その男は胸にネームプレートをつけていた。
ネームプレートには、
◆AYA/////Eg (・∀・)
と印刷された紙がはさんであった。
§1
臭かった。
キモヲタたちの何ともいえない汗染みた臭いが立ち込めていた。
―― うひひ・・・ 手ぇ、洗ってきましたかな。
―― もちろんっ!! ・・・洗ってませんぞ。
―― ひひひ。
―― ふひひ。
キモヲタたちは平野綾の握手を得ようと並んでいるのだった。
―― お。あのお方は・・・
―― ああ。あれが顔文字閣下なのか。
―― 平野綾本スレ255を美事に締めくくり、しかも、次スレまで立てたというヒーロー・・・
―― ファンを続けるために人工無脳化手術までしたという・・・
「そろそろ綾ちゃん現れまーす。拍手おねがいしまっす」
黒服の指示に従って、ヲタ畜たちは両手を痙攣させる。
§2
お。あーや来たお。
(・∀・)は胸のネームプレートの位置を直しながら両手を痙攣させた。
このネームプレートは(・∀・)が勝手につけてきたものだ。
自分こそ、平野綾本スレを守り続けてきた勇者であることを、
あーやの前でアピールしたかったのである。
キモヲタの列がぞろりと蠢き始めた。
(綾も可哀相だな・・・)
黒服のひとりはライフライナーたちの列を眺めながら思った。
(キモヲタを切ろうとして、かえって汚物入れに手を突っ込まなきゃならんとはね。)
―― ふひひ。応援してます。
「ありがとー」
平野綾の目の前まで来た(・∀・)は愕然とした。
こ、この生活に疲れた中年女みたいな顔をした年増は、誰だ・・・?
「はぃ。次の方どうぞー」
呆然と立ちすくむ(・∀・)を黒服が小突いた。