ダルマの詩
『自殺志願のM女を求めています。
私の手で貴女を快楽と甘美に満ちた死に導きます、如何でしょうか。
もちろん調教の過程で気が変わり、死を望まなくなった時はすぐに解放いたします。
漠然と死を望み、唯怠惰に時を過ごされている方がいらっしゃれば連絡お待ちしています』
インターネットの会員制SMサイトの掲示板で見つけた一文だった。
この手のサイトではありがちな馬鹿げた大仰な文章だ。だが、しばらく画面から目を放せず、
食い入るように見つめていた。時間と共に呼吸や心臓が停止していくような感覚を今でも覚えている。
心が疼いた。
私は以前にも飼われていたことがある。
比喩でも何でもなく、言葉通り飼われていた。わかり易く言えば、調教されていた。
切っ掛けは単純だった。そこそこ金を持ってそうな、且つ見た目もまともな中年と付き合ったら、
相手がサディストだっただけの話だ。その男は私を一通り調教すると飽きて私を捨てた。だが、私はハマッた。
摂食障害や自傷癖、そして自殺未遂に苦しんだ自分の過去。私は目覚めた。
Mでなくてはならなかった。人であることの苦しみから解放される唯一の方法だった。
マゾヒズムこそが私の救いだと確信した。
ディスプレイに映し出されているのは唯の文字列に過ぎない。
しかし、断ちがたい誘惑が私を捉えて離さなかった。まるで引力のようだった。
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030923000070