水やり当番
「それやったらなぁ、テストしたるわ」
大野はゆっくり僕に近づき、肩に手をかけてくる。ぶよぶよした大野の脇腹が、
腕に強く押しつけられる。
「テストって?」うわずった声が出た。
隣にいる茂彦も、じっと大野の言葉を待っている。
「お前がそこまで、ノブを嫌ってるんならな、」大野が声をひそめる。
「ノブの朝顔の花と蕾、あれを全部、取ってこれるよな?」
言葉が出なかった。
ノブの朝顔。Tシャツを濡らして、花に水をやっている細い横顔が思い浮かぶ。
「そんな……無理だよ」
「ノブが嫌いなんやろ? そんなら、証明できるはずや。なぁ、茂彦?」
話を振られた茂彦が、大きく頷く。
「きーまりっ!」ひと声叫んで、大野は僕を腕から解放した。
ぬるい夏の空気に放り出された途端、全身から汗が噴き出す。目の前が一気に暗くなっていく。
「だいたいな」大野が僕の机を乱暴に叩いた。「ムカつくわ。なんで、オレの花は咲かなくて、
ノブには、あんなにデカイ花が咲くんや?」
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