第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-004

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 笑うピアニスト

 父が敬虔な、というか、ガチガチのクリスチャンであることから、僕は小さい頃から
教会に馴れ親しんでいた。日曜日の午前中。教会の日曜学校、子供のための礼拝、
つづいて大人のための礼拝が行われる。そこはプロテスタント教会で、集う人々は
一様におだやかで品の良い笑顔を絶やさなかった。
 僕はといえば礼拝の前に同じような年格好の子供たちとかくれんぼをするのが
大好きだった。ずらりと並んだ細く長い机と椅子、二階席にある聖歌隊のスペース。
隠れるところはいっぱいある。ときどき牧師さんから大目玉をくらったりしながら、僕らは教会を
遊び場に変えた。ザリガニ獲りを許されなかったことへのささやかな抵抗だったのかも知れない。
 教会にはオルガンとピアノが置かれてあり、父が担当したのは言うまでもなくピアノだった。
礼拝で賛美歌を歌う段になると、父はぴしりと背筋を伸ばし、真剣な面持ちで楽譜を見つめる。
いつもの柔和な表情は消え、あのカミソリのような鋭い目が蘇る。楽しそうな演奏なんかじゃない。
それはひとつひとつの鍵盤の音を神に捧げるかのような厳粛で悲壮とも思える指の動きだった。
中学生くらいになると、僕にはその姿がまるで苦痛をこらえる修道僧のように見えたものだ。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030921000061