>>130 それはある日、突然の出来事だった。
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堀江由衣さん、ご婚約おめでとうございます!
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2chに一つのスレが立った。
いつものネタスレ・・。住民達も俺も、その時は誰もがそう思っていた。
からかい半分・面白半分でいい加減なレスをし、のんきに「記念パピコw」などと書き込んでいる。
しかしそれが、そこから始まる女性声優界・・いや声優界を大きく揺るがす変革の楔である事に
その時はまだ誰も気付いていなかったのだ。
そのスレが当たり前の如く沈んでから約半年の時が過ぎたある日、毎日スタチャHPをチェックしていた
有名堀江系イベンタの一人が突然2chに一つのスレを立てた。
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_| ̄|○_| ̄|○_| ̄|○おrzorzorzorzorzoraoraaaaaaaaaaaaaaaaaa
1 名前:●●●●●●●●[] 投稿日:0●/●/● 00:11:32 ID:vgFOIkvJ0
http://www.starchild.co.jp/artist/horie/■■■■■■■■■■■■■
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なんの変哲も無い、ただのクソスレ。そう思った。
アドレスのリンク先がスタチャである事を確認し、何気なくそのリンクを踏んだ。
一瞬、何が起こっているのかさえ、理解できなかった。
目の前に写し出された文章を、脳が情報として受け入れる事を拒んだのかもしれない。
俺は一旦モニタから目を逸らし、手元に置いていたペットボトルを震える手で掴むと一気に飲み干した。
そして少し気持ちが落ち着いた頃、老人が文章を読む時のように文字を指でなぞりながら、
ゆっくりと、少しずつ、その死刑宣告書を読み上げ始めた。
そこにはこう書かれていた。
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本日●月●日、ラジオ「天使のたまご」内にて本人より発表させて頂きますが、
堀江由衣が結婚いたしましたことを、この場をお借りしてご報告させて頂きます。
堀江由衣は今後も変わらず、より一層仕事に全力を注いでいく所存であります。
これからも皆様の変わらぬ応援を心から願っております。よろしくお願いいたします。
株式会社 アーツビジョン
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・・・・・・・・・・・。
言葉は無かった。
俺の読み間違いかもしれない・・・そうだ、きっとそうに違いない!
不意に根拠も無くそう思った俺は、もう一度読み直そうとした。
視界が霞んで読めない。
気がつけば大粒の涙が何滴もキーボードの上に滴り落ちていた。
骨折した時も、ガキの頃に親が他界した時も、うめき声一つ発さなかった冷めた人間の俺が、
その日初めて大声を上げて泣いた。
その晩、天たまで恥ずかしがりながらファンに結婚報告する彼女の声を呆然と聴きながら、俺は2chを閲覧していた。
今までも堀江スレの異常乱立はよくあった事だが、その比ではない。
ラジオを聴いて初めて事実を知った者、面白半分に書き込む者、良いファンであろうと必死で取り繕っている者、
荒らしコテのスクリプト爆撃、本気でヘコんでる者、結婚しないんじゃなかったのかと声高に叫ぶ者・・・。
その何かの革命のような荒波は他スレ・他板にまで飛び火し、留まる事を知らなかった。
茫然自失状態の俺は、急にその様子を見ているのがバカらしくなって回線を切った。
そして無気力にベットの上に転がると、天井を見上げながら思う。
・・・でもな、お前らはいいよ。今まで複数の声優を応援してきたんだから、逃げ場なんていくらでもあるだろ?
ほうっときゃ、他の声優に流れていくんだろ?
俺は無い。
声優雑誌はほっちゃんが載っていれば買い、ラジオは天たましか聴いていなかった。
PCの壁紙ももちろんほっちゃん、ファンクラブも黒猫同盟しか入ってないし、CDも、DVDも、ほっちゃんのものしか持っていないんだ。
アニメもあまり興味なく、ほっちゃんが出演しているならと視聴したりDVDを購入してきたんだ。
この日がいつか来るのは分かっていた。分かっていたはずなのに・・・。
ほっちゃんの歌やお話を聴きながら明日への活力を貰いながらも、本当に自分が大切に思えるものを他に見つけなきゃならなかったんだ。
それが俺には無い。俺は「堀江由衣」に依存しすぎていたんだ。
気付くのが遅すぎた。ファンになって6年以上経った今、こんな簡単で当たり前の事に気付くなんて・・・。
しかしふと思う。
祝福しよう。真のファンなら。
もともと俺は貧乏で結婚出来そうにない身だから、本来相方やその家族の為に注ぐべきお金や愛情をほっちゃんに贈ってきたんじゃないか。
次のファンの集いで精一杯祝福してあげよう。
ほっちゃんが幸せになってくれれば、俺の今までも浮かばれる。
そんな気がした。
今思えば最初の婚約スレは業界人のリークだったのだろうか?
堀江由衣の結婚発表後、俗に言うアイドル女性声優の形態は大きな動乱期に突入した。
バブル期に(ほぼ自動的に)ヒットした女性声優は、その力を完全に失い音響・製作方面へと活路を求め、
やまなこ繋がりで堀江ファンが大量に流れると思われていた田村ゆかりには思ったほどの流入は無く、
(彼女を般若という愛称で呼称していたのは殆どが堀江ファンであり、もともとファン層が被っていた)
難民になりかけた彼らが次に目を付けたのは清水愛だった。
しかしこれも エロゲ出演歴・学生時代の生意気そうなギャル喋り&金髪・トークの裏にちらつく男の影
・堀江の高く透る歌声とは程遠い低い歌声・特異性の高い歌 が邪魔して多くのファンの流入はなかった。
では、彼らはどこへいったのか?
もともとDDであったため何ともない者、これを期に声オタを辞めた者、難民として放浪している者、
そして俺と同じく今まで通りにファンを続けてる者。
しかしそれらは少数であり、大半は驚くべき行動に出たのである。
堀江由衣が結婚した丁度その頃、大ヒットした人気作に大抜擢されていた”稲村優奈”へ大移動したのだ。
自分が記憶している限りでは、数年前は「こいこい7」なる萌えアニメに出演していた新人だったと思う。
今や彼女がユニットに参加して歌っていた「SUPER LOVE」はプレミアが付き、かつてのめぇめぇもぉの「約束しよう」のように
オークションで一枚数万円で取引されているのだから驚きだ。
声優誌の表紙も飾り始め、今やすっかり業界の時の人となっている。
彼女が新しいローソンの研修ビデオに出演していたというのも、不思議な巡り合わせを感じる。
まあ俺には関係なく、どうでもいい話だ。
俺はこれからも、ずっと、一生、ほっちゃんを応援し続けていくのだから。
仮に雑誌で姿を見る事が無くなっても、声が聞けなくなっても、自分が堀江由衣ファンである事さえ忘れなければ
俺はずっと堀江由衣ファンなんだ。
誇らしい。