第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-003
576 :
名無し物書き@推敲中? :
■田舎に降る雪■
窓の外は一面濃い藍色。不規則に、白い断片が通りすぎる。
遠く夜汽車の汽笛が響いた。
次第に慣れてきた目に、藍の中の稜線。
うす黒く、うす白く、杉山がのっそりと眠る。
■雷■
ほんの一瞬のするどい光の少しあとにおだやかな低い音がとどく。
雑踏のざわめきにも似た、けれどもっと厚みのある、あたたかい音。
神鳴り、神が鳴らす音。
われは神なり─そう聞こえる。
確かにここにいる、と。
■深夜の公衆便所■
瞬く街路灯に衝突を続ける、蛾の羽音さえ聞こえてきそうな、深夜の公園。
枝を縦横に走らせ、肉厚の葉を茂らせた三本の街路樹に囲まれた、その公衆便所は、
刑場にも似た陰鬱さを漂わせて、暗がりの中に沈み込んでいた。
絶えず湿気をまとい、汚れるままの壁には刺激臭を塗り込めて、
何かしら人目を憚る空気を、その内側に潜ませている。
577 :
名無し物書き@推敲中? :05/03/11 15:48:03 ID:+PAr4ral
■魑魅魍魎■
それはどろどろとした流れだった。青白い光の流れ。
よく見ればネズミがいる。人よりも大きなネズミ。それに狼。猪。鹿。角の生えた馬。
燃え上がる車輪。炎そのもの。人の体をもつ烏。何本も尻尾を持つ猫。狐。一つ目の大男。
角を生やした大男。人の顔をした犬。鎌をもった鼬。漂い従う長い布。蛇の尾をもつ白い虎。
耳まで口の裂けた、包丁を持つ女。長い舌を伸ばすセムシ男。人の顔を持つ大蜘蛛。道路を
埋め尽くすような白い大蛇。長い髭を持った角のある蛇。
それが、どろどろと流れていく。ひどく静かに流れていく。
■二重まぶた■
ねむたげな印象を与える瞳は
どこも見ていないようですべてを見とおしているようで
すこし厚ぼったい瞼の二重の線から
私は目が離せない。
そんな私の視線など気にもとめていないようで
それでいてそれを遮断するように
自分と外界との間に
彼女は音楽の殻を作っている。
578 :
名無し物書き@推敲中? :05/03/11 15:48:22 ID:+PAr4ral
■バナナの皮で滑り、豆腐の角で頭打って死ぬ■
わずか数センチの段差が男の運命を狂わせた。
つま先を襲ったわずかな衝撃とともに、バランスを失った上半身だけが前へと傾ぐ。
己の身に起こった事態を把握する間もなく、男は半ば条件反射のように右足を踏み出した。
が、体勢を整えるはずのその足が地面をとらえることはなかった。
ぐにゃり。
(……あれっ)
靴底を通して伝わる感触が何なのかを確かめる間もなく、どうにか持ち直しかけていた体勢に奇妙な
ひねりが加わった。
予測不能のまったくの不意打ち。
足払いを喰らったように倒れこんだその視界の端に黄色いものが映った次の瞬間。
―――がごっ!
脳天を揺さぶるようなショックとともに男の身体がアスファルトに転がる。
頬を濡らす生温かな感触と、視界に広がるおびただしい赤。
(そっか、あれバナナだったのか……カッコわる)
胸の奥で自嘲しながら、車の荷台から降ろしたばかりのダンボールに書かれた文字を男の目が追う。
遠のく意識の片隅で、男は自分がたった今頭からそこに突っ込んだことを知った。
〜特撰絹ごし豆腐<雅> (株)シマダ冷凍〜
それが、彼の見た最期の光景だった。
579 :
名無し物書き@推敲中? :05/03/11 15:48:43 ID:+PAr4ral
■迫り来る戦車■
深く、重たく、そして鈍く輝く巨人が
砂埃を巻き上げ金属片で繋がった両足で滑るように市街地を走る。
自分の街で聞きたくなかった この鉄の大きな力が近づく音、
昔まだここに平和があった頃、現実感を感じぬままにみたTVのあの音を
実際にこのみみで生で聞くとは思わなかった。
マットカラーに彩色された大きなその悪魔達は
ミシミシと小さな街の街路樹の枝をまげ、ねじ伏せ、
そして折り倒して 程なく街の中を凱旋するのだろう。
■砂漠の夜■
満月の白金色に照らされた景観は、生あるものを容易くは受け入れない、
絶対的な存在が支配しているかのように思えた。零下にまで下がった気温が、
日の出と共に灼熱の地獄へと変貌する様は、すべてが風化されて
砂と化したこの世界をひたすらに肯定し続ける。ゆえに、移動はこの夜間に限られる訳だ。
果てしなく歩き続ける。何も変わることのない、砂しか存在しないこの世界を。
580 :
名無し物書き@推敲中? :05/03/11 15:49:06 ID:+PAr4ral
■「パンチラに異常なまでに興奮する中学生」を神秘的に描写■
校舎から体育館へ渡るには、この階段を歩いていかねばならない。
下から見上げると、階段の隙間から青空が見える。
トントントン、と軽快な音を鳴らし、誰かがやってくる。
見知らぬ女子だ。顔は分からない。どんな気分をしているかも分からない。
体育館へ行くというのに制服を着たままだ。生理だろうか……
僕はあんぐりと口をあけたまま、足の付け根にあるソレを見た。
……僕の青空、白くて柔らかいパンティーを。
八月の今日、1時50分。僕は夏の暑い日ざしの中で、静かに勃起した。
■初恋の女の子が遊びに来た■
机の上を整理した。
部屋じゅうに消臭芳香剤をふりまいた。
妹の部屋から白い円卓を借りてきた。
掃除機は二回かけた。
粘着ローラーを念入りに転がした。ベットの下にも。
いつもはそこに隠しているものはすでに別の場所へ移してある。
開け放たれた窓から五月の空が見える。
すべりこんでくるのは、今年はじめての薫る風。