第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-004

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359作品紹介・23
 冬の幻影

「どないしたんどす?」
 心配そうに女将がこちらをのぞいていた。私は少年のようにびくっとした。彼女の溢れる
魅力が、一瞬だけ私を不安にしたのだ。女将はまた、果てしなく澄んだ声で話を続けた。
「秋が来て、お月さんが満ちたら、この城へ登るんどす。するとあの、見えまっしゃろ、
右下のほうの森、忘れられたように座ってる泉にまあるく、金色のお月さんが宿りはって、
この廃れた城が明るく照らしだされるさかい、そらもう……」
 彼女が言葉を切った時、私は彼女が何かを思い出したと直感した。
「弥吉さんのことですか?」
「なんで分かりはったん?」
彼女は目を見開いて、それからゆっくりと息をした後、眼下の泉を見下ろしながら言った。
「なんでお客さんの前で、こんなやきっちゃんの話をしたくなるんでっしゃろ。
……お客さんはきっと、うちが話したくなってしまうような不思議なものを持ってはるんやと思うわ」

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