第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-004

このエントリーをはてなブックマークに追加
172作品紹介・1
 阿呆の神様

 オレンジ色の蜜柑が、ゆるい放物線を描いてキヨシの胸元へ流れ、『キャッチした』と思ったら、
蜜柑はキヨシの両手をすり抜け、膝からゴム長靴の足元に落ち、アスファルトの道を転がって
側溝へ消えた。慌てて拾いに行こうとするキヨシを制止し、悟は生っている蜜柑を木から五・六個
もぎ取ると、生垣を乗り越えて直接キヨシに手渡した。
 投げ与えたのが間違いだった。子供の頃から見なれたキヨシの風貌だったが、近くで見ると
髭にも髪の毛にも白いものが混じり、老い耄れた感じがして不潔だった。反射神経も鈍っている。
だから、夏も冬も被っている麦藁帽子を胸の前でひっくり返し、その中に蜜柑を入れたのだが、
キヨシは仰ぎ見るように悟を凝視し、嬉しそうに笑った。
 以前はこんなことはなかった。阿呆のキヨシだったが、大きな声でよく怒鳴った。
「こらー早よ帰らんかー」
 夏休みなど、神社の境内で遊んでいると、夕方、必ずキヨシは現れ、薄暗くなっても野球を
止めようとしない子供達を怒って追い立て、家に帰らせるのであった。だが、子供らもバカの
キヨシにゲームを終らされたのが面白くない。そこで仕返しをすることになる。穴を掘って落したり、
立小便をしている後ろから水をぶっ掛けたり、農協の事務のおばさんが呼んでいると嘘をつき、
実は臨時休業の日だったりして、ドアの前で途方に暮れるキヨシをからかったり、
ありとあらゆる悪戯を仕掛けて愚弄した。

http://ana.vis.ne.jp/ali/antho_past.cgi?action=article&key=20030921000057