第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-004

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358作品紹介・22
 ダルマの詩

『自殺志願のM女を求めています。
 私の手で貴女を快楽と甘美に満ちた死に導きます、如何でしょうか。
 もちろん調教の過程で気が変わり、死を望まなくなった時はすぐに解放いたします。
 漠然と死を望み、唯怠惰に時を過ごされている方がいらっしゃれば連絡お待ちしています』
 インターネットの会員制SMサイトの掲示板で見つけた一文だった。
この手のサイトではありがちな馬鹿げた大仰な文章だ。だが、しばらく画面から目を放せず、
食い入るように見つめていた。時間と共に呼吸や心臓が停止していくような感覚を今でも覚えている。
 心が疼いた。
 私は以前にも飼われていたことがある。
 比喩でも何でもなく、言葉通り飼われていた。わかり易く言えば、調教されていた。
 切っ掛けは単純だった。そこそこ金を持ってそうな、且つ見た目もまともな中年と付き合ったら、
相手がサディストだっただけの話だ。その男は私を一通り調教すると飽きて私を捨てた。だが、私はハマッた。
 摂食障害や自傷癖、そして自殺未遂に苦しんだ自分の過去。私は目覚めた。
Mでなくてはならなかった。人であることの苦しみから解放される唯一の方法だった。
マゾヒズムこそが私の救いだと確信した。
 ディスプレイに映し出されているのは唯の文字列に過ぎない。
しかし、断ちがたい誘惑が私を捉えて離さなかった。まるで引力のようだった。
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030923000070
359作品紹介・23:05/03/13 21:12:04 ID:O80KA72q
 冬の幻影

「どないしたんどす?」
 心配そうに女将がこちらをのぞいていた。私は少年のようにびくっとした。彼女の溢れる
魅力が、一瞬だけ私を不安にしたのだ。女将はまた、果てしなく澄んだ声で話を続けた。
「秋が来て、お月さんが満ちたら、この城へ登るんどす。するとあの、見えまっしゃろ、
右下のほうの森、忘れられたように座ってる泉にまあるく、金色のお月さんが宿りはって、
この廃れた城が明るく照らしだされるさかい、そらもう……」
 彼女が言葉を切った時、私は彼女が何かを思い出したと直感した。
「弥吉さんのことですか?」
「なんで分かりはったん?」
彼女は目を見開いて、それからゆっくりと息をした後、眼下の泉を見下ろしながら言った。
「なんでお客さんの前で、こんなやきっちゃんの話をしたくなるんでっしゃろ。
……お客さんはきっと、うちが話したくなってしまうような不思議なものを持ってはるんやと思うわ」

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030715000006
360作品紹介・24:05/03/13 21:12:46 ID:O80KA72q
 祈りの歌

 アーウィンは裏物のジャンクミュージックを嫌悪していた。整合性もなく、優美さもない。
ただ扇情的なリズムトラックで聴いている者の意識を掻きむしるだけだ。
それは神と音楽に対する冒涜であると思っていた。耳をふさぎ、露店の前を通り過ぎる。
単席ホーヴァクラフトが何台か、埃を舞い上げながらアーウィンを追い抜いていった。
 半時間ほど歩くと、弧状の道は市の中心までを貫く大通りと交差した。
 道幅の広い下り坂が、彼方の大聖堂まで遮るものもなくまっすぐに伸びている。
アーウィンは薄暗い曇天を刺し貫く大聖堂の影を正面に見据え、坂を下り始めた。
 じきに、地面がコンクリートから灰色のタイル敷きへと変わった。レベル127に足を踏み入れたのだ。
 音楽が、空から降ってきた。
 低くかすかな不変のリズムと、塗り重ねられた通奏低音が甘く意識をしびれさせる。
その上に幾重にも編み上げられた、歌声とも弦楽ともつかぬ、荘厳な響き。
空そのものが、アーウィンに近づいてくるような。
 《祈りの歌》。
 統一讃歌教会の信仰の中心をなし、神の恍惚たる愛を伝える奇蹟の歌。
メタ・ワシントン市に満ちるこの歌を、しかし母は聴くことができない。
それは神に愛されていないということだろうか。それとも母が神を拒んでいるということだろうか。
幼いアーウィンはそんな堂々巡りの疑問を胸の内でぐるぐると回しながら坂を下った。
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030919000048