『第2回2ch全板人気トーナメント』投票スレッド-080

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196創作文芸板支援作品ショートショート「スイッチ」(1/5)
 その青年は三度目の大学受験に失敗して、途方に暮れていた。
 すでに勉強する気力もなく、親からも見放されていた。これからの人生を考えると、気が重くなるばかりだった。
 とりあえず、受験で溜まった鬱憤を晴らすために彼は街に出かけた。だがファッションや流行などに興味がない
彼にとって、街に出るという行為にさして意味は無かった。
 軽くブラブラして、結局帰ることになったのだが、その帰り道で奇妙な物体を発見した。
「おや……これは何だろう?」
 その形状から最初、彼は目覚まし時計だと思ったがそれが違うというのはすぐに分かった。
確かにそれの形は目覚まし時計そのものなのだが、時刻を表示する部分がなかった。その代わりに、
時計がある中央部分に数字の「0」が書いてあり、頭の部分には一つのスイッチが付いていた。
 彼は不思議に思い、スイッチを一回押してみた。
 すると「カチ」という音が鳴って、中央にあった0という数字が1になっていた。続けて二度、三度押してみたが、
どうやら中の数字はスイッチを押した回数を示すらしい。スイッチ以外にボタンは見つからず、
電池を入れるような場所もない。
 誰が落としたのか分からないが、彼はこの装置をなんとなく家に持って帰ることにした。
197清き一票@名無しさん:05/03/13 14:56:51 ID:pIh/fLOg
[[2ch13-6NtMrBA9-KA]]

<<その日暮らし>>fromダメ板
ああコードが。。。。
198「スイッチ」(2/5):05/03/13 14:56:55 ID:O80KA72q
 本当にスイッチ一つしかない。加工品なら当然あるはずの継ぎ目とか、ネジとかも無かった。じっくりと見れば
見るほど、彼にはこの装置が何か特別なもののように見えた。全体的に卵のような丸みがあって、色は薄い
ブルーで統一されていた。メーカーの情報なども一切書かれておらず、これが商用に作られたものだとは思えなかった。
 頭頂部にあるスイッチは丸い形をしていて、押すと滑らかに動き出し、いかにもスイッチを押したと分かるような
軽快な音を発する。そして正面に小さく書かれた数字が、パッと次の値に切り替わる。その数字は安っぽい
デジタル表示のようなものではなく、達筆な人が書いたもののように、どこか安心できるような見やすいものであった。
 彼は何度かスイッチを押した後、眠りについた。

 その日から彼は、何かある度にスイッチを押すようになった。
 朝起きた直後、歯を磨いた後など、とにかく暇さえあればスイッチを押すようになっていた。
彼自身は気づいていなかったのだが、彼にとってこのスイッチを押すということは非常に心地良いものであった。
この装置自体に不思議な、神秘的な魅力があった。そして、数字が繰り上がっていくのを見ることが、
一つの楽しみになっていた。桁が上がるたびに、数字の上限が来ることを予想したが、その予想はことごとく外れた。
 スイッチを押すことしか出来ない不思議な装置に対して、彼は様々な想像をした。
「これは、ある一定の数字になったら死神が来て命を奪っていくのかもしれない。
いや、もしくは妖精が来て願い事を叶えてくれるのかも」
 全ては憶測の領域に過ぎなかったが、受験に失敗して落ち込んでいた彼にとって、
この装置はそれを紛らわすに十分なものであった。
199清き一票@名無しさん:05/03/13 14:56:59 ID:6ECKESlz
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<<CCさくら>>
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200柏木千鶴 ◆g6B2JEame. :05/03/13 14:57:19 ID:tu6cjPu0
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201「スイッチ」(3/5):05/03/13 14:57:23 ID:O80KA72q
 その後、彼はもう一度、受験させてもらえるように親に頼み込んだ。親は乗り気ではなかったが、
熱心な息子の姿を見てしぶしぶ了承した。
 三度目の受験は苦しく、辛いものであったが、スイッチを押して数字が繰り上がるのを見る度に彼は何故かやる気になった。
この時、スイッチは彼にとって苦しい時に押すものになっていた。実力が上がっているのかは分からないが、
数字を見ることによって少なくともこれだけ苦しい場面を乗り越えてきた、という自信が生まれ、さらに勉強に熱が入った。
 そして彼は志望校に合格した。その日に押したスイッチの感触は、これまでで最高のものであった。

 大学進学後も彼はスイッチを押し続けた。勉強がはかどらない時や失恋をした時など、ことあるごとに彼はスイッチに頼った。
特に苦しい時は、何度もスイッチを押すことで気を紛らわせていた。数字は相変わらず増え続けたが、
それ以外は特に変化らしい変化は見られなかった。装置自体も劣化する様子もなく、拾った当時と全く同じ状態だった。
このことが、ますます彼の好奇心を駆り立てた。
 古今東西の書物を読み、これに似た伝説や言い伝えを探したが、全く見当たらなかった。
「もはや想像でしか、これの正体は分からないのかもしれない」
 彼はそれ以来、この装置に様々な未来を与えていった。寿命、財産、健康……ありとあらゆる事象が、
彼の中で装置と結びついた。そして、何か思いつく度にスイッチを押していった。
202「スイッチ」(4/5):05/03/13 14:57:45 ID:O80KA72q
 大学を卒業して就職してからも、彼はスイッチを押し続けた。数字は繰り上がり、それと同時に彼の年も増え続けていった。
結婚をして、子供が生まれた。大きな出来事があった時に押すスイッチは、いつも決まって印象深かった。そして彼は、
その時の番号を必ず覚ええるようにしていた。
 両親が死んだ時に押したスイッチは、非常に重く憂鬱なものであった。逆に昇進が決まった時は非常に軽く、
喜びに満ちた音がした。
 息子が結婚をし、そして孫ができた。
 数字は増え続け、彼は年を取っていく。
 
 やがて彼は老人になった。家族に囲まれ、穏やかな余生を送っていた。装置は相変わらず、
拾った時と同じ新品の状態であった。
「そろそろ桁が上がるな……」
 数字は9の羅列を示していた。
 今までがそうだったように、数字の桁が一つ繰り上がるだけだと彼は信じていた。
 記念の意味を込め、彼は感慨深げにスイッチを押した。
「カチ」
 すると突然、中の数字が減り始めた。急激に一つずつ減っていく。その速度は非常に速く、彼にはどうすることもできなかった。
やがて、中の数字は0になって止まった。
203清き一票@名無しさん:05/03/13 14:57:59 ID:LeAksUsb
[[2ch13-TsBvJ9w0-LD]] 
               ミミ ヽヽヽヽリリノノノノ
              ミ     ,,、,、,、,、,、,、,、、 彡
               l  i'' "         i彡
              | 」    /' '\  |    当然の判決ですよ
              ,r/    -・=-, 、-・=- |    後出しポイズンピルが罷り通ったら
              l       ノ( 、_, )ヽ  |              世界中の笑い者ですよ
        , 、     ー'    ノ、__!!_,.、  |     そんな策を弄する連中のTOBに
        ヽ ヽ.  _ .∧    ヽニニソ   l       応じちゃった企業さんは御愁傷様です
          }  >'´.-!、ヽ           /      もし世界中に洩れたりしたら、
           |  −! ヽ. `ー--一' ノ/ヽ        ブランドイメージ失墜の危機でしょうね
         ノ    ,二!\   \___/   /`丶、
        /\  /    \   /~ト、   /    l \  いや別に、
       / 、 `ソ!      \/l::::|ハ/     l-7 _ヽ   脅 し て る ワ ケ じ ゃ 無 い で す よ w 
      /\  ,へi    ⊂ニ''ー-ゝ_`ヽ、    |_厂 _゙:、
      ∧   ̄ ,ト|    >‐- ̄`    \.  | .r'´  ヽ、
     ,ヘ \_,. ' | |    丁二_     7\、|イ _/ ̄ \   それが<<市況1>>クオリティ
     i   \   ハ       |::::|`''ー-、,_/  /\_  _/⌒ヽ
204「スイッチ」(5/5):05/03/13 14:58:07 ID:O80KA72q
 そして今まで、決して壊れることがなかった装置が半分に割れ、中から小さな妖精らしきものが現れた。
「よくこれだけスイッチを押してくれたよね。私は願いを叶える妖精よ。ある一定の数だけスイッチを押したら、
私が現れて押した人の願いを叶えてあげるようになっているの。さあ、あなたの願いは何?」
 彼は最初、戸惑ったが何かを少し考えて言った。
「それはどんな願いでも叶えてくれるのかね?」
「そうよ。不老不死や莫大な財産。なんでもいいわよ」
「そうか。それはよかった。それではこの装置と数字を元に戻して、今起きた出来事の記憶を消してくれ」
 妖精は不思議そうに、目の前の老人を見つめた。
「本当にそんなのでいいの?」
「あぁ。私にとって、そういう意味での装置になってほしくないのだよ」
「ふーん……」
 妖精は不満そうに答えたが、やがて装置は元に戻り、数字は繰り上がる直前の数字を示していた。

「はて……今なにかあったかな」
 彼の妖精に関する記憶は一切なくなっていた。
「まぁいい。記念すべきスイッチを押すとするかな」
 彼はスイッチを押した。
 数字は繰り上がり、その音は今までのどの音よりも軽快で、優しいものであった。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20031115000048