第2回2ちゃんねる全板人気トーナメント宣伝スレ-002

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291吹奏楽板支援(1/3)
「あ、あの、初芝先輩」
「ん?」
 楽譜から視線を上げると、後輩の今江が顔を赤らめながら教室の入口に立っていた。
「どした、なんか相談か?」
「あ、はい。そ、その……リードの作り方、教えてもらえませんか?」
「自分で? なんでまたそんなめんどいことを」
「えっと、あたしもそろそろ市販のじゃなくて、先輩みたいに自分で自分に合ったのを作ってみたくって」
 自分でリードを、って言われてもな……
「でも、クラやサックスと違ってオーボエのリードは難しいぞ?」
 葦材一枚で作られるクラリネットのリードに対して、俺たちがやってるオーボエやファゴットの
リードは二枚合わせで作られていて、しかも自分で楽器に合わせないといけないから作るのが
結構シビアだったりする。
「だ、大丈夫です! 先輩に教えてもらえればきっとできますから!」
「そんなに買いかぶられても……ま、いいけど? どうせ今は譜読みしてただけだし」
「あっ、ありがとうございます!」
 今江は慌てたように頭を下げると、部室のほうへと走り去っていった。
 そんなに意気込まなくてもいいんだけど、まあ楽しそうにしてたしいいとしますか。
 俺は苦笑しながら、足下にある自分のカバンからリード製作用の道具を取り出した。
292吹奏楽板支援(2/3):05/03/06 18:32:45 ID:deGSRgyf
「ううっ……えぐっ……」
「あー、泣くな泣くな」
 今江の頭を撫でながら机の上を見ると、そこには葦材の破片とぐにゃぐにゃなった針金が無惨にも散らばっていた。
 そういえば、こいつって極度の不器用だったんだよな。
「な、泣いてるんじゃなくて、悔しいんですっ!」
「最初から作れるほうがおかしいぐらいなんだから、そのぐらいで泣くなっての」
「でも……」
 まあ、泣きたくなる気持ちもわからなくもない。
 何せ、合わせたリードをずらしたまま糸を巻くわ、削ってバランスをとってるうちに極端に短くなるわ、
あげくの果てには俺が調整の練習にと渡したリードを、直接ライターの火にかけて焦がして壊すわ……
よくもまあ、ここまでミスが出来るなと思ったもんだ。
「しばらくは俺が教えてやるから、出来るまでは市販のリードでガマンしとけ」
「でも、先輩の練習時間は大丈夫なんですか?」
293吹奏楽板支援(3/3):05/03/06 18:33:43 ID:deGSRgyf
「当然。不出来な後輩を鍛え上げるのも先輩の務めです」
「せ、先輩っ!」
 おどけたように俺が言うと、今江はまた顔を赤くして上目遣いで睨んできた。
「すまんすまん。お詫びに、ちょっとは上達するまで面倒見てやるからさ」
「当然です! こうなったら、あたしがちゃんと作れるまでとことん教えて貰いますからね!」
「はいはい」
 拗ねてるように見えるけど、今江は嬉しいのか、少し笑いながら俺のほうに乗り出してきた。
 まったく、俺に向けてる感情といい、本当にわかりやすい奴なんだから……
「んじゃ、まずは自分でこれを掃除しとけよ」
「えっ、先輩は?」
 まあ――
「その間に、お前の分の道具も用意しとくから。自分でやったことぐらい、自分で全部片づけろよ」
「は、はいっ!」
 ――ちょっとは、俺もそれに応えてやるとしますかね。
 また散らかして慌てている今江を見ながら、俺はそう苦笑して教室をあとにした。

「楽器のある風景 - オーボエ - II.王子様とお姫様」