第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-004

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362作品紹介・25
 水やり当番

「それやったらなぁ、テストしたるわ」
 大野はゆっくり僕に近づき、肩に手をかけてくる。ぶよぶよした大野の脇腹が、
腕に強く押しつけられる。
「テストって?」うわずった声が出た。
 隣にいる茂彦も、じっと大野の言葉を待っている。
「お前がそこまで、ノブを嫌ってるんならな、」大野が声をひそめる。
「ノブの朝顔の花と蕾、あれを全部、取ってこれるよな?」
 言葉が出なかった。
 ノブの朝顔。Tシャツを濡らして、花に水をやっている細い横顔が思い浮かぶ。
「そんな……無理だよ」
「ノブが嫌いなんやろ? そんなら、証明できるはずや。なぁ、茂彦?」
 話を振られた茂彦が、大きく頷く。
「きーまりっ!」ひと声叫んで、大野は僕を腕から解放した。
 ぬるい夏の空気に放り出された途端、全身から汗が噴き出す。目の前が一気に暗くなっていく。 
「だいたいな」大野が僕の机を乱暴に叩いた。「ムカつくわ。なんで、オレの花は咲かなくて、
ノブには、あんなにデカイ花が咲くんや?」

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&key=20040417000040
363作品紹介・26:05/03/13 21:26:40 ID:O80KA72q
 花盗人

 おや、おまいさん。眠れないのかい? そんなら一つ、妙な噂を教えてやろう。
 ここら一帯がこれほど発展しとらん頃の話だ。
 町を見下ろし、ぐるりの山を見渡せる小高い丘のてっぺんに、たいそう立派な桜があった。
 だけどもその桜に近づくことは許されとらんかった。
 毒が埋まっているのだと、童らは一人前になるまでは遠くから眺めることしかできず、
老いた者もまた近づくことを許されんかったそうだ。
 どうしてか? それはほら、俺は知らねぇよ。古い噂話だ、おかしなところは誤魔化し
誤魔化されてくるかんな。
 ただ、この町が呪われている訳でも、人々が愚かな訳でもなかった。嘘じゃねぇ。
みな善人で、せっせと働き、心身ともに健康だった。きつい農作業ばかりしとっても、
寿命はえらく長かったという話だよ。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&key=20040416000030
364作品紹介・27:05/03/13 21:27:08 ID:O80KA72q
 白い自転車

 ある晴れた日のことだった。会社までの通りの道を、ぼくはいつの間にか少年を
目で探して歩くようになっていた。あの懐かしい口笛が聞こえるのを待つようになった。
しかし、今朝はどうしたことか、少年とは会わなかった。
 カコちゃんやサンサちゃん、フミモタにも訊くと、彼らも今日はまだ会っていない。
「風邪でもひいたのかなあ」なぜか落ち着かない気分で、それが妙に可笑しくて、みんなでクスクス笑った。
 陽も高く昇って、昼近くになった頃だろうか。ぼくが会社で仕事をしていると、
どこからともなく、例のよくとおる口笛が、それこそやぶから棒に耳に飛び込んできた。
空耳かなと思ったが、やけにはっきりと聞こえる。向かいの机のサンサちゃんと目が合う。
ぼくは右の耳を指差して「聞こえる?」のポーズをすると、サンサちゃんは真顔で何回もうなずいた。
 その時だった。どこから入ってきたのか、虹色のケープのような、オーロラみたいな、
とにかく眩い光の粒子が、わっと部屋中を覆って、ぼくらはひとり残らずその光を浴びた。
光の粒子はさらさらと音をたてて、消えた。口笛が遠くに聞こえて、去った。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030921000054