第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-017
推理パズル第3回は見取り図付き。
ちょっと長いです。
目覚ましが鳴る。時刻は午前5時、今日も私の一日が始まった。
私はこの館のメイドとして、誰よりも早く起きて一日の準備をしなければならない。
いつも問題なくこの時間に起きているのだが、今日はなぜかまぶたが重い。
まだ半分閉じたままの目をこすりながら夜着を脱ごうとして、はたと気付いた。
…私、メイド服を来たままだわ。
なんでこんな格好で寝てるんだろう?そういえば、昨日は…ああ、思い出した。
昨日、お酒を飲み過ぎてしまった。いくら旦那様のお誕生日会で無礼講だったとはいえ…
普段飲まない物を飲んだせいか、倒れるように眠り込んでしまったのを覚えている。
よくいつもの時間に起きられたものだわ…
我ながら感心してしまう。こういうのも職業病の一種なのだろうか?
そんなとりとめのないことを考えていた、その時。
どんっ!
私の部屋の真上で、何か重い物が勢いよく落ちるような音がした。
(何かしら…?)
思わず天井を見上げながら、引き出しからマスターキーを取り出す。
この館の施錠は全て私に任されていた。
マスターキーは私の持つこれ1つのみ、これで館の全ての扉が開け閉めできる。
旦那様も奥様も、私を信用して下さっているのだ。ありがたいことだ。
だからこそ、この館で何か不祥事を起こすわけにはいかない。
私は上の部屋でした音が気になり、様子を見に行ってみようと部屋を出た。
どうやら扉に鍵もかけずに寝ていたらしい。全く、今度からは自粛しなければ。
「あら?」
部屋から一歩出てみると、廊下は真っ暗だった。
いつもは薄いオレンジの光で頼りなくも廊下を照らしている常夜灯が、どうやら切れているらしい。
「いやだ、今日中に交換しなくちゃ…」
壁に手をついて、私は暗闇の中をそろそろと歩いた。
私の部屋は一階東側の一番奥の部屋にある。その真上の部屋は…旦那様の書斎だ。
おっかなびっくり階段を上がると、2階の廊下の常夜灯は無事ついていた。
少し安心して、お嬢様、奥様、旦那様と3つの部屋の前を通り過ぎ、書斎の前まで来る。
小さくノックしてみる。返事はない。そっとノブを回してみるが、鍵がかかっている。
旦那様はまだ寝ているはずなので、私は音がしないようにそっと書斎の扉の鍵を開け、中に入った。
書斎の中は真っ暗だった。書物を傷めないため、この部屋は昼でも遮光カーテンが閉められている。
私は手探りで入り口のすぐ横の壁にある電気のスイッチを押した。
最初に見えたのは、書斎の床に引いてある絨毯の上に倒れた人の背中だった。
背格好から見て…どうやらこの館の下男のようだ。
倒れている下男のそばに、30センチくらいの鉄製の虎の置物が落ちていた。
これは…確か本棚の上に置かれていた物じゃあ?
下男が倒れている目の前の本棚を見上げる。高さは3メートルほどあり、上の棚には踏み台を使わないと届かない。
本棚の上には色々な物が置かれている。その中に、ちょうどその虎の置物が横に置ける程度の空間がある。
(じゃあさっきの音は…ここから虎の置物が落ちた音かしら?)
それにしても、こんな時間にこんな所で、下男が何をしていたのだろう?
私は下男を起こそうと、しゃがみ込んで下男に顔を近づける。
立っているときは、絨毯が赤いから気が付かなかった。
下男の頭の周辺、絨毯に、何か赤黒い液体がじっとりと染み込んでいることに…。
「きゃあああああ!」
血?死んでる?なぜ?どうして?どうすればいいの?警察?救急車?それとも先に旦那様に?
座り込んだまま私が取り乱していると、書斎の扉が開いて旦那様が駆け込んできた。
「どうしたんだ……!?こ、これは……」
「だ、旦那様!どうしましょう、どうすれば!?」
「お…落ち着きなさい。落ち着くんだ」
旦那様は私を宥めて、下男の体と、置物と、本棚と…じっくりと観察した。
「…どうやら、事故のようだな…見なさい」
旦那様が指さしたのは、本棚の中程の棚だった。
棚にぴっちりと並べられた本の真ん中あたりが、強引に抜き出そうとしたように盛り上がっている。
「ぎゅうぎゅうに詰まった本を無理に抜こうとして、本棚が傾いたんだ。
それで本棚の上に乗っていた虎の置物が落ちて、頭に当たったのだろう…」
…言われてみると、確かにそのような状況だ。
「とにかく、警察だ。警察を呼ぼう…」
「は…はい…」
なんとか返事はしたものの、私は足が震えて立ち上がることが出来なかった…。
警察はこの事件を事故と断定した。
なぜ下男があんな時間にあんな場所で本を引き抜こうとしていたか…
実は前日の夜に酒の席で、旦那様が下男に「本棚にへそくりを隠している」と嘘をついていたらしい。
それを真に受けた下男は、そのへそくりを失敬しようと書斎に入り込んだのだろう…という話だった。
私は書斎にもしっかり施錠をしていたが、その日は迂闊にも部屋の鍵を開けたまま寝ていたので、
下男は私が眠っている間に私の部屋からこっそりマスターキーを取り、書斎の鍵を開けて、また
こっそり返していたのだろう。この件については、旦那様は私に責任を問うことはしなかった。
事故から数日。
「へー、あの人、死んじゃったんだ…」
事故があったときはちょうど休みをもらって実家に帰っていたメイド仲間の反応は、そんな物だった。
「…不謹慎かも知れないけど、あたし別に悲しくないな。だってあの人、あんまり好きじゃなかったもん」
「私も…仕事もあんまり真面目にやらなかったしね…そのくせお嬢様に言い寄ったりしててさ」
「旦那様も、心の中ではザマミロとか思ってるんじゃない?」
「こら、調子に乗り過ぎよ…でも、そうかもね」
「でも、いやよね真上の部屋で人が死んだなんて…あたしの部屋の上じゃなくてよかった」
「それじゃあ旦那様の部屋になっちゃうじゃない…」
旦那様はご家族でお出掛けになっていらっしゃるので、少し気がゆるんでこんな会話もしてしまう。
けど、会話をしつつも仕事はきちんとやっているあたり、私達もプロだ。
私がそれに気付いたのは、書斎の中を掃除しているときだった。
本棚にたまったホコリを順に掃除し、残るは下男が死んだ本棚だけだった。
なんとなく、まだ少し気味が悪かったが、そうも言っていられない。
私は踏み台を使い、本棚の上のホコリを拭きにかかった。
本棚の上には、例の虎の置物が置かれていたであろう場所だけ、ホコリが積もっていない。
その置物のあとを見ると、棚のギリギリの所ではなく、結構奥に置かれていたことが分かる。
(……あれ……?)
そこで私はふと疑問に思った。
(本棚が傾いただけで、この位置に置かれていた虎の置物が、落ちるかしら……?)
それから私が事件の真相を突きとめるまで、そう時間はかからなかった。
見取り図
西 東
「2階」/階段/【お嬢様】 【奥様】 【旦那様】 【書斎】
「
」
「1階」/階段/ 【下男】 【執事】 【メイド仲】 【メイド】