ヴィジュ板バトロワの感想や要望

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898生姜:02/05/02 01:20 ID:wTAX.zss
「キリトだった」
SUGIZOがそう半分呻くように言うと、Jもうん――と頷いた。
あのマシンガンをぶっ放してDAISHIやLidaを殺した男――SUGIZOは一瞬だけだったが確かに見た。月明かりに照らされて浮かび上がった
その面影は、確かにKOHTAの兄、PIERROTのキリトだったのだ。
「どういうことだ」SUGIZOはわからない、といったようにまた呻いた。「あいつ、KOHTAだと知ってて狙ったのか?」
Jも確かにほんの一瞬だけだが、キリトらしき横顔を見たのだ。
「わからん――だけど」
もしホントにあれがキリトだったら、あの弟思いのキリトがKOHTAを殺すなんて考えられなかった。
「俺は、知らなかったんじゃないかと思う」
KOHTAは、案外今頃キリトと合流できて喜んでいるかも知れない。
戻ってくるのに手間取っているのはもしかしてまた新手の敵――例えば、危険人物だとTAKEOが告げていたYURAに出くわしたとか――
と遭遇して交戦中なのかもしれない。
あのキリトと一緒なら、KOHTAも無事だろう。
899生姜:02/05/02 01:20 ID:wTAX.zss
そう思い直して、Jは改めてSUGIZOの方を見た。考えてみれば、元メンバー同士、二人で話すことは今回のゲームが始まって初めてかも
知れない。
「――INORAN、あいつまで参戦、ってことはないよな」
SUGIZOがそう言うとJは黙ってしまった。そう、アイジも潤もGacktも、結局仲間を裏切ったのに参加させられてしまっている。
INORANだけが特別である保障が何処にあるだろう?
「それよりさ、お前、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「は?何が」
Jの質問にSUGIZOはにべもない一言を言った。
「何がじゃねぇよ、お前のプランとやらだよ」
「ああ、秘密」
「――秘密って…」
Jは呆れて思わずSUGIZOの顔を見てしまったが、SUGIZOはひどく真摯な表情をしていた。
「こればっかりはね、今種明かしするわけにはいかねぇんだな。悪い。ま、俺を信じてろって」
こう言われてはJは何も言う言葉が無くなってしまう。「ふーん」と素っ気なく言い、Jはふと、微かな銃撃戦らしき音を聞いた。
900生姜:02/05/02 01:20 ID:wTAX.zss
「こんな時間になっても元気な奴ら…」
やや疲れた口調でSUGIZOは言い、Jは苦笑しようとしてはっとした。
――物凄い爆発音がした。
島の中央部に背を向けていたSUGIZOが慌てて振り返るほど、その音は凄まじい物だった。
島の空が、一瞬だけ昼間のように明るくなる。
「――な、なんなんだ」
Jがぼう然と呟いたが、それはSUGIZOも心の中で思っていることだった。
また、微かに銃撃の音が聞こえたような気が、する。
二人は、しばらく言葉もなくそちらの方角を凝視していた。




 
901生姜:02/05/02 01:21 ID:wTAX.zss
KOHTA達と別れてからTAKEOはまだ足を踏み入れてなかった島の北西側へと急いだ。
途中、激しい銃撃戦の音を聞きつけて島の東側に向かうも、空振りで、それから2時間もしない内に今度は島の中央辺りで凄まじい銃撃戦
の音を聞いた。
そちらへ移動する途中、TAKEOは物凄い爆発音と衝撃波を受けた。一瞬だけ島全体が真昼のように明るくなる。次いで、あのぱらららら…
というマシンガンの音を聞いてタケオは思わず硬直した。
まさか、キリトか潤のどちらかがあの“マシンガン野郎”に襲われて交戦してるんじゃ――――そう思ったTAKEOは危険を承知で、銃声の
止んだ頃を見計らってそろそろと一旦登った山を下りていった。そこで、GLAYの3人の死体を見つけた。
―――違った。
安心すると同時に、疑問符がTAKEOの中に浮かび上がる。
どうして、GLAYがここにいるんだ……?
TAIZOといい、Gacktといい、微妙にSWEET HEARTとは関係のないアーティストの参戦――そこに何らかの意図があるのか、TAKEOには
さっぱりわからない。
わからないが―――
とにかく、20万人ライブをやるような凄いミュージシャン達だ。TAKEOは一瞬心の中で黙祷を捧げると、再び“やる気”のある奴が
ここに現れる危険性を感じ、そうそうにその場をあとにした。
902生姜:02/05/02 01:21 ID:wTAX.zss
それから南の山の麓に移動し――南の山山頂の東側では、アイジが今も眠っている――そこでふと、TAKEOは、背後に人の気配を感じた。
後ろの茂みに、誰かいる………。手にしたレーダーにも、はっきりと表示されていた。
TAKEOは長い木の棒を拾い、茂みにむけ突いた。
「うっ」
TAKEOは茂みをかき分け、そこにいた奴を確認した。
YURA、だった。
ふいに、YURAが顔の前に両手を上げて後ろヘ退がった。
「殺さないでください!お、お願いです!!」
と、叫んだ。
「話しかけようとしただけなんです!僕、誰かを殺そうとなんか思っていません!お願いです!助けてください!!」
TAKEOはただ黙って、そのYURAを見下ろしていた。
その沈黙を、TAKEOに当座敵意がないと読み取ったのか、YURAはゆっくり、顔の前に上げた手をあごの下まで下ろした。
おびえた小動物の目で、TAKEOを見た。その目に、涙が光っていた。
「信じて――――くれるんですか?」と言った。
涙でくしゃくしゃの顔に光明がさし、かすかな笑みが目元に浮かんだ。
「あの―――あの僕――――TAKEOさんなら、信じられると思って――だから――僕、怖かったんです、ずっと―――ひとりで―――
こんなことになって、恐ろしくて――――」
TAKEOは黙って、YURAが取り落とした銃を拾い上げた。撃鉄がおきているのを見てそれを片手で戻し、YURAのところまで歩くと、銃把を
先にして差し出した。
「あ――ありがとうございます―――」
903生姜:02/05/02 01:22 ID:wTAX.zss
YURAがおずおずと手を差し出した。
ピタッと止まった。
TAKEOが手の中で銃をくるっと回転させ、その手に握ったので。その銃口が、ぴたりとYURAの額に向けられていたので。
「な―――何。なにするんですか、TAKEOさん―――」
YURAの顔が驚愕と恐怖にゆがんだ―――少なくともゆがんで見えた。全く、見事としか言いようがなかった。
いくらYURAについて諸々の噂を聞いていても、YURAの笑顔を見てしまえば、大抵の者は、信じないわけにはいかないだろう。
ただ、今のTAKEOには、特別な事情があった。
「もういいんだ、YURA」
TAKEOは言った。
TAKEOは銃を構えたまま、少し背筋を伸ばした。
「俺はアイジに会った、アイジが死ぬ直前に」
「あ―――」
YURAは整った顔の、綺麗な目を震わせてTAKEOを見た。アイジに止めを刺さなかったことを後悔しているのだとしても、そんな色は
微塵も表れなかった。ただ、おびえた表情。理解と保護を求める表情。
「ち―――ちがうんです。あれは事故だったんです。そうです、僕、ずっと一人でいたわけじゃないんです。ただ―――アイジさんに
会った時―――アイジさんだったんですよ、僕を―――僕を殺そうとしたんです。そのピストルだって本当はアイジさんの―――だから
―――だから僕――」
TAKEOはさっき戻した銃の撃鉄をさっと起こした。YURAの目がすっと細まった。
904生姜:02/05/02 01:22 ID:wTAX.zss
「俺はアイジとは前後してPIERROTに入ってもう7年以上の付き合いになる。俺の知っているアイジは進んで人を殺すような奴じゃないし、
狂ってむやみに誰にでも銃をぶっ放すような奴でもない。たとえこのくそゲームの最中だろうと」
YURAはしばらく呆然としていたが、やがてかすかに笑った。
「即死だと思ってましたよ、アイジさんは♪」
TAKEOは何も言わず、銃口をYURAに向けていた。
それからYURAはTAKEOを見上げた。
「どうですか、僕と組みませんか♪僕と組んでくれたら、いうことは何でも聞きますよ♪」
TAKEOは銃を構えた姿勢のまま、動かなかった。
「だめっか」YURAは言った。軽やかな口調ですらあった。
「自分の大切な仲間を殺した奴とは組めませんよね♪」
TAKEOはしばらく黙っていたが、
「………なんでおまえはそんな喜々としていられるんだ?これから死ぬかもしれないんだぞ?」
「………TAKEOさん、あなたに人を撃つ度胸がないからですよ♪」
「……………………。」
905生姜:02/05/02 01:22 ID:wTAX.zss
「僕はですね、今まで誰にも言ったことはないですけど、ずっとイジメられっ子だったんですよ♪僕は小さい頃からどっか変わった子供
でしたから変人扱いされてましてね♪ほぼ毎日叩かれてましたね♪みんな、なんかあったらすぐ俺に突っかかるんです♪まあ、そんな
くそな環境でしたからね、おかげで鍛えられましたよ♪」
TAKEOは黙っていた
「それで今のバンドを始めたときも、やっぱり僕はいじめられました♪新しいことをやろうとすると、どうして人間って奴はいつもいつも
拒否反応をまず示すんでしょうかねぇ♪愚かしいですね♪僕は、メンバーのためを思って僕らをバカにする連中の矢面になっていつも必死に
頑張ったんですけどね♪でも、それでも僕らは叩かれ、コミックバンドとして、ヴィジュアル系の中でも異端者扱いされて―――未だに
されてるわけです♪」
YURAは続けた。
「この事務所に入ることになったとき、ある意味僕は嬉しかったんですよ♪だって、いろんなバンドがいるじゃないですか♪この中に
入れば、僕らもちゃんとヴィジュアル系バンドとして音楽性を見てもらえるかなって♪―――でも、そうじゃなかった。今回のイベント
だって、僕らの音楽をちゃんと聴きに来る人なんて殆どいない。みんなみんな、僕らの見かけばかりで僕らを判断しようとする。そんな
状況に、僕はもう疲れてしまったんです。自分が信じる物を否定されるのは――、傷つけられるのはもう沢山なんです。」
TAKEOはそこまでいうYURA達のパフォーマンスがいかほどの物であったか思いだそうとしたが、上手くいかなかった。
906生姜:02/05/02 01:23 ID:wTAX.zss
「だから―――だから僕――こんなふうに―――」
YURAの右手が背中に回っていることにようやくきづいたが、そのときにはもう、TAKEOの右肩にナイフが深々と突き刺さっていた。
TAKEOののどからうめき声が洩れ、銃こそはなさなかったものの、痛みで後ろによろけた。
「平気で人を傷つけられるんですよ♪」
YURAはすでに、木々の間をすり抜け、―――すぐに闇に消えた。
もちろん、―――もちろん、YURAの話は、こっちの意表をつくための嘘だったに違いない。しかし、TAKEOはどうしてもそうは思えなかった。
YURAは真実を語っていたのだ。 何かを貫こうとする者なら必ず通る道。自分たちも未だに通らなければならない道だ。
しかし、彼はなぜあそこまで冷酷になれるのだろう。
「………アイジ、ごめんな…………」
TAKEOは、しばらく動けなかった。



 
907(´¬`) ◆Yusuke32:02/05/02 01:27 ID:FnNG8XbA
(((*゚Д゚))ハラハラドキドキ・・・
908Nana:02/05/04 14:25 ID:5S132DDc
こ、KOHTAは?!(ドキドーキ)
生姜さん凄すぎる!
909生姜:02/05/04 23:34 ID:aFqkFtFo
東海林のり子による放送が終わるや、JIRO(GLAY・Ba)は腰を上げていた。
幾つか発表された次なる禁止エリアに、この場所が含まれていたからだ。
傍らに倒れているAYA(Psycho le cemu・上G) に通り過ぎざま一瞬だけ視線を落とし、右手の銃を握り直す。
――ありがとよ、お人好し(かどうかは知らないけど)。
声には出さず呟いて、そのままJIROは大股に小屋を出た。
AYAを死体に変えたのは他ならぬJIROであり、JIROの手にある銃をさきほどまで持っていたのはAYAだった。
はじめにJIROに支給されていた武器はごわごわした厚手のチョッキ。
冴えない、ファッションリーダーとも呼ばれる(自分でもかなり気を使っている)JIROにとって泣きたくなるくらいダサい灰色のそれは、
しかし、見てくれを裏切って至極役に立つ武器だった。
防弾チョッキ。
説明書に目を通して、JIROは考えた。手持ちが差し当りこれだけなら、どうすべきか。
撃たせて、死んだふりして、隙を見せたら後ろから――
少なくない数のミュージシャンが銃を持っているらしいこの状況だが、組みつけさえすれば銃を奪うチャンスだってもちろんある。
ただ正直なところ、JIRO自身そこまでうまくいくとは思っていなかった。
遭遇した相手が銃でない武器を持っていたらそもそも意味がないし、銃持ちだとしてこのチョッキが本当に弾丸を防いでくれるのか、
そうだとしても首やら頭に命中したら、とか、不安要素はいくらもあったのだ。
910生姜:02/05/04 23:35 ID:aFqkFtFo
だがAYAは銃を持っていて、その弾はJIROを殺せず、しかもAYAはまんまと騙された。
そのうえ向こうから先に撃ってきたのでこちらの良心の痛みも軽く済むというおまけつきだった。もっともそれはどうでもいいことだったが。
そして現在、JIROの抱えていた不安要素はほとんど解消されていた。
JIROは銃を持っているから、飛び道具を持たない相手とは近付かずにケリをつけられる。
チョッキの性能の優秀さはすでに証明された。
さらに――農機具置場はガレージ兼用だったのかバイクとヘルメットが置いてあった。
そのヘルメットを拝借し(ホントはこんなにダサいのは被りたくないが、それでも死ぬよりはマシだと自分をなだめすかした)銃を持った
相手も首から上を狙いはすまいし逸れた弾が当たったにしてもなんとかなる可能性は格段に上がった。
加えて、選手がずいぶん数を減らしていることがJIROを大胆にさせた。
数が少ないということは単純に出くわしにくいということだ。
よほど大きな騒ぎでなければ誰の耳にも届かないのだろう。事実AYAは三発も撃ったのだがそれを聞き付けた誰かが漁夫の利を得にやって
きたなどということはなかった。
それゆえJIROは一応は周囲を警戒しながらも特に身を隠すでもなく歩いていった。
今歩いている場所がまもなく禁止エリアになるという事実が、JIROの足を早めている。その分周囲に払う注意はいささか散漫になっていた。
911生姜:02/05/04 23:36 ID:aFqkFtFo
不意に、JIROは意外なほど近い距離に動くものを見、ぎょっとして反射的に銃を向けた。そしてそれが人間だと認識するや、ためらいなく
引き金を絞っていた。
銃弾は目標を逸れてそこらの枝を傷つけただけだったが、丈高い草を分けかけていた人影は一瞬の硬直ののち、薮に沈んだ。
JIROは舌打ちした、面倒なことになった。対応をとっさには決めかねる。
だがJIROが取る手を選ぶまもなく、薮からは声が発せられた。
「誰だ!?」
ヘルメットを着用している上薄暗がりでこちらがしかとは視認できないのだろうが、鉛弾に対して返すにはなかなかどうして間の抜けた
言い草だ。
だがその声で、JIROには相手が誰なのだかわかった。
PIERROTのTAKEOだ。
GLAYに入る前のJIROが入っていたバンドと同じ名前の、しかし中身はまるで違うヴィジュアル系バンドのドラマー。ヴィジュアル系と
いわれるのが大嫌いなJIROにとって(彼が昔在籍していた“ピエロ”もヴィジュアル系であることはこの際あぼーん)なんとなく嫌悪感を
誘われる相手であった。確か、JIROとはタメである。
TAKEOは言葉を続けた。
「待ってくれ! 俺は戦う気はないんだ!」
912生姜:02/05/04 23:36 ID:aFqkFtFo
その台詞に、JIROは思わず口をぽかんと開けた。
PIERROTというバンドはかなりめでたい人種の集まりである、なんてJIROは聞いたことがない。なんだ?今のヴィジュアル系バンドの中で
1、2を争う売り上げを誇るお前らだろう?(ま、俺達GLAYには遥かに及ばないけど(w)それなのにそんなにおめでたくていいのか?
このゲームの中にあってやる気がない、というのはつまり自殺を決めたに等しいのに、そういう自覚さえ持っていない。いまだに、なにか
の間違いだと思ってでもいるのか。
だが、そういう奴ならこちらもやり方を変えるまでだ、と
JIROは銃を下ろした。もちろんTAKEOを薮から引き摺り出すための芝居だが。
「俺だ――GLAYのJIROだ」
左手でヘルメットの風防を上げる。
「すまない、その……怖くて、つい。怪我……しなかったか?」
JIROがばつの悪いような口調でそう言ってやると、もちろん疑いもしないであろうTAKEOは立ち上がってそのドラマーらしく逞しく
引き締まった胸より上を薮から出した。
「……大丈夫」
安堵した風のその言葉の終わらぬうち、JIROは再び銃を構え、引き金を引いていた。
だがその弾丸はさきほどと同じく、TAKEOのすぐ傍の草を揺らしただけに終わる。
そしてTAKEOはそれに即座に反応していた。
「ぎゃああああああっ!」
913生姜:02/05/04 23:36 ID:aFqkFtFo
信じ難い激痛に、JIROは叫び声を上げていた。
無意識にその箇所、左手を抱え込むようにしてうずくまる。
一呼吸、二呼吸し、痛みはまさか薄らがないが、それでもJIROはほんの少し衝撃から立ち直った。
おそるおそる右手を引き剥がして覗き込むと、真っ赤に染まった左手の、これまた真っ赤に塗られた指の数が――露骨に足りない。
お、おおおおおおおお前!どうしてくれるんだよ!俺はGLAYのJIROなんだぞ!!ベースが弾けねーじゃんこれじゃ!!!
「やる気十分なんですね」
癪に触るほど沈痛な声に、JIROは思わずTAKEOを睨みつけた。
「撃ちたかないですけど――俺は撃たなきゃならないんです。どうしても」
そう言いながらTAKEOはなお数秒の間を取って、しかしついにはきゅっと口元を結び、引き金を絞った。
だが、TAKEOの銃はかちん、と小さな金属音を立てただけだった。
TAKEOがみるみる狼狽した表情になる。
もう一度撃鉄を起こし引き金を引いたが、同じことの繰り返しに終わった。
だからお前らのバンドはいつまで経っても一流になれないんだ、残弾を確認する頭もないとはな。
JIROは唇を歪めて嘲笑いながら、足元に転がった自分の銃に飛び付いた。
それを見てTAKEOは身を翻し山のほう、もと来たほうへ駆け出す。
その背中へ向けて、JIROは一発撃った。
ようやく弾丸は目標を捉え、TAKEOの右脚のあたりでぱっと血がしぶいたのが見えた。しかしTAKEOは一瞬身体を傾がせこそしたものの、
そのまま山へ消えていく。
どうやら掠っただけで、TAKEOを仕留めるどころか足を止める役にさえ立たなかったのだ。
914生姜:02/05/04 23:37 ID:aFqkFtFo
――くそ!
JIROの傷口からは拍動に合わせて盛大に血が湧き出ている。とてもではないがTAKEOを追える状態ではない。
そう思った途端にわかに痛みを増した左手を抱えて、JIROは喘いだ。なにはともあれ、この手をなんとかしなくてはならなかった。
「……くそっ……」
中指をほど半ばから失った左手を覗き込んで、JIROは今度は声に出した。
この手ではもう2度とベースが弾けない。それはもう火を見るより明らかであった。よしんばもう一度武道館のステージに戻れたとして、
モニタではいつでも無駄に手元ばかりアップにされるに違いないのだ。
大変なハンデを乗り越えて、JIROが日本武道館のステージへ帰ってきました。
東海林のり子が楽しそうに電波の上で囀るのが聞こえるような気さえした。
「くそ、っ……!」
もう一度吐き捨てて、JIROは視線を前へ戻した。そして――凍り付いた。
さきほどまではいなかった誰かが、仁王立ちしている。
反射的に逃げ出そうとしたJIROが背を向ける前に、その手元で火炎が閃いた。
照らしだされた姿がキリト(またしても忌々しいPIERROT!!のVo)のものだとJIROが認識した瞬間、AYAに撃たれたときとは桁の違う
衝撃がJIROの胴を襲った。しかも、複数。
演技抜きで吹っ飛んで、背中から地に叩きつけられる。息が詰まって、呻きさえ出ない。
915生姜:02/05/04 23:37 ID:aFqkFtFo
それでもJIROは、おのれの現在取るべき方策は忘れなかった。
死んだふりだ。
AYAと同じだ、キリトだって死人を警戒はしない――それもマシンガンなんか使って、確実に、完璧に、間違いなく、殺したのなら。
JIROはだから仰向けに倒れたまま、じっとして動かず、そしてキリトの様子を窺った。まだ右手は銃を握っている、背を向けたらぶちこんでやる。
だが、JIROの期待を裏切るように、大股に近付いてくるキリトの足音が響いた。
なんで――どうして。俺は、死んでるのに。そりゃあもう完全に、死んでいるのに!
冷汗をだらだら流すJIROの頭のすぐ脇へ、ついにキリトが立った。
「……GLAYか」
特になんの感慨もなさそうに呟いて、キリトはわずかに身を屈める。
かつん、と音を立てて、ヘルメットの透明な風防にイングラムの銃口が押し当てられた。その向こうでキリトが、いつものふてぶてしさを
湛えた表情でかすかに笑ったのをJIROは見た。
「これで全滅…と」
その瞬間にJIROはキリトの発言の意味を考える暇もなく、死んだ振りなぞすっかり忘れ、意味をなさない叫びを上げて暴れだしそうに
なったが、イングラムが火を噴くほうがわずかに早かった。
だからJIROの足やら腕やら胴が、でたらめに跳ね上がって見せた奇妙な踊りがJIROの最後のあがきだったのかそれとも死体が弾丸に
揺らされただけなのかはキリトにも、もちろんJIRO自身にもわからなかった。
こうして、JIROは既に自分の仲間達がキリトによって殺されている事なぞ知る由もなく死んでいった。
916生姜:02/05/04 23:40 ID:aFqkFtFo
話し声。移動に伴う物音。
あるいは殺しても殺しきれないかすかな息遣いでも良かったが
YURA(Psycho le cemu・Dr)の耳に聞こえてきたのは何か金属のような物同士がキリキリと擦れるような音だった。ごく近くの藪の中
誰かが何らかの作業をしているのだとわかった。
(そう、この近くに稼働中の工場でもない限りは)
夜明けが近く首を上に向けると漆黒にかすかな青が滲み始めた空の色が見えた。
TAKEOと遭い、どうにか逃げおおせた後YURAがまず考えたのは銃が必要だという事だった。
Takashi(Plastic tree・Dr)と出会ったのはほとんどアクシデントだったのだが運良く銃を手に入れられた。
しかしその銃をあろう事かいつの間にか落としてしまっていたのだ。
慌てて探し回ったが既に遅く、困り果てていた所に貮方孝司(Waive・下G)と田澤孝介(Waive・Vo)の言い争う声が聞こえてきた。
そして二人を倒し、銃とあまり使えそうにはなかったが一応錆びた短刀も手にする事ができた。
銃があれば多少は大胆に行動しても平気だったし、それにTAIZO(元FEEL・G)とやりあった後のアイジを殺すのも簡単だった。
(しかしとどめを刺しておかなかったのは本当にまずかった。気をつけなければならない)
だけど今は丸腰だ。その銃も短刀も失ってしまった。手元には最初に自分に支給されたカマがあるきりときてる。
こちらも使えない訳じゃないのだが、何としてでも再び銃を入手する必要があった。
何故ならやる気になっているのは自分だけじゃない、あのDaishiとLidaを殺した(さすがのYURAもあれだけは自分棚上げで許せないと
憤慨した)マシンガンの奴がいるからだ。
917生姜:02/05/04 23:40 ID:aFqkFtFo
そしてそのマシンガンの音は30分程前にもまた聞こえたばかりだった。
もちろんその分逆に、自分が無理して仲間を手に掛ける事もない、そいつに任せておいて自分はやれる時にやればいいとも言える。
けれども最終的にはそいつ、そのマシンガンの奴とやりあう事になる可能性が高い。
その時に銃がないのは絶対まずい。
銃とマシンガンでも厳しい事は厳しいのだがカマとマシンガンじゃそもそも勝負にならない。
そういうわけでYURAは島の中央を東西に抜ける道路にそって西へ進み、その後北の山まで移動して誰かを探し始めた。
それから約3時間が経過し――
今、ようやく耳に物音が届いている。
YURAはその音を頼りに藪を掻き分けて進んだ。
もちろん慎重に。こちらが物音を立ててはならない。
藪が切れた。
茂みのなかにぽっかり開いた小さな空間がそこにはあった。
正面も右手もやはり藪になっている。左手もまたそうで――
その隅に黒の革ジャンをきた男の背中があった。
918生姜:02/05/04 23:40 ID:aFqkFtFo
キリキリという音が続く中、顔を落ち着きなく左右に振りむけている。
誰かに襲われやしないかと不安で堪らないのだろうが、それでその人物がAKIRA(Plastic tree・G)である事が分かった。
まあ、それが誰だという事よりも。
AKIRAが作業――どうやら、フェルナンデス製のZO-3ギターの弦を本体から外しているようだった――をしながらも右手にしっかりと
握っている物がYURAの目をとらえた。
――銃だった。やや大型の、回転式だ。
YURAの口元にまた笑みが浮かび上がった。



 
919Nana:02/05/05 00:24 ID:hFDpLv.M
あげ
920朝ねずみ…(´゚ω゚) ◆GIREN64s:02/05/05 05:12 ID:NthFJmwQ
GLAY全滅か…HISASHIがんがってたのにな(;´Д`)
あと1回更新されたら表でも貼ろうかな。

AKIRAー!後ろ!後ろ!!Σ(´Д`)
921(*゚∀゚) ◆Yusuke32:02/05/05 10:17 ID:QIG7Wp/E
弦外して何やってるんだ、明さん・・・・(;´Д`)
明さーん!後ろ、後ろぉぉぉぉ!(ナキ
922Nana:02/05/05 12:19 ID:Mi.61DOE
YURA様がんばれ・・・(ボソ
923Nana:02/05/05 13:16 ID:cKagMXtY
ていうか次のスレどうするの?
924Nana:02/05/05 21:23 ID:oskEXyKM
明君殺したらイヤソイヤソ(藁
925生姜:02/05/05 23:42 ID:kbHYXrGg
AKIRAの作業はまだ終わらない様だった。
片手のみで弦を外すのは結構骨が折れる物だ。
それでもAKIRAは相変わらず辺りを見回しながら、弦を一本一本丁寧に外している。
こんなところで、一体何をやっているのだろう?
YURAは訝しく思いつつ音を立てない様、ゆっくりとカマを右手に抜き出した。
弦を本体から完全に外す時、AKIRAは両手を使わざるを得ないだろう。無理して片手で済ませたとしても隙ができる。
その時があなたの終わりになるみたいですよ、どうもね♪
金属が擦れる音がまばらになり、一旦止まる――パチン、と音がして、今度は完全に止んだ。
AKIRAはまたきょろきょろと顔を動かすと、さっと両手を前に回した。そのときにはもう、YURAは完全にAKIRAの背後に忍び寄っていた。
AKIRAの後頭部が目の前に迫る。右手のカマを持ち上げかけた、その時。
誰かが背後で「あ――」と言うのが聞こえ、AKIRAがそれでびくっと振り返ったのだけれど、びっくりしたのはYURAも同じだった。
カマを振り上げるのは当然ながら止め、声のした方を振り返る。
TADASHI(Plastic tree・Ba)がそこにいた。金髪の、見た目は寡黙そうなイメージのベーシストである。右手にそれが武器なのか
金属バットを提げ、YURAを見つめて口を開いていた。
AKIRAがYURAを認めてこちらも「あ――」と言い、それから「くそっ」とYURAに向けて銃を構えた。
926生姜:02/05/05 23:43 ID:kbHYXrGg
TADASHIの出現には驚いた様子がない所を見ると、二人は行動を共にしていたのだろう。これまたラッキーな、同じバンドの仲間同士。
YURAは内心歯噛みした。AKIRAはただ弦を外す作業の為だけにTADASHIから離れていたのだ。そんな事、洞察なんて出来るわけがない。
大体、こんな殺し合いの中で何のんきなことやってんねんこいつ?心の中で思わず突っ込んでみたがそれどころではない。
AKIRAの構えたリボルバーの銃口がまっすぐ自分の胸の辺りを狙っていた。
「AKIRA!!やめろ!」
TADASHIが恐らく状況に対する混乱と、今、目の前で人が殺されようとしている事への狼狽でか引き攣った声をあげた。
AKIRAは今すぐにでも引き金を引きそうだったが、銃鉄がおちる0・数ミリ前でその指を止めた。
「何でだ!こいつ俺を殺そうとしていたんだ!み、見ろ!カマか?!カマなんか持ってるじゃねえか!」
YURAは「ち、ちがいます」と喉の奥から消え入りそうな声を絞り出した。語尾を震わせ、もちろん体を竦ませるのも忘れずに。
またまたこの度の主演男優、YURA様の見せ場ってわけだ。目を開けてよっく見とけよ。
「ぼ、ぼく」カマを捨てようかと思ったが、握りっぱなしの方が自然に見えそうだったのでやめた。
「話し掛けようとしただけです。そしたら、あ、AKIRAさん銃を持ってるって分かったから怖くなって――」
YURAは少し俯き、おびえた振りを続けた。「だから、だから僕………」
しかしAKIRAは銃を下げなかった。
「嘘をつくな!お前は俺を殺そうとしてたんだ!」
927生姜:02/05/05 23:44 ID:kbHYXrGg
銃を握ったその手がぶるぶると震えていた。多分、引き金を引くのを躊躇わせているのは実際に人を撃つ事の恐ろしさだけだろう。
YURAを見てすぐのついさっきなら、勢いにまかせて撃った所だったろうがTADASHIに止められて考える余裕ができた分だけ、ためらいが
生じたのだ。そしてそれは――
あんたの負けっていうことですよ♪
「やめろよ、AKIRA。やめてくれ」TADASHIが懇願するように続けた。
「さっき言ったじゃないか。俺達仲間を増やさなきゃって――」
「冗談じゃねえよ」AKIRAが首を振った。「こんな奴と一緒になんかいられるもんか。お前、こいつの噂知ってるだろ?あの――DAISHIと
Lidaをやったのだってこいつかもしれないんだ。仲間を平気で裏切るような奴、うちの事務所にはゴマンといるからな!」
「ち、違います――僕そんなこと――」YURAは目に涙を滲ませた。
TADASHIが必死な口調で言う。
「YURAはマシンガンなんて持ってないじゃないか。銃だって持ってない」
しかしAKIRAの方も必死だ。声を荒げて応戦する。
「そんなのわかるか!弾がなくなって捨てただけかもしれないだろ!」
それでTADASHIは、少しの間沈黙したが、ややあって「AKIRA、大声あげたらダメだ」と言った。
それは今までとはちょっと違う、落ち着いた、穏やかな声だった。
AKIRAが虚をつかれたように、薄く口を開いてTADASHIを見た。
YURAもちょっと、おや、と思った。
928生姜:02/05/05 23:44 ID:kbHYXrGg
TADASHIは事務所内の仲間内でも比較的大人びたというか(まあ、大人なんだけど)、落ち着いた印象がある。それなのに随分堂々とした
感じにそれは聞こえたのだ。
TADASHIが首を振り、諭す様に続けた。「それに証拠もないのに疑うなんて駄目だ。考えてみろ。YURAはお前を信用したからこそ、話し
掛けようとしたのかもしれないだろ?」
「じゃあ――」AKIRAが眉を寄せTADASHIを見た。相変わらず銃口をYURAに向けていたが引き金にかかった指の緊張は幾分ゆるんでいるよ
うだった。
「じゃあ、どうしろって言うんだ?」
「どうしても信用できないなら、俺達がYURAを交代で見張ってたらいい。それに、今YURAにどこかに行くように言ったって、それでお前の
不安が解消される訳じゃないだろう?また、隙を狙われるかもしれない」
YURAはますます感心した。なかなかやりますね、先輩♪論理的だし、話しぶりも適切だ。
まあ、やろうとしてる事の当否は別にしてだけど。(今撃った方がいいんですよ♪ほんとはね)
AKIRAがそれで、ちょっと唇をなめた。
「な?俺達、仲間を増やさなきゃダメなんだよ、やっぱり。それで、なんとか抜け出す方法を見つけなきゃ――しばらく一緒にいたらYURA
が信用できるかどうかも分かるだろ」
TADASHIが駄目を押すように言い、AKIRAはまだ疑わしげにYURAを見ていたけれども、ようやく頷き、疲れたような感じで「わかった」と
言った。YURAはほっと全身の力を抜いた(様にみせた)。
そして涙を滲ませていた目を左手でちょっと拭う。
「そのカマを放せ」AKIRAが言い、YURAは慌てた様子でそれを地面へ投げ捨てた。
929生姜:02/05/05 23:45 ID:kbHYXrGg
AKIRAは「よし」と頷き、それから「TADASHI。この弦でこいつの手を括れ」と言った。弦、言わずもがな、さっきまでAKIRA本人が
一生懸命ZO-3ギターから外していたあの弦である。
TADASHIは、ちょっとむっとしたような視線をAKIRAに向けたが、AKIRAも銃を構えたまま譲らない。
「それが俺の条件だ。もしそれが駄目だと言うなら、俺は今すぐこいつを撃つ」
TADASHIはやれやれと言ったように小さく首を傾げて、ため息をついた。だからYURAは「構いません、どうかそうしてください」と
自分からしおらしく言った。
ややあってTADASHIは小さく頷くと、弦を一本取って軽くYURAの手首を括った。
「悪いな。少し痛いかも知れない」TADASHIがそう呟くと、相変わらずYURAに銃を向けながらAKIRAが言う。
「どうせなら弦全部使って括ればいいのに」
「何言ってんだ、ブービートラップ作るって言ったのはお前だろう?」
TADASHIのその言葉で、AKIRAが必死に弦を外していた理由がわかった。多分、彼らはどこかの民家にあったこのアンプ内蔵ギターを
見つけてきて演奏――なんてこんな状況の中でやらかしたら即命取りだが――、もとい、弦を使って簡易なブービートラップを作ろうと
していたのだ。
TADASHIは黙ってしまったAKIRAに苦笑を返し、ただ黙ってYURAの手首に軽く弦を巻き付けた。
意外にスチール弦は丈夫で、何があっても切れそうにない。下手をしたら自分の手首がスパッと逝きそうだ。下手に解こうと動くのは
危険だ。
素直に手を前に差し出したまま、YURAは考えていた。
全く、カマを持ち上げる前に見つかったのは不幸中の幸いだった。(カマの血も拭ってあった。大ラッキー)
さて。どうしようか。



 
930生姜:02/05/05 23:45 ID:kbHYXrGg
Gacktは白々と明けようとする空にちら、と視線を走らせ、一つため息をついた。
明け方の気温は余裕でマイナスに到達する。ここが日本の東北寄りの孤島であることを立場上知っていたGacktは念のため懐に忍ばせて
おいた携帯用カイロが河村に没収されずに済んだことを、ちょっと感謝した。
悴む手に、カイロの熱が心地よい。
しばらく茂みに身を置いていたGacktは、やがて意を決すると、また茂みの中を歩き始めた。
彼が今回のゲームのアシスタントとして自ら志願した理由――それは、参加を余儀なくされるであろう友人を助けるためであった。
友人、既にゲームの初めの方で死亡したTAKAである。
所詮SWEET HEARTのスタッフが作り上げたプログラムなんてたかが知れている。
アシスタントをする振りをして上手くプログラムに手を出して、機を見て破壊してやろうと企んでいた。
だが、そろそろ活動をしようと言うときになって、あろうことか彼の友人は錯乱したままPIERROTのKOHTAに襲いかかり、返り討ちに遭って
あっけなく死んでしまった。
――何だよ、それ…
結局無駄足となってしまったGacktに残された道は、参加者としてゲームに放り出されることしかなかった。
しかも、ご丁寧にアイジの時にはなかった参加表明付きのサービスだ。全く、有り難くて涙が出る。支給された武器も、まだちゃんと
確認したわけではないがどうも救急セット(絆創膏に包帯、薬その他。ああ、メスやピンセット、注射器も入ってたかな)らしい。
これで、何をどう戦えと。寧ろ、自分の持っている薬を狙われて逆に危ないんじゃ…
Gacktはもう一度、ため息をついた。
931生姜:02/05/05 23:46 ID:kbHYXrGg
こんな事になるのなら、初めからアシスタントに志願などしなかったものを。自分は甘かった。甘すぎた。
だけど、わかっていながら友人を見捨てることなど、Gacktにはどうしてもできなかったのだ。
それにしても――Gacktは改めて今回のプログラムの異常さを顧みた。
本来、このSWEET TRANCEプログラムはあの事務所所属のミュージシャンのみが対象の筈である。
それが、自ら志願した自分はともかく、既に死んだTAIZOやGLAY、もう事務所を放り出されたSHAZNAなど、明らかに事務所と関係のない
彼らまで巻き込まれているのはどういう事なのだろうか?
アシスタントをしていたので、今回のバックにYOSHIKIが控えていることはGacktにはわかっている。だが…
たとえばGLAY。彼らももしかしたらもう死んでいるのかも知れないが。
あれだけ売れているアーティスト全員がもし死んでしまったら(てか死ぬだろうが)、事務所は、いや、YOSHIKIはどうやって補償をする
つもりなのだろう。
GLAYに限らず、ファンやレコード会社に対する補償は?イベンターや衣装、製作会社、タイアップその他諸々…
そもそも馬鹿げているこのプログラムを、過去に類を見ないほど規模をデカくして損失を拡げることの意味は一体何なのだろう?
「………まさか、とは思うけど」
Gacktは整いすぎている顔に僅かに憂愁の色を浮かべてじっと思案する。と、その思案はすぐに途絶えた。
目の前に凄惨な姿で無惨に横たわる死体を見つけたからだ。
――探していた、TAKAの死体だった。



 
932生姜:02/05/05 23:47 ID:kbHYXrGg
「だからどうしても誰かを探さなきゃって思ったんだ。」
TADASHIはそう言い、YURAの顔をちらっと見た。
もうすっかり夜が明けて、その顔が泥で汚れているのがはっきり見えた。
茂みの中で二人は並んで腰を下ろし話をしていた。
最もYURAの手には相変わらずギターのスチール弦が巻かれていたし、持っていたカマはTADASHIがズボンの後ろに差していたけれど。
AKIRAは、銃を自分の手にハンカチでぐるぐると巻きつけた状態で少し離れた所で寝息を立てていた。
YURAがとにもかくにもこのチームに合流したあと、AKIRAは交代で眠ろうと言い出した。疲労の限界なのだ。
TADASHIがメンバーを気遣ってお前が先に寝ろ、と言うと今まで一睡もできなかったのだろう。ほんの十数秒で寝息が聞こえてきた。
それで、TADASHIとYURAはしばらく黙っていたのだけれど、そのうちにTADASHIが話を始めた。
昼の間は動くに動けなかったらしく夜になって慎重に行動を開始したという事、そしてYURAに会う2時間ほど前にAKIRAと奇跡的に
出会った事、二人で脱出の方法を考えたがいい案がさっぱり出ず、とにかく仲間を増やそうと言う結論に辿り着いた事。
「最初は怖くて誰も信じられないと思ったよ。だけど、ほとんどの奴は俺と同じ様にここから逃げようと思ってる筈だって考え直した。
…竜太朗もTakashiも、早いうちに死んでしまったけど、あいつらもやる気になってて殺された訳じゃないと俺は思ってる」
TADASHIはそこで言葉を区切り、またYURAの方をちらっと見た。
TADASHIの口調は終始淡々としていて、YURAと目もまともに合わせようとしなかった。
同じ事務所のアーティストといってもアプローチの仕方がまるで違うYURAとは壁があるのかもしれない。
それでも――そうして話し掛けるTADASHIに、YURAを警戒する様子はさほど感じられなかった。後輩を信じている、いたいのかも知れない。
それでYURAも安心した風を装って訊いた。
933生姜:02/05/05 23:48 ID:kbHYXrGg
「AKIRAさんはあのピストルを持っていたんですよね♪TADASHIさんは怖くなかったんですか?今だってあれを握って離さないじゃないですか♪」
TADASHIはそれを聞いてちょっと笑った。
「あいつもかなりナーバスになってるから…確かに凄い警戒はされたけど、銃を向けられたりはしなかったし………それにAKIRAと俺は
ずっと一緒にやってきた仲間だ。だから信じてる。疑う方がどうかしてる」
「けど」YURAは青ざめた感じの表情を浮かべてみせた。
「見ましたよね?うちのDAISHIとLidaが死んだとこ――やる気になってる奴はいるんです。AKIRAさんがそうじゃないなんて分かりませんよ?現に、アイジさんや潤さんは、平気で仲間を裏切って――(まあ、アイジさんは殺したけど(w )」
言ってから少し俯き、続けた。「だからAKIRAさんだって僕を疑うんだ」
TADASHIは少し口元を引き締め、何度か小さく頷いた。
「そうだな。でもじっとしてたって死ぬだけだし、それなら何かやった方がいいだろう?少しずつでもいい、俺はやっぱり死ぬのは嫌だ。
みんなもそうだと思う。だから仲間を増やしたいって思った。それにAKIRAが銃を離さないのも仕方ない。あいつも怖くて堪らないん
だろうから」
YURAはそれを聞き少し笑みを見せた。
「凄いですね、TADASHIさんって。そんな風に勇気のあるところも、こんな状況でも人の気持ちを考えられる所も」
それでTADASHIは少し照れた様に視線を地面に落とした。そしてぼさぼさの金髪を掻きながら「そんな事ないさ」と言った。
934生姜:02/05/05 23:48 ID:kbHYXrGg
「でも――だからお前の事疑うの許してやって欲しい。あいつ、人間不信になってるだけだと思うから………」
YURAはまた微笑したが、溜息交じりに言った。
「仕方ないですよ。僕、疑われても――TADASHIさんだって僕の事怪しいって思うでしょう?第一、僕たちはまだ新人ですから、よく
わかって貰えてないと思うし」
TADASHIは少し間を置いて、長い事YURAの顔を見つめていた。
それから「いや」と言って、また地面へ顔を向けると続けた。
「怪しいって言うなら、AKIRAも俺も同じさ。そりゃあ――」
足元の草を千切って、朝露に濡れたそれをまた両手で細かく切る。
「そりゃあYURAの事を俺は全然知らない。けど。でもこんな状況じゃ関係ない。案外、外では善人面をしている奴の方が見境なくなった
りするし」
千切った草を足元へ放ると、YURAのほうへ顔を上げた。「それに、俺はお前はそんな悪い奴じゃない気がする」
YURAはその言葉にちょっとだけびっくりした。TADASHIがただのお世辞やたてまえで言ってると言う感じがしなかったからだ。
「どうしてですか?」YURAが正面から見ると、TADASHIはまたそっと視線を外した。
「目だよ、目」
「目?」
TADASHIは少し疲れた表情を傾けたまま続けた。
「俺、多少お前よりは人生経験あるからな。今まで色んな奴に出会ってきたから言えるんだけど……ホントにやばい奴の目は、なんていうか
こう――もっと、淀んでるもんだ」
935生姜:02/05/05 23:48 ID:kbHYXrGg
YURAはTADASHIの横顔を見つめながら、その話を黙って聞いていた。
「だから、俺は今思った。お前は多分、そんなに悪い奴じゃないと。もし悪い事をしてるんだとしても、そうでもしなきゃいられないよう
な理由があるんじゃないかと」
何だか随分恥ずかしげな、好きな女の子に告白でもする様な緊張した声音でそう言った。
「少なくとも俺は、それが分からないようなつまらない男にはなりたくないって、いつも思ってる」
YURAは心の中、溜息をついた。もちろん――甘すぎますよ、TADASHIさん、と思っていたのだけれど。
しかし、「ありがとうございます」そう言った自分の声はびっくりする程敬意が込められたものだった。
そう装ったのではあるけれど、それがYURAにとっても出来過ぎと思える演技になり得てるのだとしたら――
それはもしかしたら、その言葉にほんのちょっとばかり、本物の感情が混じっていたのかもしれない。
TADASHIは頷くと、黙ってYURAの手をとり、その皮膚に食い込んでいる弦をほどき始めた。
「TADASHIさん――」YURAは本当に少し驚いて言った。「いいんですか?AKIRAさんが怒りますよ」
TADASHIは視線をYURAの手首に集中させながら答えた。
「いいよ、武器は俺が預かってるし。それに、後輩を縛ってそのままなんて、なんか後輩イジメみたいで気分悪い」
936生姜:02/05/05 23:49 ID:kbHYXrGg
弦が外れると、YURAは手首をさすりながらもう一度「ありがとうございます」と言った。そして
「良かったです、僕、TADASHIさんみたいな先輩と会えて。僕ずっと怖かったんです。僕らのバンドは…SeekもDAISHIもLidaもAYAも
死んでしまって、一人っきりで。きっと誰かに会っても信用なんかされないだろうなって思ってて……AKIRAさんにもやっぱり疑われるし。
わかってるんですけど、それだけ僕たちはまだ新人という事で先輩達から敬遠されてる、仲間に入れてないって事で。でもTADASHIさんが
ああ言ってくださって、本当に嬉しかったです」
と涙まじりに話した。TADASHIは少しはにかんだ様子で
「大丈夫だよ。俺はちゃんと分かってるし、AKIRAだって――みんなだってちゃんとわかるさ。この事務所の奴らは、みんな良い奴だよ」
と言った。
YURAはもう一度ありがとうございますと言うと「TADASHIさんは、本当に良い方ですね」と笑んでみせた。
TADASHIは驚いた様子で顎を何度か引いた。それが頷くというよりも照れ隠しのため大雑把にさっさと切り上げたと言った方が正しい
ような感じだったのでYURAはそれでまたちょっと笑った。
自分でも思ったのだが、その微笑みには悪意は含まれていなかった。
まあ、多分、ほとんど♪



 
937Nana:02/05/06 00:06 ID:uIbP6Phk
正サンカッコよすぎるYO!…もう氏ぬのかな?
938Nana:02/05/06 00:18 ID:VbEuH7t.
正さん…大人だ…。出来れば死なないでホス
ィ(;´д`)
939朝ねずみ…(´゚ω゚) ◆GIREN64s:02/05/06 01:44 ID:69P/IAGc
>>925の生姜サソのメール欄みて思ったんですが
新スレはいつ立てた方がいいですかね?
もう427KBですし…デッドラインは512KBらしいと聞いたけど
やはり小説ってこともあって長文投稿も多いし容量くうだろうし
950行く前に立てた方がいいのかな?
それともあと1回生姜サソが更新したら立てた方がいいのか…

>>920
>あと1回更新されたら表でも貼ろうかな。
と言いましたがここもあと1回生姜サソが更新したら終わりそうなので
やめときます。
940朝ねずみ…(´゚ω゚) ◆GIREN64s:02/05/06 02:17 ID:69P/IAGc
一応登場人物表と新スレの準備(このスレのアドなど)もメモ帳に作っておきました。
新スレ立てちゃってもよろしいようでしたらすぐ立てて誘導貼りますね。

でしゃばって失礼。
941Nana:02/05/06 02:48 ID:6f7usBI2
もう新スレ行って良いんじゃないでしょうか?
小説だし…長いから…
生麦さんの状態も分かりませんが
微妙な所で切れたらこまるなぁとか…
1読者の意見。
942nana:02/05/06 02:48 ID:sBF3QQ7w
いつも楽しみに見てます。

朝ねずみさんみたいに整理してくれる人がいるとありがたいッス。
943朝ねずみ…(´゚ω゚) ◆GIREN64s:02/05/06 03:03 ID:69P/IAGc
>>941
わかりました、今から立てて誘導貼っておきますね。
確かにこのスレと新スレまたがって更新しても大変でしょうし。
あと、生麦(なまむぎ)さんでなく生姜(しょうが)さんですね(ワラ コマカイツッコミスマソ

>>942
読みながら表作ってるから作りが適当で見難いんだけどね(;´Д`)


とりあえず今から立ててみます。
944朝ねずみ…(;´゚ω゚) ◆GIREN64s:02/05/06 03:10 ID:69P/IAGc
新スレ立てておきました。

ヴィジュ板バトロワ【2】
http://music.2ch.net/test/read.cgi/visual/1020621985/
945Nana:02/05/07 23:50 ID:3VTEZMJ2
にゃあ
946Nana:02/05/11 13:16 ID:O3KuL4.I
あげてみる。
947Nana
はあ・・・(ため息)