ニューヨーク、地下道、そして路上
「なんだ。飲めないのか?」
「いや、そうじゃないんだ」
ジャックは中空を見つめ、しんみりとした調子で言った。
「なあ、ハーヴェイ、アルコールには気をつけた方がいいぞ。できればヤメといた方がいい。
わしはもう何人も、酒とドラッグでぼろぼろになって死んじまった仲間を見てるんだ」
「まあ、そんなに固てえこと言うなよ。今夜は特別さ。電気開通記念パーティーだ。さあ、飲(や)れよ」
ハーヴェイはそう言ってホーローカップをジャックに手渡した。
「まあ、な……。今夜くらいはいいか。だがな、ハーヴェイ、酒には気をつけろよ」
ジャックはしぶしぶカップを受け取った。
「わかってるって。ドラッグをやるわけじゃないんだ。乾杯だ」
そう言ってカップを持ち上げ、満足そうに喉に流し込む。
ジャックも首をすくめ、琥珀色のホットウイスキーに口をつけた。お湯で割ったアルコールの
熱い刺激とバーボンの香りが口一杯に広がってゆく。何年ぶりかの酒がジャックの喉をひりひりと熱くした。
「なあ、じいさん」
ほろ酔いのハーヴェイが思い出したように言った。
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