ぬいた女性せいゆうpart3(18歳〜29歳)

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463バウアー ◆g5URcV1C/U
1944年3月、東部戦線・コウエル―――
この日、この地に本部を移していた第417装甲宣伝中隊では、ナチ党の機関紙〈フォルキッシャー・ベオヴァハター〉の編集会議が行われていた。
この時期にありがちなことに、紙面作りは難航していた。
当然であろう。
大ドイツ帝国が、坂道を転げ落ちるように滅亡への道を歩みだした最中、何としても戦意をかきたてるような話題を用意しなければならないのに、生憎とそれも尽きかけていたからだ。
464バウアー ◆g5URcV1C/U :03/02/04 22:45
「大尉殿、いつもの安全なやつでいきましょう」
堪り兼ねた中隊副官の軍曹が、議題に方向性を与えるために口を開いた。
「どこかの慰問団とか、美しい故郷なんてのはだめだぞ」中隊長が釘を刺した。その2つの話題は、手垢にまみれるほどに使い古されていた。
「将軍の誕生日も不可。兵隊の反感を買う」別の少尉も言った。
「戦局を変える新兵器も却下・・・。兵隊がもっと元気になるネタが欲しいよ」中隊長がぼやいた。
新人の編集員、ヘキル・シーナ少尉が口を開いたのはその時だった。
「〈黒騎士中隊〉はどうです?いけますよ、これは」
465バウアー ◆g5URcV1C/U :03/02/04 23:14
「〈黒騎士中隊〉?どこの部隊だ?」中隊長が興味ぶかげに聞いた。
「キエフの後送病院で聞いた話です。装甲部隊の中ではダントツの保証付きです」ヘキル少尉は、奇妙に自信を持つ者にありがちな、心情とは正反対の態度を示しつつ答えた。
「そんな話はゴマンとあるぞ。連中は不死身の中隊なのかね?」
「負傷兵の話です。何でも、包囲から救われたそうで・・・」
中隊長は、数秒程眼を閉じた後に彼女に向けて言った。「最前線の取材か?行きたいのなら止めないぞ。通行証も発行してやる。俺は前線行きは願い下げだ。モスクワ前面で死にかけた」
466バウアー ◆g5URcV1C/U :03/02/04 23:34
「車と運転兵をお借りします、大尉殿」
ヘキル少尉は、退室したその足で、護身用のMP44を段列から受け取ると、表でキューベルワーゲンを運転兵ごと捕まえ、〈黒騎士中隊〉の概略位置に向けて移動を開始した。
その距離、中隊本部から150Km。
この間、彼女は、戦場の恐怖を凝縮して味わうこととなる・・・。


声優板黒騎士物語・第1部完