アニメ最萌トーナメント2006 投票スレRound100
「絆奈ちゃん達遅いわね…」
そう言い聖ル・リム生徒会長、源千華留は動かしていた手を止め、時計へと目を向ける。
いつもの部屋に千華留は一人だけ。ミシンを使い衣装を作っている最中であった。
時は朝の八時十六分。
千華留とル・リムの三人による定例会議の始まる時間は既に十五分ほど過ぎていている。
確かにル・リムの面々が遅刻する事自体はそう珍しい事象ではないのだが、
流石にその三人ともとなると千華留様も何かよくない虫の知らせを感じ取っていたのだ。
「大変です!千華留様!」
声と共にドアが開いた。それはおかっぱの一年生、月館千代の声であった。
「――貴女はミアトル生の月館さん…一体、どうしたの?」
走ってきた千代は少しの間肩を上下させて息を整える。やがて唇を軽く噛み、真剣な表情で顔を上げた。
「大変なんです!奥若蕾さんと日向絆奈さん。そして白檀籠女さんが気を失って倒れているんです!」
「――何ですって…」
はっきり言って意味が分からなかった。
アストラエアの丘の怪事件 (前編)
千代に向かって千華留は問いかける。
「どういうことなの?どうして三人が……」
「私にも詳しくは分からないんです。ただ、私が今朝偶然にいちご舎(寮の名前)の裏を通りかかったら三人が気を失っているのを発見して…」
千代は目に涙を浮かべ訴える。
「それで…今その三人は?」
「一応、三人とも保健室に移されました。原因は不明ですが多分一日で目を覚ますとの事です」
「――そう…」
何はともあれ後輩の無事を喜ぶべきなのだろうか。
胸を撫で下ろした後、千華留は頬に指を当てて軽く息を付いた。
それに覆いかぶせるように千代は躊躇いがちに言葉を続ける。
「ただ、少し変なんです」
その声はカチカチと震えていた。
「変?何が変なの?」
千華留は振り返り尋ねる。
「――私が発見した時の三人の状況です」
千代は目を伏せながらゆっくりと語り出した。
「まず一番最初に裏庭で倒れている蕾さんを発見したんです…」
「何か不審な点でもあったの?」
「大アリです!だって、蕾さんの側に包丁が落ちてたんですよ!」
「包丁っ!?」
千代によるとそれはごくありふれた家庭用の物だという。
「別に蕾さんにその包丁による傷があった訳じゃないみたいですけど…。そして、次に絆奈さんです」
「まさか、絆奈ちゃんにも何か?」
千華留は机に手を突いて立ち上がった。
「その通りです。絆奈さんは衣服に乱れがありました。おそらく誰かと取っ組み合いの格闘した跡だと思います」
「格闘ですって!じゃあもしかして…」
「ええ、これは何かの事故なんかじゃありません…。れっきとした人の手による事件なんです!」
その時、千華留と千代の間に電撃走る。
「人の手によるもの…じゃあ、犯人は……」
そこで千華留はある人物を思い当たる。――それは…。
「檸檬ちゃん…」
「えっ!?」
千華留の呟きに千代はびっくりした声を上げる。
「――月館さん、今朝から檸檬ちゃんを見かけていない?」
「檸檬さん…ですか…。そういえば今朝方、裏庭の近くで見かけました…」
問いかけに千代は一瞬戸惑いを見せたが、ややしてそう答えた。
「その時の檸檬ちゃんの様子は覚えている?」
「ええと、なんだかそわそわしてているみたいでした…。
私が声をかけると明らかにいつもとは違う様子でこちらを振り返ったのを良く覚えています。
後は愛想笑いをしながら校舎の方に走り去ってしまいました」
「そう、ありがとう」
千華留は少しの間、檸檬の事を疑った。
果たして本当に檸檬が包丁を使い蕾を気絶させ、絆奈と格闘を演じた犯人なのだろうか。
そう決め付けるにはまだ早計だ。
第一、スピカの生徒である蕾とル・リムの檸檬との深い接点などある筈もない。
蕾に偶々犯行を目撃された?
いや、そうだとしても朝、檸檬を見かけたという千代が悲鳴なり何なりを聞いていないのはおかしい。