■偽りの夢でも■
塔の最上階には一人の女性が住んでいた。華奢な肢体にしわだらけの顔。
手入れされず野放しになったぼさぼさの髪の毛。死んだ魚のような空ろな瞳。
一見すると老婆にも見えたが、その機敏な動作と明晰な頭脳は、彼女がまだ
中年の域にすら達してないことを教えてくれた。
彼女の肩書きは統括管理責任者。この街の制御を任された唯一の存在。当然占い師が
紛れ込んだことは承知しており、すぐに根を上げて出て行くだろうという予測も立てていた。
そう、そうしてまた静かで平穏な日々が訪れる。
彼女は秘書からコーヒーを受け取ると、軽く口をつけ、カップをテーブルに置いて、
いつもの、決まりきった作業を再開した。街の機能保全とメンテナンス。やることは沢山あった。
しばらくすると、彼女は占い師の存在すら忘れて、作業に没頭していた。
自分が作り上げた完璧な街は何が起こっても揺るぎない。そんな自信と自負が
彼女にはあった。それだけが、この塔で作業する彼女を支えてきた。
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