第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-004

このエントリーをはてなブックマークに追加
297作品紹介・19
 PEGANA LOST

 ざいこう。ざいこう。
 しー、たー。しー、たー。
 ノコギリは、トネリコに内包する眼を粉砕する、やさしいかなその処方箋。
 過去へ過去を覗く、ゆぐらどしる、ユークリッドの時空、紡錘形の中央に向かい。
 木は見ていた、目隠しをした燃える鳥が木星の頚椎を襲い、燭台の灯りが一斉に消えるのを。
 木は見ていた、セピア色の帽子雲、旌旗は四海にひるがえり、小さな荒ぶる神々が蠅のように叩き落とされるのを。
 木は見ていた、王都バブルグンドの崩壊を、南十字星の牧歌を、人々の名前が人に食われていく瞬間を。
 木は見ていた、バベルの塔は崩れ落ち、氷河が大地を覆い、パンゲアは分裂し、アノマロカリスの暴走、コアセルベートが海面に湧きあがる、その饗宴、饗宴。
 木は見ていた。ただ、見ていた。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030917000033
298作品紹介・20:05/03/13 20:24:56 ID:O80KA72q
 ハンマーともぐら

「もぐら、お願いがあるの」彼女はいつもよりも真剣な声でそう切り出した。
「いいよ」
「これをね、ハンマーに渡してほしいの」
「何だ、そんなことか。 それなら自分で渡せばいいじゃないか」
「渡せない」そういって彼女は俯いてしまった。
それだけで僕は分かってしまった。 彼女の気持ちが。
「貸して」そういって僕は彼女の手から、手紙を取った。
 僕にはその手紙がずしりと手にこたえたが、素直に二人はお似合いだと思ったし。
 それに彼女を助けたのは、ハンマーだった。 あたりまえの結果かもしれなかったが、僕は少し悲しかった。
「もぐら?」彼女は僕の顔を覗こうとした。
 その時の僕はあんまり、感情を隠せている自信がなかったので、彼女の視線から顔をそむけた。
「いいよ。 なんかゴメン」典子さんは僕の手から手紙を取ろうとした。
「大丈夫だよ」彼女の手から逃げて「僕の役目だと思うから」僕はそう言うと、
典子さんから逃げるように図書室を出た。 全速力で走って、自分のクラスのドアを開けた。
手紙を渡したときのハンマーの目には、二つの感情が込められていた。
 僕はその目で見られたくなかったので、黙って自分の席についた。
 そして全ての声を阻むために英単語帳を眺めていた。 Sad Sorrowful;どちらも『悲しい』という意味だ。
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20031112000033
299作品紹介・21:05/03/13 20:25:23 ID:O80KA72q
 ザリガニの恩返し

「入れてあげなさい、だってさ」
 しばらくして戻って来た妹は僕にそう言うと、またすぐに奥の部屋へと引っ込んでしまった。
ザリガニの接客なんて厄介事は、すべて僕に押し付けて。
「――だそうです。どうぞ」
 はたして、ザリガニに日本語など通じるのか非常に疑問ではあったが、そいつはぺこりと
頭を下げると、真っ赤な甲殻をがしゃがしゃ言わせながら家の中へと上がってきた。
 という事は、先ほどの僕と妹の失礼なやり取りもすべて正確に聞き取っているわけだよな、やっぱり。
 そんな事を考えながらザリガニを居間まで連れて行くと、ちゃぶ台の向こう側に腰を下ろしている祖父。
その真正面にザリガニを座らせ、僕はその二人の間に同じように腰を下ろし、あぐらをかいた。
 ザリガニはその二本の足を器用に折りたたみ、黙って正座をしている。
 ずいぶんと礼儀正しいザリガニだなぁ。
「ニボシ」
 祖父がそう口を開いた。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&key=20050224000031