スイッチ
その日から彼は、何かある度にスイッチを押すようになった。
朝起きた直後、歯を磨いた後など、とにかく暇さえあればスイッチを押すようになっていた。
彼自身は気づいていなかったのだが、彼にとってこのスイッチを押すということは非常に
心地良いものであった。この装置自体に不思議な、神秘的な魅力があった。
そして、数字が繰り上がっていくのを見ることが、一つの楽しみになっていた。
桁が上がるたびに、数字の上限が来ることを予想したが、その予想はことごとく外れた。
スイッチを押すことしか出来ない不思議な装置に対して、彼は様々な想像をした。
「これは、ある一定の数字になったら死神が来て命を奪っていくのかもしれない。
いや、もしくは妖精が来て願い事を叶えてくれるのかも」
全ては憶測の領域に過ぎなかったが、受験に失敗して落ち込んでいた彼にとって、
この装置はそれを紛らわすに十分なものであった。
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20031115000048