第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-004

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252作品紹介・10
 水びたしの聖書

 女は悲しそうに揺らめく水を見つめながら、素早く何かをつぶやき、
鋭い尖ったものを、手首にあてた。すっと細い三日月のような赤い線が走った。
よく見ると、手首や足首、体のいたるところに、たくさんの切り傷がある。剃刀を、握っているのだ。
 盥の脇には、茶褐色の石膏の塊のような不思議なものが置かれてあった。
「これは実際に、体を傷つけているのですか」
「ええ。いわゆるリストカットというものの、見世物です」
 嘲笑的な口調で、菅生がいった。私は、声をあげそうになった。
「ここの客は、SMもどきじゃ飽き足らないのです。自殺未遂を、芸にしてくれないとね。
自殺芸です。あるいは、自殺未遂芸」
「自殺芸? そこまで、やりますか。人間は、そんなものが見たいものですか」
「お断りしておきますが、あの子が自分でやるといったのですからね。プロデュースしてやるから
金をとったらどうだといったら、いつでも私は死ぬ準備があるからやってみるといいましてね」
 私は、胸が苦しくなってきた。大学受験を控えた私の娘よりも少し上ぐらいだろうか。
「新宿の公園で、ホームレスに混じって暮らしていたのを、私が発掘してきた子なんです。
ねえ、とてもきれいな娘でしょう。ユリアといいます。この秘密倶楽部の、いちばんの秘蔵っ子」
「ホームレス、だったんですか」少し、間があった。
「――まあ、正確にいえば、彼らに神の教えを説いていた、と」
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030923000069
253作品紹介・11:05/03/13 16:28:40 ID:O80KA72q
 道切り

 柿の木とはこんなに大きくなるものかと男は目を見張った。直径が4尺はあろうか。
大人の背丈の高さで二股になっており、その先がさらに複雑に枝分かれしていて、
巨大な足長蜂の巣を逆さにしたような形をしている。これから夏が過ぎ、秋を迎えると、
どれほどの実がなるのか想像もつかない大きさだ。
 幹のまわりは、四方に打ち込んだ杭に縄を張って、まるで立ち入り禁止とでもいうふうに囲ってある。
縄の中央には「蘇民将来」と書かれた木札と、狐をかたどった藁細工がつるされていた。
いわゆる『道切り』である。なぜ柿の木を『道切り』で囲うのかと、男は少し不思議な気がした。
通常は村境の道に張るものなのだ。
「神木なのよ」
 智恵子が教えてくれた。『道切り』で封鎖することによって災いを防ぐ意味があるのだという。
 薄闇で影絵のようになりかけた枝の向こうに、さかんに飛びまわるものがいくつも見えた。
目を凝らして蝙蝠だと知った。柿の木に集まる虫を目当てに、どこからともなくやって来るのだ。
まるで自分のようだと、男は思った。どこからともなくこの家に来て居候し、帰る場所すら分からない。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030923000065
254作品紹介・12:05/03/13 16:29:10 ID:O80KA72q
 迷惑の種

 大統領は椅子から立ち上がると俺に背を向けて、「あそこだよ」そう言って
執務室の大きな窓の外、暮れなずむ夕空の彼方を指差した。
「あのう、もしかして私に、近々建設される火星植民地に行けと」俺は恐る恐る質問した。
もしそうなら外交官とは名ばかりの、体のいい島流しである。確かに俺は、
三人いる大統領補佐官の中で一番失敗が多い。だが、だからといって火星送りとはあんまりだ。
「違う違う」大統領は振り返り、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。「もっともっと遠くの星だよ」
「と、言いますと」火星以外の惑星に植民地ができるという話は聞いていない。
どうにも話が見えてこないので、俺はいささか苛立ち始めていた。
「人類は孤独では無かったのだよ」急に重々しい口調に変えて、大統領は俺の目をひたと見据えた。
「今まで極秘にしていたが、つい最近、人類は異星人とファースト・コンタクトしたのだ」
「マジで?」俺は言った。
「マジで」大統領は答えた。「それでだ。友好の印として互いの星に大使館を置くことになったのだ。
そこで君に、我々地球連邦の代表として、アリアリ星に行ってもらいたいのだ」
「アリアリ星というんですか」俺は作者のネーミング・センスの無さに呆れた。
この調子では俺の名前も、どうせ変なのに決まっている。
「行ってくれるかね、斑鳩ルリ夫君」作者よ、センスをけなしたからといって意地悪は止めてくれ。
斑鳩なんて字、どう読めばいいのかわからないよ。
http://ana.vis.ne.jp/ali/antho.cgi?action=article&key=20040418000041