第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-003

このエントリーをはてなブックマークに追加
予選出場板名全て入れた話を作ってみよう。
ということで、予選09組バージョンです。

(1/3)
「あんたもう30代になったんだし、そろそろ孫の顔も見せてよね!」
受話器から聞こえてくる母の声に適当に相槌を打ち、電話を切ってため息をついた。
子供が一人で産めるのなら産んでますよ、と心の中で呟きながら私は今日の新聞に目を通した。
地方自治知事三位一体、政治面はいつも同じ文字が躍ってる。
内容も毎日代わり映えしないようにみえる。本当に毎日違うことを書いてるんだろうか。
マスコミに騙されているんじゃないだろうか。
ろくに目を通さずにスポーツ面へ。
やはりここも球界再編問題の文字ばかり毎日目に付く。
殆ど読む気を無くしながら、それでも新聞をたたまずに隅まで読んだのは、
応援していたモータースポーツ選手の訃報が目に飛び込んだからだろうか。
せわしなく動いていた私の視線が、その選手の欄の隣で止まった。
学生時代を共に過ごした彼の名前がそこにあった。
(2/3)
彼と初めて会ったのはいつだっただろう。
お互いの自己紹介がぎこちなかったこと、彼が数学科のプログラム専攻だということ、
彼の趣味が釣りとハンドクラフトだということ、好物はカレーだということ、
私が哲学科だと知って驚いていたこと。
そんな些細なことは思い出せるのに、いつ、どこで、何故出会ったのかが思い出せない。
彼との思い出は全てそんな感じだ。
年の割りに薄い彼の頭を見ては、ハゲ・ヅラとからかってたこと。
二人で遊園地に行った時に食べたソフトクリームの味がトロピカルフルーツだったこと。
初めて一緒に温泉旅行に行った時に見た空が青かったこと。
私の卒業論文にいたずらで「江戸時代の風俗全般に対する哲学的考察」なんてつけられて怒ったこと。
「ゴーマニズム宣言」に感化された私を彼がからかってたこと。
私が自作PCが欲しいと言い出したら、文句を言いながらも手伝ってくれたこと。
楽しかった日々は写真のように、細切れでしか脳裏に浮かんでこない。
辛かった思い出は連続した映像なのに。
彼が勤めていたスカパーの会社をやめ、転職した時から私の記憶の映像は始まる。
何故彼がコックの道を歩みだそうとしたのかは私には分からない。
ただ私が彼のバイトする飲食店を覗いた時、「厨房!何やってんの!!」と激しい言葉が飛んでいたことや、
彼の作る料理のレパートリーがせいぜい13,4ぐらいから増えなかったことから考えても、
彼の転職が失敗だったことは明らかだと思う。
(3/3)
その頃から私と彼は些細なことで喧嘩しだした。
彼が聴いていたパンクミュージックにいらいらして喧嘩して。
私が好きだったマンガのエロパロを彼が隠し持っていたことでも喧嘩して。
挙句の果てには喫茶店で最初に頼んだのがお茶・珈琲の違いってことだけでも喧嘩してた。
合うたびに喧嘩してたのに、別れる時だけはあっさり別れた。

私は何故か、彼と一緒に作ったパソコンが捨てられなかった。
お気に入りのレトロゲームが入ってるからとか自分をごまかしていたけど、
本当のところは、彼とやり直したかったんだと思う。
だって、彼の名前を見た今の自分がこんなに動揺してるのだから。
僅かに立ち直った私はパソコンの電源を入れ、もう1月くらい見ていなかったメールボックスを開いた。
初級ネットのレベルから脱出してなかった私のメールボックスは架空請求・spamで一杯になってたけど、
その中に一つだけ最新のメールは違った。彼からのメールだった。
その内容は短く、「俺は口下手で、性格悪くて、こんなんでもありがとう、付き合ってくれて」とだけあった。