義理の兄が家を出て行った。
小学生の子供と、これまでの生活を一手に支えてきた奥さんを置いて。
人と人のつながりである以上は、別れという運命が待っていることもある。
家庭のことであれば家族にしか解らない事情というものがあり
ましてや夫婦間ともなれば、それはそれは込み入った問題があるのだろう。
だけど
「子供は好きじゃない」
「もう愛してない」
ある日突然、彼はそんな言葉を口にするようになる。
それからと言うもの、生活費すら入れない居候同然の同居生活。
いつ外出し、いつ帰ってくるのかも判らない状態が続いた。
そして仕事が順調になり、引っ越し資金が貯まると
子供の誕生日も祝うことなくさっさと出て行ってしまった。
引っ越しのことを極めて明るい口調でブログに綴りながら。
そんな話が耳に入ってくるたびに、彼にとっての「家族」とは
今まで支えてくれた人、守るべき者への思いやりとは一体なんなんだと思う。
最初に別れを切り出してから出て行くまでの間。
出て行ったその後。
そばにいた人達がどんな気持ちでいたのか
少しくらいは考えたりしなかったのかな?
そんな彼の職業は声優である。
地方から上京してきて、大学を卒業する頃デビューした。
大きなバックアップがあったわけではなかったので
バイトをしながら細々と活動を始めて行く訳であるが
そんな彼の生活を最初から面倒診ていたのが義姉だった。
自分が会社勤めをしてアパートを借り、扶養にも入れた。
彼の才能を信じ、どんな時でも声優の仕事を最優先に支えた。
世間体的な行事や義理があった時は勿論、子供が産まれた時も
自分が体調を崩して手術した時でさえも。
本人の希望か事務所の方針か、結婚していることは内緒だったので
家族揃ってまともに出かける機会はあまりなかったようだが
たまに会うとすごく仲が良さそうで、明るい雰囲気に満ちていて
とても幸せそうな一家を羨ましく思ったりもしたものだ。
彼自身も気さくで明るい、とてもいい奴だと思っていた。
自分としても「身内に芸能人が」というだけでなかなか嬉しいものがあり
内容はちんぷんかんぷんだったけれど、声をあてていたゲームやアニメを
新作が出る度にチェックして楽しませて頂いた。
ここ2〜3年になると、本格的に名前も売れてファンも増え
アニメ、ゲームの人気作に多数出演。
芸能人ならまず目標にするであろう大会場でのライブをグループで実現したのには
もうひたすら尊敬するしかなかった。
今までの苦労は報われ、これで一家は幸せに暮らせる。
よかったよかった・・・。
そう思っていたのに。