第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-004

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370作品紹介・28
一度読んで分からなかったら二度読むべし。
二度読んで分からなかったら三度読むべし。
三度読んで分からなかったら四度読むべし。

それだけの労力を必要とする内容の濃さと、
読む理由を持たせるだけの力強さがこの作品にはこもっています。

アリの穴作品紹介28作目「河伯の継嗣」
371作品紹介・28:05/03/13 21:46:26 ID:O80KA72q
 河伯の継嗣

 常緑樹の濃く茂る混合林が対岸に沿って広がっているため、その下を流れる河淵は静かで
深みのある緑色になっている。それを打ち破るようにしてぴしゃぴしゃと跳ねては冷涼な音を
振りまく鱒の姿がときおり見えるのだが、彼らは釣り人の乱れた想念を読みとりでもするのだろうか、
まったく針先に興味を示そうとはしない。
 いっこうに反応がないまま、わたしは糸を垂らしつづけるが、釣れるかどうかはそれほど大切では
なくなっている。大きな鱒が針先に食いついてからが肉体的な格闘なら、それを待つじりじりとした
駆け引きは精神的な格闘であり、敗色の濃い中で暗い思索にふけるのも時には悪くない。
 そういった、両義的に釣りを楽しむ感情もまた、他人と何ら相違ないものだとわたしは思っている。
ただ、世間の不惑世代は何かと忙しく、妻の愚痴に耐え、子供たちにサービスをし、
伝票に追われ、顧客に頭を下げ、上司にごまをすり、部下の信頼を得なければならない。
そう、不惑のサラリーマンには家族があり、会社ではそこそこの職級についてるのが普通で、
週末に釣りを楽しむ余裕などはないのだ。日々をあわただしく過ごしながらも、それを苦痛とは思わない。
まるで人生のもっともよき時代がすでに過ぎ去り、惰性だけで生きているかのように。
あるいは人生とはそうしたものだと考えているかのように。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030921000060
372葉鍵板からお知らせです:05/03/13 21:48:51 ID:sOqoLuuG
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  r'´ ̄ヽ. 春原コンボ       | | ト    /    \
  /  ̄`ア             | | |  ⌒/     入
  〉  ̄二)記録  8HIT   | | |  /     // ヽ
 〈!   ,. -'            | | ヽ∠-----', '´/   ',
  | \| |.総ヒット数 50HIT  | |<二Z二 ̄  /     ',
  |   | |          _r'---|  [ ``ヽ、        ',
  |   | |             >-、__   [    ヽ       !
373作品紹介・29:05/03/13 21:56:06 ID:O80KA72q
「やりたくないことをやらなければいけない」……? 阿呆か。
『大阪ストラットを歌いながら東京の川岸を掃除する』……馬鹿?
今日日そんなのやるのは2chの湘南オフぐらいだろ。
そんな風に軽い突っ込みを入れつつ読んでいくと、思わぬ展開が……

アリの穴作品紹介29作目「霜降の落武者」

間違えて最後の三つに残してしまったのは内緒。
374作品紹介・29:05/03/13 21:56:32 ID:O80KA72q
 霜降の落武者

「俺達はやりたくないことをやらなければいけないんだぞ。それなのに全員が賛成でどうする。
反対派と異論反論することが俺達の活動の根幹だろ」
 そう檄を飛ばして数放たれるブーイングを一蹴していた。
「じゃあ次の活動は反対意見が一番多かったヤツにしよう。えーっと、どれだっけ、
俊夫の発案だったな。あ、これだ。『大阪ストラットを歌いながら東京の川岸を掃除する』
これにしよう。隅田川で良いな。みんな歌詞を覚えてこいよ」
この時五人辞めた。小野寺佑は今でもよく覚えている。そのうち四人は女の子だった。
けれど佑は決して琢磨を批判しなかった。僕がしゃしゃり出たところで何もできやしない、と思っていた。
半ば諦めていた。僕にできる事と言えば、案内状を作る事、空き缶を拾う事、歌詞をしっかり覚えてくる事、
そしてトータス松本のようにタイトな銀ラメパンツを穿いてくる事くらいだ、と決め付けていた。
そうやって佑は影に隠れつつも発起人であるという僅かなプライドを持って最後に残った四人の中に居た。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20031115000046
375作品紹介・30:05/03/13 22:05:45 ID:O80KA72q
どちらかと言えば本格的な文学作品が多かったアリ30作ですが、
30作目となる「スイッチ」は読みやすいショートショートです。
ショートショートは簡単そうで、極めようとすると意外と行き詰るもの。
この作品は気軽にその塀をぴょんと乗り越えているようで、
作者の念には念を入れた構成、推敲によって成り立っていると思われます。
その妙をお楽しみください。

アリの穴作品紹介30作目「スイッチ」

(投票スレでは既に全文投稿済みですが悪しからず)
376作品紹介・30:05/03/13 22:06:17 ID:O80KA72q
 スイッチ

 その日から彼は、何かある度にスイッチを押すようになった。
 朝起きた直後、歯を磨いた後など、とにかく暇さえあればスイッチを押すようになっていた。
彼自身は気づいていなかったのだが、彼にとってこのスイッチを押すということは非常に
心地良いものであった。この装置自体に不思議な、神秘的な魅力があった。
そして、数字が繰り上がっていくのを見ることが、一つの楽しみになっていた。
桁が上がるたびに、数字の上限が来ることを予想したが、その予想はことごとく外れた。
 スイッチを押すことしか出来ない不思議な装置に対して、彼は様々な想像をした。
「これは、ある一定の数字になったら死神が来て命を奪っていくのかもしれない。
いや、もしくは妖精が来て願い事を叶えてくれるのかも」
 全ては憶測の領域に過ぎなかったが、受験に失敗して落ち込んでいた彼にとって、
この装置はそれを紛らわすに十分なものであった。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20031115000048