も有れ
私は村へ向け歩を進めた。
山間の所為か、亦は天候の所為か、昼尚薄暗ひ道を歩くと、仄明るひ灯りが洩れて
ゐる家を見かけた。取りもなをさず、私は其の家の粗末な扉をトンヽヽと叩き、
「御免下さひ、何方かゐらつしやひませんか」
と声を掛けた。少々の間の後、ゴトリと木の扉が横にずらされ、其の小さな隙間から
目つきの悪ひ女が私の顔を覗き込むやうに見遣つた後、
「何の用ぞ」
と機嫌の悪さふな声で云つた。
「私、帝都拠り参じました学者です。実は少々、お話を伺ひたく……」
と、私の言葉が終わるを聞く間も無く、女はピシヤリと扉を閉めた。私としては話を
聞きたひ事も山々なれど、実の処、家に上げて貰い吹雪にも為らふかとする天候から
身を護る事が最優先と思つてゐたのだが、其の目論見は脆くも崩れ去つた事と相成つ
た訳だ。然し、冬の短ひ日も暮れ果つる折、此の儘で在れば凍ゑ死んでしまわぬとも
言ひ切れぬ。
さて、如何したものか、と思案に暮れつつ次の家屋へと向かうしか手は無ゐので或
る。もう一軒の家からは洩れる灯りも無かつたが、骨迄冷ゑ切つた身としては藁をも
縋る思ひで先ず誰何のみでもと扉を叩ゐた。数軒の家を片端から、次から次へと叩き
廻つた。だが、何れも矢張り家人の居る気配は無く万策尽き果て、嗚呼、此れは困つ
た、本当に如何したものかと今更乍ら天を仰ぎ見た時だつた。
サワヽヽと雪の舞ゐ降りる静かな音の中、キユ、ヽヽと雪を踏締める音が幽かなが
ら聞こゑて来たのだ。耳を欹て、其の音の方向を辿ると小さな影がほたゝゝと歩み来
る処だつた。小さな影は私の姿を認めると、一瞬立ち止まり、其してソロリヽヽヽと
亦歩み来る。私の前を通りかかつたとき、私は其の童女――近づゐて初めて童女と判
つたのだが――に声を掛けて見た。
「お嬢ちやん」
「…………」
童女はゆるりと顔を上げ、頭に被る蓑の影から私の顔を覗き見た。歳の頃なら九つ
か十と云つた処だらふか。雪のやうに真白な肌に紅く染まる頬、切れ長にくるりとし
た黒く大きな瞳はまるで人形のやうに愛らしひ。然し、華奢な肩と伏せた瞳の奥に宿
す儚気な諦念に、私は何かひどく切なひものを感じた。
「……何?」
見た目から抱くイメヱジ拠りも幾分低く、感情を抑へた静かな口調に違和感を感じ
たのは、此の童女から子供らしさが欠落してゐるやうな、奇妙な落ち着きを感じたか
らかも知れなひ。
「……済まなひけれど、お嬢ちやんのお家は何處に在るのかな?」
「………」
「私は遠くから來た者なんだけれどね、此の雪の中で知り合ひも宿も無くて、一寸困
つて居るのだよ。出來れば、御両親に頼んで今晩軒を借りさせて呉れなひかとね」
此のやうな童女に村の因習について話を訊かう等と思へど無駄であらう、と思つた私
は、正に藁をも縋る思ひで今宵の宿を欲する旨を正直に言つた。
「……あつち」
「あつち?」
「うん」
童女がその細い指を差した先は雪で霞み、何も見へはしなひ。
「あつち、かい?」
「うん。附ゐて來て」
「……良ひのかな?」
「ずつと此處に居たら凍ゑ死んぢやう」
「さうだね」
「小父さんは死なゝくて良ひんでしよ」
死なゝくて良ひんでしよ、と云ふ童女の言葉の意味が、私には俄かには判らなかつた。
童女らしからぬ何やら含みの在る言ひ回しに私は戸惑つてゐたので或る。然し童女は
其んな私の事は気にも留めぬ樣子でほたゝゝと歩き出したのだ。私は慌てて童女の後
を附ゐて行く事にした。
歩くに従ひ雪は深く積もり行き、私ですら脛迄埋もれるやうになると、前を歩く童
女の足は一足毎に膝迄雪に深く埋もれ、雪から足を抜くやうに進む故、小さな肩がヒ
ヨコヽヽヽと揺れる。絶へ間無く雪が降つてゐるのは確かなのだが、周囲を見渡すと
道として踏み固められた樣子も無く、足跡すら無ゐ。殆ど往來が無ゐ事が判る道を童
女は黙々と歩ひてゐた。
兎も角、この童女の口利きで今宵の宿は何とか為るやも知れぬ。半ばホツとしつつ
も歩くと、集落から離れた處にぽつりと藁葺の屋根の小さな家屋が見へて來た。此ん
な童女が独りで暮してゐる筈も無く、あは良くば親御さんから何らかの話を聞く事が
出來るやもしれぬ、と自らの今置かれて居る立場さへも忘れ、学者の考へが頭を擡げ
る。
「こゝ」
家の前に着くと、童女が扉を指差した。
童女は無言の儘、建て付けの悪さうな扉をゴトと開くと、土間に入つて雪を払つた。
バサリと蓑を脱ぐと、真直ぐな黒髪が肩拠り少し上でサラリと揺れる。
「婆ちゃん」
童女が静かに声を掛けると、奥の部屋の襖が開き、腰の曲がつた七十歳程の老婆が出
て來た。老婆は訝し気に私を一瞥すると、無言で童女を見る。どうやら、「此の男は
何者ぞ」と目で問うてゐる樣だ。私は童女を見ると、童女は私の目を見上げてゐた。
答へよ、と云ふ事だらう、と思つた私は、背筋をピンと伸ばし老婆に向き直つた。
「私、帝都拠り参じました學者です。故有つてこの下津上村に参りましたが、宿など
も無く難儀して居りました處を、この子に……」
老婆は額に深く刻まれた皺を幽かに動かし、小さな嘆息を吐くと
「あがれ」
とだけ云つた。
「失礼致します」
私は雪を払つて居間に上がり、囲炉裏端に座つた。老婆は無言で茶を点て、欠けの
有る湯呑みで勧めて呉れた。有難う御座ひます、と一礼をして湯呑みを受取ると、熱ひ
茶を一口啜つた。冷へ切つた軆に染み渡る茶の温かさは實に有難かつた。
「……吹雪だ」
「はい?」
「吹雪ん為る」
老婆はさう云ふと、畳に手を衝ゐてゆつくりと立ち上がつた。竃に向かひ米びつらし
き器からザクヾヽと米を掬い、釜に入れる。童女が同じく竃に向かふと老婆から釜を
重さうに受け取り水桶から冷たいであらう水を取り、小さな手で米を研ぐ。余程冷た
ひのであらう、遠目にも童女の腕が肘迄紅く染まるのが判り、痛々しひ思ひすらする。
だが其れが日々の事なのであらうか、老婆は關心を向ける事無く背を向け、竃に火を
入れた。
夕餉の支度なのか、童女が野菜を洗う横で老婆はトンヽヽとゆつくりとした俎板の
音を響かせる。やがて老婆は鍋を持ち囲炉裏の許に戻り、其の鍋を囲炉裏にくべる。
暫くの間無言が続き、薪が小さく爆ぜるパチヽヽと云つた音のみが響く時間が過ぎて
往く。
「……美幸、味噌持つて來」
美幸、と呼ばれた童女はコクリと頷き、水屋から味噌と御玉を持つて來た。御玉を
大事さうに老婆に渡すと、老婆は美幸に味噌を持たせた儘、鍋の蓋を取り御玉で味噌
を掬つて鍋に溶く。見ると牛蒡と大根が入つた質素な味噌汁だつた。
「あの……」
私が老婆に語りかけやうとした時だつた。
「吹雪さ止んだらけゑれ」
「は?」
「此處さ來てもせうがね。何もね」
老婆は私と目を合はせる事も無く、突き放すやうに云ふと、鍋を一掻きして蓋を閉
じた。さう云へば、此の童女――美幸の両親は如何したのだらう。出稼ぎでもして居
るのだらうか。
「あの、立ち入つた事をお尋ねしても構はなゐでせうか」
「…………」
老婆は無言だつた。無言を肯定と手前勝手に解釈し、私は質問を続ける事にした。
「此の子……美幸ちやん、ですか。御孫さんで?」
「違う」
「では、此の子の親御さんは……」
「…………」
「いゑ、難儀をゐたして居りました處を此の子に助けて貰ひましたのでね、一言御礼
をと思ひまして」
「居ね」
「はい?」
「此の子に親は居ね」
「……御亡く為りに?」
「ハナから居ね。此の子はさう云ふ子だ」
続きが気になるんだけど、もう書いてくれないのかなぁ…
さう云つたきり、老婆は口を鎖してしまつた。孫でも無ゐ童女と二人暮らしをして
居る老婆と云ふのも不自然ならば、ハナから親が居なひと云ふのも不自然だ。そもそ
も親無くして子は生まれやうも無ゐだらうに。如何も要領を得なひ。さう思ひつつ、
美幸を見ると、美幸は私の斜向かひで正座した儘、囲炉裏の焔を只ボオと見つめて居
る。何らかの事情が在り、未だ幼ひ童女であれば本当の事を云ふには未だ早からう、
と云ふのであれば判らなゐでも無ゐのだが、其れにしては此の美幸の何かを悟つたや
うな佇まひは何なんだらう。
沈黙が覆ふ囲炉裏端で私は居心地の悪さを覚へたが、かと云つて此の家を辞し、吹
雪の只中に戻る訳には行かぬ。何やら話題は無からうかと思つた私は鞄を手に取り、
一冊のノヲトと万年筆を取り出した。
話題と云へども、所詮學者として只管學問如か心得の無ゐ私で或る。此う為れば、
研究に附ひて二、三話す如か有るまひ。私はノヲトを捲ると、適当な話題を拾ひ出し
老婆に語り掛ける事にした。
「私が帝都拠り参じましたと云ふ事は先刻お話致しました通りですが、實は帝都の大
學で講師として教鞭を執つて居るのです」
「…………」
「研究内容は、日本の各地域の風習や因習を纏めやうとするもので……」
「…………」
「因習と云ふと、何やら宜しく無ゐものに聞こへるものでは在りますが、編纂してゆ
くと此れが面白ひもので、因習とは其々の地方風土の中で人が生きてゐくに合はせた
知惠と云ふものが見へて來るのです」
「…………」
老婆は耳を向けるでも無く、ただ目をひくつて黙して座るのみだつた。美幸は矢張
り其の瞳に焔を映し、じつとして居る。
「例へばですね、昔拠り『Cめの塩』と云ふものが有ります。相撲の土俵入りで塩を
撒く、お悔やみがあつた時に肩口から塩をかける、店や家の間口には盛り塩……」
「…………」
「赤ン坊を産湯につけるときは、塩で身體を軽く拭う、と云ふものも有りますね」
氣がつくと、美幸は私の言葉に耳を傾けてゐるのか、まるで窺ふやうに私の方をそ
つと見ていた。老婆は其の儘囲炉裏から視線を外す事は無かつたが、講師の性(サガ)
か、美幸の反応に氣を良くした私は、講義のやうに愈々声高らかに続けた。
「何故『Cめる』のに塩を遣はねば為らぬのでせう。いゑ、何故『Cめる』と云ふ事
に砂糖ではなく塩が遣はれるのでしやう」
「…………」
「此れは、昔拠り傳はる生活の知惠が深くかゝわつてゐるのですな。古來、塩には殺
菌・C毒・洗浄と云つた作用が経驗上習得されて居りまして」
「…………」
「其の効能は正に『Cめる』と云ふ事にピツタリ、と云ふ譯なんですね」
私の言葉が終はる頃には美幸は興味深げに其の瞳を輝かせ、感嘆したかのやうに小
さな口から幽かな吐息を洩らした。
「……面白かつたかね?」
私が美幸に問うと、美幸はハタと氣がつゐたかのやうに頬を赤らめ、慌てて視線を
囲炉裏の焔に向けた。其の初々しひ仕草が微笑ましく、愛らしひ。私は老婆の方に向
き直った。此の儘、話の流れとして私が訊きたかつた事を訊ゐてみやう、と思つたか
らで或る。
「如何でしよう、此の村に長らく伝へられた風習と云ふものは御座ひませんでしよう
かね」
「………ねヱ」
老婆は私の顔を見る事も無く、呟くやうに云つた。
「ふむ……實の處を申し上げますと、私は此の村に或る謂ひ伝へが在ると聞ゐて参つ
た譯なのですが」
「…………」
「其れが、不思議な事に『語ラズ黙スルベシ』と云ふ謂ひ伝へのみでしてね。其れじ
や何を『黙スル』のかが判らな……」
「黙つとらにやなんねヱものは黙つとらにやなんねヱんだ」
老婆は私の言葉を遮つてさう云つたきり、無言で鍋の木蓋を取つた。味噌汁を一掻
きすると「ヨイシヨ」と小さな掛け声を掛け立ち上がり、竃に向かつた。釜の蓋を開
けると濛々とした湯氣と供に飯の甘い匂いが囲炉裏端迄漂つて來る。老婆は飯を釜か
ら御櫃に移すと、嗄れた声で美幸を呼付けた。美幸はそつと靜かに立ち上がると、老
婆から御櫃を受け取り、囲炉裏端に持つて來る。
後から老婆が盆に載せた椀や漬物を持つて來て、古めかしい杓文字で飯をよそつた。
艶々とした飯は湯氣を纏い、實に美味そうだつた。其の飯と味噌汁、漬物を載せた小
さな膳を美幸が私の前に寄せ、幽かに御辞儀をすると、靜々と自分の席に下がる。
「此れはだうも……」
私は膳を前に御辞儀をすると、「いたゞきます」と手を合はせた。質素では在るが、
恐らく出来得る限りであらう持成しを受けやうと一口箸を動かさふと思つた時、私は
美幸が黙つて坐つて居るだけの事に氣が付ゐた。彼女の前に卓袱台は無く、相変はら
ず囲炉裏の焔を見つめてゐる。
「美幸ちやん……?」
だが、老婆は意に介することもなく、ゆつくりと箸を運んでゐる。
「あの、美幸ちゃんの御飯は」
「ぬが心配する事でね。構わねから食(ケ)」
「然し……」
「わたしはだいぜうぶ…」
然し、と私が口篭つた時、美幸が苛細ひ声で呟ひた。其の時、私は氣付ゐたので或
る。此の貧しひ家に客が来る事は先ず無ゐのであらう、膳が弐人分しか用意されてゐ
なひと云ふ事に。如何に客の身とは云へ、幼子に食を与へぬ譯には行かぬ。私は膳を
美幸の前へ寄せると、
「食べなさゐ」
と勧めた。然し、美幸は頭を小さく横に振ると、目を伏せた。此んな小さな娘が飯を
食べたく無ゐはずは無ゐ。
「だうしたんだい?」
「…わたしは、食べなくても良ひの」
「え?」
「……もう食べちやゐけなひの」
「何を云ふのだい。其んな譯無ゐだらう?」
「…………」
美幸は目を伏せた儘、再び小さく靜かに首を横に振るのみで、黙つてゐる。だが私
は此んな少女を差し置ゐて、ノウノウと箸を運ぶ氣にもなれず、困惑してしまつた。
美幸は何か言ひ含められてゐるのであらう、此の儘押し問答をしても解決はつかな
い。私は老婆に向き直つて云つた。
「あの、私は構ゐませんので、美幸ちやんに……」
「ヱヽんだ」
「は?」
「食わさんでもヱヽ」
「いや、然し……」
「此の子に食わすもんはねヱ」
私は老婆の言葉に唖然とした。ゐつたひ、無碍に「食わすものはない」と言ひ切つ
てしまうのはだう云ふ事何だらう。
「其んな莫迦な。食べ盛りの子供じやないですか」
「美幸。奥行け」
老婆は私の言葉に耳を貸さぬ儘、美幸を奥の部屋に追い遣らうとした。
「待ちなさひ、美幸ちやん」
ゆつくりと立ち上がらふとした美幸を私は制止した。
如何に家の中とは云へ、此の囲炉裏端から離れるには酷な程、空気は冷へてゐる。
ましてや、奥の部屋は襖一つ隔ててゐるので暖が及ぶ事も無く、冷込みは厳しいであ
らう。
「お婆さん、何故其んな事を云ふのですか」
「他所モンが口サ出す事ぢやねヱ」
「然し、御飯も与へず、暖すら取らせないとはあんまりと云ふものではないでせうか。
私は美幸ちやんに助けられたのです。此の子には恩が有るのです」
「…………」
「御持成しは心より有難く思ひます。しかし、幾ら何でも、子供を差し置ゐて戴く譯
には……」
「小父さん」
少々激してしまつたのか、私が声を荒げてしまつたとき、美幸が幽かな声を出した。
「わたしは良ひの。もともと、帰る場所は無ゐはづだつたんだもの」
「帰る場所が無ゐ?」
「うん……でも、小父さんは死なゝくて良ひんだから」
「……其れは、だう云ふ事何だい?美幸ちやん、前にも其れを云つてゐたよね?」
「…………」
「まるで誰かが死なゝくちやならなひやうな……」
私は其処迄云つた處で自らの言葉に絶句した。
「……まさか」
「…………」
じつと美幸を見つめ乍ら、私の頭の中で厭な考えが巡る。美幸は今迄の放心したやう
な瞳から、今は何かを堪へるやうな瞳で囲炉裏の焔を見つめてゐた。きちんと揃へた
両膝の上に載せた小さな拳に、幽か乍ら力が入つてゐるやうだ。
「ウヽム……」
語るには憚られる自分の考へを巡らせつつ、私は腕を組んで唸つた。若しや、此処に
『因習』が存してゐるのでは有るまゐか。然し、其の仮定の的中は決して喜ばしひ事
では無く、寧ろ外れて欲しく思ふ程忌むべきものであつた。
待ちつつ保守
ふと目を上げると老婆が何も云ふ事無く黙々と箸を動かしてゐた。さう云へば、老
婆の事を忘れかけてゐたが……先程迄、私の言葉を遮つてみたり、私の質問に答へず
に、何かを隠してゐるやうな素振りがあつた老婆は、今はただ黙つてゐる。
「あの、少々立ち入つた事を御伺いしますが……お婆さんと美幸ちやんに血縁は無ゐ
のですよね」
「…………」
「何か理由があつて、美幸ちやんを預かつた、という譯なんですか?」
「ぬには関係サねヱ事だ」
「其れはさうですが……然し、せめて御飯ぐらゐは……」
「…………」
老女は口を開かぬ儘で、此の儘では埒が明かぬと考へた私は、美幸に向き直つた。
「美幸ちやん、食べなさゐ」
「………でも…」
「子供はチヤンと食べなゐと為りません」
美幸は老女の事をチラヽヽと見遣る。育ち盛りの子供の事、腹が減つて居なゐ譯は無
ゐ。只、老婆の事を怖れて居るのであらう。
「良ひから、食べなさゐ。お婆さんには私から言ひます」
少し強めに諭すと、美幸はゆつくりと箸に手を伸ばした。老婆は最早其れを咎める事
は無ゐやうである。黙つた儘、味噌汁を啜つて居る。私は美幸が白飯を箸の上に十粒
程乗せ、口に運ぶのを見ると、再び老婆に向かつた。
「差出がましゐやうですが、矢張り子供には食を与へる冪と考へます」
「…………」
「それで……私為りに氣に成る事が有るのですが」
「…………」
「此れには……因習が絡んでゐるのではないでせうか?」
私がさう云つた時、老婆の眉が幽かに動ゐた。何か、必ず心当たりが在るに違ひな
ゐ。然し、此処で急ゐては事を仕損じる。私は、慎重に話を進めやうと考へた。
37 :
あら~夢精 ◆MUSEI/g. :02/06/15 07:39
次、つぎっ!!
ハアハア
続きが気になる
イイ!
あぁ、一気に読んでしまいました。
どうか、続きをお願い致します。
最早六拾年を経て怪しう為りつゝ有る記憶を手繰りつゝ書き綴つて参つた
前回の論述拠り早一月が過ぎやうとしてゐる。拙文を御待ち下さる諸兄には
誠に申し訳無く思つて居る処では在るが、私事乍ら、現在急激為る多忙に
見舞はれて居る最中に在る故、美幸の物語の継続に附ひては当スレツドが残る
限り今暫く御待ち下されば幸ひに思ふ次第で在る。誠に勝手為る事、心拠り
御詫び申し上げると共に、決して継続を忘るゝ事有らざる故、誠に申し訳無ひ事と
思ひつつ、伏して御願ひ申し上げる所存にて何卒宜しく存じ上げる次第で在る。
のんびりとお待ちしております。
どうぞご自愛ください。
必ず帰って来ると信じてましたよ。
えぇ、待ちますとも!!!
まさかココまで延びるとは思わなかった・・・。
一応保守しておこう
ホッシュホッシュ
●´∀`●σ)´∀`●プニョプニュ 新スレおめでとうございまーす♪
俺はまだまだ待ってるぜ
ここは正直ageてみるべきだろうか・・・
個人的意見としましては、
ageずに待った方が良いかと思います。
堪え忍ぶときなのねん…
保守
保守しる
56 :
壁に耳あり、障子にメアリーさん:02/09/07 02:10
耐えヽ(*`Д´)ノきれーん!!
57 :
壁に耳あり、障子にメアリーさん:02/09/07 08:35
,,,,.,.,,,.
ミ・д・ミ <ほっしゅほっしゅ!
""""
まま、時が期すのを待つべし。
59 :
(´Д`*プッスリーノ☆ ◆GoToDark :02/09/15 07:46
イイ!!
続き気になる!
保守
hosyu
ほしゅでつ
保守
正直保守するわけだが
65 :
壁に耳あり、障子にメアリーさん:02/10/27 20:10
保守
保守とかしてみていいでしょうか
まだ?
干す!
保守保守!
保守しつづける
hosyuするさ!!