アニメ最萌トーナメント2006 投票スレRound100

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「わ、私は犯人なんかじゃありません!」
「――知ってるわ。ただ、事件になってしまった原因が貴女にあるって言おうとしたの」
「…?どういう事なんですか?」
「何てことはない。これは事件でも事故でも何でもない平凡な出来事だったのよ。
貴女が彼女達を見つけることがなければ事件にすらならなかった」
「え…、じゃあどうして三人は倒れていたんですか?」
「単なる過労よ…私も理解出来るわ。特にここの所、毎日文化祭の作業で疲れ気味だし…」
そう言って千華留は手を肩に当てた。
その様子を見てあっ、と千代は手を口の前で広げ声を上げる。
そうだ、どうやら分かり始めた様だ。
「そう、どこかで聞いた事のある情景だと思ったのよ。
一人は持っていた刃物によって自殺し、
もう一人は小瓶に入った毒を飲んで死に、
そしてもう一人は格闘の末、刺殺されるって話。
貴女も読んだことあるはずでしょう、月館さん」
それに千代ははっきりと答えた。
「ハイ…、最近読んだばかりでした。演劇『ロミオとジュリエット』のラストシーンですね」


「ご名答。深く愛し合っていた筈のロミオとジュリエットの悲劇はどうして始まったか。
ジュリエットは親に決められた結婚相手パリス伯と無理矢理結婚させらそうになった。
その後、悲観したジュリエットは修道士ロレンスの勧めに従い仮死状態になる薬を呷り死んだ事になる。
一方でロミオは薬屋で毒薬を買いジュリエットの墓を訪れるのだけど、
ロミオを賊と勘違いしたパリスと格闘になり殺してしまう。
そして、ジュリエットは死んだものと勘違いしているロミオは毒薬を飲んで自殺する。
最後に仮死状態から目覚めたジュリエットは絶望し、短剣を使い自ら命を絶った。
――名劇『ロミオとジュリエット』の悲劇のラストシーン。
…要するに、絆奈ちゃんを始め三人は中等部の劇『ロミオとジュリエット』の練習を毎日夜遅くまでやっていたのね。
それはもう、衣服に乱れが出るくらい本格的な練習をして体力を消耗してしまった。
つまり、今日はそれが溜まりに溜まって過労により倒れてしまったのよ!!」
「な、何だってー!」
それはあまりにも呆気ない解決であった。
「…あれ?でも、疑問が残ります。どうして籠女さんは夜々さんの小瓶を持っていたんでしょう?」
「役柄ね…。詰まるところあれは別に夜々さんの持ち物ってわけじゃなかったの。
それは中等部『ロミオとジュリエット』の配役を思い出せば分かるわ」
千華留はホワイトボードに演劇の配役を書き流した。

      モンタギュー家の息子ロミオ:白壇籠女
    キャピュレット家の娘ジュリエット:奥若蕾
        貴族の青年パリス(推測):日向絆奈
         修道士ロレンス(推測):夏目檸檬
    ロミオに毒薬を売る薬師(推測):南都夜々
   ロミオの元恋人ロザライン(推測):此花光莉
                    裏方:月館千代
※(推測)は本編で役名が明らかにされていない。
  判明しているのはロミオ:白壇籠女とジュリエット:奥若蕾。
  後は千代が役なしという事だけ。
  そのため着ている衣装から役を推測。

「つまり、籠女ちゃんが握っていたのは劇で使う毒薬の瓶ってことね。
夜々さんは薬師の役だからその劇に使う瓶に分かりやすい様に自分の名前を書いてたんでしょう。
また檸檬ちゃんの不審な行動も説明が付くわ。
行動が不審に思えたのはきっと彼女も三人との劇の練習に朝まで参加していて寝不足だったから…。
と言う事はきっと今頃、部屋で寝ているんでしょうね」
そういうと千華留は再び席に腰を下ろす。
事件は終わった。だが千華留のやる事はまだまだ残っている。
彼女には今日中のノルマと自身の『カルメン』練習が残っているのだ。

「月館さん。それじゃあ三人には今日はゆっくり休むよう伝えてくれる?」
「ハイ、分かりました」
言って千代は千華留に恭しく一礼をすると慌しく部屋を飛び出て行く。
「――ハァ…。でも、小道具に包丁を使うのはやりすぎよね〜」
走り去っていく千代の後姿を眺めながら千華留は息を吐きそう呟いた。


アストラエアの丘の怪事件  終