『さえぽんの日常』
公園ではしゃぐ子供たちの輪の外で、男の子がひとりベンチに座っている。
陽炎を起こす陽射しのなか、長袖の黒いフードをかぶり、喧騒を見送っていた。
その不思議な佇まいに惹かれ、紗子が声をかける。
紗子 「お姉ちゃんのパイオツ触る? ね、触んなよ?」
男の子「え、いやっ、手はなしてよぉ」
紗子 「いいからッ!!」
大喝一閃、男の子はびくりと震え上がった。
紗子は愉快そうに口の端を上げ、巨大な樹、その影へ手を引いた。
紗子 「そら。触ってもいいんだよ」
男の子は自分の胸とほとんど遜色ない成人女性の胸に、驚きを隠せない。
幼い知識だが、おっぱいとは柔らかく膨らんでいるものだと知っている。
男の子「どこがおっぱい?」
紗子 「なっ! 見てわからないかなぁ!?」
やはりそうか、私は貧しいオッパイ、いいや控えめなオッパイをしているのだ。
誠実さは時に人を傷つける。曇りのない瞳が、容赦のない現実を叩きつけた。
そして、紗子の地平線のように平坦な胸に、意地の悪い炎が灯った。
紗子 「人の体、バカにして。君のアレ出しなさいよ。気持ち良くしてあげるから」
男の子「そ、それはだめだよ!」
逃げ出さんばかりの勢いで拒否され、ますます燃え上がる紗子。
紗子 「嫌がられたほうが興奮するってもんよ、さぁ、ほら!!」
男の子「う、うああぁぁ」
ズボンを剥ぎ取ると、ぶるんと、何かが紗子の顔をなぶった。
無意識に唾を飲む紗子。
チンポを見て、即座にアメリカを連想したのは初めてだった。
紗子 「す・・・凄いっ」
男の子「本当にダメなんだ。早く、しまわないと、お姉ちゃんが大変なことになるよ」
そんな忠告など耳に入るはずもなく、紗子は一心不乱にむしゃぶりつく。
男の子「ダメだ・・・ダメなんだっ・・・」
ぎゅっと、握り締めた手のひらから血がこぼれる。
芝生が鮮血を受け、ぽたりぽたりと音を立てる。
紗子 「そんなに、嫌がらなくったって。ごめんね、手当てしよう」
紗子は、男の子の手をとる。
男の子「あ、あぁ・・、あががががががぁーーーーっ!!!」
獣のように叫び、男の子は全身の骨が外れたみたいに跪いた。
掴んでいた手が、煙をあげ痙攣する。
傷が、みるみる塞がり、腕全体が重みを増していく。
骨格が組み変わる軋み、顔に浮かび上がるまだら模様。
紗子 「な、何これ!?」
服が内部から裂け、その全貌があらわになる。
紗子 「ライオン・・・?」
光沢のある毛皮、低くうねる息遣い、殺戮のみに特化した筋肉、肉食獣の頂点がそこにいた。
男の子「グルルルッ」(お前がいけないんだ。責任をとれ)
紗子 「いやぁぁ!!」
走り出す紗子、後を追うライオン、樹を中心にぐるぐる回る。
ぐるぐるぐるぐる。
そっと、紗子はその竜巻を抜けでた。
ライオンは気付かずに、ぐるぐる回っている。
ぐるぐるぐるぐる。
大丈夫そうなので、紗子は芝生に腰をおろした。
そして、日陰の木漏れ日が心地よく、そのまま眠ってしまった。
目覚めると、樹の周囲に黄色い粘液が大量に飛び散っていた。
指で取り、匂いを確かめた後に、舌でちょっと舐めてみる。
紗子 「バターだわ」
その時、紗子の背を電流が駆け巡った。
紗子 「これだけ大量のバターがあれば・・・」
敵に触れると鎧がはじけ飛ぶ騎士の勢いで、紗子は服を脱ぐ。
そして、体にまんべんなくバターを塗りたくる。
飢えた野良どもの舌が、全身をなぶる感触を想像して、街に向かう。
しかし、飲食店が軒を連ねる、路地にたどり着くことはなかった。
このような振る舞いを受け入れてくれる程、この国の器は広くないのだ。
紗子は冷たい鉄格子のなかで、古き善き時代に思いを馳せる。
涙は見せない。
その横顔は、大和撫子のそれであった。