ザリガニの恩返し
「入れてあげなさい、だってさ」
しばらくして戻って来た妹は僕にそう言うと、またすぐに奥の部屋へと引っ込んでしまった。
ザリガニの接客なんて厄介事は、すべて僕に押し付けて。
「――だそうです。どうぞ」
はたして、ザリガニに日本語など通じるのか非常に疑問ではあったが、そいつはぺこりと
頭を下げると、真っ赤な甲殻をがしゃがしゃ言わせながら家の中へと上がってきた。
という事は、先ほどの僕と妹の失礼なやり取りもすべて正確に聞き取っているわけだよな、やっぱり。
そんな事を考えながらザリガニを居間まで連れて行くと、ちゃぶ台の向こう側に腰を下ろしている祖父。
その真正面にザリガニを座らせ、僕はその二人の間に同じように腰を下ろし、あぐらをかいた。
ザリガニはその二本の足を器用に折りたたみ、黙って正座をしている。
ずいぶんと礼儀正しいザリガニだなぁ。
「ニボシ」
祖父がそう口を開いた。
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