600 :
Nana:
----------------------------------------------------------------
このプログラムが始まる前夜、河村隆一はとあるビルの地下室にいた。
「はい、わかりました、では早速手配いたします」
甘いマスクをきりっと引き締め、受話器を置くと彼は数多のファンを魅了して止まない魅惑的な笑みを浮かべた。
但しそれは、幾分狂気を帯びていたけれど・・・
「なるほど・・・コマが足りないから仕方ないか・・・。もっとも、僕にしてみればそっちの方がありがたいのだけれどね」
その手には1枚のチラシがあった。
彼がかつてヴォーカルを務めていた伝説のバンド、LUNA SEAが所属していた事務所のイベントの告知用だ。
イベントの名は「SWEET TRANCE」という。
明日、代々木でこのイベントが行われる。
正直、正視に耐えないデブスどもが(それでも彼のファンサービスはいつも完璧だ)全国からそれぞれ思い思いに似合ってもいないロリータ服や自作の雑巾のようなボロボロのコス服を纏って集まってくるが、そんなことはどうでもいい。
河村にとって大切なのは、集まってくるデブスファンどもよりも寧ろ、イベントに名を借りて大勢の他事務所のアーティスト達を呼び寄せる大義名分が出来ることだ。
「くっくっくっくっ・・・何も知らないでキミたちは集まるんだよ、そう、殆どがもう2度と音楽をやれなくなることなんて知らないでね・・・」
河村の顔が狂気に歪む。
「天才は僕一人で充分なのさ」
ヴィジュアル系バンド界に産声を上げた深い闇・・・
この黒よりも暗い闇の中に、それぞれの人生が飲み込まれていく。
----------------------------------------------------------------
コスプレと追っかけに邁進する親愛なるヴィジュアル系バンドヲタの皆さん。(野次と罵声で偉大なるヨシキ様の言葉は二分間中断)
皆さん。(一分間中断)
わがヴィジュアル系音楽界を脅やかさんとする恥知らずな市場主義の輩が未だヴィジュアル界に群れをなしています。
彼らは本来わがジャンルの一員となるはずだった才能あるアーティスト達を搾取し、騙し、自らの市場主義の尖兵として洗脳し、
ほしいままに操っています。(聴衆一同「オマエモナー」)
そして、隙あらば音楽界のうちで最も伝説度の高い我がバンドの売り方を批判し、最高級のメロディを誇る名曲を闇に葬り去らんと、
その狡猾さを剥き出しにし、姦計をめぐらせているのであります。(聴衆のあちこちから「逝ってヨシキ」)
さて、゛六十八番プログラム"は、そうした情勢下にあるわがジャンルには、ぜひとも必要なイベントであります。
確かに、ワガママと権力で集めたアーティストの命が幾千幾万と散ってゆくことについては、私自身も血涙をしぼらずにいられません。
しかし、彼らの命がこの低迷する邦楽界の救世主、我らヴィジュアル系バンドのファン離れを防ぐため役立つならば、
彼らの失われた血は、肉は、神の御世より今に伝えられましたる神風吹き荒れるわが国土に同化し、未来永劫、
逝き続けるとは言えないでしょうか。(コピぺ、荒しの渦。一分間中断)
ご存知の通りわがヴィジュアル系バンドには勝利の方程式がありません。抑えはいずれも自作自演、自責点のなすりつけと
絶体絶命のピンチを提供する事への強靭な意志に燃える若き志願者たちで構成され、彼らは日夜最前線でインディーズ落ちに
身をさらしているのです。
プログラムを、一種の、そしてわがジャンル唯一の勝利の方程式と考えていただきたい。
ヴィジュアル系バンド離れを防ぐためには―――(後略)
602 :
Nana:02/04/20 02:47 ID:y1rblZeE
息苦しさに目を覚ましたとき知っているアリーナではないとKOHTA(PIERROT・Ba)は錯覚した。
もちろん、その場所はは知っている代々木第一体育館のアリーナであったのだけれど、何かがおかしかった。何かが違っている。
すぐに、KOHTAはその原因に気づいた。体育館の窓の気配で既に夜であることがわかった。
それに、首に手をやってみて息苦しさの原因に気づいた。よくは見えないが、なにやら硬質な金属のような物で出来た首輪が、
いつの間にかKOHTAの首にはまっている。しかもサイズがあっていないようで微妙に苦しいのだった。
でなければ、どこででも寝られると自他共に認めるKOHTAがこんなにあっさりと目が覚める筈がない。
それにしても、さっきまで楽屋で昼ご飯を食べていたはずなのに・・・
そう、今日は1年に一度の事務所のイベント、SWEET TRANCEのために朝早くから会場入りして・・・
KOHTAは、辺りをそろそろと見回した。同じ事務所の先輩や後輩達が、先ほどまでのKOHTAと同じように床に伏して眠っている。
(床!そう、客席が何故か一つもなかった)同じ事務所だけでなく、知り合いのバンドマンや、テレビでしか見たことのない
超有名なバンドマン達もいた。そしてそのなかには、KOHTAの敬愛する兄キリト(PIERROT・Vo)、TAKEO(PIERROT・Dr)、
それに尊敬するJ(LUNA SEA・Ba)もいる。
俺はいったいどうしたんだろう? KOHTAがそう思ったとき、広いステージの下手から良く見知った顔が現れた。
603 :
Nana:02/04/20 02:48 ID:y1rblZeE
「ごきげんよう皆さん、河村です。・・・今日はこの場所を借りて・・・たっぷりと・・・愛し合おう・・・」
「・・・はぁ???」
鼓膜をくすぐる気色悪い河村の言葉に、何人かのバンドマン達がゾッと鳥肌を感じて目を覚ました。
「おーい、みんなーっ起きてーっ!朝よ〜〜〜〜!!」
ステージ上ではSWEET TRANCEではお馴染みの東海林のり子が甲高い声を発していた。その神経に障りそうな
キンキン声はあまりにがらんとした会場に響きわたったため皆やっと目がさめた。
みな、なにが起こったのかわからないという顔で焦点の定まらない目つきを している。
なぜ河村隆一が?東海林のり子はなんであんなにテンパってるんだ??これはいったい?
そして河村隆一がスピーカーで叫んだ。
そして彼のその発言に皆完全に目をさまし戸惑った。
「ふう・・・皆聞いてくれ。残念だけどこのところ邦楽、ことにヴィジュアル系の音源の売り上げが
伸び悩んであちこちのバンドがメジャー契約を切られるという事体になってとても残念なんだ。
これは僕のLUNA SEA時代のように野性味のなくなったのが原因かと思われるんだけどどうかな?
よってプロレス界で行われたバトルロワイヤルを開催したいと思う。
つまり今日は、皆にちょっと、殺し合いをしてもらいます!
詳しいルールについては東海林さんお願いします」
604 :
Nana:02/04/20 02:49 ID:y1rblZeE
東海林のり子が拡声器でルール説明をしようとしたときSUGIZO(LUNA SEA・上G)が叫んだ。
「おいRYUICHI、ふざけんのもいいかげんにしろよテメエ!J-POPに走ったくせに何が今更ヴィジュアル系だ!もうボケたのかよ?!」
「ああ・・・SUGIちゃん、まだキミは信じられないんだね・・・仕方ないな。INO、あれを 持ってきてくれないかな?」
河村がそういうと下手から大きな寝袋を抱えたINORAN(LUNA SEA・下G)が入ってきた。
「さあ、開けて」と河村が言うと、INORANはぎこちない手つきで寝袋を開けた。
「うわ〜!」 最前列にいた現王園崇(FAIRY FORE・Vo)が叫んだ。
その袋の中には血だらけの真矢(LUNA SEA・Dr)がいた。真矢はドラムスティックを握りしめたまま変わり果てた姿になっていた。
体中に銃痕だろうか穴があいている。アーティスト達はその姿を見てパニックになった。
「静かにして下さ〜い。静かにしてくれないと僕は困ってしまうんだ」と河村が言った。しかし一向にアーティスト達は
大人しくならない。
「ああ・・・。INO、お願い」と河村が言うとINORANが拳銃を取り出し体育館の屋根に向けて撃った。轟く銃声に驚き、
アーティスト達は静かになった。
「そう。皆静かにしてね。それじゃ東海林さんルールの説明をお願いします。」
「それじゃみんなーっ!ルールの解説始めまーす。みんなは今、とある島の体育館の中にいます。特別に今日のために作ったんだよぉ?
代々木にそっくりでしょ?えーとね、みんなには、この中で殺し合いをしてもらうわけなの。最後に生き残った人一人は
次期ミリオンセラーアーティストとして事務所を上げてバックアップしてくれるんだってー。
その上永遠にメジャーバンドマンとしての地位を保証されます。とっても良い話よね。以上です」
つづいて、河村がいう。
「ねえみんな、これは試練なんだよ。愛の鞭、っていう奴かな、ふふ。実は何を隠そうこの僕も、ソロ時代にこれを勝ち抜いて
ミリオンセラーを達成したんだよ。みんなも僕みたいに芸能界から引っ張りだこな存在になりたかったら頑張って頃してね」
605 :
Nana:02/04/20 02:50 ID:y1rblZeE
「そんなばかな」
誰かが後ろで立ち上がり、うわずった声を発した。振り返るとそれは甘心バンドの中では古株のTAKA(La'cryma Christi・Vo) だった。
「お、俺は事務所の中ではかなりの古株で、スイトラでのセッション仕切屋の座は保証されているんだ。
な、なんでこんな不毛な争いに巻き込まれなきゃいけないんだ。」
河村はえへへと笑いながら答えた。
「う〜んTAKAかぁ、ねぇ、キミは実際最近の所はどうなの?予定では今日行われるはずだったスイトラ、キミらPIERROTの前でしょ?
しかも去年は初っぱなだったって言うじゃない。売り上げって言うのは本当に残酷だよね。過去の栄光なんて所詮なんにもなりはしない。
すべては売り上げが物を言う世界。ねえ、そんなキミが、本当に甘心内での自分の地位を保証されてるとでも思っているのかい?」
河村にそう言われてTAKAはぺたんと座りこんだ。他のアーティストも河村の自分の陶酔しきって激寒すぎるステージ非難に
もう何を言っても無駄だとさとった。
「ああそうだ、ねえ、キミ達、もう入ってきていいよ」
河村に促されて、ライフルを持った3人が入ってきた。よく見るとそれは潤(PIERROT・下G)とアイジ(PIERROT・上G)と
Gackt(元malice mizer・Vo)だった。Gacktは甘心とは関係のないアーティストなのだが、その時は誰も特別違和感を抱かずに
彼らを凝視した。
606 :
Nana:02/04/20 02:51 ID:y1rblZeE
「潤!!!てめぇ、俺達を裏切ったのかよ!!」
キリト(PIERROT・Vo)が怒声を発したが一瞬びくっとして俯いてしまったアイジとは対照的に潤は平然として答えた。
「どわひゃひゃひゃひゃひゃごめんねキリト。俺も我が身が可愛いんだよ」
怒りのため真っ赤に顔を染めるキリトを、潤は醒めた目で一瞥した。
「メジャーバンドマンなんだから人生設計を立てとくもんなんだよ。常識だねぇ」
「はいはいー、キリトくんも潤くんもーっ!いつまでも感傷に浸ってないでね。これからルール説明ですよ、ちゃんと聞くように〜」
甲高い電波を発しながら東海林のり子が説明を始めた。
「え、と、少し中断しましたが詳しいルールの説明です。みんなはこれから 隆一くんが決めた順で1分おきに
ここから出ていってもらいます。出たところからゲームスタートですよ〜。出て行く時にこのバックをもらってください、
中には武器と少量の水と食料が入ってます。あと制限範囲はこの島全体でーす。そこから出ないでください、
島から出ようとすると爆発します。最後の一人になるまで戦 って24時間以内に誰も死なないと全員爆発します。
まあこんなとこかな、後 は地図とルールブックを見て確認してください。」
「皆、聞いたよね。じゃあゲームスタートだよ。まずは、頑張ってね、あと皆がここを出ていったらここらへんは
立ち入り禁止になるから気をつけてちょうだい、じゃあアデュー」
607 :
Nana:02/04/20 02:51 ID:y1rblZeE
KOHTAは無い脳味噌を捻って必死で考えていた。どうすればこのクソゲームをやめさせてイベント
(そういえばファンの子達はどうしたんだろう)を元に戻せるか。
「みんな本気で殺し合おうなんて考えてはいないはずだ、昨日まで同じ音楽界のアーティストとして頑張ってきたんだ、
なんとか集まることができれば・・・というより、兄貴がきっとなんとかしてくれるよな、うん」
やがて、KOHTAの名前が告げられた
「ん〜、KOHTAくん、次は君だよ。」
アイジからバックをもらう。中の武器を使って急襲しようかと思ったがそれは無駄なことだとすぐにわかった。
部屋の外には政府の兵士たちがライフルを持って立っていた。考えて見れば当然のことだ。喧嘩っ早いバンドマン達を
アイジたち3人で抑えることなんてできるわけがない。ともかく早く出よう。
608 :
Nana:02/04/20 03:11 ID:y1rblZeE
一般用ゲートから早足で外へ出てみると夜の闇に覆われた、船が一隻も停泊していない港が見えた。
どうやらここは小高い丘になっているようだった。島の中は全て電気が消えていて不気味な雰囲気が漂っている。
そこには誰もいなかった、兄やTAKEOと言った同じバンドのメンバーまで消えていた事にKOHTAは深い憤りを受けたが
それもすぐに打ち消された、何かが横たわっている。近づいてみるとそれがSeek(Psycho le cemu・Ba)だとわかった。
後頭部に20センチほどの銀色に光る棒がはえていた。
KOHTAは目を疑った。
いったいなんなんだ、誰かがやったのか、それともこれは一種のサクラなのか、――周りがやる気になっていると見せかけるための、
ともかく生きているかどうか少し様子を・・・
その時、ヒュンと音を立ててKOHTAの眼目を何かが掠めた。KOHTAはぐっと口を引き締めるととっさにその矢とって横へ飛びのいた。
「あれは現・・・」
振り向きざまに投げた、こんな動きができたのも普段からストイックに筋力トレーニングをやっていたからだろう。
いつもは暴投の多いノーコンだったが矢は相手にあたった、相手は「うっ」とうめくととそのまま落ちてきた。
近づいてみる、やはり現王園崇(FAIRY FORE・Vo)だ。その手にはボウガンがにぎられていた。
KOHTAは蒼然とした。
戦いはもう始まっているのだ。
こんなとこにいたらまた襲われかねない、ともかく身を隠さなくては、と、完全にいっぱいいっぱいになったKOHTAは
暗い島の闇の中を無我夢中になって走り出した。
609 :
Nana:02/04/20 11:17 ID:1Jfg4zG2
キタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!!
何? 新シリーズ!? 今度は河村隆一かよっ
y1rblZeENanaは神! ガンガレー!!
で、ここage? sage?
610 :
Nana:02/04/20 12:42 ID:jgGPuDZ.
麺が真剣にバトロッてる姿は何故か藁える
611 :
Nana:02/04/20 13:02 ID:IYSBxqew
612 :
Nana:02/04/20 22:09 ID:fnzusKEo
現王園崇(FAIRY FORE・Vo)は、全身に感じる痛みで目を覚ました。痛みに顔をしかめて上体を起こす。
これは夢だと思いたかったが……転落した時に打ち付けたその痛みと、そして何より目の前に転がる
Seek(Psycho le cemu・Ba)の死体が容赦のない現実を見せつけていた。……自分が殺したのだ。
恨みは無かった。襲われたわけでもなかった。ただ、周りの人間全てが怖かった。
…最初に狙われるのは自分だ、なんとなく現王園崇はそう感じていた。悲しいが、今事務所の中で一番勢いがないのは
自分達のバンドだと言うことを現王園はよくわかっていた。もし今事務所の中でリストラをするとしたら、
間違いなくその矛先が向けられるのは他のインディーズのバンドでもなく、自分たちだと言うことも。
こんなおよそ現実味のない馬鹿げたゲームに対して自分自身よくまだ実感が湧かないと言うのが正直なところだが、
どちらにせよ、ぼやぼやしていたら今時点で一番勢いのない、弱そうなバンド(ましてや自分は一番目立つボーカルだ)
から確実にしとめていこうと短絡的に考えるバンドマンがいてもおかしくない。いや、必ずいる。
だったら、やられる前にやるしかないんじゃないか?そう考えて、現王園は他の選手が出てくるところを不意打ちする事にした。
そして、二人目のKOHTAに返り討ちにされてー
…どのくらい気絶していたのだろう?いや、そんなことはどうでもいい。とにかく次に選手が出てくる前に隠れないと…
現王園の思考はそれが最後だった。後頭部に衝撃を受け、現王園は立ち上がろうとして片膝をついた姿勢のまま前のめりに倒れた。
現王園の後頭部には、Seekの物と同じ矢が突き刺さっていたのだが、勿論現王園がそれを見ることは出来なかった。
613 :
Nana:02/04/20 22:09 ID:fnzusKEo
TAIZO(元FEEL・G) は、最早現王園が動かないのを見ると引きつった笑みを浮かべた。
彼は勿論事務所が違うので、今年もいつものようにあくまで観客の一人として来たのである。ただ、今年に限っては何故か、
やたら丁寧な招待状がわざわざ速達で彼の事務所に届けられた。今考えてみれば、妙な話だった。
だが、もうそんなことはどうでもいい事だった。
あんたが悪いんだ。あんたがSeekを殺したんだろう、普段はおとなしそうな顔をしやがって。俺のことも殺すつもりだったんだろう。
だからあんたが悪いんだ。
内心でひとしきり現王園を罵ると(結局それは言い訳に過ぎなかったのだが)TAIZOは立ち去ろうとした。
が、数歩進んだところで立ち止まり、引き返してくると
「死人には必要ないよな。無駄にしちゃいけないよな」
そう呟くと現王園の物だったバッグを回収し、今度こそ闇に消えていった。
絶対に俺は生き残ってやる。そう呟きながら。
614 :
Nana:02/04/20 22:10 ID:fnzusKEo
しまったーsageにするの忘れてたー(´д`;)
615 :
Nana:02/04/21 00:47 ID:tMkNvdwo
新作ですかっ?!
616 :
Nana:02/04/21 00:54 ID:ekWCEEhM
また楽しみが増えましたな。
617 :
Nana:02/04/21 12:11 ID:tt.2JV5s
おお!KOHTAがイイ感じにでしゃばってる!!(ワラ
楽しみですね〜
618 :
Nana:02/04/21 13:43 ID:6jJjQvHE
崇ー!…自分の立場をこんなにもよく解ってらっしゃったのね(同情泣
なんか妖精ファンが見たら怒られそうだ(ニガワラ
619 :
Nana:02/04/21 18:05 ID:LBxjmIJY
新シリーズうれしいなage
620 :
Nana:02/04/21 20:30 ID:KBed0Ku2
新シリーズ楽しみにしてます!!
作者さん、頑張って下さい。
621 :
Nana:02/04/21 23:17 ID:.8v9bMWs
seek…
622 :
Nana:02/04/23 01:40 ID:5U0tK38s
seek出てきて嬉しいく。
出番少なくて哀しいく。
●現王園崇(FAIRY FORE・Vo)
>>604〜
>>612 3人目@TAIZO
●真矢(LUNA SEA・Dr)
>>604 1人目
○TAKA(La'cryma Christi・Vo)
>>605〜
○潤(PIERROT・下G)
>>605〜
○アイジ(PIERROT・上G)
>>605〜
○Gackt(元malice mizer・Vo)
>>605〜
●Seek(Psycho le cemu・Ba)
>>608 2人目@現王園崇
○TAIZO(元FEEL・G)
>>613〜
確か前回登場人物の表があったような…
名前などを新シリーズ書いてくれてる方の文章からコピペして
暇だったので勝手に作ってみました。
見難かったり、邪魔だったり、はえーYO!ヽ(`д´)ノ!
って思った方いましたらスマソ…
625 :
Nana:02/04/23 16:46 ID:xiYDu7i6
>朝ねずみタン
ありがd!いずれ作るだろうけど手間かかるし、これなら次の人もコピペからでいいからね。
お疲れ様です
そしてあなたのお名前いつもよく見かけてますわw
某お願いします!スレで…
626 :
Nana:02/04/24 23:43 ID:60fBhow2
竜太朗(Plastic tree・Vo) はあの会場もどきの体育館を先に出発していったキリト(PIERROT・Vo) が出発間際に
耳打ちしていった場所――――彼は小声だが確かに“南の端で”と言った――――へ向かっていた。
――――竜太朗はSWEET HEART事務所の中でも中堅的存在であるPlastic treeのヴォーカルで、キリトとは同じグループのバンド、
しかも同じパートだということでまあまあ、仲良くさせて貰っていた(…と思う)。彼はバンドマンとして満足な売り上げを
残してはいなかったが、その癖のあるキャラクターで「不思議な世界の持ち主」といわれることで事務所、言ってみれば
このヴィジュアル系バンド界に於ける自分の居場所を確実に築こうとしていた。
そんなところでキリトが現れた。彼の率いるバンドPIERROTはあっという間にインディーズ界においてトップクラスの人気を獲得し、
メジャーデビューするや次々と目新しい事や新しい記録をうち立ててみせた。竜太朗はとりわけPIERROTの「リーダー」であり、
同じヴォーカルであるキリトに会いその次元の違いを痛感した。そしてキリトと良き友人である道を選んだ。彼はたまにいる、
明らかにPIERROTを敵視してみせることで自分たちの個性を打ち出そうとする愚かしい手法を取るバンドとは違い、
キリトと仲良くした(つもりだ)し、キリトもまた、あの人見知りする彼には珍しく竜太朗と親しく付き合っていた。
―――岬についた。キリトはどこにいるだろうか、探してみる。見晴らしのよさそうな岩に登ると海が見えた、
暗闇の中にいくつかの島が見て取れた、前に一歩踏み出そうとした時、突然後ろから声をかけられた。
「竜太朗」
反射的に支給された武器であるワルサーPPK九ミリをかまえた、がすぐにそれを下ろした。茂みからはキリトが姿をあらわした。
「あ、いたんだキリト」
竜太朗は安堵の声を漏らした、しかし同時にキリトの調子がおかしいことに気づいた。
「どうしたの?なんか…少し様子が変だよ」
その竜太朗の言葉を聞いているのかいないのか、キリトはしばらく黙っていたがやがてしゃべり始めた。
「なあ竜太朗、俺は正直いってどうでもいいんだ」
「ど、どうでもいいって…?」
「………べつに今の流れに敢えて抵抗しなくてもいいんじゃないか、俺は潤に裏切られてそう思った。
あいつとはPIERROTの前身バンドを組む前からの付き合いだ………まあ前にも些細なことで1度裏切られた事があったけど。
それでも親しくしてた。俺の一番の仲間だった。そのあいつがまた裏切ったんだ。もちろん俺に相談せずに………」
そう語るキリトの目が何も見ていないことに竜太朗は気付いた。
と同時に、何とも言えない、言葉では上手く説明の付かない嫌な感じが竜太朗の背筋をぞっとさせた。
「………だからもう上の意向と争うのは」
話が終わらないうちに竜太朗はワルサーの引き金に力をこめた、しかし、その時にはキリトが弾を放ち終わっていた。
ぱららっ、と小気味よい音がしたその瞬間、竜太朗は絶命していた。
「やめた。俺はこのゲームに乗る。勝って、またヴィジュアル系バンドとして、潤と残るんだ」
流れたばかりの血の臭いと潮風がまじった、打ち寄せる波の音が、続いていた。
628 :
Nana:02/04/24 23:45 ID:60fBhow2
TAKASHI(Plastic tree・Dr)は闇の中にうずくまっていた、さっきからもう2時間もこうしている。
「なんでこんな業界に入ったんだ、なんで俺が殺し合いなんかしなきゃいけないんだ」
TAKASHIは体育館を出た後すぐに隠れる場所を探した、すぐに小屋を見つけた。
小屋の中にいれ ば入ってきた奴を不意撃ちできる、少なくともここが禁止エリアになるまでは大丈夫だ。
それにこちらには拳銃がある、万が一ににも負けることはないだろう。
「くそ、俺は絶対死なんぞ、こんな馬鹿な死にかたってあるか、絶対生き残って見せる」
本当なら、今回のこのイベントを機に彼はPlastic treeを脱退する筈だった。畜生、ちょっと遅かったか。
イベントまでやったら脱退、なんてかっこつけないで、嫌になったその時に夜逃げ同然でもいいから
とっとと逃げ出していればこんな事には――――
不意に、かしゃんとガラスの割れる音がした。反射的にさっと身構える。裏からだ。身を隠して敵の来襲に備える。
闇に慣れた目の端で捉えたその顔には見覚えがあった。YURA(Psycho le cemu・Dr)だ。奴なら必ず殺るだろう。
あいつの二重人格ったらもう、カメラの前だけ男前だかなんだか知らんが颯爽とかっこつけやがって。
恐怖と緊張とでTAKASHIが身を竦めたその時、
―――ぎしっ
床のきしむ音がした。
629 :
Nana:02/04/24 23:46 ID:60fBhow2
「誰かいるんですか♪」
(き、気づかれたっ!…仕方ない、殺られるまえに殺るっ)
「待って!す、少し待って下さい♪不毛な殺し合いはやめませんか♪ここで殺りあったってあの人達の思う壺です♪
皆で協力すれば必ずなんとかなりますよ♪」
(ふん、こんな時にまで語尾に“♪マーク”なんかつけやがって。更にその上またくだらない御託を。
ホントにムカつく野郎だ…今すぐ引導渡してやるぜ)
TAKASHIは音もなく立ちあがった。引き金を引き絞ろうとする。
と、物音に気付いてYURAは振り返り、一瞬ぎくっとした顔を見せると、すぐに気の弱そうな微笑みを浮かべた。
「TAKASHIさんですか♪…ね、ねえ、やめませんか、こんな不毛なこと。せっかく同じ事務所に入った仲間じゃないですか。
こんな偶然的に会った仲間、ほんとに偶然同じ事務所に入ったんです。これからも大切にしていきましょう。
皆で協力すればきっと何とかできます。もう1度事務所を信じてみましょう。…死んだらそれまでだったとあきらめればいい」
(…………ぐ、これは、嘘、嘘に決まっている)
それでもこの言葉はTAKASHIの心を僅かながら揺らした。しかも、いつの間にかYURAの語尾から“♪マーク”も消えていた。
「TAKASHIさん、なんのために僕らは音楽をやっているんでしょうね?仲間を裏切ってまで生きることになんの価値があるんでしょう。
孤独になって生きても空しいだけじゃないですか?少なくとも、僕はそう思います」
気づくとYURAは涙を流していた。呼吸も乱れている。
(………………………………………………………)
沈黙の時間がすぎる。やがてTAKASHIはゆっくりと銃口を下げた。
「わかったよ……お前の言うとおりだ。こんな事は本当に馬鹿げている。皆で協力して戦おう。」
「ああよかった♪わかってくれて僕は本当に嬉しいです♪………じゃあ、とりあえず握手しましょう♪」
ぱっと明るい表情になって寄ってくるYURAに、TAKASHIも歩み寄る。堅い握手をした。
630 :
Nana:02/04/24 23:47 ID:60fBhow2
刹那、ざくっという音を聞いた。
真新しい包丁で採れたてレモンを切ったようないい音だ、またざくっと音がした、のどが猛然と熱くなった、血が吹き出る。
その血で胸が熱くなったところでTAKASHIは息絶えた。
YURAが手を離すとTAKASHIは横ざまにどっと倒れた。YURAは涙をぬぐうと鎌を振って血を払った。
―――いつもカメラを意識しているんだ、涙ぐらい流せないでどうする。ふふ♪
YURAはTAKASHIの手から拳銃を抜き取るとやがてその場から去った。
631 :
Nana:02/04/24 23:49 ID:60fBhow2
KOHTAは山の中に入った。どこか隠れる所はないか、ともかく一刻も早く身を隠さなければ―――山を登っていると
道脇にくぼんだ場所があるのを見つけた、近づいてみる、どうやら人はいなさそうだ。支給された鍋のフタ(そうフタ!
全くもってふざけた武器である)を構えながらKOHTAは横穴らしきところに入っていった。物陰が見える。
KOHTAは警戒レベルを最大にまで上げた。
そして問い掛けてみる。
「誰だ」
反応はない。………少しおいて、KOHTAは噴き出す汗を手の甲で拭いつつもう一度声をかけた。
「誰かいるなら聞いてくれ、俺は戦うつもりはない、皆で集まってあの腐ったキチガイどもをぶっ潰そうと考えている。
出てきてくれ、いっしょに戦おう」
………ややあって穴の奥からずるっ、ずるっと言う鈍い音と共に誰かが姿をあらわした。J(LUNA SEA・Ba)だ。
「…………!!!!」
KOHTAの顔が歓喜と尊敬の念で途端に明るくなった。が、彼の右手には何か武器が握られている。KOHTAはそれに気付くと
全身に走る緊張を必死で押さえながら、寡黙なままの彼に必死で話しかけた。
「じ、Jさん、もし戦う気がないなら俺の言う通りにしてくれませんか?1・2・3で同時に武器を落とすんです。
……い、いいですか?」
Jがうなずく。
「いきますよ、1・2・3」
KOHTAの鍋のフタと共に、Jも武器を落とした。
632 :
Nana:02/04/24 23:50 ID:60fBhow2
「よかった………戦う気はないんですね?!今からそっちに行きます!」
二人は近づいた。よかった、これならもう大丈夫みたいだ。
安心したのと、素直に嬉しいのとでKOHTAは普段の彼からはおよそ考えつかないほど上気した口調で話し始めた。
「Jさん、あいつらの思い通りに殺し合いなんかしたらだめです。まずはできる限り多くの仲間で集まって対策を練りましょう、
それと…あなたの武器は、Jさんが持っていて下さい」
「いや」とJはゆっくり頭を横に振った。「俺じゃ駄目だ…お前が持っていろ。俺はお前を信用してるから」
「え?」
そこで初めて、KOHTAはJの姿の凄惨さに気付いた。
左の腕、肘から下が無くなってしまっている。なんとか傷口に止血は施してあるようだが、服の片端を破っただけの
応急の包帯は既に血でどす黒い赤色に染まっていた。そして同じく左足は膝から下、臑全体がまるで潰れた真っ赤な果実のように
ぐしゃぐしゃに変形していて、こちらは血が止まらず未だにジクジクと滲んできている。
そのせいで、Jは右足だけでなんとか身体を支えているのだった。
「な………!!!」
思わず絶句したKOHTAに、Jは苦笑して見せた。
633 :
Nana:02/04/24 23:51 ID:60fBhow2
「……こういう訳だ。それでも、お前は俺と一緒にいるって言うのか?確実に足手まといになる俺と?」
「…………一体、誰が………」
こんなことを、と言おうとして、KOHTAはその質問の馬鹿らしさに気付いた。今は殺人ゲームの真っ直中だ。
単純なことだ。誰かが、Jを殺そうとして何らかの方法で狙ったのに違いない。
「…手榴弾投げつけられた。もう少し気付くのが遅かったら…木っ端微塵だった」
誰に、とは言わず端的にそう言うとJは笑おうとして苦痛に顔を歪めた。痛いどころか、正気でいられるのが不思議な位の深手だ。
「う、ぐぐ……とにかく、これはお前が持っていろ。俺には不要の物だ」
Jが喘ぐようにそう言うと、KOHTAはいっぱいいっぱいになってどうしたらいいのかわからず、
結局言われるままJの落とした武器を拾った。
「……わ、わわかりました。じゃあ…お、俺が預かりますね。………とりあえずはこの中に身を潜めていましょう。
あの、Jさん、そんな身体で無理はしちゃ駄目です。ここはきっと禁止エリアになるまでは大丈夫ですよね」
634 :
Nana:02/04/24 23:52 ID:60fBhow2
「みんなおはよーうっ!東海林でぇーす!元気でいますかーっ?午前6時になりましたよー!!」
突然所々に設置してある拡声器から、東海林のキンキン声が響く。KOHTAはその口調に新たな怒りが込み上げるのを感じた。
「それじゃあこれまでに死んじゃったバンドマンの名前を言うからちゃんと聞いてねーっ!!まずはFAIRY FOREの現王園崇くん。」
そこでKOHTAの顔がこわばる。まさか自分が・・・?
いや、あの時現王園は気絶していただけだった。
他の誰かや、気絶したままあの場にいたせいでアイジ達に殺されたのかもしれない。きっとそうだ。
俺じゃない。
俺は人殺しなんかじゃない。あの狂った河村達とは違うのだ・・・。
そんな事を考えている間にも続々と死んでいった者たちの名前が読み上げられる。その自分で思っていた以上の多さに愕然とした。
たったの一日で、これだけの仲間が殺されてしまうなんて。そしてその数と同じだけ仲間が殺人者となったのだ。
もうこれは止められない。
この最悪の椅子取りゲームは始まってしまった。
「畜生………」
Jが呟いた。
本当に、なんでこんな事になってしまったのだろう。
なぜ俺達が殺し合いなどしなければいけないのだ。
635 :
Nana:02/04/24 23:54 ID:60fBhow2
KOHTAもJも既に疲れきっていた。あれからろくに食事も睡眠もとっていない。特にJは深手を負っている。
何よりこんな状況の中で精神状態はボロボロだった。
何故自分達が?そう嘆いてもこの現実はこうしてちゃんとあるのだ。受け入れる他ならない。
「腹減ったな……」
またJがぼそっと呟く。そう言われると自分もそんな感じがする。こんな中でも食欲が消えない人間の身体を
KOHTAはなんだか不思議に思った。
「少し食べとくか」
支給されたバックの中を探る。パンを見つけ二人で半分にわける。
「うまい・・・」何時間ぶりかに2人に微かな笑顔が戻ったその時、がさがさっという音がKOHTAの耳に入った。
幻聴じゃなかったのだろう、Jの顔が微かに強張っている。
また音がする。しかも近づいてくる・・?
「逃げ、ますか…?」小声でKOHTAが恐る恐る言った。とりあえず荷物を乱暴につかみ立ち上がった。
しかし音はますます大きくなる。
636 :
Nana:02/04/24 23:54 ID:60fBhow2
がさっとひときわ大きな音がして茂みからAOI(SHAZNA・G)が顔をだした。その手にはかなりの大きさがあるナタが握られている。
やばい、とKOHTAが思うのと同時だった。
AOIがナタを振り上げまっすぐに突っ込んでくる。咄嗟にその手首をつかみその凄まじい力に体勢を崩されながらも
KOHTAは必死でさけんだ。
「待てっ、俺達は戦うつもりなんてない!!」
しかしKOHTAはその目をみて何を言っても無駄だと悟った。こいつの目は尋常じゃない。人殺しのソレだと。
後ろへどんどんと押されていく。がくっとKOHTAの足が滑った。後ろは急な傾斜になっていた。2人はもつれたまま坂を転げ落ちた。
空の青と木々の緑がKOHTAの視界をぐるぐるまわった。
数十メートル落ちた地点で体はとまった。
逃げださなければ・・・・・!!
KOHTAは覆い被さっているAOIの体を力いっぱいつきとばした。ところがその身体はあまりにも簡単に離れ、KOHTAは妙な感じを覚えた。
嫌な予感に包まれながらも恐る恐る振り返る。
そこには端正な顔面にナタが食い込んだAOIの身体が転がっていた。
KOHTAは強烈な吐き気がこみ上げるのを感じた・・・。
637 :
Nana:02/04/24 23:57 ID:60fBhow2
しかし、KOHTAはそれでその場から立ち去ることはできなかった。なぜなら―――
目前僅か15メートル先に拳銃を持ったTAKA(La'cryma Christi・Vo)が立っていた。
その眼は血走っていてその銃の動く気配にKOHTAは身を伏せた。ぱん、という破裂音と同時に熱いものが頭の上をかすめた。
TAKAが二発目を放とうとする、だめだ、かわせない。
「やめろ」
別のところから声がした。TAKAがびくっと顔を斜め後ろに向ける。KOHTAもぼんやりその視線を追い―――
―――SUGIZOさん?
いきなりTAKAがSUGIZOに向けて撃った。SUGIZOはそれをかわし腰を落とすと膝立ちの姿勢でショットガンを放った。
TAKAの右手がふっ飛ぶ。ああこれでもうマイクをその右手に持って歌うことができないね。
TAKAはその場に膝をつくかと思ったが、しかしそうではなかった。とんだ右手のところにより、右手から拳銃を抜き取った。
そして構える。
「やめろといってるんだ」
SUGIZOは再び声を発した、しかしTAKAは止めなかった。SUGIZOが放つ。TAKAは体をくの字にして吹っ飛んだ。
KOHTAは慌てて体を起こした、TAKAの体は無残な姿に変わっていた。
638 :
Nana:02/04/24 23:58 ID:60fBhow2
「SUGIZOさんっ!!」
KOHTAがSUGIZOに寄ろうとする。
「まて」
SUGIZOが静止する。
「まず持っているものを捨てろ」
SUGIZOに言われてKOHTAは自分がなたを握ったままだと気づいた。慌てて言われる通りなたを落とした。
「SUGIZOさん、俺たち戦う気はないんです!あっ、そうだっJさんも一緒にいるんですっ!!あのっ、凄い大怪我をしてて…」
「Jが…?」
SUGIZOは一瞬驚愕したような表情を見せ、それから少しだけ微笑んだ。
「………そうか………おまえ達は戦う気はないんだな、よかった、まともなやつがいてくれて」
「SUGIZOさん」
「俺もこのゲームには反対だ、おまえ達も二人でいるってことは俺と同じ考えだろ、集まって何とかしよう。…Jは何処にいる?」
SUGIZOに会えたことでKOHTAは安心した、また、SUGIZOがこのゲームに反対だと言ってくれたのが嬉しかった。
やがて、KOHTAはJのところに戻り、少ししてからTAKAとAOIの道具を回収したSUGIZOがやってきた。
「SUGIZO…!」
JもKOHTAの話を聞いてから実際にSUGIZOの姿を見ると流石に驚愕の表情を隠しきれなかった。
だか、それから無言のまま、ニヤリと笑う。
SUGIZOも、黙ってうなずく。
彼らの間には、それだけあれば十分だった。
639 :
Nana:02/04/24 23:59 ID:60fBhow2
「AOIが死んで…それからTAKAが死んだ」
SUGIZOがJに淡々とそう言いながら、持ってきた彼らの道具をJに見せた。
その一方でKOHTAは、AOIの道具を見ると、また殺したあの端正な顔が脳裏に浮かび上がってきて再び吐き気を誘われるのだった。。
「どうしたんだKOHTA、顔色が変だぞ」
「………AOIさんは最初からやる気だったんです、なんでかなって」
「………KOHTA、それは、みんな生き残りたいって思ってるからだ。それでAOIは隆一の話に乗せられて、
やる気になっていた………マジで馬鹿だよな。昨日まで同じ事務所の仲間同士だったのに、こんな事になるのは。
だけど相手がやる気になってたらこちらもやるしかない、違うか?」
「KOHTA、お前、これから躊躇なくそれがやれるか」
「……………」
KOHTAは大先輩2人からのその問いに答えられなかった。
―――夜がいっそうふけていった
640 :
Nana:02/04/25 00:00 ID:PGEpD9k.
『みなさん聞いてください!!』
その時、突然大きな声が響き渡った。東海林のヒステリックなキンキン声ではない………
「…聞いたこと無い声だな」Jが言う。
だが、KOHTAには聞き憶えがあった。それに夜目でも遠くからでもはっきりとわかる派手な色彩のシルエット。
「あれは…あの笑える衣装は…DAISHI(Psycho le cemu・Vo) とLida(Psycho le cemu・下G)? 」
『戦うのはやめてください!みんなここまで来てえな!!』
3人は声の聞こえてくる方向へこっそり移動した。
「あいつら・・・・」
前をなかなかサマになっている匍匐前進で進むSUGIZOが言った。KOHTAも茂みから顔をだしSUGIZOの目線をたどる。
山頂だった。北の山の上。展望台のような建物がある。その中に影が2つたっている。
1人がハンドマイクのような物をもっている。多分あれがDAISHIだろう。
「もう1人は・・・」
言いかけた所でDAISHIとは別の声がした。
『お願いやから…!!みんなホンマは戦いたくなんかないねんな?俺達2人でいます。戦う気なんてありません!』
「・・・・やっぱり、Lidaだ」
『だからここまで来てくださーい!!』
641 :
Nana:02/04/25 00:01 ID:PGEpD9k.
2人の必死の呼びかけが空にひびく。
あんな事をしてたら丸見えだ。殺されてしまう・・・
「なにやってんだ・・・・!!」
SUGIZOが悔しそうに叫んだ。KOHTAも同じ気持ちだ。とにかく安全なところに隠れてほしかった。
その時、ぱらららららららというタイプライターのような音が遠く聞こえ、『うっ』というLidaのうめき声がそれに続いた。
一呼吸おいて『うわあああああ』というDAISHIらしい声。
展望台の2つの影がゆっくり崩れ落ちた。
展望台の中、キリトは竜太朗のものであったワルサーPPKを外から見えないよう低い姿勢のまますっとおろすと
DAISHIとLidaのデイパックを拾い上げた。
その光景を見た後、KOHTAはしばらく動けなかった。
また、仲間が殺されてしまった。それもあんな無抵抗だった2人が。
しばらく辺りを見回したSUGIZOが「そっちへ戻ろう」と2人を促した。
「………これでわかっただろう。やる気になってる奴がいるんだ。」
「ひどいな」Jが、ぽつんと言う。
元の場所まで戻るとSUGIZOが荷物をまとめ始めた。
「どうするんですか?」
「見たろ?今の。誰だか知らないが容赦ないぞ。おまけにマシンガンまでもってやがる。念のためもうちょっと安全なとこへ移動しよう」
>>626〜641=ID:PGEpD9kサソ
更新乙カレーです(*´Д`*)
書いてくれてる方がまとめて投稿した時に
その時最後のカキコの時にageていただくとみんなが小説がすすんだって気付くかも。
>>625 いえいえ…暇人ですからねヽ(´ー`)ノ
それに私も小説の楽しみにしてるうちの1人なんで何かできないかな、と。
…よく見かけられてるんだ?某お願いします!スレに粘着してるんでの。
スマソですの〜(;´д`)
あ、一応リストはメモ帳にどんどん増やしていってます。とりあえずここまで増やした。
リスト見たくなったら言ってくだされ。それか自分で適当に貼ってくださいな。
643 :
Nana:02/04/25 01:31 ID:cnw6E1SI
サイコチーム弱ッ…
ユラ様頑張れ(ボソ
644 :
Nana:02/04/25 01:51 ID:c6wScB9Q
主役がコータってとこが(・∀・)イイ!
頑張ってください
645 :
Nana:02/04/25 02:24 ID:LDo/g1B6
サイコ、死ぬ前に必殺技とかエクスカリバー使って欲しかったな(ゲラ
並とかより先に逝ってしまったね・・・
646 :
Nana:02/04/25 17:59 ID:XbNyEwGU
あ SUGIZOだ (´∀`)
イイ(・∀・)イイ!!サイコー!!
邦楽とはまた違ってコレは・・・漫画版に近いっすね、最高っす。
648 :
Nana:02/04/25 22:29 ID:8NTC0AXo
突然響き渡った声に、HISASHI(GLAY・下G)はぎょっとして声の方向を見た。
北と思われる方角の山頂、展望台のような建物に二つの人影がある。流石にHISASHIのいる場所からは、それが誰であるかまでは判別できなかったが。
「なんなんだ?あれは………」
二人ともHISASHIには聞き憶えのない声だったが、その派手な服装は雑誌で見たことがある。名前まではいちいち憶えていないが、確かPsycho le cemuという名前のバンドのメンバーではないだろうか。
呼びかける声が響く。
「馬鹿野郎………」
なんてコトをしているのか。あれでは殺してくださいと言っているようなものだ。
不意に、やけに軽い連続音が聞こえた。
拡声器を通して、うめき声と悲鳴が聞こえる。
HISASHIはじっと唇を噛み、目を反らした。後頭部がずきずきと疼いたが、気にならなかった。
これで少なくとも二人、死亡者が増えた。実際はもっと増えているのだろう。残っているのは何人か。誰が残っているのか。それは敵か、味方か。
展望台にいたであろう「もう一人」は、容赦ない敵に違いないだろうが。
649 :
Nana:02/04/25 22:29 ID:8NTC0AXo
ここに至るまで、HISASHIは不思議なほど他のバンドマン達と遭遇していない。
出来うる限り、そのような場所を選んで移動しているからなのもあるが。 しかし、いずれ禁止エリアが増えてくる。
移動可能なエリアが狭まってくれば、当然遭遇率も増えるだろう。
その時は………。
それ以前に、HISASHIが今ここにいることを知っているのなんて、河村か、河村の周りにいるバンドマン達位だろう。
彼はこの最悪最低なゲームに参加させられている一部のバンドマンと同様、SWEET HEARTとは何の関係もない。
それなのに、何故か彼は、ここにいる。
GLAYの他のメンバー達はどうしているだろう。まさかとは思うが、彼らも自分と“同じ目に遭って”ここに連れてこられているんじゃ…
まさか、と思いたいがHISASHIはそこまで楽観的な心境にはなれないでいる。
とにかく状況が異常すぎて、却ってHISASHIはいつもの冷静さを取り戻しつつあったのだ。
HISASHIはもう一度展望台を見た。
既に人影はない。
あの瞬間まで、仲間を信じた────信じようとした彼らが、少しだけ羨ましかった。
650 :
Nana:02/04/25 22:30 ID:8NTC0AXo
結局やや南西よりに百メートルほどだけ移動した茂みの中にKOHTA達は落ち着いた。
しかけの糸のセットをおえたSUGIZOがふうっと息をついてKOHTAとJの前に腰を下ろした。
JはたまたまSUGIZOが持っていた鎮痛剤を飲んで横になったばかりだった。
「…どうした?静かだな」
KOHTAがなにも言わないでいるとSUGIZOがそう尋ねた。KOHTAは顔をSUGIZOの方へ向けるとちょっと考え、口を開いた。
「あいつら、なんであんな事したんでしょう・・・」
「DAISHIとLidaか?」
KOHTAは頷いた。少し言いよどんだがそれから言った。
「目に見えてたじゃないですか。少なくとも予想できた筈だ。このゲームルールは――――」溜息がでた。
「殺し合いなんだ」
SUGIZOは顔を見据えて言った。
「あいつらは、同じ業界に生きる者として、自分の仲間を信じようとしたんだ。きっと全員がまとまる事ができたら、
みんな助かるかも知れないと。そう思ったからだろう。それは褒めてやるべきだ。・・・・俺達はできなかったんだから」
KOHTAは息をつくと
「そうですね」と、一言だけいった。
だが、たちまち何とも言えない憤りがKOHTAの心中に沸いてきた。
651 :
Nana:02/04/25 22:31 ID:8NTC0AXo
(畜生………狂ってやがる………)
否、あの男が狂っているなんて、分かり切ったことだったろう。あんな狂人を野放しにしておけるなんて、
日本とはまったくなんて「平和な」国なのか。
KOHTAはいつの間にかすっかり冷えてしまった右手でそっと握ったり開いたりを繰り返した。
ライブの前など、不安に苛まれた時、これをすると心が落ち着いた。
キリトがそうするといいと教えてくれたのだ。
(兄ちゃん………)
放送ではまだ兄の名前が呼ばれていなくて、幸いだった。だが、次の放送では呼ばれてしまうかも知れない。
いや、それ以前に自分が死んでしまっているかも知れなかった。あの兄と殺し合うなんてことは、とても出来ない。
それくらいなら自分の命を絶つ方がまだマシだ。
脳裏に、優しい兄のはにかんだ笑顔が浮かぶ。
なんとかして合流したい。
兄と一緒に。
なんとしてでも。
だが。
KOHTAは知らない。大切な兄、キリトが既にこのゲームに乗ってしまっていることを。
652 :
Nana:02/04/25 22:33 ID:8NTC0AXo
TAKURO(GLAY・上G)はもうほとんど地面に這いつくばっている状態で必死に斜面を駆け下りていた。
普段は日本最大動員を誇ると言われる超人気バンドGLAYのリーダーとして、
せいぜい性格に似合わぬカッコ付けをしてキメている彼の顔が恐怖に歪んでいる。
彼がつい先程まで隠れたいたのが北の山の頂上近く ――つまりDAISHIとLidaがハンドマイクで呼びかけを行った、
その50メートルばかり下の茂みの中だった。
彼はそもそも根が平和主義者(なんせLove&Peaceが口癖だ)にして結構お調子者に生まれついた身、争いごとは大嫌いだったし
おまけに支給された武器ときたら1本のフォーク、スパゲティを食べる時に使うような何の変哲もない只のフォークだけだった。
だからあの時悩みに悩んで、呼びかけに応えでていこうとしたのだが同時にタイプライターみたいな銃声がして2人は倒れてしまった。
その途端、彼はプライドも見栄も何もかもかなぐり捨て荷物をかき集め逃げ出していた。
あの誰かが次に狙うのは自分に違いない!
ギタリストにとって命より尊い手の皮がずるずる剥けるのも気にせず靴底と手のひらを 地面に叩き付ける様な動きで彼は必死に逃げまわった。
ようやく山頂が遠く見える様になりほっと息をついた時 腕に何かが食い込んだ。
「ひいっ」と口から声がもれる。
「ばか!」と誰かが囁いてTAKUROの口を塞いだ。
彼は一気に混乱に陥りただ左手のフォークを振り回した。男はそれを右手に握った拳銃で受け止め、言った。
「あぶねえじゃねえか、TAKURO」
653 :
Nana:02/04/25 22:33 ID:8NTC0AXo
この声は……!!!………TAKUROはそっと顔をあげた。
「HISASHI、HISASHIじゃねえか!」
「ばか!大きな声だすな!」
何よりも誰よりも安心できる仲間の一人を見つけて思わず大声をだしてしまったTAKUROの口をもう一度塞ぎ、HISASHIは
「こっちだ。静かについてこい」と言うと、茂みの間を進みだした。
一瞬、HISASHIの顔をとてつもない悲愴感が横切ったが、TAKUROは気付かず、うすらデカい身体を窮屈そうにかがめながら後を追う。
少し深い茂みに辿り着くとHISASHIは足を止めた。
「座ろう」
TAKUROはHISASHIと向かい合って腰を下ろすとまだフォークを握っていた事に気付きそれを地面に置いたが、
同時にすりむけた手がずきずきと痛んだ。
HISASHIはそれに気付くとタオルと水で治療してくれた。
TAKUROは「サンキュー」といい
「ここに隠れてたんだな」と訊いた。
「ああ」HISASHIがニコリともしないで頷く。
「ここからお前が見えたんだよ。お前、無闇に動いたら逆に危なかったぜ」
「だな」TAKUROはそう言いながら自分が泣きそうになっている事に気付いた。
「さっきの――俺、あのすんげえカッコした奴らのすぐ近くにいたんだよ。俺………俺、あの2人助けられなかった。」
HISASHIは危険を冒してまで自分を助けに来てくれたのに………TAKUROは自分が情けなくて仕方なかった。
「ああ。俺も見た。あまり気にするな……。俺だってあいつらの呼びかけに応えてやれなかったんだから」
TAKUROはややあって、頷いた。
あの二人、DAISHIとLidaが倒れるシーンが、また生々しく蘇ってきて少し体が震えた。
そしてHISASHIは、やはり、自分だけじゃなかった――という絶望にも似た思いが身体の隅の方からじわじわと浸食してくるのを感じながら、
やっとTAKUROに不器用に微笑って見せた。
654 :
Nana:02/04/25 22:35 ID:8NTC0AXo
貮方孝司(Waive・下G)は時計が午前十時を指すのを待って隠れていた民家の裏口からそっと顔をだした。
できれば動き回りたくなんかないのだ。
しかしこの民家のある場所は11時から禁止エリアになる。コンピューターが相手ではまったはきかない。時間がくれば爆発する。
貮方は武器である自動拳銃をしっかり握りなおすと家の壁沿いにそろそろと進んだ。
とにかく南の山に入ろう。そうすればしばらくは安全なはずだ。
辺りを見回し誰もいないことを確認すると貮方は駆け出した。
貮方はもう泣き出したい気分だった。まだ事務所に入り立ての新人である自分が本当に信頼できる仲間をさがすのは困難だからだ。
一番いいのは同じバンドのメンバーを見つけだして一緒にいることだが、誰一人として何処へ行ってしまったか皆目見当がつかない。
同じ死ぬにしても1人は嫌だった。誰でもいいから側にいてほしい。茂みの中を駆け回り貮方はそんな事を考えていた。
しばらくするとやっと山の緑が目に入った。もう大丈夫だ。あそこならほとんど見つかる心配はなさそうだ。
ほっ、と一息ついた時だったふいに背後でがさがさという音がした。
貮方は心臓が口から飛び出そうになりながらも銃をしっかりと握った。
誰だ?もしかして自分を追ってきたのだろうか?不安ばかりが頭をよぎる。
その時「孝司?」自分を呼ぶ声がした。
咄嗟に貮方は覚悟を決めて銃をかまえた。
「ま、待て!何すんねん!!」
声の主はそう言うと慌てて両手を上にあげてみせた。
655 :
Nana:02/04/25 22:35 ID:8NTC0AXo
なんという偶然だろう、それは同じバンドのメンバーである田澤孝介(Waive・Vo) だった。その手に武器はない。
「……孝介!?」
貮方は思わず素っ頓狂な声を挙げた。
「あー、ホンマビビったわ、まさかこんなとこで会えるなんて……怖かったんや。誰も信用できる奴なんていてへん。
お前やったら、この気持ちわかってくれるやろ?」
田澤は今にも泣き出しそうな顔をしている。自分と同じ。それはわかった。貮方も1人きりで不安だったのだ。
貮方はそっと銃をさげた。そして茂みから体をだす。
「悪かったな、孝介………」
そう田澤に言うと田澤は穏やかに笑う。
「しゃあないやろ」
2人は歩み寄り、どちらとも泣く笑い出した。
それから2人は山の中に入り適当な場所に落ち着くといろいろな事を話した。
なんとか他のメンバー達を探し出して合流できないか、他のバンドマンで信用できそうな奴はいるか。
誰かと一緒にいられるという事は普段当たり前すぎてとても些細な事に思えるが、それは一番大事なことだと貮方は思った。
ふと田澤の目線が貮方の右手に落ち、それで貮方は自分が銃を握ったままである事にきがついた。
「はは、何やってんねんな、俺………」
田澤も笑い返した。
「ええ武器やんな。俺なんかこれやで」
そう言って手にしたものを見せた。それは使い物になるかどうかの錆び付いた短刀だった。
しばらくして貮方が食事でもとろうとバックを探った。目的のパンを見つけふと顔をあげた瞬間。貮方は我が目を疑った。
田澤が自分に向けて銃をすっと構えていたのだ。
656 :
Nana:02/04/25 22:36 ID:8NTC0AXo
「…………孝介――?」
何やってんねん、お前……と、ぼうっとしてる貮方から田澤のほうが後ろへ2、3歩さがった。
「早く消えろや………さっさとどっか行かんかい!!」
「………なんでや…………」
貮方は相変わらずぼうっとしながら訊いていた。
「誰も信じられるかい!!最後の一人が決まらなみんな死ぬんや!せやから絶対いつか裏切られるに決まってるわ!!
……お前だって、ホンマは俺のこと狙ろうてんのとちゃうか!!!!」
「………………」
貮方の中で何かがガラガラと崩れ落ちた。やっと心から安心できる仲間と再会できたと思ったのに。
また自分は1人になってしまうのだ。
貮方の目から絶望の涙がこぼれ落ちた。もう1人でいたくはない。恐怖に怯えてたった一人で戦うのはもうたくさんだ。
それならいっそ………
「ようわかった……せやったら、ここで殺せ。今すぐ、俺を撃て………」
田澤の顔色が変わる。
「はようせえよ………」
田澤の手が異常な程震えている。引き金に指がかかる。
貮方はぎゅうっと目をつぶった。
――――しかしいつまでたってもくるであろう衝撃がない。痛みもまったくない。
おそるおそる目をあけると、田澤が銃をおろそうとしていた。
目にいっぱいの涙を貯めて。
ああ――
ああ、わかってくれたのだろうか。ほんとに………?
「孝介………」
貮方が声をかけたのとほぼ同時だった。
かつっ!という小気味よい音が聞こえたのは。
そしてゆっくりと田澤が倒れた。それきり一度も動かなかった。
そしてその後ろ、ゆっくりと笑顔が見えた。YURA(Psycho le cemu・Dr) がそこにいた。
657 :
Nana:02/04/25 22:37 ID:8NTC0AXo
貮方には何が何だかわからなかった。ただその整った顔に浮かべられた笑みに心の底からぞっとした。
「大丈夫?」
YURAが貮方に向かって手をさしだした。
貮方はふらふらとした思考回路のまま、見てしまった。倒れた田澤の後頭部にひどく鋭利なカマが深々と埋まっているのを。
YURAはそのまま田澤の手から銃を抜き取ると、にやっと笑った。
貮方は田澤の抜け殻を見下ろしてただがくがくと震えていた。
YURAはそのまま頭に刺さっているカマに手をのばすとそれを抜き取ろうと両手で柄をにぎった。
「うわああああああああああ!」
声をあげ貮方はYURAを突き飛ばしていた。YURAが草の間にどん、と尻餅をつく。
「なんでや……なんで殺したんや!なんで…なんで殺さなあかんかったんや!!!」
「殺されかけてたのに♪助けてあげたんだよ♪」
YURAは口調とは裏腹に、不満そうに唇を歪めた。
658 :
Nana:02/04/25 22:38 ID:8NTC0AXo
「嘘や!もう殺す気なんてなかったんや!孝介はわかってくれた!なのに…なのに、なんで殺したんや!!酷いやないか!お前は悪魔や!!!!」
YURAは首を振って肩をすくめるとすっと銃口を貮方に向けた。
貮方の目が開かれる。
乾いたパンッという音がして貮方の額に穴があいた。
YURAはまだ銃口から煙をたてているコルトガバメントを下ろすともう一度肩をすくめた。
――しばらくは弾除けぐらいにはなると思ったのに。
そして、言った。
「そう、確かにわかってくれたんだろうね♪」
上半身を屈め、貮方の耳元に口を近づけた。
「あんたを殺すのをやめそうだったから、僕が殺したんだよ♪」
659 :
Nana:02/04/25 22:39 ID:8NTC0AXo
TAKEO(PIERROT・Dr) は手にした小さな機械の液晶スクリーンの端にぽっと星型のマークが現れるのを見て目をみはった。
この東岸の集落が禁止エリアになる時間が近づいていて急いで、でも慎重に家々の間を移動している間ずっと注視していたそれに
ようやく変化が現れたのだ。
彼が支給されたその機械はサラリーマンが使う携帯情報端末みたいなものだった。説明書をひねくりまわしてそれが動き出して以来
これが初めての反応だ。
この機械が果たして武器かというとそうは言えないが、しかし現在の状況では銃よりもずっと有効なものだろう。
もっとも自分が今、それを正しく使っているとはとうてい思えないけれど。
とにかく――TAKEOはそこらで拾った棒をもう一度固く握り締めた。
この機械によれば目的のものは間違いなくこの中だ。
TAKEOが大きく右へ回りこむと窓があった。割れている。誰かがここに入ったのだ。
そして機械が説明書通りのものならば、その誰かは間違いなくここにいる。
ただ、ここが禁止エリアになる時間は近づいている。
生きている人間ならもうエリアの外にでているだろう。中にいるのは死体である公算がおおきいのだけれど
――確かめない訳にいかなかった。
660 :
Nana:02/04/25 22:40 ID:8NTC0AXo
TAKEOはゆっくりとその家の中に足を踏み入れた。音を立てないよう足を忍ばせて。
キッチンを覗きこむ。テーブルのむこうだった。白いスニーカーが見えた。
うつ伏せに倒れた人間がいる。その顔の下辺りを中心に池を作ってる血。死んでいるのは間違いなかった。
足だけでは誰かはわからない。彼が探している人物はこんな靴をはいていただろうか・・・。
TAKEOはそっと死体の側によると震える手をその肩にのばした。
ぐっと奥歯をかみ締め体を裏返す。それは喉をすっぱりと切られたTAKASHI(Plastic tree・Dr) だった。
――違った・・・
TAKEOはその死体の酷さに圧されたものの、ほっと安堵の息をついた。
しかし安堵したことを申し訳なく思ってTAKASHIをそっと引き起こすと少し離れた所に仰向けに横たえた。
そしてそっと目を伏せさせると、棒とデイパックを取って踵をかえした。
急いで家をでなければならない。
午前11時が近づいていた。
661 :
Nana:02/04/26 03:54 ID:BCr8Tj8A
651で泣いてしまった@ピエラー
はうぁ〜・・・(*T∀T)イイ!!
663 :
nana:02/04/26 13:19 ID:zkBczJrA
サードマンHISASHI! TAKUROのキャスティングも(・∀・)イイ!!
664 :
Nana:02/04/26 22:49 ID:eu0Tfz7k
続きがむばってください♥
665 :
Nana:02/04/26 23:06 ID:i9tE0/hk
「RYUICHI、電話みたいだけど」INORANが受話器を河村に差し出した。
「ああ、ありがとう」
満面の笑みで受話器を受け取った河村は軽やかにしゃべりはじめた。
「………はい。…ええ、順調です。コマも補充していただいたようですから、これからもっと面白くなると思いますよ」
しばらく他愛もない世間話に花を咲かせた後、話題は自然とゲームへと移っていった。
「なるほど、アナタはSUGIちゃんを買われたんですか?ほぅほぅ 僕はキリトを買いました。
本命1点ですよ。やっぱり今一番あの事務所で動員が多いバンドのリーダーですからね、ふふふ。」
河村のナルシズムに彩られた淀んだ笑いが狭い控室中にこだまする。
受話器を置いた後も、信者を魅了してやまない極上のスマイルをうかべたまま河村はパソコンのモニターに目をむけた。
画面にはバンドマンの生存を示す小さな点が、淡い光を放っていた。
666 :
Nana:02/04/26 23:10 ID:i9tE0/hk
LEVIN(La'cryma Christi・Dr) は、かすかな、がさっという音で身を起こした。
あらためて拳銃を握りなおし、あたりを窺う。
今度こそ――敵かもしれない。そう、敵なのだ。
同じ業界のバンドマン達が自分に襲いかかってくる。
出発してすぐに見たSeekや現王園の死体が、生々しく頭に蘇った。
そしてあの時、自分が外に出た時、かすかな呼び声が聞こえた。あれは誰だったのだろう。
同じバンドのメンバーだったのだろうか?暗がりの中に何人かの影がうかがえた。
「LEVINさん、一緒に行きましょう。大丈夫ですよ」
けれどそれは、とても無理な相談だった。こんな状況では、誰かが信じられるわけがない。
ヴィジュアル系は中身がないだの、風紀を乱すだのと世間一般から叩かれまくった時代から共に曲が売れる喜びを
分かち合ってきた仲間でもだ。LEVINは制止を振り切って別の方向に逃げ、今、ここにいる。そして今度こそ敵なのか?今の音は?
拳銃を両手に握り締めたまましばらく待ったが、音は続かなかった。
LEVINはほっと息をつくと、茂みの中に倒れるように腰を落とした。
667 :
Nana:02/04/26 23:12 ID:i9tE0/hk
いびつに尖った葉が頬のあたりのかすめ、慌てて葉の触れたところを何度も手のひらでこすった。
チビとかTMレヴォリューションに似てるとか言われるけど、顔はバンドマンのの命だろ!!
アップにたえられないくらい腫れるなんて、死んでもごめんだ。
そこまで考えて、ぞくっと冷たいものがLEVINの背筋を走った。
死ぬんか?俺は?死ぬんか?
そう意識しただけで、心臓がどきどき高鳴った。
死ぬんか?死ぬんか?死ぬんか?
その言葉が耳鳴りのように、頭の奥に何度も繰返し聞こえ始めた。
LEVINは半ば必死で、硬く握りしめたままのスティックを更に硬く握りしめた。
それからいつものように指を器用に使って、くるくると何度も回す。スティックは軽やかにLEVINの手の中で廻っている。
投球の邪魔になるくらい大きなロケットをぱちんと開くと木村自慢の美人妻がにっこりと微笑んでいた。
それをじっと見ているうちに、心拍数も幾分落ち着き徐々に元のペースに戻っていった。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
俺は誘われた時に一緒にいくべきだったんか?そしたら、助かる方法もあったんやろか?そんなわけあらへんな。
デビューした当初は楽しかった。広いホールでのライブ。PV撮影兼休暇先でのバカンス。ツアー先での名産品。ラーメン美味かったな。HIROの髪の毛を奴が寝てる間に数本抜いた。あいつ明らかに人気取りのためにイメチェンでもしたんか。 箱ツアーも楽しかった。
「俺を助けてくれ。頼む―。俺は、気が狂いそうや」
自分が声に出してそう言うのが耳に聞こえた途端、LEVINは本当に自分が狂いそうになっているような気がして、ぞっとした。
いつのまにか涙がこぼれ落ちていた。
668 :
Nana:02/04/26 23:17 ID:i9tE0/hk
背後でざっという音がして、涙目のまま振り返った。
茂みの間から誰かが覗き込んでいる。知らない間に、後ろに回られていたのだ!
それはバンドマンの中では同じパートということで意気投合しているTAKEO(PIERROT・Dr)だったが恐怖に駆られて、何も
考えないまま銃の引き金を引いた。
ぱんという音が鳴り響く前に、TAKEOの影は茂みの中へ消えていた。
LEVINは恐怖と仲の良いTAKEOを撃ってしまったという自責の念からしばらくがたがた震えていたが、慌てて荷物を取り上げると
TAKEOが去った方とは反対側へ走り出した。
走りながら混乱した頭で考えた。
TAKEOは自分を殺そうとしていたのだ。間違いない。そうでなかったら、どうして声もかけずに忍び寄る必要があるのか。
油断しちゃだめだ。容赦なく撃たなければ、自分がやられる!
ああ、こんなことはもうごめんや。うちに帰りたい。
ドラム。ユニバーサルスタジオ行きたい。赤い夕日。容赦なく。撃つ。撃つ!ラーメン〜。北海道の食べ物は嫌いな物が多い。
撃つ。青い海。容赦なく。殺される!LEVIN。撃つ。容赦なく。
LEVINは狂いかけていた。
669 :
Nana:02/04/26 23:19 ID:i9tE0/hk
このゲームの優勝候補最右翼はキリト。
だから僕は最期までキリトを追っていって、最後の最後にキリトを後ろから撃てばいいんじゃない? あったまいい〜♪
そう考えたIZAM(SHAZNA・Vo)はキリトが竜太朗に耳打ちしたのをこっそり盗み聞きして
竜太朗よりも先に南の端に辿り着き、それからずっとキリトをこっそりと尾行していた。
彼は既にSWEET HEART事務所から放逐された身でありつつ、不幸にも事務所からの招待状にのこのこ乗ってしまったのであった。
彼が目の前で誰かを殺しても、僕には止められないじゃない。危ないね、そんなの。可愛くないし。
いつかのスイトラで暴れてるのも止められなかったしね。
今も、すぐ下の茂みの中にいるキリトを見張りながら、鏡を覗き込みうっとりと煙草をふかす。
…ああ、僕ってなんて可愛いんだろう。
めっちゃイケてるがな。ひなのなんて所詮ガキだガキ。でも子供もいいんだよね、なんて言っても僕、可愛い物大好きだからさ。
ロリコンとか言わないでよね、やっぱり可愛い物はみんな好きでしょ。
移動をはじめたキリトを追ってIZAMも動き出した。 あと10分くらいでこの辺一帯は禁止エリアに指定される。
休憩所のトイレに入っていくキリトを見て口に手を当て笑いを噛み殺すIZAM。
立ちション写真をネットに晒される心配もないだろうに、うふふ。
き・り・と・く・ん・は・あ・と
でも長いな〜〜、立ち入り禁止エリアになっちゃうじゃん?
キリトは未だに出てこない。
…………んも〜〜〜〜〜〜〜!!!
我慢できず覗いたトイレはなんと無人、見回すとはるか遠くにキリトの後姿が木々の間に見え隠れ。
え、え、だって、それって一体?
鳴り響く爆発音に振り返ることなく、キリトは時計に目を落とした。午後5時ジャストから、秒針が7秒を超えていくところだった。
670 :
Nana:02/04/26 23:25 ID:i9tE0/hk
「なあKOHTA」
SUGIZOが唐突に口を開いた
「なんですか」
「おまえ、ここから脱出するのに何か計画はあるのか」
……………そう聞かれると自分は特に脱出する方法は考えていなかった。
「俺はひとつのプランを持っている」
「え?」
「ここから脱出する方法はある。ただしそれには条件がある」
「――どんな?」
「俺達が最後まで生き残っているということだ、つまり他のやつらがすべて死んだら、というわけだ」
「それはつまり」
Jが声を発した。
「他の奴らは助からないってことか」
「もちろん仲間が増えればそいつも助かる。ただこの状況じゃそれは難しいだろうな」
「じゃ、じゃあその方法をみんなに伝えたらいいじゃないですか、確実に助かるのならみんな集まってくれますよ」
KOHTAが勢い込んで言ったが、SUGIZOは首を振ってそれを否定した
「それは無理だ、このゲームじゃ隠れていたほうが生き残る確率が高い。だがこの首輪がついている限りだれかを殺さないと
生き残れない、だから現に人が死んでるだろう。少なくともやる気になっている奴がいることだけは確かだ………それと、
この脱出法はここから生き残れるというだけで、その後まで確実に生き残れるというわけじゃない、事務所の追っ手もかかるだろうしな」
671 :
Nana:02/04/26 23:32 ID:i9tE0/hk
「………………」
「その脱出法だが、俺はおまえ達よりこのゲームに詳しい、俺はこのゲームの弱点を知っているんだ、
そこをつけばこのゲームから脱出できる。」・・・・ただし今、おまえ達にそれを話すわけにいかない」
「なんで!俺達が信用できないんですか?」
「おまえ達が信用できないわけじゃない、ただおまえ達の口からこの話が漏れる可能性もある。」
「じゃ、じゃあいつになったら話してくれるんですか」
「俺達の仲間だけが残った時だ、この方法は誰かに邪魔されたらうまくいかないんだ」
「……おい」
SUGIZOの言葉を、少し掠れ気味の声が遮る。
「お前は何でその、弱点を知ってるんだ?」
Jが怪訝そうに問い掛ける。
「知りたいか?」
……………………
SUGIZOがしばらく間を置いて答えた。
「俺は第五回SWEET TRANCEプログラムの生き残りだからだ」
672 :
Nana:02/04/26 23:32 ID:i9tE0/hk
「………おどろいたか」
「そ、そんな………」
「あの事務所は売れないバンドを斬る名目で数年に一度、メジャーやインディーズ関係なしにこのゲームをやるんだ。俺も殺したよ、そのころの事務所の仲間をな」
「ひ、ひどすぎる。SWEET HEARTがここまでひどいことを………」
「そういうなよKOHTA、おかげでおまえ達を助けてやれる」
「SUGIZOさん・・・」
KOHTAは最初、SUGIZOの話が嘘なのではないかと少し疑っていた、が、今になるとそんなことを考えていた自分が恥ずかしくなった。
「そろそろ寝よう、二人見張りをつけて交代で眠ろう。まずはJから寝とけ、かなり失血してるし、顔色が悪いぞ。休んだほうがいい」
673 :
Nana:02/04/26 23:33 ID:i9tE0/hk
アイジ(PIERROT・上G)は、木の幹の陰からそっと頭を出した。
周囲は高木、低木が入り交じった雑木林だったが、山の頂上に向けて、徐々に木の背は低くなっているようだった。
アイジは支給の武器のアイスピックを持ち直すと、低い姿勢から一度、後方を振り返った。
結局、参加させられてしまった。河村の気が変わったのだ。
名前を呼ばれたバンドマン達が次々と部屋を去って行く中、唐突にアイジの名が呼ばれた。
「次は、――うーん、アイジ行こうか。アイジね、うん。やっぱりアイジが出ないと楽しくないでしょ、ね。どうかな?ふふふ」
反射的にライフルの銃口をあげ、笑顔の河村にむけて構えたがあっという間に取り押さえられ、床に叩きつけられた。
捕われた宇宙人のように両側から腕をつかまれて、部屋の外に引きずり出されたのだ。
「忘れ物だ」足元にデイパックが投げつけられた。
674 :
Nana:02/04/26 23:35 ID:i9tE0/hk
ゲーム開始以来、アイジはずっと廃屋の隅に身をひそめていたが意を決してそこを出た。
結局、隠れていても事態は好転しないと判断したのだ。
あの似非ナルシスト死ね―と呪ってみてもどうなるものでもない。
命より大切な携帯は、勿論ここでは通用しないし、下手に使ってピンチを招くのもごめんだった。なんせ自分は話し出したら止まらない。
長電話大好き人間である。話に夢中になって背後を取られる危険が大きい。
誰か、少なくとも自分の信用できる仲間を探し出して、一緒に行動することが必要だった。
しかし自分が信用できそうな仲間が、1度裏切った自分を信用してくれるとは思えない。
それでなくとも、アイジはバンド内では浮いていた。その一番後から入ってきたとは思えぬデカい態度や、自己主張の域を越えたワガママ、
ライブ中の派手すぎてファンからさえも引かれてしまうような変なアクションは、バンドの仲間内からも嫌がられていたのだ。
とは言え、アイジは不動のPIERROT上手ギタリストであったし、どれだけここぞと言う時に音を大外ししようとも、
直接お小言をくらうこともなかった。
675 :
Nana:02/04/26 23:36 ID:i9tE0/hk
アイジ撲滅委員会とやらからの心ない中傷も無視したし、アンチピエラーからの批判で気にしたのはファッションセンスを酷評されたことくらいだった。
要するに、アイジはとてもプライドが高かったし、なんの自信も持たず努力もしないで他人を貶すことにだけ
長けている連中の言うことにしばられるのはごめんだと思っていた。
そのプライドの高い性格がわざわいしているのか、それとも、本当は人見知りするたちなのか、PIERROTで一番社交的であると言われている
アイジには同じ業界内で知り合いこそ多けれど、心から信頼できる友達がいなかった。
同じバンドの仲間同志は、いっそ仲が良いか悪いか両極端だったりするのものだが、潤とはライブやラジオで毒舌合戦を繰り広げて
笑い合える程度の仲だし、一度腹を割って話したことのあるキリトは、こういう状況になるとまず大切な弟を最優先して
裏切り者である自分を敵視するだろう。
結局、同じ頃にPIERROTに入ったTAKEOだけってことか…
そう考えながら、アイジは低木の根元に腰をおろした。
676 :
Nana:02/04/27 00:57 ID:.SbFdVOI
何か・・・やな感じ。ごめんね、物語にしたいのはわかるけど
事実と物語をごっちゃにして本当っぽく書かれると嫌だな・・・
ちょっと、読んでて不快に感じました。
なら読むなって思うかもしれないけど。撲滅とかの話題は出してほしくなかったかも。
677 :
Nana:02/04/27 01:26 ID:gLp37Zro
>676
難しいよね、そういう事って…。
私は全て物語としてとらえてるから、撲滅の話とか見ても何とも思わなかったけど…(ピエラーじゃないってのもあるかもι)
でもあからさまに事実と分かる事を混ぜるのもファンの人とか辛い時あるだろうし。
私はこの話が好きだから、書き手さんには頑張ってほしいんだけど…
何か意味不明の上長文でスマソ。煽りじゃないっス。
678 :
意見:02/04/27 01:29 ID:xbpVFvl6
根拠のない事柄を現実のように書かないでほしい。
かなり書き手の偏った主観が入っちゃってると思う。
アンチだったらしょうがないけど、1人だけ露骨に不快な表現されてて笑えない。
ただの同人話になってきちゃってるのも残念。
679 :
Nana:02/04/27 02:45 ID:n3S3uz/A
物語は物語として読んでいます。
もともとフィクションだし。
今までと違った感じで、新鮮。
このまま続けてください。面白いよ。
でも好きなバソドあっさりやられちゃった、残念。
ピエロ以外は、作者がキャラ把握してないバソドは
即効で死んじゃうんだろうな。
>>679 とりあえず同意。
IZAM…あれは氏んだのか?(;´д`)
681 :
Nana:02/04/27 11:30 ID:o4fGVljA
主役っぽいのがKOHTAって時点で萎えage(ゲラ
682 :
Nana:02/04/27 11:47 ID:I0EAY.7s
アイジはそういうキャラだと思ってフトゥに見てたんだが。
これってオリジナル?
作者さん、これ考えるだけでも大変だと思うので、
バンド偏っててもいいんで頑張って下さい。
好きな盤麺が出てくるだけで満足ですワ
俺は好きだなぁ、こう言うの。
こういう風に書かれたらあっさりフィクションだと受け止められる単純な俺の頭に乾杯。
684 :
Nana:02/04/27 12:18 ID:z3vSR7m2
>681
ゴメソ、主役っぽいのがKOHTAな時点で萌えてる私(ニガ
彼いつも良い所無しだから(ニガワラ
685 :
Nana:02/04/27 14:35 ID:Gl9ZrUX2
あたしもアイジってあーゆうキャラだと思って凄い面白い人
なんだと思い込んでしまったよ(藁)
作者さん頑張ってください!!
686 :
Nana:02/04/27 23:17 ID:fYMlijS2
続きなんて要らんかったのに、まだ続けてるの?
いい加減妄想同人ちゃんは同人板に逝ってください。
687 :
Nana:02/04/27 23:25 ID:QTECEccw
>686 そんな言い方する必要はないんじゃ…。
688 :
Nana:02/04/27 23:32 ID:I0EAY.7s
689 :
Nana:02/04/27 23:46 ID:DyqEXqKU
>>686 文章読解力のないアフォだ(ワラ
これはどう読んでも前の続きじゃないだろ
690 :
Nana:02/04/27 23:57 ID:CSzZl1RM
よしのり出て来て〜
691 :
Nana:02/04/28 00:38 ID:x2AZUhYg
死人麺キボン…
692 :
Nana:02/04/28 01:14 ID:BVpM.5zY
死人麺強そう
ゼントクがどう料理されるかも楽しみ
693 :
Nana:02/04/28 01:24 ID:28t7Rjfk
死人麺出すならBlastも・・・
誰も分からないだろうが(ニガ
694 :
Nana:02/04/28 06:23 ID:NQcf4ggs
今ザッと読みました。面白かった!
695 :
Nana:02/04/28 11:15 ID:6pBkoiq2
>689
あんたが読解力ないんじゃない?
前の続きじゃないならいい加減他の板でやれよって言ってんだよボケ
696 :
Nana:02/04/28 11:18 ID:N26B4E0A
いちいち煽る必要あんのか
697 :
Nana:02/04/28 11:28 ID:d5cPo8RY
煽りは気にせず、続きがんばってほしい…。
今回の話のほうが、個人的には好きだよー。
698 :
Nana:02/04/28 11:32 ID:x2AZUhYg
>695
無視した方がいいんだろうけど…
楽しみにしてる人もいるんだし、嫌なら脳内あぼーんして下さい。
作者さんも今の状況じゃ続けづらいだろうけどさ…
699 :
Nana:02/04/28 13:15 ID:ZTVrIYrY
作者さん頑張って続けて!
700 :
Nana:02/04/28 13:21 ID:dmH20Csc
マタ-リしましょうや。
いいじゃん、読みたい人は読めばいい。
読みたくない人はココをみなけりゃいい。
基本的な事です。
作者さん、頑張って下さい。
私も楽しみにしてる一人です。
701 :
Nana:02/04/28 14:05 ID:6pBkoiq2
駄スレあげ
702 :
Nana:02/04/28 14:32 ID:xan37BJ.
フトゥーにオモシロイヨ!
⊂⌒~⊃。Д。)⊃~ゴローン…
マターリシヨウヨ。
703 :
Nana:02/04/28 14:49 ID:kr8nDgII
「読みたくなけりゃ読むな」って言うと冷たく聞こえるかもしれないけど
読むことで不快に感じるんだったら本当に読まなければいいだけの話で
続きを楽しみにしてる人がいるってことも事実だし
作者さんには何とか頑張って続けて欲しい。
不快に感じる人は脳内 あぼーんでマターリ流そうYO!
704 :
Nana:02/04/28 16:17 ID:dmH20Csc
>703
禿同!
705 :
生姜:02/04/28 23:01 ID:BM3BNo72
銃声が響いた。一つ、続いて二つ、三つ。
「銃撃戦だな」SUGIZOがぼそっと言った。「元気な連中だ」
思わず唇を噛み締めるKOHTAの心を見透かしたようにSUGIZOが言った。
「止めに行こうなんて思ってないだろうな、KOHTA」
KOHTAはごくっと唾を飲み込み、「いや……」とだけ答えた。そうだった。今は熱を出したJを診療所へ運ぶのが最優先だ。
Jはやはり大量の失血と傷をロクに処置せず放って置いたせいであれからすぐに高熱を発したのだった。
「まずいな…今の内に移動しよう」
SUGIZOの冷静なその一言に、KOHTAは勿論すぐに賛成した。
だが、重傷人を背負っての移動は容易ではない。ましてや今ここは最悪最低なゲームの中だ。
まずは、Jを一刻も早く診療所へ運ぶことが大切――そうは、わかっていたのだけれど。ああ、でも。
誰か、このゲームに乗る気のない誰かが今にも殺されようとしていたら?可能性としては、撃ち合うどちらもがそうであるかもしれない。
「俺、見てきます」松井は背負ったJに言い物音を立てないように木の根本に下ろすと、銃を手にしてからSUGIZOに「Jさんを頼みます」と言った。
「あっ、おいこら――」
SUGIZOが言うのが聞こえたが、もうKOHTAは走り出していた。
706 :
生姜:02/04/28 23:02 ID:BM3BNo72
身を潜めつつもある程度距離を詰めると、撃ち合う二人が誰なのかKOHTAの目にも確認できた。LEVIN(La'cryma Christi・Dr) と、
AYA(Psycho le cemu・上G) だ。
KOHTAは空へ向けて一発撃ち、間髪入れず叫んだ。
「やめろ!」
LEVINとAYAがぎくっと動きを止め、同じタイミングでKOHTAの方を向いた。
「よせ! やめろ! 俺はJさんやSUGIZOさんと一緒にいるんだ! 俺を信用しろ!」
二人の顔を見ながらKOHTAは続けた。陳腐なセリフだと思いつつも、ほかに言い方も見つからない。
LEVINはふらりと物陰から立った、そしてAYAはKOHTAから視線を外し、相対していたLEVINの方を見――そのがらあきの上半身へ向け、
引き金を絞った。
「ぐあっ!!」衝撃でLEVINが吹っ飛んだ。
それからAYAはちらっとKOHTAの方を見やり――身を翻して茂みの中へ消えていった。
「――くそ!」
KOHTAは喉の奥から呻き、迷ったあと、物陰を出てLEVINに駆け寄った。
上半身を広がる朱に浸して、LEVINは倒れていた。デザインの凝ったカットソーは赤黒く染まり、
同じように血にまみれた左手にはスティックが握られていた――力無く。
ああ――なんてこった――LEVINさんはもう――あの心地よい安定したリズムを刻むことも、
スティックを華麗にくるくると廻してみせることもできないのだ。
しかも――自分がもう少し上手いやり方をしていたら、 このバンドマンは死なずに済んだんじゃないのか?
KOHTAは、あとから追いついてきたSUGIZOに腕を引っ張られるまで動くことができなかった。
707 :
生姜:02/04/28 23:03 ID:BM3BNo72
突然、ドサッという音がした。すぐ近くだ。
アイジは思い切り大げさにビビって、アイスピックをあたふたと握り直し、音のした方向に身構えた。
木の枝に引っ掛けていたはずのデイパックが、そこには転がっていた。
それだけだった。荷物が落ちただけだったのだ。
「ちっ、ふざけんなよ!!」
たかがそんな事に動揺してカッコ悪く取り乱した自分に、激しい怒りを感じ、アイジはデイパックを蹴りつけた。
俺は、俺は、死ぬのが怖いわけじゃない。ただ―――そうだ、ただ、こんな糞みたいなゲームが嫌なだけなんだ。
アイスピックを両手で握り締めながら、自分に言い聞かす。
ふと、ESPに発注したまま、出来上がりを楽しみにしていた新しいギターの事が、頭に浮かぶ。
子供の頃の思い出までも、アレコレと脳裏をよぎる。
人は、一人で生まれてきて、一人で死んでゆくものだよな…
そこまで考えて、そんなセンチメンタルを振り払うかのようにアイジは、ぶんぶんと頭を振った。
とにかく、今は誰かを探すことだった。TAKEOを探し当てることができたら、もちろん言うこと無しだが、
それはいくらなんでも、甘い考えのように思える。
今、現在も、TAKEOが生きているとはかぎらないのだ。
銃声に驚き慌てて逃げる→足がもつれて何もない所で転ぶ→ 転がってるうちに崖から落ちる→落ちた所は禁止エリア!
→ 首輪が爆発→首ふっとぶ→終了 ―してるかもしれない。
708 :
生姜:02/04/28 23:04 ID:BM3BNo72
PIERROTに入ってから今までの付き合いの中で、アイジは、TAKEOが実は結構頭が悪いヤツであることを確信していた。
ラジオやなんかでいろいろ自分の持論を騙っていることがあるが、自分が馬鹿なのかそれともTAKEOの言い方が回りくどいのか、
アイジにはTAKEOの語ろうとする要旨がいまいち理解できない事があった。それだけではない、以前初めてのアルバムを出したときに
みんなで書いた直筆サイン色紙にTAKEOは堂々と「起いいっす」と書いて――本当は「超いいっす」って書きたかったのだろうけど
――ファンの子から失笑を買っていたりもした。
だが、人間頭の善し悪しなんて結局どうでもいいのだ。
個性と個性、奇人と奇人が、変人と変人がぶつかり合うPIERROTの中で、TAKEOは多分まともだった。ごく普通の近所の父ちゃんタイプだ。
もしバンドがカキ氷、例えばミルク金時だとすると、TAKEOは金時でなく、白玉でもなく、ミルクでもなかった。むろん、
美しくカッティングされたフルーツでもない。その下に高く盛られた白い氷だった。
バンド内でも、ニュートラルな位置でバランスをとることが多い。それ故に、気性の激しいアイジでも、気楽に付き合えたのだ。
――でも、自称ギャンブラーという割には賭け事弱いんだよな。TAKEOらしいけど。
アイスピックをくるくる回しながら、アイジは考えていた。
709 :
生姜:02/04/28 23:05 ID:BM3BNo72
子供の頃からずっと、周りの人間と衝突を繰り返してきた。自分が納得できない事に従うのは、どうしても我慢できなかった。
それが、親兄弟でもだ。去る者は去ればいい。面倒なだけだ。でも寂しいのは嫌だから放って置かれるのは耐えられない。
そんなどうしようもないアイジを、煙たがり去っていった友達も多かったが、アーティストの心の繊細さを思いやれない馬鹿の相手は
こっちがごめんだと、それを意に介す様子もなかった。
俺がTAKEOだったら、俺の相手なんかしないけどな。アイジは苦笑した。
誰に対してもだが怒っている時はほっといてくれるし、細かい詮索もしない。遊ぶときは誰よりも真剣だしやや小うるさい仕切屋だが、
あのスポーツマンらしい熱血ぶりは、アイジにとってはまあまあ心地よかった。最近微かにおデコが広くなってきているが
(あれ、これってやっぱり禁忌?)あからさまに腐るわけでもなく、逆に自虐ギャグの持ちネタが増えていく、
そんなTAKEOの屈託のなさが、アイジには、じれったくも、少しうらやましくもあった。
やっぱり、TAKEOを探すか―。そう決心して、重い腰をあげた。
自分が蹴り飛ばし、2メートル程先まで転がした荷物を取りに、アイジは足早に歩き出した。すらりとした、白い造形物のようなモノが見える。
それは、このゲームの看板からすれば出遭うはずのない、TAIZO(元FEEL・G) の顔だった。
710 :
生姜:02/04/28 23:08 ID:BM3BNo72
潤はふいに震えだした
俺はみんなを裏切ってしまった…そう考えても無駄だと分かりつつ頭を抱えた
俺が悪いわけじゃないんだ。
キリトに出会わなければ一介の田舎の中卒で終わったであろう自分、一個下のアイジ(そう、田舎では上下関係はやっぱり大切だよな、
俺はそんなの嫌だったから学校辞めたけど(w)に初対面でタメ口きかれてムカついたりもしたが、そんな態度のデカいアイジでさえ
上手く扱えないギターシンセを使いこなせるようになった自分が有頂天になるのは無理もなかった。
ギターを始めた頃の純粋な気持ちなどとっくに消え失せていたのだって気がついていた。だが自分が悪いわけではない。
俺が悪いんじゃない…
いつもこうして逃げていた。○ーランドの人に「これだけこの機材を使いこなして頂けているのは、あなただけですよ」
とまで言わしめられた事に調子付いてFINALEの自己流のアレンジに失敗したのも俺のセンスを生かせない無能なプロデューサーに頼れないからだったと、
「ATENA」はこのアルバム中唯一の駄曲とまでファンに言われてしまったのだって潤作曲でなければあんなに騒がれる事だってなかったのにと、
常に自分は悪くない、そう責任転換する事が今までインドアに徹しアニメの世界に没頭し、
理解してくれる同居人は物言わぬ沢山ののペット達だけだった者の精一杯の自己防衛なのだとも気がついていた。
711 :
生姜:02/04/28 23:08 ID:BM3BNo72
「…これは夢なのかなぁ…」
ふいに潤は声を漏らす。…自分は本当はこんな場所には居ないはずではなのかと。本当の自分はあのままバーテンダーをしながら
そのうちどこかの小さな会社に就職でも果たし、平凡な結婚生活などを送りつつ昔のアニメを懐かしむ…そうなる筈だったのにと
この数年、考えもしなかった事を思うようになったのもやはり 裏切った自分に罪悪感でもあるのだろうか
「馬鹿馬鹿しい」
今まで散々苦い思いをしたのだ。ほんの少しのスランプで苦しむアイジや、業界や上の意向、雑誌の無能なライター達に苦しめられたとはいえ、
PIERROT内では常にカリスマ、絶対的リーダーであったキリトの苦悩などとは訳が違うのだ。そんな贅沢な苦悩と一緒なんかではなかった。
俺には作曲の才能無いのかなぁと諦めかけたあの時の苦悩はそんなものではない。
散々苦しんだ自分はほんの少しだけ栄光という名に酔いしれた程度で早速このような地獄のゲームに参加しなくてはならないのか、
裏切るのが当たり前だと唇を歪める。
「あいつらはもう十分だろ?」
すでに死んだ竜太朗だって、TAKAだって、おそらく何処かで生きているSUGIZOやキリト、アイジだってもう十分に栄光を味わった者ばかりだ。
712 :
生姜:02/04/28 23:09 ID:BM3BNo72
「まだだ…俺はまだ足りない…」
「PARADOX」やCOCOONのC/P2曲が好評だっただけではあまりに足りなすぎる…
「…俺が悪いんじゃない…」
アイシテルという言葉をタテマエでしか使わなくなった(だってそれさえ言えばファンは狂喜乱舞してくれるから)のと同じように、
俺は悪くない…不思議な呪文のように潤はそう繰り返す。
「…あいつらが馬鹿なだけなんだ。ちょっとでも俺のように苦い思いしてりゃこうして賢く立ち回る事ができたのになぁ。」
潤はせせら笑う。こうしてアーティスト共をあざ笑うことでまた自分は悪くないのだと正当化しながら。
潤の体の震えはすでに止まっていた。
713 :
生姜:02/04/28 23:10 ID:BM3BNo72
KOHTA達はあれから誰に会う事もなく無傷で診療所まで辿り着く事ができた。
診療所からは海が見えた。その穏やかな海面に船が浮かんでいる。
あれが見張りの船だろうか。だが3隻が並んでいた。東海林が言うには東西南北に1隻ずつとの事だったのに。もしかして何かあったのだろうか?
「SUGIZOさん…船が3隻います」
「ああ。一番小さいのが見張りの船だ。でかいのがゲームが終わった後に河村やらが乗って帰る船。間が優勝者が乗る船だ。
同じだな。形まで一緒だ。前回と………」
SUGIZOはそう呟くとちょっと待ってろ、と言い残し診療所の方へ向かった。
ショットガンを構え慎重に周囲を調べる。玄関のドアを石で割りしばらく待った。
何も反応がない事を確認すると、割れ目から手を突っ込み鍵を開け中へ入っていった。
5分たっぷり経ってから、SUGIZOが玄関からJを背負ったままのKOHTAに手招きをした。
中に入ると待合室のようなものがあり、その奥が診療室になっていた。
SUGIZOが「こっちだ」とJを促した。
中に入ると消毒液の匂いがした。
小さな診療所だったがそれなりに薬はそろっているようだ。
KOHTAは2つあるうちの片方のベッドにJをおろした。まだ苦しそうな呼吸が続いている。意識もかなり朦朧としている様だった。
側にあった毛布をかけてやるとKOHTAは手早くJの傷の手当をしているSUGIZOに訊いた。
714 :
生姜:02/04/28 23:10 ID:BM3BNo72
「薬はあるんですか?」
「ちょっと待て」
SUGIZOは言うと棚を引っ掻き回し、その中から紙箱をひとつとりだした。蓋をあけ説明書を読むと、
納得したのか中から小さなビンやらを取り出す。そのビンの中には白い粉のようなものが入っていた。
「粉薬ですか?」KOHTAが訊くと
「いや、注射薬だ」とSUGIZOは答えた。KOHTAはそれにちょっと、いやかなり驚いた。
「で、できるんですか?そんな事が?」
SUGIZOはデイパックの中から水ボトルをだし、それで丁寧に手を洗うと小さな注射器に針をセットしながら言った。
「心配するな。やった事はある………別に、ヤクやってたって訳じゃねえぞ」
変に余計な一言を付け加えながら用意をしおえるとSUGIZOはJの腕に注射針を突き刺した。薬液を押し込むとすぐに針を抜いた。
脱脂綿をあてがうとKOHTAに「押さえてろ」と言いSUGIZOは空の注射器を持って部屋の外へと向かった。
なんで自分と同じ職業の人間がこんな経験があるのだろう。
やった事があるというのは、前回のプログラムでの事なのだろうか――SUGIZOの後ろ姿を見つめながらKOHTAはぼんやりと思った。
715 :
生姜:02/04/28 23:11 ID:BM3BNo72
Jが寝息を立て始めた事を確認するとSUGIZOは部屋をでた。
待合室の奥がここにいた医者達の住居になっている様だった。その台所にSUGIZOはいた。
「何してるんですか?」
「食い物を探してる。米と味噌はあったけどほとんど何もないな。野菜は腐ってるし」
「でも米を炊くぐらいはできそうだ。裏に井戸も見つけたしな」
SUGIZOはコンロの上にデイパックから取り出した炭をおくとライターで火をつけ、その上に米の入った鍋をおいた。
「なんでも手際がいいですね。SUGIZOさんは」
KOHTAは言いながら別の場面を思い浮かべていた。
ついさっきのLEVINが死んだ場面。
――自分の代わりにSUGIZOが止めに入っていたら あんな酷い結末にはならなかったのだろう。
「LEVINのことを気にしてるのか?」
見透かした様にSUGIZOが言った。
「気にするな。お前は最善をつくしたよ。状況が悪かっただけだ」
SUGIZOの声は優しかったが、KOHTAは自分を責めずにはいられなかった。
「そんな事より、俺のほうこそ済まなかったな」
うつむいたままのKOHTAにSUGIZOが声をかける。
716 :
生姜:02/04/28 23:11 ID:BM3BNo72
「何が・・ですか?」
「Jの事だ。俺の判断が甘かった。もっと早くに処置するべきだったな」
「いえ………」KOHTAは首を振った。
「いいんです。俺1人じゃ何もできなかったから。」
そう。もしSUGIZOがいなければ自分はただ尊敬するJが衰弱していくのを手をこまねいて見てるだけしかできなかっただろう。KOHTAはSUGIZOの存在を本当にありがたいと思った。
同時にここへ向けて出発する際、実は危険だからと当初反対したSUGIZOを、あんたそれでもJさんの仲間か、などとKOHTAはなじってしまったのである。そんな自分がひどく恥ずかしく感じられた。
おそらくSUGIZOは昼間に移動することの危険性とJの症状を慎重に秤にかけて、ぎりぎりの決断をしようとしていたのに違いないのに。
「本当にすみませんでした………。1人で行動してくれなんて言って………」KOHTAは頭を下げた。
「いや、いいんだ。お前の判断は正しかったよ。だからもうその話はなしにしよう」
SUGIZOは笑いながら首を振った。
――KOHTAは今度は感謝の意を込めて、もう一度頭を下げた。
717 :
生姜:02/04/28 23:13 ID:BM3BNo72
AYA(Psycho le cemu・上G)は低い姿勢で、笹藪を掻き分け掻き分け進んでいた。
まもなくこのあたりは禁止エリアになる。離れなくてはならない。
今も右手に、LEVINを射殺した銃をしっかりと握っていた。
あのとき、仕掛けてきたのはLEVINのほうだった。警告や威嚇を挟まず、いきなり撃ってきた。狙い過たずだったのか、
或いは頭なり心臓なりを逸れたのかはわからないが、とにかく銃弾はAYAの左肩へ命中した。
それまでLEVINの存在さえ知覚していなかったAYAは、苦痛と衝撃から立ち直る余裕もなく、支給の武器を初めて抜いて応戦したのだ。
恐怖心に駆られたに過ぎなかったが、なにしろ実際に相手を殺すつもりで銃を手にしたという事実がAYAの中のなにかを
決定的に変えていった。それに、ギタリストにとって左肩の負傷は命取りだ。それもまた、AYAを逆上させるに充分な理由となっていた。
718 :
生姜:02/04/28 23:13 ID:BM3BNo72
――殺らなければ殺られる。
まったく同じだ、食うとか食われるとかこうした対バンイベントで他のバンドに抜きんでることと。
かかっているものが生命であるのまで。
バンド生命という比喩でなく、ナマの生命そのものであるというだけ。
ならば、やるまで。
それでもKOHTAがLEVINとの間に割って入ったときにはわずかに迷った。AYAは自称ピエラーだったから。
だがLEVINが――無防備な姿をさらした瞬間に、AYAの指は反射的に引き金を引いていた。
――殺らなければ殺られる!
LEVINの頭部が、スイカかなにかのように赤い飛沫をあげて爆ぜた。
弾丸は、LEVINをそうすると同時に、AYA自身の躊躇や迷いにも止めを刺したのだった。
719 :
生姜:02/04/28 23:15 ID:BM3BNo72
Jが目を覚ますともう辺りは薄暗くなっていた。
周りに人影は見えなかったが、奥の部屋から人の話し声がしていた。SUGIZOとKOHTAだろう。
まだ体は幾分だるさを感じていたが、もう熱は下がった様だった。
診療所の少し染みのついた白い天井を眺めながら、Jは今までのことを思い出していた。
思えば、LUNA SEAに入ってメジャーデビューしてからの自分は心の底から 楽しいとか幸せだとか感じた事があっただろうか。
誘いが来た時は、ただ単純に嬉しくてやる気満々でいた。
これだけの金があれば、自分のやりたい音楽が思い切りやれると、そう思いもした。
インディー時代を支えてきたファンから微かに非難があるのも覚悟の上だった。インディーとメジャーとではファンとの接し方が
全く変わってくるのだから当たり前だ。だけどそれはライブで返せばいい。
自分がひたすら音楽に打ち込めばそのうち分かってくれるんじゃないかとはじめはそんな風に思っていた。
それでも――ヴィジュアル系全盛期が終わり、売り上げが不調に陥ってからは、いい気味だと嘲う別のジャンルの業界関係者や
曲のクオリティなどかまわず、騒ぎ立てるだけのファン。一人だけソロデビューを果たし、
なんだか全然違う世界へ行ってしまったRYUICHIを巡ってなんとなく溝ができたメンバー。
周りにはそんなのしか残らなかった。
720 :
生姜:02/04/28 23:15 ID:BM3BNo72
いい思いをしなかった訳じゃない。華やかな舞台で客を煽り、派手なパフォーマンスに徹していれば大きな歓声を浴びる事ができる。
LUNA SEAのJとしてもてはやされる事だってあった。
しかし、自分が欲しかったのはそんなものだったのだろうか。
色んなものを切り捨ててまでメジャーデビューを果たした自分は、一体何を手にしたかったのだろう。
それはただ形だけの地位や栄誉でも、そしてこんなみじめに終幕なんて言い訳がましい言葉でバンドの終わりを締めくくる事でもなかった筈だ。
それなのに――
そんな事ばかり考えて毎日音楽を続けていた。
昔の様にただ無心に音楽を楽しむ事はもうできなかった。毎日が辛くて重苦しかった。
もう何もかもを投げ捨てて逃げてしまいたいと何度も思った。
だから急にこのゲームに放り込まれた時はこれが最大の罰なのだと思うと同時に良い機会ではないのかとも思った。
死んでしまえば全てを終わらせる事ができる。もう何も苦しむ事はなくなるのだ。
そして、そのJの気持ちに報いたかのように、どこからか急に飛んできた手榴弾に全身を強かに打ちのめされたとき、もう死ねる、と思った。
しかし死にきれず重傷の身体を引きずってあの山の中のくぼみに身を隠した。どうせ死ぬなら、誰にも邪魔されたくない。
721 :
生姜:02/04/28 23:16 ID:BM3BNo72
しかし、こめかみにあてた拳銃の引き金を引く事はできなかった。
死ぬ勇気なんて勇気ではない。そんな気弱に、安易に考えてしまっていた自分がどうしようもなくみじめで情けなかった。
そんな矢先の事だった、KOHTAとSUGIZOに会ったのは。
二人は何故だかこんな自分をすんなりと信用してくれた。しかも深手を負って熱をだした自分をこうして診療所まで運んでくれた。
こんな重傷人を背負って出歩く事は、どれだけ危険かなんて考えるまでもない。
第一、自分がどうかなった所で二人は痛くも痒くもないはずなのに。
朦朧とする意識の中でも、二人がどれだけ必死になって自分をここへ連れてきてくれたかはっきりと覚えている。
あの二人の姿にJは救われた気がした。と同時に、悪魔に魂を売り渡したRYUICHIへの怒りがまた沸々と沸いてきた。
もう自分から死のうとするのはよそう。
――もし命を捨てるなら、それはRYUICHIと差し違えるときだ。
薄暗い部屋の中でJはそう決意した。
722 :
生姜:02/04/28 23:16 ID:BM3BNo72
「隆一くん、少しは仕事してくれないかな」
パソコンを操る手を止め、Gackt(元Malice mizer・Vo) は河村に声をかけた。
本来は責任者である河村がまとめるべきレポートを、彼がやらされているのだ。
おまけに、いつもの気まぐれでアイジを参加者にしたせいでGacktと潤の仕事量は相当な物に増えていた。
「ん〜、やっとレポートが終わりましたか。ちょっと遅くないですか?」
あんたのせいだよ、と内心毒づきながら、Gacktはレポートを差し出した。
彼は、勿論SWEET HEARTには何も関係ない。とあるつてでこのプログラムのことを知り、興味本位で河村の手伝いを申し出てきた。
…というのは表向きで、実は彼には彼なりの思惑があったのだ。
しかしそれは、勿論まだGacktの胸の奥に秘められている。
723 :
生姜:02/04/28 23:17 ID:BM3BNo72
第6回SWEET TRANCEプログラム進行状況 3:19現在
死者
真矢(LUNA SEA・Dr)・・・・・・・・・ゲーム開始前に銃殺
Seek(Psycho le cemu・Ba)・・・・・・・・・現王園が弓で
現王園崇(FAIRY FORE・Vo)・・・・・・・・・TAIZOが弓で
竜太朗(Plastic tree・Vo) ・・・・・・・・・・キリトが射殺
TAKASHI(Plastic tree・Dr) ・・・・・・・YURAが斬殺(鎌)
AOI(SHAZNA・G) ・・・・・KOHTAが斬殺(鉈) ただし半分事故
TAKA(La'cryma Christi・Vo) ・・・SUGIZOが射殺
Daishi(Psycho le cemu・Vo) ・・・・・射殺。キリト?
Lida(Psycho le cemu・Vo) ・・・・・・・同上
IZAM(SHAZNA・Vo)・・・・・キリト追跡中禁止エリア進入により爆死
田澤孝介(Waive・Vo)・・・・・・・・・YURAが斬殺(鎌)
貮方孝司(Waive・下G) ・YURAが銃殺
LEVIN(La'cryma Christi・Dr) ・・・・・AYAが射殺
724 :
生姜:02/04/28 23:17 ID:BM3BNo72
「・・・・ってなとこですか、後、ブービートラップに引っかかって死にかけていたJは回復に向かっているようだけど」
Gacktは、モニタに映る文字列を読み上げながら妙な気分だった。
・・・・死にかけていた、か。正直、自分がこれほど冷静に他人の生死を冷静に見つめられるとは思わなかった。
勿論、あの決断をした時から、多くのアーティストの死は了承済みのことだった。親友でさえもその例外ではないと……
しかし… 可笑しいものだ、こんなに死んでるのに何も感じやしない。
いつものように河村のナルシストぶり(自分とやってることが対して変わらないからムカつくのだ)に内心毒づきながら、
淡々と手伝いをこなしている自分がいる。
もっとも、全てが終わった時は共に頑張ってきた仲間はほぼ全滅しているわけだが…
絶対、無駄に死なせはしないから。
そこまで考えて、Gacktはふと窓を見た。満月が、眩しいくらいに外を照らしている。
ああ、あの光の下でみんなは殺しあいをしているのだー
そう考えてみたが、やはり特別な感情は起きなかった。
ただ・・・・ 外の静寂が、何故だか妙に身に染みた。
725 :
生姜:02/04/28 23:18 ID:BM3BNo72
「じゃあ、僕はこれをあの方の所に持っていくから。君たちは勿論見張りとかよろしくね〜」
河村は実質、潤とGacktがまとめたレポートを携えると、執務室を出て行った。
潤とGacktの目が合ったが、どちらにも何かを言う気が起こらなかった。
そのまま視線を逸らし、見張りのための準備を始める。
潤の荷物はなかなかまとまらなかった。気が進まないな、そう思っているせいかもしれない。
潤がそうしているうちにGacktは執務室のドアを開いた。
「じゃ、先行ってるから」
「……はい」
執務室の分厚い木製のドアが閉じられる。
一人残された潤は、何とはなしに赤絨毯の敷き詰められた執務室を見まわす。
とは言っても、でかいパソコンの載った机が四台に、椅子が四脚と必要最小限の物しかない部屋だ。
もっとも、その一つは持ち主アイジがプログラムに参加させられ、無用のものとなってはいたが。
河村の机の上に河村自身の手でプリントアウトされたレポートの予備がある。
潤は何とはなしにそのレポートをめくってみた。
726 :
生姜:02/04/28 23:18 ID:BM3BNo72
プログラム参加者一覧。
キリト、生存
YURA、生存
SUGIZO、生存
J、HISASHI、アイジ……。
なんだ、これは。
Gackt、生存
潤、生存
なぜ、俺らの名前があるんだ。
見間違いではなかった。いくら目を凝らしてもはっきりとそう印字されている。
俺がまとめた時にはこんなこと書かなかったぞ……。
ということは、河村が追記したのか……?
バンッ!
「Gacktさんッ!」
慌てて分厚いドアを開けて叫んだが、Gacktの姿はもう見えなかった。
727 :
生姜:02/04/28 23:19 ID:BM3BNo72
「誰に賭けました…?」
「はっ?」
ふいの言葉に驚いた顔で星子誠一(Zy編集長)は傍らのYOSHIKI(元X・Dr)を見る。
「誰に賭けたかって聞いてるんです!」
明らかに苛立った声でYOSHIKIは問い返す。
はっと我に返り、自分でもやりすぎかとも思える精一杯の作り笑顔で星子は答える。
「あ、ええと…。僕は竜太朗に賭けちゃったよ」
「そうなんですか…いくらで?」
小馬鹿にしたような口調でYOSHIKIは続ける。
「いくら負けたんです?」
「…………5万円だよ…負けてしまいました」
しばしの沈黙の後、星子は笑いながら答えた。しかし性格柄か、苦々しげな口調の中にも、その声には独特の「ストイックさ」があった。
「それじゃ、ちゃんと負け分はうちの事務所の方に払っておいてくださいね」
ああそう、となんの興味も無さそうにYOSHIKIはぽつり、と付け加えた。
この守銭奴めが…言葉にはしないが、そう呟く星子の心の中は、ツヤなしの漆黒の色で覆われていた。
728 :
生姜:02/04/28 23:20 ID:BM3BNo72
その日、星子誠一(Zy編集長)は朝から気分が悪かった。
休館日、ということになっている代々木体育館のVIP席には、二人の男がいた。
表向きは休館日だが、二つのスクリーンとライトは煌々と灯っている。
二人の男はスクリーンの巨大モニターを見ていた。
とてつもない大きさのモニターにはプログラム会場である島のマップと参加者達のレート、
そしてl駒である選手達の生存を示すランプがぼんやりと灯っている。
そのランプを見上げ、星子は激しく怒っていた。
ちくしょう、竜太朗のバカが!初日でやられてるんじゃないよ!
楽しみがもう無くなったじゃねーか!それにYOSHIKI番かよ!
まったく!「たまには星子さんとゆっくり語り合いたいんですよ」だと!?ふざけんな!
729 :
生姜:02/04/28 23:21 ID:BM3BNo72
怒るのは無理もないことだった。
このプログラムの一番の働き者、影の功労者は彼、星子誠一(Zy編集長)だった。
東海林のり子に渡す定時のアナウンスの為の情報、ワガママで知られるYOSHIKIの相手、プログラムの参加者(賭)向けの実況…
一日ほとんど休み無く働き、疲労困憊していた。
今からちょうど30分前まではプログラムの参加者、つまり駒の賭けをしている お客達相手に「倍率ドン!」と言っていたところだ。
よくよく考えると、プログラム開始の3時間前から一睡もしていなかった。
そこへきて初日の竜太朗、だ。
こんな過酷な状況の中では、ギャンブルぐらいしか楽しみは無い。
それが始まって一時間もしない内に、楽しみが無くなってしまった。
730 :
生姜:02/04/28 23:22 ID:BM3BNo72
バカ野郎竜太朗、なにやってんだ!5万返せ!
クソ、YOSHIKIの強突張りが!全部あいつの一人勝ちじゃねーか!カレーが辛い位でキレんな!
バンドマンやそのファン達の前では決して見せられない口汚い言葉で、死んでいった竜太朗を罵る。無論、心の中で。
こういうタイプは意外とずっと物陰で隠れていて、一番最後まで生き残りそうだと思ったのに。
死んだ者に対して罵ったところで5万円が帰ってくるはずも無いが、そう叫ばざるを得なかった。
何よりも、星子が最も怒りを感じていたのは、今横に座っている男、YOSHIKIだった。
YOSHIKIの端正な横顔をじっと見る。
このプログラムが、この美男子のただの私怨から始まったこと、このプログラムが、この男の懐が温まるようにできていること、
それに対してこのプログラムが、自分に対して何の利益も与えてはくれないこと、自分がこんなにも働いているのに、
こんなに頑張ってるのに、住宅ローン返しているのに、目の前の男は何もせず、ただ座っているだけで莫大な利益を上げているなんて…。
YOSHIKI様と呼ばれるこの男があまりに自分と年が離れているのも星子の癪に障った。
報われぬ苦労と、その元凶に愛想を振り撒く自分に苛立ち、作り笑顔がぎくしゃくする。
くそ!くそ!くそ!
心の底から涌き出る呪いの言葉を吐きながら、星子は笑顔で睨んでいた。
731 :
生姜:02/04/28 23:23 ID:BM3BNo72
その日、朝から星子誠一(Zy編集長)は気分が悪かった。
そのとき不意にYOSHIKIの口が開いた。
「ねえ、星子さん、誰に賭けました…?」
ふん、俗物が。
笑顔で取り繕う星子誠一をYOSHIKIは露骨に嘲笑していた。
隠すこともない。どうせこの小物は僕にへつらうしか道はないのだ。内心どうであろうと関係ない。それが力という物の本質だ。
勿論、敢えて星子をいびる必要もなかった。
しかし、必死に不快感を隠そうとする星子の姿を見るのは愉快だった。これで多少は鬱憤が晴れるという物だ。
だけど…やっぱり、こんな小物では足らないよ。もっと、もっとだ。
僕の意に背いたバンドマン達が必死にもがいて、もがいて、もがき抜いて、そしてそれが徒労に終わった時・・
その絶望と恨みこそが、僕を最高の愉悦に導いてくれる。
もがけ、もがけ、バンドマンども。せいぜい派手に散るがいい。
あまりに壮絶な笑みを浮かべるYOSHIKIに、星子は先程届いた河村からのレポートを渡せず凍り付いていた。
732 :
生姜:02/04/28 23:23 ID:BM3BNo72
「もう8年になるのか……」
KOHTAは兄に誘われバンドに入ってからの日々を思い出していた。
――あの日あの時、真剣な表情の兄が「頼むよ」と言った瞬間、KOHTAは兄と同じ道を歩くことを決めた。
最初は少し戸惑ったし、それからも迷ったし悩んだが、やがて決心した。やってやる。この運命は俺にこそふさわしい。
そしてKOHTAはだれもが認めるPIERROTのベーシストになった。業界関係者にもファンにも丁寧に応対するPIERROTの末っ子。
ライブのMCではいっぱいいっぱいになってロクに喋れずせいぜい中指を押っ立てるくらいしか能が無く、
スナック菓子が大好きと答える親しみやすい男。
どんな辺鄙な場所でも平気で速攻熟睡できるヴィジュアル系バンドマンが他にいるだろうか?
しかし時代は変わる。いまや若者達の好みはヴィジュアル系音楽ではなく、心地よいR&Bであり、コア系なのだ。
スッピンに近い自然体で朗々と歌い上げ、アメリカでも通用するんじゃないかと言われる心地よいメロディー。
路地裏で安いラジカセから自作のテープを流して歌い踊り、インディーでありながらオリコンチャートに食い込むアーティスト。
いくらPIERROTがインターネットライブで話題を作っても、史上最速でドーム公演を成し遂げてみせても、人々の関心はそこにはない。
――俺達は主役を演じているつもりだったけど、実際は本当の意味でただのピエロだったってことなのかな……
「…SUGIZOさん…」
「ん?なんだKOHTA、変な顔して」
KOHTAはSUGIZOを正面から見据えて言った。
「俺らは、もう、時代遅れなんでしょうか」
733 :
生姜:02/04/28 23:24 ID:BM3BNo72
左前方、10メートルほど離れた茂みに、人の頭が飛び出していた。
アイジはびくっとして足を止める。整った顔立ち。TAIZOだ。元FEELのTAIZOだ。
TAIZOは、ロウ人形のような蒼白な顔で、こちらを見つめている。
まずいな。他人が見ればTAIZOと俺は結構仲良くしてたように見えるだろうけど、実際は結構ウザくて電話とかかかってきても
シカトしてたりしたしな〜…だって、普通男の誕生日にわざわざ時間ジャストでメッセージ入れてくるか?キショッ。
顔立ちはかなり整ってはいるけれど、何を考えてるか底では計り知れないところがTAIZOにはあった。
ましてや、彼は無関係な上、何も知らされないままにこんな殺し合いに放り込まれているわけだし、アイジは仲間達を裏切って
そのゲームの主催者側の人間となっているのだ。言ってみれば、TAIZOをこのゲームに巻き込んだ責任はアイジにもあるということになる。
アイジが既に河村の心変わりで参加者の一人に墜とされている事情など、主催者側の人間しか知らないのだ。
そんな2人が、こんな状況で、穏便に話し合えるわけがない。
ああ、ちくしょう、なんでTAIZOなんだよ!!
TAIZOは瞬きもせず、ずっとこちらを凝視し続けていた。身動きひとつしない。突然、発砲してくる様子もなかった。
もしかして――死んでいるのか?
アイジは思いきって一歩足を踏み出した。
「来るな!来るな!!来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
TAIZOの大絶叫に慌てて身を伏せ、アイジはあたりを窺う。
734 :
生姜:02/04/28 23:25 ID:BM3BNo72
大声出すなよ、このバカ!!近くに他の誰かがいたら危ないだろ。生きてんなら、動けよ。さっさと逃げろよ。このボケナスが!!
茂みから身を乗り出したTAIZOは、半狂乱で何か叫んでいる。その右手には、ボウガンらしきものが握られていた。
やばいな… あいつは気が小さいが、身体能力は意外に高い。友達みんなで一緒に遊びに行ったときに何度か彼の精悍な動きを
目にしている。身体的にもアイジと条件は変わらないし、あの錯乱状態では、冷静に話をするのも無理だ。とにかく、
早々にこいつの前から姿を消す方が得策だろう。
「大声出すなよ。ばかだな」アイジは慎重に口を開いた。
しかし、その一言でTAIZOはますます逆上したようだった。
「あんたは、いつもそうだ。いつも、いつも俺の事を鼻で笑って。あ、あの時もだ。あの時も俺はソロが上手く決まらなくて
…そんな俺をあんたは――あんた、馬鹿にして笑ってただろぉぉぉ」
――こいつ、何言ってやがる。ちっ、話にならない。
「ハァ?あの時?あの時って何時だよ。わからねぇな。お前、FEEL解散してもパッとしてねぇだろ」
アイジが言い終わる前に、TAIZOはボウガンの引き金に指をかけた。
意味不明の絶叫と共に放たれた矢は、アイジのすぐ手前の茂みに突き刺さり 葉をがさがさと揺らした。
735 :
生姜:02/04/28 23:25 ID:BM3BNo72
朝10時といえば、夜遅くに仕事をするのが恒例なミュージシャンにとって早朝とも言える時刻である。
しかし、かつて伝説のバンド、Xの下手ギタリストであり現在はDope HEADzのギタリストであるPATAの邸宅は今、来客を迎えていた。
元LUNA SEAの下手ギタリスト・INORAN。
にも関わらず突如SWEET HEART所属のバンドマン達(?一部例外もいるようだが)を襲った事態について、彼は事前にまったく何も知らされていなかった。
INORANがPATA邸を訪れたのはヴィジュアル系バンドの歴史を良く知るこの男から事情の一部でも知ることが出来ないかと思ってのことである。
736 :
生姜:02/04/28 23:27 ID:BM3BNo72
「今回のプログラムは異常過ぎます!」
挨拶もそこそこにINORANは本題を切り出した。彼が今自由にできる時間はそう多くはない。知らなかったとはいえ河村の右腕として、
彼はプログラムに関する報告をする義務があるのだ。
「プログラムはメジャーに上がれるかどうかのバンドマンを淘汰するために行われるもののはずです。そもそもあれだけの
ミュージシャンが殺し合っては業界を支えるバンドマンが激減してしまいます」
そう、鳴り物入りでメジャーデビューを果たしたLUNA SEAのメンバー達はプログラムの参加を免除されていた。
いや、あれを免除と称するのは間違いかもしれない。INORANがプログラムの存在を知ったのは遥か後のことだったのだから。
それが、RYUICHIが前々回、余計な横風を吹かして勝手に一人で参戦して優勝して以来、LUNA SEAのメンバーは免除、
という禁忌が破られてしまったのだ。SUGIZOの前回の強制参加も、その辺から来ている。
LUNA SEAだけではない、本来今メジャーシーンで活躍しているバンドの殆どは、プログラム対象外に指定されているはずであった。
しかし今回のプログラムは…寧ろ、メジャーバンドの参加の方が圧倒的に多い。GLAYなんて、全く畑が違うし、
第一彼らが全滅した場合の補償とかはどうするつもりなのか。
事務所的に、集団自殺を図っていると思われても仕方がなかった。
「プログラムの目的はそういうものなのかな?」
PATAは何も気にしていない風にあのいつもの柔和な笑みを浮かべたままであった。
「それがわからなくなったから聞きに来たのです」
対してINORANはせわしなく視線を動かしていた。
737 :
生姜:02/04/28 23:28 ID:BM3BNo72
これまでは何も知らされなかった焦りの方が勝っていた。しかし、こんな事態になってもいつもと変わらぬ大先輩を次第に
ひどく恐ろしいものと感じるようになっていた。もともとLUNA SEA時代からおとなしいと評された彼だった。
自然と擦れたような小声になっていた。
「あれは第3回か。ひどく事務所から不興を買ったバンドマンがいて、その選手を謀殺するためだけに仕組まれたこともあったって
俺は聞いてるよ。もちろんそれに巻き込まれたり、各人の思惑がいろいろ絡んだ結果死んでいった者もいたらしいけど。
何と言ったかなぁ、うーん、名前は忘れたけど、関西出身の若いバンドマンが死んですぐにあのプログラムは終わったって噂に聞いた」
「そ、そんなことが」
「もちろん、お前が言ったような目的で行われたこともある。前回は間違いなくそうだったし、前々回もそうだったと思う。」
青ざめた顔をしているINORANにPATAは一拍置いて、それから言い含めるように告げた。
「つまり、目的なんて決まっているわけじゃない」
「でもメジャーの彼らが殺し合いをする意味がわかりません」
その通りだ。これまでのプログラムで現役で、しかも動員の多いバンドのメンバーが参加させられたことはほとんどなかった。
中には河村のように自ら志願して嬉々として参加したのもいたが、少なくともこれまでスター選手に犠牲者が出たことはなかった。
さらに、SWEET HEART所属以外のバンドマンにまで手が伸びるなんて、前代未聞な出来事である。
だからこそ、このプログラムの存在はこれまで秘匿され続けてきたのだ。
「お宅の事務所の社長さんは頭の良い人だ。俺達じゃわからないような深い意図があるんだろうよ」
あなたはその意図に気付いているんじゃないのですか。
そう訊こうとしたINORANだったが、しかしそのとき、懐の携帯電話が震えた。
738 :
生姜:02/04/28 23:28 ID:BM3BNo72
「失礼……」
それは河村からの電話だった。もう呼び出されたのだ。
これで目の前にいる恐ろしい人物と話をしなくていいと思うと少しほっとした。自分でわざわざ訪れた相手なのに。
だが同時にあの現場に向かうことを思うと気が滅入るのだ。どこへ行っても地獄だ。
プログラムの開始を告げる河村の笑顔が思い出された。
そして目の前のPATAの静かな顔。
いつ自分はこの狂った世界に踏み込んでしまったのだろう。
INORANは「もう、戻らないといけません」とPATAに告げた。
椅子から立ち上がるのに苦労した。頭からの命令が足に伝わらない、そんな感じだ。
「気をつけろよ」
ぎこちなく扉のノブに手を触れたINORANの背中にPATAが声を掛けた。
「君も巻き込まれる可能性がないとは言えない」
振り返って見たPATAに張り付いた無表情がより恐ろしいものに感じられた。
739 :
生姜:02/04/28 23:29 ID:BM3BNo72
「んーINORAN、ずいぶん遅かったね。何かあったの?」
「い、いや、道が混んでたから…」
INORANは動揺をさとられまいとすぐ自分のデスクに向かった。
「おやおや相変わらずまじめだねー、そんなことだからイマイチ華がないって言われるんだよ。ふふ」
「別に…」INORANはいつものように軽く受け流す。
「そんなことより、ほら、メロンがあるんですよ、メロン。夕張だよ、ははは。Gacktや潤が来る前に食べよう。
バンドマンはどんな些細なチャンスも逃したら駄目だよね、わかる?」
わからねえよ、クソが!と思いながらINORANはナイフでメロンを切り分けてゆく。
「いやあ今日もバンドマン達が必死で行きようと頑張る姿が見られると思うと、僕の胸には何とも言えない感情が飛来してくるんだよねー。
やっぱり僕は根っからのアーティストだからね、詩的感性を刺激されるって言うかさ…」
INORANの心に急激に怒りがこみあげてくる。これが“抱かれたい男ランキング”でキムタクや福山とランキングを争うといわれる男なのか!
740 :
生姜:02/04/28 23:29 ID:BM3BNo72
多くの才能あるミュージシャンたちのためにも、ここで俺がやるべきじゃないのか?
INORANはメロンに優雅にフォークを立てる河村のうしろに一歩踏み出す。
よし、やろう!そう思った瞬間、原の右手は何者かによってがっちり押さえ込まれていた。
原がハッとして振り向くと、そこには迷彩服に身を包んだYoshitsugu(元EINS・VIER・G)がいるではないか。
「ふふ、INORANってさ、素直だよね〜。すぐに顔に出るんだもん。僕の目にはメニコンが入ってるんだよ。何でもお見通しさ。
Yoshitsugu、ちょっとお仕置きしてあげなよ。殺しちゃだめだよ、うふふふ…」
――ああ、SUGIZO、J、ごめん。俺は結局お前達を助けてやれないみたいだ………すまない………
INORANはすぐに意識を失った。
741 :
生姜:02/04/28 23:35 ID:BM3BNo72
TAIZOはボウガンを構えながら、小走りでアイジに近づいた。
「なめないで下さいね。俺は今、あんたを殺すこともできるんだからな!」
ちょっと間をおき、それから、幾分自慢げですらある口調で続ける。
「俺はもう、現王園を殺したんですよ」
アイジは少しどきっとしたが、形のいい眉を持ち上げ、低い声で「へぇ」と言った。それが本当だとしても、あのTAIZOの様子からみて、
怯え切って偶然出くわした現王園を殺してしまったというのが正直なところだろう。
「オーディションだと思う事にしたんです、俺は、これを」TAIZOはさらに続けた。
「――だから、俺は、遠慮しません」
アイジはかすかに笑みをたたえて、TAIZOの顔を見据えていた。
「オーディションね」TAIZOの言葉を繰り返し、にやっと唇を歪める。
「オーディションだとしたら、お前は早々に一次審査落選だな。あ、メジャーじゃなくて神楽坂の出演オーディションってことか?」
こんなやり取りを、一種痛快だ、と思ったのは、アイジの持って生まれた性というものだっただろうか。
もはや、どうなろうが俺の知ったこっちゃない。
TAIZOの目が冷たく光った。
「死にたいのかよっ!!」
742 :
生姜:02/04/28 23:35 ID:BM3BNo72
アイジは手元にある茂みから小枝をへし折り、TAIZOの小綺麗な顔めがけて投げつけた。TAIZOが顔を覆ってそれを防ぐ間に、
くるっと体を回転させ、アイスピックだけを握ったまま、だっと駆け出していた。
右脚に衝撃が走り、アイジは前のめりに倒れこんだ。
体をぐっとひねって、土の上に座り込む。痛い。脚が痛い。
右脚太腿の後ろ側に、銀色の矢が突き刺さっていた。
ファンから「半ズボンを穿いて下さい」「出し惜しみしないでもっと露出して」と懇願される自慢の美脚に傷をつけやがった、あの野郎!
TAIZOが追いついてきた。アイジが座り込んでいるのを見て取ってボウガンを地面に落とすと、代わりにベルトにさげていたヌンチャクを
抜く。もともとTAIZOに支給された武器は、何の変哲もない三味線糸だったが、現王園を倒した後、彼が回収したSeekのデイパックに
これが入っていたのだ。そのヌンチャクを右手に構え、TAIZOは息をはずませた。
「あんたが悪いんだ。俺を怒らせるからだ」
「わかったから、ちょっと待てよ」
アイジはそう言い、背中側に右手を回し、歯を食いしばって矢を引き抜いた。
肉が裂ける感覚が伝わり、どっと血が吹き出すのを感じる。矢を放り出すと、TAIZOをにらみつけながら立ち上がった。
それでもまだ、TAIZOの表情には余裕があった。体格的にはほぼ互角な上に、怪我はしてるし、負ける事はないと思っているのだ。
「オーディションって言ったな。いいぞ、それなら、相手になってやる。もちろん、生き残るのは俺だ。当然なんだよ」
TAIZOはヌンチャクを構え、アイジもアイスピックを握り締めた。
2人の間に、ぎりっと緊張が張り詰めた。
743 :
生姜:02/04/28 23:36 ID:BM3BNo72
絶世の美男子と称され、どちらかといえばひ弱そうなとは見た目とは裏腹な力強さで、TAIZOはヌンチャクを斜め上から振り下ろした。
アイジは、それを左腕で受けた。昔水泳で鍛えた細い二の腕にじんじんと痺れが走る。その痺れを感じながらも、右手のアイスピックを
振り上げる。
TAIZOは飛び退きそれをよけ、またヌンチャクを振り回してきた。
それをなんとかよけたアイジは、すかさず、そのTAIZOの左手首に向けてアイスピックをふるう。軽い手ごたえがあった。
TAIZOはかすかにうめき後ろに退がったが、たいしたダメージではないようだ。
アイジの左腕は痛みはあったが、左手首のお気に入りのブレスレッドがちぎれただけで、骨は折れていない。しかし、右脚の傷からは、
どくどくと出血していた。
多分、そう長くはもちこたえられないだろう。
TAIZOが再び、ヌンチャクを振り回してきた。あえて、アイジは前に出る。肩にヌンチャクが当たったが、大した衝撃ではなかった。
アイジはTAIZOの胸元に飛び込み、アイスピックを振り上げた。
TAIZOは驚愕の表情で、思い切りアイジを突き飛ばす。
傷ついた右脚からバランスをくずし、仰向けに倒れたアイジの顔めがけてTAIZOはヌンチャクを振り下ろした。
なんとか、アイスピックでそれを受ける。が、きいんという高い金属音とともに、アイスピックは跳ね飛んだ。
744 :
生姜:02/04/28 23:37 ID:BM3BNo72
TAIZOは会心のギタープレイを終えたかのように微笑みながら、すでに使い慣れたヌンチャクを思い切り振り回した。
左側頭部に衝撃がきて、アイジの体がぐらっと傾いた。
倒れながらもアイジは脚を伸ばし、TAIZOの左膝を蹴りつけ、背中に飛びついた。
体重がかかった勢いで、前のめりに倒れこんだTAIZOに馬乗りになり、髪の毛をつかんで、その頭をぐいと引き上げた。
TAIZOはアイジの意図を理解したのか、反射的に目をつむる。
無意味だった。アイジの右手中指と親指は、しっかりと閉じられたTAIZOのまぶたを割って、TAIZOの眼窩にもぐりこんでいた。
「ひぎいいいいいいいいいいい」TAIZOが絶叫した。体をめちゃくちゃに動かし、アイジを払い落とそうとした。
しかし、アイジはしっかりTAIZOに組みついて離れず、さらに指を押し込んだ。
「あああああああ」TAIZOは声をあげ、めちゃくちゃに手を振り回す。
アイジはさっとTAIZOから離れ、アイスピックを探し、それを拾い上げた。右脚をひきずりながら、喚き暴れているTAIZOに歩み寄ると、
まずは股間を、続いてそののどを踏みつけた。ぐっと体重をかける。
「た、たすけ…」かすかな隙間風のような声が聞こえた。
ああ?そんなわけないだろ、何言ってんだ。アイジは思った。
自分の唇が笑いの形に歪んでいるのがわかる。
俺は怒っているんじゃないよ、楽しんでいるんだ。間違いない。だからなんだっていうんだ?坊主じゃないんだから、別にいいだろ?
アイジはTAIZOの口の中に、両手で保持したアイスピックを突き立てた。
アイスピックを強く押すと、あまり抵抗なく、ずぶずぶとのどに沈んだ。TAIZOの体が、胸からつま先まで、びくびくと激しく痙攣する。
やがて、それは止まった。腕が落ちた。
745 :
生姜:02/04/28 23:37 ID:BM3BNo72
「アイジさん♪」
唐突に背後から声がかかり、アイジは座った姿勢のまま振り返った。
騒ぎの中にわざわざ来る奴が、味方であるはずないよな。
同時に手を伸ばしてTAIZOの口からアイスピックを抜き取り、構えた。
YURA(Psycho le cemu・Dr) が、アイジを見下ろしていた。
746 :
生姜:02/04/28 23:38 ID:BM3BNo72
745は失敗…
勝った。あっけない気もした。アイジはぜいぜいと息を吐き、しりもちをついた。
右脚の痛みが急に跳ね上がる。長くかかってたら、勝てなかっただろう。
とにかく――勝った。何にせよ、とにかく。
「アイジさん♪」
唐突に背後から声がかかり、アイジは座った姿勢のまま振り返った。
騒ぎの中にわざわざ来る奴が、味方であるはずないよな。
同時に手を伸ばしてTAIZOの口からアイスピックを抜き取り、構えた。
YURA(Psycho le cemu・Dr) が、アイジを見下ろしていた。
748 :
生姜:02/04/28 23:39 ID:BM3BNo72
「・・・・時代遅れ?」
SUGIZOはKOHTAの言葉を繰り返し、ははぁ、とうなずいてから続けた。
「KOHTA、お前相当参ってるな?気持ちは分かるが、悩むのは後にしようぜ」
そうだ、それは全く正しいのだ。今はあれこれ悩んでいる時じゃない。それは分かっている。分かっているがしかしー
沈黙が部屋を包む。それを破ったのは、SUGIZOだった。
「まぁ、そうは言ってもこうしてると色々考えてしまうよな。けどなKOHTA」
SUGIZOは、KOHTAの目を正面から見据え語りかけた。そのSUGIZOの目を見ながらああ、親父の目に似ているな、とKOHTAは何故か
全然似ても似つかないのにそう思った。
「お前が音楽を続けているのは何の為だったんだ?金か?名誉か?お前はそういう物とはまた別の物が欲しくてやってたんじゃないのか?
そういう物に時代遅れもクソも関係有るのか?」
そう。音楽が好きだ。ベースが弾きたい――まさにそのためにKOHTAは自分の人生をPIERROTに捧げたのだ。
こんな事になるとは予想もできなかったが。しかし、こんな事があっても俺は――
「……そうでした。俺は、ただ、音楽がやりたいんです、あのメンバーで」
その言葉を聞くと、SUGIZOは静かに頷き、続けた。
「だったら、生き延びるんだ。まぁ、もう日本で演奏する事は出来なくなるだろうが……音楽は日本だけじゃない。
きっとお前にふさわしい場所が見つかるさ。幸か不幸か、お前達のバンドは全員身軽だから身動きが取りやすいしな」
その皮肉に苦笑しながら、KOHTAはさっきまでのモヤモヤが消えていくのを感じ、SUGIZOに深く感謝した。
実際、これで何回救われたのだろう。この人がそばにいてくれれば何処であろうとどれ程心強い事か――
「SUGIZOさんは何処へ行きたいんです?やっぱりアメリカですか?意外に韓国とか」
しかし、SUGIZOは苦笑すると実に意外なことを言った。
「いや、俺はお前達とは行かない。俺は日本の業界に残るよ」
749 :
生姜:02/04/28 23:40 ID:BM3BNo72
潤は暫く悩んだ後やはりGacktの後を追う決心をした。
参加者の欄に自分達の名前がある事を早く報告しなければ・・・きっと自分達は仕事が一段落ついた今、
すぐにでもあのバカアイジのように外に放り出されるだろう。
何故気が付かなかったんだろう。最初からその気だったのだ、あいつらは。
誰一人助ける気などなくてただアシスタントが必要だっただけだ。
早く逃げ出さないと・・・今ならば可能な筈だ。一応武器もあるんだし、何より自分達にはあの忌々しい首輪が付けられてない。
あれさえなければ逃げる事はできるはずだ、絶対。
あんな馬鹿げたゲームに参加させられてなるものか。
俺は絶対にごめんだ。だから――大切な仲間を裏切ったんだ。
どんなに罵られ様とあんな話、断る方が馬鹿だろう。
だって、死んだら終わりなんだ。そこで。
俺は絶対に生き抜いてみせる。
潤は薄暗い廊下を駆けていった
750 :
生姜:02/04/28 23:40 ID:BM3BNo72
Gacktは外に出てすぐの芝生の上に座っていた。
あまりにも簡単に見つかって潤は力が抜ける程だった。
「Gacktさん」
声を掛けると、Gacktは実に優雅に、ゆっくりと顔だけをこちらに向けた。
「どうした?」
「生存者リストに俺らの名前があるんです。河村が追加したみたいで………早く逃げましょう。じゃないと……」
「そうか」
潤の言葉を区切る様にGacktはそれだけ言った。特に驚いた様子もなかった。
反対に潤が慌てるほど。
「そうか、って………俺達まであのしょうもないゲームに参加させられるんですよ?!今ならまだ間に合います。
あの変な首輪をつけられる前なら……早くここから逃げましょうよ!」
「うん。でもね、潤くん……もう遅いみたいだよ」
Gacktが先程から見ていた方向に視線を戻した。その先――
暗くて気が付かなかった。2人くらいの人影。
あれは盛田と明石?
それぞれ構えたライフルの銃口がこちらを向いていた。
751 :
生姜:02/04/28 23:40 ID:BM3BNo72
「なっ………」
その瞬間後ろの扉が勢いよく開いた。
でできたのは河村と東海林のり子、何故か怪我をおってるINORAN。そしてYoshitsugu。
「お待たせしました2人共〜ようやく出番よ〜結構みんな氏んじゃったからつまらないかもしれないけど、頑張ってねーっ!!」
東海林がそう笑顔で言い終わったと同時に潤もGacktもいつの間にか近づいていたマネージャー陣に羽交い絞めにされ、
無理やりあの首輪をつけられた。
持っていた武器は取り上げられ デイパックと共に二人は柵の外へ放り出された。
「2分後には首輪が禁止エリアに反応する様になるよ。地図をみてちゃんと確認してね。もちろんここもエリアに入ってるから
早く立ち去らないと危ないよ。じゃ、グッドラック」
河村がそう言うと一同は部屋の中へ戻っていった。
752 :
生姜:02/04/28 23:41 ID:BM3BNo72
「ちくしょう!!あの野郎っ!!」
潤は思い切り地面を殴りつけた。
そんな事をしたって、ただ自分の拳が傷付くだけで状況は何一つ変わりはしないのだが。
いきなり全てを取り上げられ一介の参加者とさせられてしまったのだ。
しかも働くだけ働かされて。
アイジの事を内心でバーカ、ご愁傷様〜と嘲笑っていた報いだろうか。
「早く行った方がいいぞ。爆死したいのか?」
そんな潤を気にとめる様子もなくGacktはそうぽつりと呟くと暗闇に向かって歩き出した。
「ちょっと待ってくださいよ!」
潤は慌ててその後を追った。
――なんでこの人はこんなに冷静なんだ?さっきから
「Gacktさんはいいんですか?!このゲームに参加するっていうんですか?それが嫌だから俺達仲間を裏切ったんでしょう?!」
「君と一緒にするな」
そう言うGacktの目はぞっとするほど冷たかった。
753 :
生姜:02/04/28 23:42 ID:BM3BNo72
いや、ただ冷たいというよりもそれは、氷のように冷たい、潤ではない誰かに向かった怒りに彩られた目だった。
潤は背筋に嫌な汗がつたうのがわかった。
「わかったらついてくるな。最初に殺すのは君になる」
Gacktはそう続けたが、言われる前に潤の足は止まっていた。
一緒にいたら確実に………いや、今この瞬間殺されたっておかしくないのだ。ただGacktの武器がデイパックに入ったままだから
(もっともそれが何かもわからないが)無事なだけであって――
Gacktはそんな潤の様子を見るとふっと笑い、言った。
「元気でな。また会おう」
そして今度こそ暗闇の中へ姿を消した。
754 :
生姜:02/04/28 23:42 ID:BM3BNo72
KOHTAは、いつもの様にSWEET TRANCEの楽屋にいた。
「PIERROTメンバー入ります。リハお願いしまーす。」
いつものリハ前の風景。いつものケータリング。誰かが買ってきた漫画、雑誌。そしていつものメンバー。
ああ、今までのは悪夢だったのだ。珍しく悪い夢を見ていた。いつでも何処でも熟睡できるのが特技の俺としたことが…………。
リハを終え続いてセッションのためのリハに入る。ライブを見に来てくれたJが関係者席にいたのでKOHTAは話しかけた。
「Jさんっ、来てくれたんすね!」
ごとっ、という音とともに、Jの首が地に落ちた。
蒼然としてステージを振り返ると、みなの様子がおかしかった。
TAKASHIののどがすぱっと裂けて、スイカの切り口みたいになっていた。
田澤孝介の頭にカマが刺さっていた。
DAISHIが全身をペンキでもふっ被ったように真っ赤に染めていた。
貳方孝司の頭が半分無くなっていた。
AOIの顔にナタが刺さり、その顔の左右がピーナッツを割ったときのように上下にずれていた。
TAIZOの目の玉がつぶれ、白い液体が血とともにあふれ出ていた。
IZAMの頭が木っ端微塵に消え去っていた。
755 :
生姜:02/04/28 23:43 ID:BM3BNo72
要するにみんな――――死んでいた。
「うわああああああああああ!!!!!」
「どうしたんだ、KOHTA?」
突然跳ね起きたKOHTAに驚いて、紫煙をくゆらせていたSUGIZOは聞いた。
「……………………………悪い夢を見ました……………………。」
756 :
生姜:02/04/28 23:43 ID:BM3BNo72
アイジは少し戸惑いながら、YURAを見上げていた。
YURAは――やる気なのか?YURAが――
ヴィジュアル系バンド界に新風を巻き起こした派手なパフォーマンスや振り付けを次々と考えつくセンス、王子様系のルックス、
インディーでありながら確実に伸びている動員などなど他人から見れば妬ましいほど、未来は明るくすべてに恵まれているのに。
確かに、自分のことをサマ付けで呼ばせるとか、何を考えてるのかわからないとか、クールを装っているとか、陰口をたたかれたりはしていた。
まぁ、俺も結構いろいろ言ったかもしれない。本人の前ではっきりと。
セッションの途中、メンバー同士で談笑してたかと思うと、急にYURAだけ真顔になって遠くを見てるような事が時々あった。
見えない何かを睨み付けるように。
それでも「恋のハ・ジ・マ・リ♪」と恥ずかしげも無く放言してファンから黄色い声を上げられたあと、実は影でそんな自分に
照れていたりしていて、本質は、ちょっと自己顕示欲の強い普通の自称男前兄ちゃん、なんだと思っていた。
――あんな時のYURAの目には、何が見えていたんだろう?
757 :
生姜:02/04/28 23:44 ID:BM3BNo72
「大丈夫ですか♪」
YURAは訊いた。ひどくやさしい、どこか弾んだ声だった。
その声でアイジは、現実に引き戻された。
今、目の前にいるYURAの右手にあるのは、ドラムスティックではなく大型の自動拳銃だ。銃をアイジに向けることはしなかったが、
安心すべきではない。
アイジは手近な木の幹につかまって、何とか立ち上がった。右脚が重い。
「まあね」と短く答えた。
YURAはTAIZOの死体をまじまじと見つめ、それからアイジが手にしているアイスピックを見た。そして心から感心したような口調で言った。
「そんなもんだけで、やっつけたんですか♪すごいな、尊敬しちゃうな♪」
目はきらきらと輝き、うきうきしているような感じすらあった。
アイジはまた「まあね」と答えた。大量の失血のせいか脚ががくがくする。
「前から思ってたんです♪アイジさんは僕と違って、周りの意見に流されたりしない♪いいなぁって♪」微笑みながらYURAは言った。
アイジはYURAの意図が読めないまま、その顔を見つめていた。
YURAは自分で考えた振り付けをたまに自分で間違えてファンから失笑を買われ、ムキになって否定したことがあるらしいけど、
そんな意味で言ってる訳じゃないよな………
音楽に関しては、プライドが高く頑固なところもあるし。
なんだろう、気持ちとか、生き方とか――そんなことか?
758 :
生姜:02/04/28 23:45 ID:BM3BNo72
彼らが事務所に入って初めて挨拶されたときの表情からして、SWEET HEART入りは彼は本意ではなかったのだろう。
YURAにとって今の自分は、激流に流された末にできた偽りの自分なのか?
俺には、わからない。YURAの心の中までは。――心の闇までは。
脚がふらつき、慌てて木の幹をつかみ直す。不意に、はっとする。
俺は、もしや、この見知らぬYURAを恐れているのか?
「僕、ちょっと羨ましかったんですよ♪」YURAは続けていた。
「おいおい言い過ぎって思う事も多かったけど、僕もあれくらい遠慮なくずばずばと、バンド内で言いたい事を言ってやりたいって
思ってたんです♪」
アイジは黙って聞いていた。何かおかしかった。
759 :
生姜:02/04/28 23:45 ID:BM3BNo72
すぐに気付いた、なんで、YURAは、過去形で、喋っているのか?
「だから♪」YURAの目がいたずらっぽく笑う。以下は現在形に戻った。
「アイジさんみたいなタイプ、俺、結構好きなんですよ♪あ、変な意味じゃないですよ♪ホントに♪だからとても――」
アイジは目を見開いた。ばっと体を翻すと、走り出していた。
右脚はやや引きずっていたが、武道館のステージを下手から上手へ一気に駆け抜けるかのような猛ダッシュで木立の中のゆるいくだり勾配を駆け抜けていた。
「だからとても――」
YURAはコルト・ガバメントをすいと持ち上げ、3度続けて、引き金を絞った。
すでに20メートルばかり向こうまで離れ、なおもぐんぐん遠ざかっていたが、アイジの背中の肩胛骨あたりには3つ穴が開き、野球で言うヘッドスライディングするように体が前のめりに飛んだ。うつぶせのまま、ずるずると下り斜面を滑っていく。
YURAは銃を下ろし、言った。
「とても残念です」
760 :
生姜:02/04/28 23:46 ID:BM3BNo72
「そうか、悪夢か。こんな状況だ、無理もないな……だがKOHTAよ、悪夢ってのは精神のバランスを取ろうとして作り出される物らしい。
つまりお前の精神はまだまともに働いてるって事で」
「SUGIZOさん、あの……Jさんは」
SUGIZOの話を遮ってKOHTAは聞いた。あれは夢だ、そう分かってはいたがやはり聞かずに入られなかった。
「ん、さっき見たときは良く眠っていた。もう大丈夫だろう。そういえばそろそろ起きてるかもしれんな。ちょっと見てくる」
そう言うとSUGIZOは部屋から出ていこうとしてドアの所で立ち止まり、
「…夢は夢だ、余り引きずるなよ。」
と言い残して出ていった。
761 :
生姜:02/04/28 23:46 ID:BM3BNo72
それを見送ると、KOHTAは身を起こした。
ああ、夢で良かった……とは素直に喜べなかった。現実はあの夢と大差ないのだ。
既に多くのミュージシャン達が命を落としている。今こうしている間にも誰かが無惨に死んでいるかもしれない。
そしていずれは自分達も……
「駄目だ、引きずられてるな、俺」
嫌な考えを振り払うように、KOHTAは呟いた。SUGIZOさんの言うとおり、あれは夢に過ぎないのだ。
自分は生きている。Jさんも生きている。SUGIZOさんも生きている。 そして、兄もTAKEOもまだ生きているに違いない。
アイジと潤は……そこまで考えて、KOHTAは頭を左右に軽く振った。
……取りあえずは、それで十分じゃないか?
もしこのまま上手く兄やTAKEOと合流できたら、みんなで助かる。そしたら…アイジと潤を一発殴って、それからどこかでまた5人で
バンドをやればいい。
そう思うとKOHTAの心が、少しだけ晴れやかになった。
気合いを入れるかのように自分の頬を数回叩くと、KOHTAは隣の部屋へと歩き出す。
その歩みは、力強い物だった。
762 :
生姜:02/04/28 23:48 ID:BM3BNo72
診察室に入るとJはもう既に目を覚ましていてSUGIZOと何やら話していた。
幾分まだぼんやりとした所はあるもののもうすっかり良くなっているようだ。
KOHTAは心の中ほっと息をついた。
やはり夢は夢なのだ。良かった。本当に、良かった。
「どうですか?気分は」
KOHTAは遠慮がちにベッド脇の椅子に腰を下ろしながら尋ねた。
「もう大丈夫。悪かったな。迷惑、かけて――」
Jは起き上がると二人に軽く頭をさげた。
「止せよ、何言ってんだ。お前が悪いわけじゃないだろそんなの。それより飯食えるか?ご飯あるぞ」
「ご飯?」
SUGIZOの言葉にJが驚いた様子で目を丸くした。
「ああ。ちょっと待ってろ。今持ってきてやるから。」
SUGIZOはそう言うと部屋を出てキッチンへ戻った。
「KOHTA」
「なんですか?」
Jが少し気まずそうにKOHTAへ向き直った。
「本当に悪かったな。お前のお陰で、助かった」
そう言って再び軽く頭を下げた。
763 :
生姜:02/04/28 23:48 ID:BM3BNo72
「い、いいんです、俺なんて別に。SUGIZOさんだって言ってたじゃないですか。Jさんは全然悪くないです。気にしないで下さい」
KOHTAは笑って言った。
「それより飯食ったらもうちょっと休んだ方がいいです。ここ、11時までに出なきゃならなくなったんで」
「それって…」
「はい、ここも禁止エリアに入ります」
それは午後3時の放送で告げられた情報だった。
島の南西の岸沿いと南の山も同時にそうなる。
これで島の南西側にはほとんど近づけなくなった。
「待たせたな」
少しして、SUGIZOが盆を持って部屋に入ってきた。
Jがおかゆを食べている間、二人はSUGIZOが淹れてきたお茶を飲んだ。
お茶はほんのり甘く、懐かしい匂いがした。
「何だか――」
「むやみに平和ですよね。こうやっていると。」
KOHTAがそう呟くとSUGIZOは
「後でコーヒーもいれるよ」と笑った。
殺人ゲームの真っ只中、3人にしばらくの休息が訪れていた。
764 :
生姜:02/04/28 23:50 ID:BM3BNo72
背中から三発の弾丸を撃ち込まれた後三十分以上経っていたにもかかわらず、またその傷及びTAIZOにボウガンを撃ち込まれた脚の傷から
大量に失血していたにもかかわらず、アイジはまだ生きていた。
アイジは半ばまどろみ、夢を見ていた。故郷の家族が―――両親と兄が、特に母親が泣きながら「さようなら」と言っていた。
兄は怜悧そうな目をこちらにむけ、じっと何かに耐えているように血まみれの弟を見つめていた。父親は黙って唇を噛み、目を背けていた。
母親は――中学高校専門と心配かけ通しだった――顔中真っ赤にして、大粒の涙を零していた。
ごめん、俺、もう帰れないや。電話も出来そうにない…
身体が酷く寒く、指先がかじかんでいた。故郷の雪景色を思い出そうとするのだけれど、何故か上手くいかなかった。
場面が変わる。
どこかの部屋にいるのだけれど、その家具の配置には覚えがあった。
ああ、これは新座に住んでいたときの部屋だ。
目の前で、TAKEOが泣いていた。TAKEOは、この日借りてきた「エレファントマン」を見て号泣していた所を潤にばっちり見られたらしい。
その映画の話を改めてアイジと潤に蕩々と語りながら、またしても男泣きするのだった。
「TAKEOくんさぁ、いい年したヤローが泣くんじゃないよ、情けない。所詮映画だろ。」
「………………」
TAKEOは目を拭いながら、だからお前らは知識はあっても教養が身に付かないんだよ、と捨てぜりふを吐いた。
765 :
生姜:02/04/28 23:51 ID:BM3BNo72
やがて、今のTAKEOの顔が浮かんだ。泣いていた。
「アイジ。死ぬな」
何なんだよ、男らしくないなー。泣かないでよ、あーあ、また髭が伸びてるよ、ちゃんと剃ってる?またファンの子達にいろいろ言われちゃうよー。
神のいたずらというやつなのか、アイジはもう一度だけ覚醒し、ぼんやり目を開けた。
午後の穏やかな光の中で、TAKEOが、自分を見下ろしている。最初に思ったのは、TAKEOが泣いていないということだった。
疑問はそのあとでやってきた。
「どうして……TAKEOくん、ここにいるんだよ?」
自分の唇から漏れる低い声が、錆びついたドアを無理やりこじあけるような感じでいつもより更に低かった。
それで、ああ、もう長くは生きていられない、と確信した。
「うん、ちょっとな」
アイジの頭だけをそっと支えながら、TAKEOは言った。いつの間にかうつ伏せに倒れていた自分を、TAKEOは近くの茂みまで運んでくれたらしい。
766 :
生姜:02/04/28 23:51 ID:BM3BNo72
「誰にやられた?」
TAKEOが訊ねた。そうだ、それは重要な情報だった。
「サイコのYURAだよ。奴には気をつけて」
とアイジは答えた。TAIZOのことはもう、どうでもよかった。
「ごめんな」
なんでTAKEOが謝るのかわからず、アイジはじっとTAKEOの顔を見つめた。
「まさか、アイジもプログラムに参加するとは思わなかったから、偶然お前の姿を見かけた時には、もうお前、
――全速力で走ってったから――見失っちゃったんだよな。お前の消えた方へ走って呼んだんだけど――」
アイジは、ああ、と思った。確かに、何かかすかに声が聞こえた気はしたのだ。でも、突然監視役から参加者に立場を逆転させられて
混乱していて、そら耳かとも思ったし――そら耳でなかったらなおのこと裏切り者の自分を誰かが仕留めようとしているのだと思って
――全速力で走り続けた。
ああ。
TAKEOは、自分を追いかけてくれたのだ、自分が思っていたとおりに、危険を冒して――さっきTAKEOは「ちょっと」とだけ言ったけれど、
自分のことをずっと探していてくれたのかもしれない。
そう思うと、アイジはらしくもなく泣きそうになった。
767 :
生姜:02/04/28 23:52 ID:BM3BNo72
アイジは、もうあまり自分が言葉を喋れないのがわかっていたし、何を喋るべきか選ぼうといくつか考えたのだけれど、
妙な疑問が頭にわいて、それを訊いてしまった。
「TAKEOくんさ、俺、ギタリストとして向いてると思う?」
TAKEOは少し眉を動かしたが、静かに「いや」と答えた。
「お前の作る曲は本当に凄いけど、アイデアも凄いけど、それを自分でちゃんと演奏できないことが多いわ、肝心なところで外すわ、
とんでもないリズムを組んで俺を困らせるわ、挙げ句の果てにはライブで燃え尽きてギターも弾かずに踊りだすわ。
こっちはお前が作ったへんてこりんなリズムで身体バラバラになりそうになりながら必死で叩いてんのに、迷惑この上ねぇよ」
「言うね、TAKEOくんも」
アイジはアヒルのように口を曲げて苦笑した。奇妙にとても冷たく、そして、なぜかとても熱く感じられる体の中に、
じわっと毒が膨れ上がるような感じがした。
「ちょっと肩貸してよ。すぐ……終わるからさ」
相変わらずワガママな口調に苦笑しつつ、TAKEOは唇を引き結ぶと、何も言わず肩を貸してくれた。アイジの首がぐったり後ろに
倒れそうになったが、それもTAKEOが支えてくれた。
まだひとこと言えそうだった。
768 :
生姜:02/04/28 23:52 ID:BM3BNo72
「生き残れ、TAKEO」
もうひとこと、言わせろよ。神様。いるのなら。
アイジはTAKEOの細い目を覗き込んで、にやっと笑った。
「TAKEOは、最高の変態ドラマーだよ」
「アイジこそ」とTAKEOが言った。「世界で最高の、変態ギタリストだよ」
アイジはふっと笑み、ありがとう、と言いたかったのだけれど、もうのどから十分な息が出なかった。ただ、TAKEOの目をずっと
見つめていた。感謝していた。少なくとも、俺は独りぼっちで死ぬわけじゃない。最後に一緒にいてくれる誰かが、
同じメンバーのTAKEOでよかった。
ほんとによかった。
その姿勢のまま、アイジは、約二分後に死んだ。目は最後まで開いたままだった。TAKEOは、生命を失ってぐったりと全身を重力に
委ねているアイジの細い体を支えたまま、しばらく、泣いた。
769 :
Nana:02/04/29 00:00 ID:ypZNjFAc
アイジャーじゃないけど号泣・・。
うわーんっ(T^T)
770 :
Nana:02/04/29 00:02 ID:RBSh5WYI
アーイージィー(ゴウナキ
アイジっていつも良い所持っていくよね…
771 :
生姜:02/04/29 00:07 ID:HHprYylM
横アリで「PIERROTは死ぬまで5人です」と言ったとき、キリトの心の中に嘘はなかった。
いろんな修羅場を乗り越えて、やっとここまで辿り着いた理想の具現。
それが、PIERROTだった。あの5人だった。
この5人だからこそ、PIERROTなんだ。PIERROTでなければ、俺はキリトでいられない。
PIERROTはメジャーデビューを果たすや数々の記録をうち立てる。
メディアにも注目を浴びたし、業界の人間はこぞって彼らをもてはやし、
そして面白がった。
金も名誉も手に入れた。外国車を乗り回し、派手に遊ぶ、夢のような日々。
だけど、何かが違っていた。本当にこのままでいいのか?
叫び出したいような衝動。泣き出したいような切なさ。01年、彼らはレコード会社を移籍した。
772 :
生姜:02/04/29 00:07 ID:HHprYylM
驚いたのは周りの方だった。あんなに堅実なレコード会社をどうして?
やりたいことをやりたい。ただそれだけのために移籍した彼らを、様々な勘ぐりが襲う。
だけど、キリトにとってそれはどうでもいいことだった。
5人で思うようにやれればそれでいいのだ。
だが、このプログラムの開始を告げられた時、キリトは全てが終わったと思った。
プログラムが終われば、たとえ自分が生き残ったとしてもKOHTAとTAKEOは死んでしまっているだろう。
5人でなければ駄目なんだ――
裏切ったアイジと潤への怒りは不思議となかった。
ただ、大切な宝物を奪われて泣き叫ぶ子供のように、キリトは自分が作り上げてきた理想を
壊していく不特定多数の存在――それはゲームに参加させられている他のミュージシャンに他ならないのだけれど――
を逆恨みすることで、なんとか自分の存在意義を見つけようとしていた。
773 :
生姜:02/04/29 00:08 ID:HHprYylM
死ね、死ね、みんな死ねばいいんだ――もう、どうでもいいんだ、本当は
よくも、よくも俺の大切なメンバーを、俺の理想を、俺の全てを。
みんな死ね。
何もかもなくなればいいんだ。
KOHTAもTAKEOも死んでしまう。誰か一人でも欠けたら意味がない。
だったら跡形も無くなくなってしまえ。
俺は死なない。
俺の手で、PIERROTを終わらせるんだ――
キリトは正気のまま狂っていた。
774 :
生姜:02/04/29 00:08 ID:HHprYylM
くそっ、人を利用するだけ利用しやがって……用が済んだらポイ、かよッ……!
潤は自分を騙した河村を、東海林をINORANをマネージャー達を、そして、自らの安全のために安易に仲間を裏切った自分を呪った。
「メジャーでも安定してます」などと言われて渋るキリトにこの事務所入りを安易に賛成してみせた自らを呪った。
ヴィジュアル系音楽業界はとかく謎が多い。何か裏が、闇の部分があるに違いない。そう思ってアンテナを張りつづけてはいた。
そうしていち早く「プログラム」の存在を察知し、アシスタントの役割と安全を手に入れた、つもりだったが。
業界の「闇」を手玉に取ったと浮かれていたが、実際に手玉に取られていたのは……
「俺だった」
潤は思わず口にする。
あれだけの組織だ。その闇は巨大で、俺のような中卒の手で何とかなるものではなかったのだ。
少し考えれば判る筈だったのに。
甘かった……。
結局、俺は無意味に仲間を裏切ることになってしまった。
もう、誰も俺を信用してくれまい。Gacktさんも俺とは行動してくれなかった。
「一人、か……」
チームメイトを裏切った報いだろう。
空を仰ぎ見る。日はまさに暮れようとしていた。
775 :
生姜:02/04/29 00:08 ID:HHprYylM
「一人か……」
もう一度つぶやいてから、潤は気がついた。
何を俺は弱気になっているんだ。
俺はずっと一人遊びが得意、でやってきたんじゃないか。
そうさ、これからだって、やれるさ。
潤は自分を鼓舞しようと右手の拳銃を(説明書にはスミスアンドウエスンM59オートと書かれていた)を握り締めた。
誰かさんに比べたら、月とすっぽんな当たりだ。
俺はまだまだついている。神に見放されたわけでもなさそうだ。
潤はもう一度拳銃を握り締める。
「大丈夫、俺はやれるさ」
潤は自分にそう言い聞かせた。
776 :
生姜:02/04/29 00:09 ID:HHprYylM
暑い。じりじりと照りつける日射しに、TAKEOは帽子を目深にかぶり直す。
セミの声に混じって、スタッフの怒号が聞こえる。アリーナの方からだ。ここは…西武?
いつの間にかスタンド席に立っていたTAKEOは、走ってステージに向かった。
明日、本番だったっけ。みんな真っ黒になって…ああ、マジあっちーよな。TAKEOはステージの上にゆっくり歩き出す。
「おーい、TAKEO、おまえも入れよ!」聞き覚えのある声が呼んでいる。えっ?……ああ、あれはキリトだ………
そうすると入念に打ち合わせしているのがアイジと潤、汗を川の流れのように流してるのがKOHTAで……
なんだ、みんないるぞ、みんな一緒なんだ。
TAKEOは笑ってかけ出す。どんなに暑い日だって、いつだって、音楽をやってたんだ………だから今日も。
777 :
生姜:02/04/29 00:10 ID:HHprYylM
セッティングされたドラムの前に座る。扱い慣れたスティック。先はボロボロだ。
マイクの調整が上手くいかなくて不機嫌そうなキリト。冗談を言い合って笑いあっているギター隊。あまりに汗を流しすぎて喉が
渇いているのかペットボトルのお茶を一気飲みしているKOHTA。
TAKEOはこの光景を直視することができない。まぶしすぎるからか?それとも、溢れ出る涙のせいだろうか?
それからTAKEOがハイハットを鳴らす。センターにはキリト。走り去る機材車の音が響く。
ああ、ライブだ、なんて楽しいんだろう。くだらない腹の探り合いなんてない。俺につまらない文句を付けるやつもいない。
キリトが高々と右腕を天に伸ばす。TAKEOはそれを合図にバスとスネアを思い切り鳴らす。客席にはスタッフが点在する寂しげなドームの
中に、自分たちの会心のサウンドが溢れる。TAKEOはそれを永遠のように感じた。
778 :
生姜:02/04/29 00:10 ID:HHprYylM
気がつくともう真っ赤に染まった夕暮れ、いつのまにかTAKEOはドームにひとりぼっちだ。
ああ、みんなどうしたんだろう。もう帰っちゃったのかな?どんどん暗くなっていく………
ここは寒いな、俺を置いていかないでくれよ、俺もお前らと一緒に………いつまでも一緒に………
TAKEOは目を覚ました。――夢か……いつのまに眠ってしまったんだろう。
12月の夕方は、空気が身を千切れるように痛くて、冷たい。これからますます気温が落ちる。危ない危ない。移動しなくては。
こんな夢を見てるようじゃダメだ、もっとしっかりするんだ。もっとしっかりしないと………
しかしTAKEOは、震える自分の体を抱きしめたまま、しばらくそこを動くことができなかった。
779 :
Nana:02/04/29 00:13 ID:NL/eIlC.
何かスリリングな展開!と思ってドキドキしながら読みました。
ああ、しかし、アイジ…(涙)ピエラーではないですが、胸にくるものが
ありました。
生姜さん、続きも期待してます!
780 :
Nana:02/04/29 00:34 ID:WioI/S4A
ちょっと遅くなったかもしれないけど(苦笑)、
アイジとTAKEOの所泣きました……。(←アイジャー)
こんな結末に持って行ってもらえて良かったです。
作者さんありがとう!
生姜サソ大量更新ありがd&乙カレー
対TAIZOの時はちょっとひいたが
アイジとTAKEOのとこ、うるっときたYO……⊃д`)グスン
782 :
Nana:02/04/29 04:04 ID:eONXnrrY
アイジが千草か。
783 :
Nana:02/04/29 04:08 ID:eONXnrrY
登場人物が男ばっかりだから辛いねぇ(ワラ
ヘタするとフォモ同人になりかねんYO
784 :
Nana:02/04/29 08:58 ID:zVbW4tlA
今書いてるのって1(ガクトが主人公の)書いてた人と同じ人?
…どっちにしてもプロ級と感じてしまうのは私だけ?(ニガ
ピエラーじゃないけどアイジとTAKEOのシーンにはナケタYO…
あぁぁぁ・・・・生姜さん最高っす。惚れる(違
アイジ・・・何気なく早く逝くんじゃないかと思ったけど・・・
TAKEOと合流できて良かったねぇ・・・
そして夢で立体化されて出てきてリバースしまくってたりする。(死
786 :
Nana:02/04/29 16:13 ID:L2GEUUH2
TAKEO、仇をとってくれ!(ナキ
787 :
生姜:02/04/29 22:52 ID:gVtDf6sU
「なあ、HISASHI、さっきからそのパソコンで何をやっているんだ?」
TAKURO(GLAY・上G)は先程からリンゴのマークのノートパソコンをいじり続けているHISASHI(GLAY・下G)に痺れを切らし、
邪魔しては悪いな、と思いつつもついに話し掛けた。
その半透明のリンゴのマークはi-Bookの証。TAKUROはパソコンやネットといった物には疎かったが(せいぜいおねえちゃんのパンツを
こっそり見る位)、こればかりは趣味のウィンドウショッピングの最中、VAIOと共に幾度となくあちこちの電気屋で見かけている。
だから、これがかなり上等のパソコンであることぐらいはわかった。そして、HISASHIがTAKUROより遥かにこのマシンやネットについて
詳しいことも、何となくわかっていた。
HISASHIは一心不乱にキーボードを叩き続けるかと思えば、急に考え込んだり、
「なるほど、こうか」「くそ、そこまでは甘くはないか……」などと呟いたりする。
TAKUROは「変な奴が来ないか、見張っていてくれ」とHISASHIから渡されたベレッタを握ったまま放置プレイだ。
変な奴って何だよ、今の状況じゃお前が一番変な奴だよ――などとは言えなかったので黙っていたが。
ちなみにTAKUROが支給された武器は梵字が描かれた旗だった。おいおい、何だこりゃ。これで人を殺せって言うのか。必殺シリーズの
最低視聴率を記録した番組じゃあるまいし、馬鹿げている。スタッフ陣に必殺ファンでもいたのか、この事務所には。
そう、HISASHI同様、TAKUROも突然背後から襲われ拉致された挙げ句にこの島に連れてこられたのだった(二人揃って後頭部に
同じような瘤が出来ている。全く、もう少し紳士的な方法で参加を要請するとか出来なかったのだろうか?もっとも、そんな要請、
言葉巧みに騙されでもしない限り1000%受けるわけもないけど)。訳も分からないまま、とにかくデイパックを持たされ会場を
追い出され島を彷徨う内、やっと、このイベントがSWEET HEARTの催す悪魔の祭典、SWEET TRANCEプログラム――HISASHIに教わった
アングラサイトで、そんなような噂を目にしたことがあった――であるということに気づいたのであった。
788 :
生姜:02/04/29 22:53 ID:gVtDf6sU
なんてこった!一体どうしてこの俺が――――!!!!!
当然、彼は錯乱し、エクスタシーの先輩である河村を恨み呪った(その様は筆舌に耐えない物であった)。
しかし、TAKUROはまだ幸せな方だった。
こんなクソゲームの最中に、最も信頼する仲間の一人である、同じバンドのメンバーに再会できたのだから。
高校時代から知ってる『彼』は、今のTAKUROにとって何よりも安心できる存在なのだった。
さて、そのHISASHIはTAKUROの問いに対し振り向きもせずに「まあ、ちょっと待っていてくれ――もう――少しだ」と答える。
HISASHIがもう少しキーボードを叩き続けると、ウィンドゥの中に"%"だの"#"だのが混じった英文が流れ始め、HISASHIもそれに
呼応してキーボードを打ち返す。
「よし」
HISASHIはつぶやくと、最後にデータをダウンロードするように指示し、手を止めた。
後はダウンロード終了を待つだけだ(もっとも、終わったらログを書き換えて証拠を消さなければならない)。
その後は、手に入れたデータをもとに作戦を練ることになる。
単にデータを書き換えるか、それとも独自のプログラムを組んで相手をより巧妙に騙すか。
後者の場合ちょっと手間ではあるが、まあ半日もあればなんとかなるだろう。さすが俺。電脳ヒーローHISASHI様だ。
789 :
生姜:02/04/29 22:53 ID:gVtDf6sU
「HISASHI、説明してくれよ」
TAKUROがもう一度言うと、HISASHIはニヤリと笑って、iBookから身体を離し立木に身を預ける。我ながら少し興奮しているな、
と思えたので気を落ちつかせるために一つ息をついた。
無理もない。さっきTAKUROに「見張っていてくれ」と言った時点ではどう出るか確信が持てなかったのだが。
今は――勝ったも同然だ。
ゆっくり、口を開く。
「とにかく俺は、ここから逃げることを考えた」
TAKUROが頷く。
「それでな」HISASHIは自分の首を指差す。HISASHI自身には見ることはできないが、TAKUROには、TAKURO自身も首に巻かれている
同じ鈍い銀色の首輪が見えているはずだ。それは皮肉にも、HISASHI自身かつてステージ衣装と共にアクセサリとして付けていた
あの首輪と、デザインが酷似していた。
「本当はな、こいつを何とかして外したかった。これのおかげでこちらの位置があのクソ野郎どもにばれているわけだ。つまり、
今俺が、お前と一緒に居ることも。こいつのおかげで俺達は逃げようとしても簡単に捕捉されるし、あるいは、中の爆弾に電波を
送られて一発で殺されてしまう。……何とか外したかった」
HISASHIはそこで手を大きく開いた。肩を竦めて見せる。
790 :
生姜:02/04/29 22:53 ID:gVtDf6sU
「だけど、諦めた。中がどうなっているかわからない以上、いじりようがない。きっと分解したら爆発するような仕組みぐらいには
なっている筈。多分、起爆用のコードが内側に張り巡らされているんだろう。そいつを切ったら」
「ドカンといく、のか?」
HISASHIは右手でTAKUROを指差す。
「ご名答。そんなところだろう。そうなれば危ない橋は渡れない。あるいは、首と首輪の間に鉄板をはさんで……とも思ったけど、
まあ、多分、挟める程度の鉄板じゃ鉄板と一緒に首も身体と泣く泣くサヨナラだろうな」
TAKUROがまた頷く。
「そこで俺はまた考えた。ならいっそのこと、俺達の捕捉、そして首輪の爆破用の電波を管轄する本部のコンピュータ、あれだ、
あれに一働きしてもらおうと。………言ってる意味わかる?」
そう、現代の社会は情報戦。そしてHISASHIはギターヒーローであると共に電脳世界のヒーロー(自称)だ。どのバンドマンよりも
情報を溜めこんでおかなければならない。その情報を効率良く扱うにはやはりコンピュータは必須。
というわけでHISASHIはより良いギタリスト――いや、ここでは敢えてアーティストと言おう――であろうとするために、コンピュータの
扱いには習熟していった。というより、元から単なるオタクであった。最近ではクラッキングの技術もひとかどのものとなり、
あの防衛庁のデータベースにも侵入し、データを盗み取った事もある。
まあ、そんな努力は、GLAYの見てくれだけでキャーキャー熱狂するファンにはサッパリ伝わらなかったようだが。
TAKUROは首を縦に振る。
791 :
生姜:02/04/29 22:54 ID:gVtDf6sU
「うん、まあハッキングをしかけようと思ったわけ。それで俺はパソコンを探した。接続のために必要な携帯電話は持ってるしね。
このクソゲームは私物の持ち込みは許可しているようで何よりだった。その辺の民家の電話回線が使えるとは思えないし。
まあ、こんなことなら俺の愛機を持ってくれば良かったんだけど、まあ仕方がない。このiBookが見つかったから良いとする。
後は電源だけど、そのバッテリはそこらの車から外した。電圧の調整はまあ俺らもよく海外に飛んでるし、常にそれなりのコンバータは
携帯している。簡単だ」
HISASHIの説明でTAKUROは漸く地面に直接置かれたiBookと携帯電話が一体何をしているのか理解し始めたらしく、
小さく何度も頷いていたが、急に何か思いついたように口を挟んだ。
「ちょっと待ってくれ、俺も携帯をかけてみたんだが繋がらなかったぞ?」
HISASHIはニヤリと笑って「ちょっとお前の携帯貸してみろ」と言った。
TAKUROが携帯を渡すと、HISASHIはまたニヤリと笑う。
「J-PHONE、しかもGLAY携帯!(爆ワラ)か、貧乏臭せぇ〜お前。まあそんなことはどうでも良いや。あのな、J-PHONEはどの国の
電話会社だ?ここが日本であるなんて、誰が言ったんだ?」
TAKUROは「えっ、……そ、そういえばそうだよな」と納得しかけたが、すぐに立ち直って
「じゃあ、ここはどこなんだよ?それに、どうしてお前の携帯は繋がるんだよ?質問に答えてないぞ?」
と切り返した。
792 :
生姜:02/04/29 22:54 ID:gVtDf6sU
「そりゃ、俺の携帯は特別だからな。あ、でも俺もここがどこかはわかんないよ。……日本じゃないことは確かだと思うけど」
とHISASHIは言うと、iBookに繋がったままの携帯を持ち上げて示した。
その携帯には「Irdium」と刻まれている。
「イリジウムだ。聞いたことないか?アメリカのイリジウム社がが1998年秋にスタートさせた衛星携帯電話サーヴィス。
66基のイリジウム衛星を利用して地球上のどこからでも通話が可能という夢のサービス」
TAKUROは目を見張った。
「凄いじゃないか!でもそんなのを良くあいつらは見逃してたね、普通警戒しそうなものだけど」
「それがさ」HISASHIは答える。「ラッキーだったんだよ、非常にラッキーだった」
HISASHIはイリジウムについて語りだした。
793 :
Nana:02/04/29 22:54 ID:zbklQxRM
わぁお リアルタイムだ(´ー`)
生姜さんガムバッテ
794 :
生姜:02/04/29 22:55 ID:gVtDf6sU
イリジウムのサービスは夢のようなものだったが、加入者数が伸び悩み、投資を回収することができなかった。1999年8月に破産申請、
2000年3月にはサービス終了。日本では、旧DDIと京セラが資本参加し日本イリジウムを発足させ、日本におけるサービスの窓口と
なっていたが、アメリカイリジウム社の破産により、こちらも会社清算を余儀なくされた。
アメリカイリジウム社の倒産後、66基の衛星の破棄さえも検討されたのだが、新たに発足したイリジウムサテライト社が
アメリカイリジウム社の資産を買い取り、商業サービスの復活に向けて準備を進めていた。
そして今年、2001年3月には、世界各地の13社のサービスプロバイダーとの契約締結も済ませ、サービス提供、販売、保守の窓口が
用意された。サービスプロバイダーは、アメリカ、カナダ、イギリス、オランダ、ロシアなどに点在しているのだ。
「イリジウムの復活は日本ではほとんど報道されなかった。何せこれは日本では電波法違反なんだからな」
HISASHIは手に持った携帯をブラブラさせながら話を続ける。
「日本の電波免許って言うのは携帯一個一個について出すんじゃなくて、携帯を扱う会社に一括して渡す。キリがないから。ところが
今日本にはイリジウムの窓口がない。日本イリジウムは今は清算会社で、無線局免許については無線局廃止届が、
第一種電気通信事業者免許には事業廃止届けが出ていて、一切免許がない。だから、違法」
TAKUROはうんうんと頷く。
795 :
生姜:02/04/29 22:55 ID:gVtDf6sU
「だから日本ではイリジウムの復活を知っている人間はほとんど居ない。あいつらが見逃していても何ら不思議はないって事。
そして復活してからはデータ通信サービスもやるようになったんだ、イリジウムは。まさに天佑ってやつだ」
「それで?」TAKUROは続きをうながす。
「あとは大した話じゃない。通常電話用、それもアメリカのモジュラ用のモデムと携帯電話を繋ぐのはちょっと骨が折れたがな。
何せ満足に道具があるわけでもないし。しかし、それはまあ、俺の持ってる素晴らしい技術と経験で何とかやった。――それで、
とにかく電話回線に入った。それから一旦俺の家のマシンにアクセスした。クラック――ハッキングってのは、普通のインターネットと
違ってさ、特殊なツール――プログラムが、まあ暗号解読のソフトとかが要るんだ。そいつをまず取り寄せた。いや、俺が
ミュージシャンであるが故にマッカーで良かったよ。家にあるのがマックだったからこいつで全く同じように扱える。」
HISASHIはiBookを軽く叩く。
「俺はかなり直感で動いていたんだ。この華麗なるヴィジュアル系バンドを沢山抱えるSWEET HEARTの周りには金の亡者がいっぱいだからさ。
きっと俺達のこのゲームも賭けの対象になってる、そう読んだんだ。ところでインターネットと言ったら相場は何だと思う?」
TAKUROは首を傾げて返事とした。ていうか、もう、HISASHIの言ってることが大分訳が分からなくなっていた。
796 :
生姜:02/04/29 22:55 ID:gVtDf6sU
「リアルタイム更新だ。賭けの行方がどうなってるか皆知りたいだろ?それを随時お知らせするにはインターネットは最適なんだ。
そこで随時インターネットでお知らせをするにはこちらからデータを送らなければならないだろ?ということは本部の俺らを捕捉、
もしくは生殺与奪の権を握っているコンピュータもまたネットに接続されてるってことだ。ネットに接続されてるってことは、
クラック――ハッキングを仕掛けるチャンスもまた、あるってことだ」
「ははあ、なるほど(…よく分かんねぇけど)」
TAKUROは感心してHISASHIの話に聞き入るばかりだ。もちろんその間にも周囲ヘの警戒は怠ってはいないのだが。
「で、だ。まずはsweet-heart、もしくはsweet-groupの名が付くサーバをwebサーバだろうが何だろうが片っ端から当たった。
まあ普通の神経だったらそんな安易な名前はなあ、違法行為をやってるんだから避けるべきなんだろうが、何せ華麗なるSWEET HEARTの
周りには音楽バカばっかりだろ?バカと言えば何でもそうだけど、特にコンピュータに弱いのが相場だ。わかりやすい名前に
してるんじゃないかって読んだんだけど、これがビンゴ。見事に俺らが賭けの対象になっていて随時リアルタイム更新!何時何分に
どこそこバンドのパート何々の誰々が死亡!死因はキリトが射殺!だの何だの書かれているwebページが見つかったさ。今後の為に
ちょっとログを覗いておいたがアレだな、TAIZOとキリトとYURAが危険人物だな。まあTAIZOは死んだみたいだけど…」
TAKUROは不快感に顔を歪めたが、HISASHIは構わず話を続けた。
797 :
生姜:02/04/29 22:56 ID:gVtDf6sU
「そこがまあリアルタイム更新されていたってことは、そこへデータを送っているサーバがここの本部ってことさ。そこへ突っ込んだ。
こっちは多少面倒だったんだが、動ける範囲で色々調べてたら、寝ぼけたことに作業用のバックアップファイルを残していやがったんだな。
で、こいつを頂いた。細かいところは省くが、その中に一つ意味ありげな暗号文字があった。その解析をさっきお前に会うまで
こいつにやってもらっていたって訳。答えはこうだ」
HISASHIはiBookに手を伸ばし、通信状態はそのまま、別のメモファイルを開いて24ポイントの特大表示でTAKUROに示した。
TAKUROは覗きこむ。
798 :
生姜:02/04/29 22:56 ID:gVtDf6sU
“beautiful-kawamura”
「ビューティフル…河村……?」
「そう。ナルシストもここまで来ると大したもんだよな。くだらねえ母音入れ替えで暗号にしてあったんだが。まあとにかくこれが
ルートのパスワード。――あとはやり放題。今やってたんだけどな。今、本部のコンピュータの中のデータをまるごと頂いているところだ。
俺はそいつをいじってお返しする。そうすれば俺達を縛り付けているこの首輪を無効にしておさらばさ。やつらは本部の回りを
禁止エリアで囲んで俺達がもう近づけないと安心しているようだが、俺達はそこを急襲できるって寸法。そして、一旦あの本部を
押さえれば他の連中――まあキリトとYURAは考えものだけど――を助けることだってできないわけじゃない。あるいはそれが無理でも、
俺達がもう死んだことにして、二人でとっととここをおさらばすることはできる」
そこまで一気に喋って一呼吸置き、HISASHIはまたニヤリと笑った。「どうだ?」
もはや、TAKUROは放心したような表情をしていた。「凄い」とだけ言った。
HISASHIもその素直な反応に満足してにこっと笑った。
ありがとう、TAKURO。何にせよ、自分の能力を誰かに褒めてもらうのは嬉しいことだね。特に、メジャーデビューする前、
YOSHIKIさんから「僕の考えるGLAYには、ぶっちゃけTERUの声とTAKUROの作曲能力以外はいらないんだよね」なんて言われた俺には。
799 :
生姜:02/04/29 22:57 ID:gVtDf6sU
「HISASHI――」
まだその放心したような顔のまま、TAKUROが口を開いたので、HISASHIは眉を持ち上げた。
「何だ?何かまだ聞きたいことでもあるか?」
「いや――」TAKUROは首を振った「あの――あのさ」
「何だよ?」
TAKUROは視線を落として、手にしているベレッタ(それは、彼には酷く不釣り合いの物だった)を少し眺め、それからまた顔を上げた。
「あの、――何で、お前は俺と一緒に行動してくれるんだ?俺、マジで音楽以外何にもお前の役に立てないし、むしろ足手まといだし」
HISASHIはニヤリと笑った。
「俺達、ずっと一緒だったろ。それだけさ」
HISASHIはそこで一旦言葉を切ると、真剣な目でTAKUROの目を覗きこんだ。
「俺はお前を信頼する。信頼したい。それで良いじゃないか。このゲームは信頼できなくなったら負けだ、俺はそう思ってる」
「ありがとう」
その言葉にまたHISASHIの表情は柔和なものに変わる。
「水臭せぇ、俺ら、GLAYじゃんか。仲間じゃんか。まあ、その仲間同志で殺しあっている奴らもいるんだから、まあ無理もないけど」
そして、ぴゅうと口笛を吹いた時に、その口笛以外にぶん、という音をHISASHIは聞いた。
HISASHIは眉根を寄せ、いささか慌てて腰を上げた。なぜならその音はマッキントッシュ標準の警告音だったからだ。
HISASHIはまたiBookの前に膝を付き、その画面に見入った。そして目を見張った。
そこに出ているメッセージは、回線が切断され、ダウンロードが中断した旨を継げていた。
800 :
生姜:02/04/29 22:57 ID:gVtDf6sU
「――何でだ」
HISASHIの口から漏れた声は、うめきに近いものだったかもしれない。
慌てて、キーボードを操作する。しかし、回復は叶わなかった。電話回線自体は繋がっている。そりゃそうだ、あいつらがイリジウムに
手を出せる筈がない。
しかしもうプログラム関連ヘのサーバの接続は全く出来なくなっていた。ご丁寧に所属アーティストの公式サイトにまで接続は
できなくなっていた。
慌てて匿名プロクシをあさったが、それではアーティスト達のライブスケジュールを見ることはできても、肝心のプログラム関連の
サーバには接続できなかった。
馬鹿な――。HISASHIは今は停止しているiBookの画面を呆然と眺めていた。
クラッキングを気付かれたわけがない、そもそも気付かれないようにやるからクラッキングなのだ。そして、HISASHIには十分に
その技術があった。
「HISASHI?どうしたんだ、HISASHI?」
TAKUROが方の後ろから声を掛けたが、原は答えることができなかった。
その時だった。
「みんな〜〜〜〜〜〜っ!!!」という、耳障りなキンキン声が暮れゆく孤島の中に響き渡ったのは。
801 :
Nana:02/04/30 23:59 ID:pGUObm02
今日は更新お休みなんでしょうか?
尚好きなんで続きが気になるーー
802 :
Nana:02/05/01 00:10 ID:9rDP17AU
今日はお休みですか?更新、楽しみに待たせて頂きますね。
803 :
生姜:02/05/01 10:07 ID:Nzwf0mW2
YOSHIKIは代々木体育館のVIP席でモニタに映し出されるミュージシャン達の安否に見入っていた。
脇にはいつものように星子、さらのその隣の席には大島暁美が座って星子と何やら話し込んでいた。
下の関係者用席には賭けの参加者がモニタを見ながらミュージシャン達の生死に一喜一憂している。
手元のモニタにチャイムのような独特な音が鳴った。どうやらテレビ電話回線を通じて河村が話をしたいらしい。
チャイムのような音は、 その呼び出し音だった。
「ああ、RYU。例の指揮の方、お疲れさま」。YOSHIKIが声をかける。
「いえいえ、YOSHIKIさん。お楽しみのところ、突然お邪魔してすみません」と河村は用件を切り出した。それは潤とGacktを
「プログラム」に参加される事にした、というものだった。
「結局参加させるんだ?」YOSHIKIは少し苦笑しながら言った。
「ええ、アイジだけ可哀想な目に遭わせたら、不公平ですからね。」
YOSHIKIは内心、「本当は不公平だからではなく自分がプログラムを愉しみたいからだろう」と思ったが、
それは河村だけでなくYOSHIKI自身、そして賭けの参加者だってこの言い知れぬ爽快感は同じ事だ、とも思った。
804 :
生姜:02/05/01 10:08 ID:Nzwf0mW2
そこへ大島が一言入れてきた。「ところでYOSHIKI、潤にGacktは賭けの対象になってなかったんじゃないの?」
Gackt、潤、アイジの3人は最初から参加してはいなかったので事務所側が賭けの対象にしていなかったのだった。
大島はさらに続ける。「ここでどうだろ。ここら辺でもう一個………」
YOSHIKIは大島が何を言わんとしてるのかをすぐに察知した。「つまり、新たな賭けをしようって訳か。それはいいな」
河村がモニタの向こうから「面白い。大島さん、素晴らしいアイデアです」と乗り気になる。
「既に外れた人は手持ち無沙汰だろうし、敗者復活戦といこうか。まだ外していない人はさらに金を増やせるチャンスだね。
これから準備が出来るかどうか確認する。出来るようなら早急に支度させる」YOSHIKIはこれを承諾した。
河村がワクワクしながら言った。「Gacktと潤でどちらが長く生き延びられるか、ってのはどうでしょう?」
YOSHIKIは「いいね、賭けの内容はそれで決まり」と不敵な笑みを浮かべる。
大島が続いた。「これでまたあたしたちの利益が増えそうね、YOSHIKI」
事務所本部では早速出来るかどうか検討していた。そして1日以内に準備できるとの解答を出した。
Gackt、潤を参加させるのは賭けの受付開始の次の日という事も決まった。
これが2人が参加させられるまでの経緯である。勿論2人ともそんな事を知らず利用されていたのだった。
805 :
生姜:02/05/01 10:08 ID:Nzwf0mW2
星子は席を外しトイレで独り小躍りしていた。
この「プログラム」でこき使われるは唯一の楽しみだった賭けの方も竜太朗がさっさと死んでしまうはで踏んだり蹴ったり。
傲慢なYOSHIKIに対する憎しみのみが募っていた。
それは働かされる分だけの臨時手当ウン十万円は出るが、このメジャーデビュー間近のインディーバンドもビックリのこき使われ方はとても十万やそこらの働きではない。ミュージシャン達の方が大変なんだってのは慰めにもならなかった。
新たな賭けが始まるとまた忙しくはなるだろうがそれでも楽しみは出来る。
「少なくともさっきの負け分は取り返してやる」。星子は闘志満万だった。
そして星子は内心、「自分たちが利用されただけだと知った時、Gacktと潤はどんな顔をするんだろうか」
また楽しみが1つ増えた気がしていた。
806 :
生姜:02/05/01 10:09 ID:Nzwf0mW2
定時の放送が終わると、KOHTAはSUGIZOに肩を揺さぶられるまで、ぼう然としていた。無理もない。
アイジが、アイジが死んだ――
確かに、あの東海林の特徴ある語り口は、スピーカーを通して島中にその事実を伝えていた。
嘘だとKOHTAは思った。いや、思おうとした。
一体どうして?何故?アイジは俺達を裏切って――ああ、つまりそれは、アイジと潤だけは少なくとも無事でいられると言う事実
であった筈が――あくまで監視者であったはずが、一体いつの間に参加者に廻っていたのだろう。
少なくとも、今までの放送ではそんな事は聞いていない。
続いて、潤とGacktが参加者に加わったこと、二人は自分から志願してこの戦いに加わったこと(それはSUGIZOやJを激しく怒らせ、
またKOHTA自身を打ちのめした)が付け加えられた。特に、後の事項はやたらと強調して繰り返されていた。
信じられなかった。
潤は、やる気になっているのだろうか。アイジもそうだったのだろうか?
そりゃそうだ、なんせあいつらが最初に裏切ったのも、自分が一番可愛いからこそ。
自分のためなら、平気で他人など殺して回れるのだろうか。
仲間だと思っていたのに、なんで、なんであっさり裏切れるんだよ、お前らは――
807 :
生姜:02/05/01 10:09 ID:Nzwf0mW2
特にSUGIZOはアイジと同じギタリストと言うことで親しくしていただけに、余計ショックを受けているようだった。
だが、KOHTAにはそれ以前に、なんだか、自分の中で合点のいかない点が沢山あった。うまくはいえない。でも。
アイジとも潤とも、KOHTAは長い付き合いだ。彼らの性格はかなり把握してるつもりだった。
確かにあいつらは少し考えの足りないところがあるかも知れないけど(この際自分は棚上げとする)でも、進んで仲間を殺したがる様な
奴らではないはずだ。ああでも。もう何人も、こんな異常事態の中豹変していくバンドマン達を見ている。
彼らがそうじゃないと、どうして言い切れるのだろう。ああでも。いや、そんなはずは。
KOHTAはぐるぐる巡る考えの中、早くもいっぱいいっぱいになっていた。
だけど、決定的なことが一つだけある。それは。
もう2度とPIERROTはメンバー全員が揃わないと言う事実。
アイジはもう、この世にいない。
もう2度とあの変な動きをしながらギターを掻き回す彼の姿が見られない。
だけどやっぱり、KOHTAにはどうしても信じられなかった。信じたくなかった。
808 :
生姜:02/05/01 10:10 ID:Nzwf0mW2
プログラムを管轄するサーバヘの接続が断たれてから数時間が経過した。
あれから、プログラムにクラッキングは掛けられなくても、外部に情報を伝えて救助に来てもらえれば、と思ったが。
「くそッ!」
HISASHIは腹立ちを隠し切れず、地面を思いきり叩いた。
TAKUROはびっくりして振り返る。HISASHIは口を開いた。
「ダメだ。クラッ――ハッキングは失敗した。理由はわからないが、感づかれたらしい」
TAKUROはすっかり意気消沈したようだった。
「でもまだやつらはイリジウムに手は出せていないようだ。そりゃそうだ、衛星は大気圏外だし、本社もアメリカ本土だ。
手が出せるはずがない。そこで、俺はこいつで助けを求めようとしたんだが」
HISASHIはTAKUROにイリジウムの携帯を見せる。
「ああ」
「ダメだ。俺の実家にも、親戚にも、俺のパソコンにも繋がらない。回線は生きているのに、だ。多分、お前の実家も繋がらないだろう、
かけてみなよ」
HISASHIはイリジウムの携帯電話機をTAKUROに投げて寄越した。
809 :
生姜:02/05/01 10:10 ID:Nzwf0mW2
TAKUROは電話番号をプッシュすると、携帯を耳に当て、またプッシュし、耳に当てを数度繰り返していたが。
「ダメだ。ずっと話し中だ」
HISASHIは携帯を受け取ると苦々しげに言った。
「きっと向こうの電話回線の方に仕掛けをしやがったんだ。ご苦労なことだな。でも警察の回線にまでちょっかいを出せるほど
大胆じゃないだろうと思ってかけてみたんだが」
「繋がらなかった?」
「いや、繋がった。でもな、信じてはくれなかった。それに信じてくれたところで日本の警察では……何もすることができない……」
HISASHIは苦渋に満ちた表情と言えば、これだ、と思わせるような表情をしていた。
「そうか……」
「ならばこれをせいぜいネット上で流布して、とも思ったんだが、こうだよ」
HISASHIはiBookを回転させて、モニタを鈴木に見せた。
※ ※ ※
810 :
生姜:02/05/01 10:10 ID:Nzwf0mW2
【大事件】ヴィジュアル系バンドを襲う悪魔の祭典【大事件】
1 :HISASHI@本人◆電脳ヲタ 投稿日:01/12/09 15:48 ID:stdio.h
河村隆一を首謀者としてSWEET TRANCEの名を冠したイベントが行われている。
イベントというとなんだか楽しげだが中身はこの世の終わり、地獄絵図だ。
実際にはヴィジュアル系の売り上げを上げるためとか訳のわからないことを言って
ミュージシャン同士に殺し合いをさせているんだ。
もう、元LUNA SEAの真矢や、ラクリマのTAKAなんかも殺された。
警察に言っても信じてはくれない、何とかこの話を広めてくれ。
そうすれば今生きのこっているメンバーだけは助かるかも知れない。
俺らを助けてくれ!
811 :
生姜:02/05/01 10:11 ID:Nzwf0mW2
2 :1を見ないでカキコ :01/12/09 15:48 ID:6/ryxI/O
2げっと_
3 :_ :01/12/09 15:48 ID:lf3Y1+V/
>>1 ソースは?
4 :Nana :01/12/09 15:49 ID:i3eSP/EW
嘘でしょ?
5 :Nana :01/12/09 15:49 ID:aA/3WWDE
感動した
812 :
生姜:02/05/01 10:11 ID:Nzwf0mW2
6 :HISASHI@本人◆電脳ヲタ :01/12/09 15:50 ID:stdio.h
>>3 所詮閉鎖された業界での出来事なんだ。
ソースなんかありはしない。
まだ生きている、才能あるミュージシャン達のためにも、ここはひとつ俺を信じて
web上にこの話を撒いてくれないか? それだけでもおそらくだいぶ違うから。
7 :_ :01/12/09 15:50 ID:lf3Y1+V/
>>6 ソースが無いんじゃ信用できないなあ(ワラ
8 : 投稿日:01/12/09 15:50 ID:3MgtAUl0
そもそもラクリマって何だよ?
813 :
生姜:02/05/01 10:12 ID:Nzwf0mW2
9 :キチガイ警報! :01/12/09 15:51 ID:sQnP68j+
http://www.yahoo.co.jp/ 正しい情報はこちらで
10 :HISASHI@本人◆電脳ヲタ :01/12/09 15:51 ID:stdio.h
そんなに信用するのが嫌か?
ちょっと信用してあちこちに情報を流してくれれば人が助かるかもしれないってのに
嘘をつくならもっとメジャーなアーティストの名を騙るよ。
11 :Nana :01/12/09 15:52 ID:jsL0jBLz
∧ ∧ ┌─────────────
(´ー`) < シラネーヨ
\ < └───/|────────
\.\______//
\ /
∪∪ ̄∪∪
814 :
生姜:02/05/01 10:13 ID:Nzwf0mW2
12 :Nana :01/12/09 15:51 ID:MFmjSq2B
アンチヴィジュでもこれはやり過ぎだろう。
冗談きついぞ
>>1 13 :Nana :01/12/09 15:52 ID:js2Kooa
HISASHIってGLAYの?本人?まさかね(ワラ
14 :HISASHI@本人◆電脳ヲタ :01/12/09 15:52 ID:stdio.h
俺が冗談を言っていると思うのか?
それくらい自分の頭で考えて判断してくれ……
815 :
生姜:02/05/01 10:14 ID:Nzwf0mW2
15 :Nana :01/12/09 15:53 ID:aA/3WWDE
漏れの頭で考えて判断したところ
>>14はキチガイと出ました。
16 :キチガイ警報! :01/12/09 15:53 ID:sQnP68j+
http://www.yahoo.co.jp/ 正しい情報はこちらで
17 :石黒彩チャソマンセー@モーヲタ :01/12/09 15:54 ID:HWhVzYSW
まあ本当なら真矢が死んだ事は嬉しい。
今夜は赤飯だ。
※ ※ ※
816 :
生姜:02/05/01 10:14 ID:Nzwf0mW2
この後は訳のわからない言葉や罵詈雑言、記号を組み合わせて作った絵のようなものばかりで読むに耐えないものだった。
TAKUROは顔を上げてHISASHIの顔を覗きこんだ。HISASHIは苦笑いする。
「誰もこんなこと信じてくれないんだよな。多分、信じてくれるのは血の繋がった人間ぐらいだろう。そのことを見越して回線ヘの細工を最小限にしてやがるんだぜ、やつらは。それで俺らが信用してもらえず落胆している様を笑って見ているのさ。なんて趣味だよ」
とまで言って、HISASHIははたとあることに気付き、「それ」に気づいた時と同様、自分の首に巻かれた首輪に手をやった。
やつらが知った以上、自分は、即座にこの中の火薬を爆破され、殺されていてもおかしくなかったということだった。多分、TAKUROも一緒に。
おかげで、夜もかなり更けてから摂った支給されたパンと水は、ひときわまずく感じられた。TAKUROもすっかりしょげかえりあれから動こうとはしなかった。
だが――だがしかしだ。
俺をすぐに殺さなかったことを後悔させてやる。
HISASHIは右手を固く握り締めた。
2ちゃんがこんな所で絡んできてるよー・・・(藁
って言うかトリップか?w<◆電脳ヲタ
信じてやれよと言いたいがやはり2chではこんなもんだと納得する自分がなぁ・・・・w
818 :
Nana:02/05/01 19:28 ID:IOhtmOcc
2ちゃんネタおもろい(w
819 :
生姜:02/05/01 23:05 ID:VHK50Abc
キリトとKOHTAは4歳違いの兄弟だ。
今でこそ、弟の方がちょっと老け顔で落ち着きがあって年上のようにさえ見えることが多いが、子供の頃はキリトが「お兄ちゃん」として
KOHTAの面倒を見ていたりもした。
弟は兄の行くところへはどこでもついて来たがった。子供時代4歳の年齢差による行動可能範囲の差は大きい。兄にとって危険のない場所でも、
弟にとっては危険すぎる場所も多かった。
それでも、兄がそこにいると言うだけでKOHTAはなんとかしてそこへ行きつこうとしたものだった。
820 :
生姜:02/05/01 23:05 ID:VHK50Abc
背の高い薄が生い茂る野原。
そこを突っ切れば、キリトがよく遊んでいる川縁に行き着ける。
まだ幼い子供にとって、自分より遙かに丈のある薄野原はジャングルにも等しく。
それでも、早く兄の所へ行きたいKOHTAは、躊躇わずにその中へ入っていく。
そっちに俺はいないのに。
声を張り上げて、弟の背へ呼びかける。
秋風の音に、薄のざわめきに紛れて聞こえないのか、弟は振り向かずにどんどん進んでいく。
慌てて追いかける。
けれど、いつまで経っても追いつくことが出来ない。
声を張り上げる。
けれど、その声は届いていないのか弟は振り返らない。
821 :
生姜:02/05/01 23:06 ID:VHK50Abc
だめだ、そっちへ行っちゃ
そっちに俺は居ないんだ
危ないぞ、KOHTA
行 っ ちゃ ダ メ だ
小さな背が、遠ざかる。
薄が揺れ、その姿を覆い隠していく・・・。
822 :
生姜:02/05/01 23:06 ID:VHK50Abc
「みんな〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!」
東海林のり子のムカつくキンキン声が大気中に響いて、キリトは我に返った。
白昼夢だった。
思い詰めた状態で移動している内に、意識が遥か遠くの過去へ飛んでしまっていたらしい。
一気に現実が戻ってきた。
そこは鬱そうと生い茂る森の中で、キリトは今辺りを十分警戒しながら身を隠している。移動ばかりしていて、さすがに疲れた。
ほんの少しだけのつもりで座り込んだのだった。
なんでこんな事を思い出していたんだろう。
ほんの子供の頃の、些細な出来事の筈だった。今まで忘れていたほどの。
しかし、あの時と同じような、言いようのない焦燥感がキリトを苛んだ。
東海林のり子のアナウンスは続く。また何人か死んだらしい。ワイドショーでお馴染みのあのしめやかな口調で読み上げる死者の名前の中にKOHTAとTAKEOは含まれていなかった。その中には自分が手を下したバンドマンの名もあったが、キリトにはどうでも良かった。
良かった、PIERROTはまだ、全員生きている。
が。
半分以上アナウンスを聞き流していたキリトの目が、ふと見開かれた。
確かに今、東海林は言ったのだ。
アイジが死んだと。
823 :
生姜:02/05/01 23:10 ID:VHK50Abc
一つ懸念はあるが……とにかく作戦は立った。
決行はできるだけ早いほうが良いだろう。
HISASHIは立ちあがると、膝を抱えて視線をぼんやり地面に落としていたTAKUROを呼んだ。
TAKUROは振り返った。その目が輝いている。
「何か思いついたのか?」と訊いて来た。
その時、そのTAKUROの何が気に障ったのか良くわからない。口調だったのか、言葉自体だったのか、とにかく、HISASHIの心のどこかで、
一瞬、何だよそりゃ、という声がした。俺が脱出方法について頭をひねっている間じゅう、お前はそこでぼんやり座ってりゃいいって
わけなのか?お前はファースト・フードを買いに来た客で、俺はその店員か?ちくしょう、だったら一緒にポテトもお召し上がりに
なったらどうだ。
――しかし、HISASHIはその声を押さえつけた。TAKUROの眼の下には明らかにくまができていた。疲労しているのだ。そしてその顔を
見てさらにHISASHIはある事に気づいてぎょっとした。今、TAKUROにちょっとでも腹を立てたということ自体、自分もまた疲れていること
の証拠なのだ。
勿論、助かる見こみがほとんどないこんな状況じゃ、神経が参らない方がおかしいかも知れないが。だめだ。気を付けなければならない。
そうでないと、
――これがいつものレコーディングならもう一度録り直しをすればいいだけのところだが――
このゲームでは当然の帰結として、死ぬことになる。HISASHIは気を取り直そうとして首を振った。
824 :
生姜:02/05/01 23:10 ID:VHK50Abc
「どうした?」TAKUROが訊き、HISASHIは顔を上げて、ニヤリと笑って見せた。
「いや、何でもない。それより、ちょっと地図を検討するぞ、いいか?」TAKUROがHISASHIの方にうすらデカい身体を寄せた。
「あ」HISASHIは声を上げた。「虫が這ってるぞ、お前。首のとこ!」TAKUROがそれで、びくっと首に手を持ち上げた。HISASHIは
「俺が見てやる」とそれを制し、TAKUROに近づいた。TAKUROの首筋に――実は別のものに、目をこらした。
「あ、逃げた」HISASHIは言い、TAKUROの後ろに回りこみ、さらに目をこらした。
「HISASHI。取れた?…HISASHI?」TAKUROが少し焦ってそう言うのを聞きながらも、HISASHIはさらに仔細に観察を続けた。それから、
TAKUROの首筋をさっと手で払った。存在しない虫を革のブーツの底で踏みつけ、それを摘み上げ(たフリをして)、茂みの奥へと放った
(フリをした)。
「取れたぞ」と言った。TAKUROの前に戻りながら「ムカデの小さいやつだな」と付け加えた。TAKUROが苦笑いしながら「あまりいい気は
しねぇな」と首筋をこすりながら、それが放り捨てられた(フリをした)方へ目をやって、顔をしかめた。HISASHIはニヤリと笑うと、
「さあ、地図だ」と声を掛けた。
TAKUROがそれで地図を覗きこみ――その地図が裏返しになっていることに気がついて、怪訝な顔をした。HISASHIは立てた人差し指を
ちょっと振って制すると、ボールペンを地図の裏面に走らせた。
“盗聴されていると思う”TAKUROが顔を引きつらせた。
825 :
生姜:02/05/01 23:10 ID:VHK50Abc
「マジ?!なんで、そんな事わかるんだよ?!」と尋ねる。HISASHIは慌ててそのTAKUROの口に手を伸ばす。TAKUROは目を丸く
見開いたまま頷いて了解の旨を伝えた。
HISASHIはその手を離すと「ああ、マジだ。あの虫には毒はない、俺は結構詳しいんだぞ?」と言いつつボールペンを走らせた。
“俺達は地図をみている。疑われるようなことを口にするな”
「いいか、それで、クラッキングが失敗した以上、これ以上打つ手はない」
カモフラージュのためにHISASHIは言い、続けて書く。
“だから、やつらは俺がお前に説明するのを聞いて、サーバに何か細工をしたんだ。俺が甘かった。やつらは、俺達のように
反抗しようって奴を想定していたはずだ。だったら、てっとりばやい予防策は盗聴、当然だ”
TAKUROも普段愛用のボールペンをポケットから出し、HISASHIが書いたすぐ下に文字を書きつける。
“こんな広い島にか?”
「だから、とにかく誰かを探そう。俺達二人じゃ何もできない。それで――」HISASHIは言いながら、自分の首につけられた首輪を
指で指し示した。TAKUROが頷く。
“今、お前の首輪を調べた。カメラまで内蔵してあるようには見えない。盗聴器だけだ。それと、その辺にカメラが仕掛けられている
様子もない。気になるのは人工衛星ぐらいだが、まあここなら木に覆われて俺達が何をしているかまではわからないはずだ”TAKUROが
また目を丸くして頭上を見上げると、梢が二人をブルーの空から遮断していた。
826 :
生姜:02/05/01 23:11 ID:VHK50Abc
TAKUROはそれから、はたと気がついたように顔を強張らせた。震える手でボールペンを走らせる。
“ハッキング、俺に話したから失敗した訳か”
HISASHIはTAKUROにニヤリと笑って見せた。
“それは全くその通りだけど、気にすんな。俺の不注意だ。やつらが気づいた時点で俺達、この首輪を吹っ飛ばされていたかも知れない。
やつらの仏心で俺達は生きてるってわけだ”
TAKUROがそれで首輪の巻かれた首筋に再び手を上げ、ぎょっとした表情を見せた。それから、暫くHISASHIの顔を眺めると、ぎゅっと唇を
結び、頷いた。HISASHIも頷き返す。
「大体みんなどこに隠れていそうかなんだが――」
“だから、これからの俺のプランをここに書く。俺は適当な事を喋るから、適当に合わせてくれ”
TAKUROは頷くと「だが、信用出来る奴なんてそんなにいるもんかね」と言った。HISASHIは満足げに頷いた。TAKUROも笑みを返す。
「そうだな、でも…そうだ、SUGIZOさんやJさんなら大丈夫じゃないか。何とか会いたい」
“先に一つ断っておく。ハッキングが巧く行っていたら他の連中をも助けられたかもしれないが、今はもう、俺達は自分が逃げることを
考えるしかない。いいな?”TAKUROはちょっと考えて、書いた。
827 :
生姜:02/05/01 23:11 ID:VHK50Abc
“SUGIJOさんも探さないのか?”焦って書いたのかSUGIZOとJが混ざっていたが、まあそんな事はどうでも良い。第一今は一刻を争うのだから、
言いたいことが伝われば充分だ。
“そうだ。辛いところだが今の俺達にはもうそんな余裕はない。いいか?”TAKUROは唇を噛み締めて頷いた。HISASHIは頷き返す。
“ただ、俺の考えていることが巧く行けば、このゲームは一時停止を余儀なくされる。そうなれば、他の奴らにも逃げ出すチャンスは
できるかも知れない”
「みんな、俺達みたいに山中に隠れていると思うか? 家の中に隠れるとか……」
「さあ――」HISASHIは次に書くことを考えていたが、先にTAKUROが書いた。
“考えている事?”
HISASHIは頷き、ボールペンを握り直した。
“実は俺は、あの失敗からこれまで、あることが起きるのをずっと待っている”そこまで書いて顔を上げた。TAKUROは首を傾げている。
続けて書きつける。
“このゲームの中止のアナウンスをだ。今も待っている”TAKUROがちょっと驚いた顔で、また首をひねった。HISASHIはさらにボールペン
を走らせる。
“おまえに色々話す前、本部のコンピュータに入った時に、俺は何よりまず、そこに入っている全ファイルのバックアップを探したんだ。
それと、ファイル検査ソフト。それはすぐに見つかった。それで、データを落とす前に、その二つにウィルスを仕掛けたんだ。保険としてな”
TAKUROが“ウィルス?”と声を出さずに口を動かした。HISASHIは頷く。
828 :
生姜:02/05/01 23:12 ID:VHK50Abc
“つまり、やつらが何かトラブルが起きたと判断して、ファイルを検査するか、それともバックアップからファイルを回復した時にだ、
ウィルスが本部のコンピュータシステムに入りこむようにした。もしそれをやったら、もう無茶苦茶なことになってゲームの続行は
不可能になるだろう”TAKUROが感心したように何度も頷いた。
“動き出したら全部のデータをぶっ壊して、『HOWEVER』だけをエンドレスで演奏する。俺達の不朽の名曲だ。あの連中、感動して
泣き叫ぶぜ”二人でひとしきり笑いを堪えるのに苦労すると、続きを書く。
“とにかく、さっきの俺のハッキングがばれて、やつらがそのファイル回復をやらないかと思ったんだ。そうしたらもう、ゲームは
中断せざるをえない。ところが、そうはなっていない。つまり、やつらは小手先だけのチェックで済ませたってわけだ。まあ、実際俺は
本体のファイルには全く手を出していないしな”
「シラミ潰しに探してみるか」
「――だが、危ないんじゃないか?」
「ああ、そうだが、まあこちらには銃があるし――」
“それで、だ。俺の作戦ってのはそのファイル回復を奴らにやらせることだ。そうすればウィルスが作動する”
HISASHIはiBookを引き寄せ、さっきまで眺めていた文書をTAKUROに見せた。
829 :
生姜:02/05/01 23:12 ID:VHK50Abc
データのダウンロードは中断されたが、それまでに手に入れたデータのうち、HISASHIが一番重要だと判断したデータだ。その横書きの
プレーンテキストには、左側にLU01やらPA02やら、一見意味不明なアルファベットと数字の組み合わせが、ところどころ飛び飛びに
並んでいる。その右にはランダムに見える16桁の番号が並んでいる。各行とも、その二つを半角のカンマが区切っていた。
ファイル自体の名前は“sweet-heart-program2001”というもの。
“何これ?”TAKUROが書いた。
HISASHIは頷いた。“俺はこれが、それぞれの首輪を管理するための暗証だとニラんでいる”
TAKUROが、ああ、というように大きく頷いた。
そう、即ち、左側のアルファベットのLはバンド名、数字は…パートごとに振り分けてあるのだろう。L01は見あたらずL03とL05は
抹消されているところから察するにおそらくLU02はSUGIZO、LU04はJだ。ということはPEはPIERROTでPAはPlastic tree。GLは…自分たち
GLAYだ。番号がご丁寧に4つ用意されている。
ああ、やはり。この島のどこかにTERUとJIROもいるのだ。HISASHIの胸中を新たな絶望感が満たそうとする。
二人とも、名前を呼ばれていないから生きているのだろうけど、彼らまで助けている余裕がない。自責の念に駆られながら、HISASHIは
この事をTAKUROに言うべきか否か、迷っていた。とりあえず、ボールペンを再び走らせた。
“思うんだけど、要するに、携帯電話と同じシステムなんだろう。それぞれの首輪の番号があって、同じに暗証番号がある。
爆破をする時にも、この番号を使う。つまり”
HISASHIは手を止めて、TAKUROの顔を見た。続ける。
830 :
生姜:02/05/01 23:12 ID:VHK50Abc
“データが、とりわけこの番号がウィルスにやられたら、俺達はもう、首輪を吹っ飛ばされる心配をしないで済む。ウィルスは一度活性化
したらガンガン感染するから、フロッピーや何かで予備を取っておいたとしても無駄だ。紙に手で書きとめられていたらちょっと厄介だけ
ど、それでもシステム自体は破壊される。時間稼ぎぐらいにはなるはず”
「目星を付けた所に石つぶての雨でも降らせて、誰か逃げ出して来るか確かめるってのはどう?」
「待てよ、まだ生き残ってる連中にはそんなに無害な連中はそういないんじゃねぇか?石つぶてを投げて鉛弾が返ってくるんじゃ、
割にあわないぜ」
「うーん…」
“どうやってそう仕向ける?”HISASHIは頷き、自分もまた字を書いた。
“本部を出るとき、スタッフらしき奴らがいた部屋を見たか?”TAKUROは頷いた。
“あそこにコンピュータがあった。覚えてるか?”
TAKUROは首を振った。“そんな余裕はなかった”
HISASHIは軽く笑った。
“俺は連中にガンつけがてらによく見ておいた。デスクトップがずらっと並び、大型サーバらしきものも一つ、置いてあった。それに、
堅苦しそうなスーツを着ているやつがいた。ありゃきっとコンピュータの技術者だ。つまり、間違いなくこのゲームを動かしている
コンピュータはあそこにある。だから俺達としては、本部を攻撃してデータに少しでも損傷があったと思わせればいいんだ。いや、
きちんと材料さえ揃えば、コンピュータ自体をふっとばすこともできるはず"
HISASHIはTAKUROの顔を見て、また続きを書く。
831 :
生姜:02/05/01 23:13 ID:VHK50Abc
“本部にハンドメイドの爆弾をぶつける。それから俺達は、海上へ逃走する”TAKUROが、今度こそ目を見開いた。“ばくだん?”と口を
動かす。HISASHIはニヤリと笑った。
「先に武器になるものを探しておいた方が良いかもしれないな。お前だって、そんな旗じゃなあ。必殺仕事人でもない限り戦えないだろう?」
「残念ながら俺は必殺仕事人じゃねぇしなあ」
“俺が欲しいのはガソリンだ。給油所がいくつかあったが、それはもうダメだ。この島にも何台か車はあるだろ。ガソリンは入ってるか
どうか知れないが、とにかく探す。最悪、軽油だ。それに、肥料”
TAKUROが眉を寄せた。
“肥料? バック・トゥ・ザ・フューチャーじゃあるまいし”こんな非常事態によくもまあくだらないことを思いつくやつだ。この分なら
こいつはまだ大丈夫だな。さすが、いざって時のリーダー様だぜ。
“硝酸アンモニウム。これとガソリンを混ぜると「硝安油材爆弾」別名ANFO爆弾ってのができる。1995年4月のオクラホマシティーの
連邦ビル爆破テロにも使われたやつだ。結構まともな爆弾だぜ?しかも、混ぜる比率を変えれば爆発した後有毒ガスが発生するオマケ付き
だ”HISASHIはポケットから、真鍮色の円筒を出し、TAKUROに示した。
“この中に雷管――起爆装置が入っている。何で俺がそんな物を持っているかは、ややこしいから省く。しかし、とにかくある”TAKUROは
怪訝な顔をしていたが、ペンを取り、書いた。
“だが、どうやってぶつける? 近づけないぞ?木ででかいパチンコのようなものでも作るのか?”ははあ、なるほど。HISASHIは笑んだ。
832 :
生姜:02/05/01 23:13 ID:VHK50Abc
“悪い手じゃないが、それじゃ狙いがイマイチ。何発も撃てるならいいけど、起爆装置はこの一個だけだから”
HISASHIは再び真鍮色の円筒を見せた。
“ロープと滑車だ”TAKUROはまだ首を傾げている。
“要するにな、ロープウェイだ。確かに本部のエリアにはもう近づけない。しかしこちらの山側と、本部をはさんだ向こうの平地側はまだ大丈夫”
HISASHIは一度地図を表の方へひっくり返し、TAKUROに見せた。また裏返す。
“山から平地ヘ、違うな、平地側から山側へロープを張る。多分300メートル以上は要るな。それで、ロープをぴんと張ったら、山の上から
滑車を付けた爆弾を滑らせる。本部の上にきたところで、ロープを切る。ちょっとした報復爆撃だ”TAKUROがまたしても感心したように、
何度も頷いていた。
「昼間のうちに動いた方が探しやすいかも知れないな」
「ああ、そうだな。誰かを探すよりは簡単だろうし」
“作業のためにも、その方が良い。滑車はどこかの井戸で見た。ガソリンは車から集める。問題は肥料とロープ。そんなに長いロープが
果たしてあるか”少しの間沈黙が落ちたが、TAKUROがすぐに、いそいそと書いた。
“だが、それしかないんだろ? やろう”
HISASHIは頷き、続けた。
833 :
生姜:02/05/01 23:13 ID:VHK50Abc
“うまく行けば、あのクソナルシストや無能なスタッフ連中のほとんどをやっつけられるかも知れない。しかし、とにかく、さっき書いた
とおりだ。データに傷がついたと思わせるだけで十分。そしたら”自分の首輪を指差す。
“これでやられることはなくなる”
そうすれば、この島のどこかにいるTERUとJIROも助かる――HISASHIの心がやっと少しだけ、晴れた。
“その後に海へ逃げるのか?”HISASHIは頷いた。
“今日は満月だから、潮流は早いと思う。巧くいけば近くの島まで泳ぎ着ける”TAKUROはうんうんと頷くと
“見張りの船はどうする”と書いた。HISASHIはそれに頷く。
“もちろん、見張り用の船なんだから発見される危険はある。しかし連中はコンピュータに頼り切っているだろう。油断しているさ。
見張りの船が東西南北に1隻ずつの計4隻というのも手薄だしな。仮に、やつらが人工衛星を押さえているとしてもだ、夜になれば
そんなもの。役に立ちはしないさ。そして、首輪を吹っ飛ばされることもない。ということは、俺達に逃げるチャンスができる”
“だが、それでも難しくないか?”
“一つ考えがある”HISASHIは、今度はデイパックに手を突っ込み、小型のトランシーバーを掴み出した。これもまた、民家で拾った物だ。
834 :
生姜:02/05/01 23:14 ID:VHK50Abc
“これをいじって少し出力を上げてみようと思う。そんなに手間は掛からないはずだ。それで海上に出たらいい加減なところで海難救助を
求める。釣り舟が転覆したとか、何とか”
“なるほど、それで近くの船に助けてもらうわけか”HISASHIは首を振った。
“違う、それぐらいのことなら読まれる。だから、嘘の位置を言うんだ。俺達が逃げるとは反対の地点を”TAKUROはかくかくと頷いた。
“すげぇな、HISASHIは”とまで書いた。そこで、HISASHIはニヤリと笑いながら書いた。
“それでも安心できないぞ、もしかしたらこの島の周りはサメが出る海域かもしれない”
TAKUROは目を丸くした。
“それじゃ俺ら、折角逃げても食われちまうじゃねぇか”
HISASHIはニヤリと笑う。
“まあでもそれも対処法を知っておけば大丈夫。そんなに長い距離を泳ぐことにもならないだろうし。サメが近づいてきたら十分に
引き付けて鼻面にパンチだ。サメは一回しかアタックしないという習性があるからこれを決めれば安心だ。まあ、そんなに出没回数も
多くないし大丈夫だろ”
“おどかしやがって”二人は声を立てずに笑った。
835 :
生姜:02/05/01 23:14 ID:VHK50Abc
「よし、じゃあ」時計を見る。17時を回っていた。もうすぐ、日が暮れる。ぐずぐずしている時間はない。
「5分後に行動開始だ」
「ああ」普段あまり字を書かないので、HISASHIは疲れてボールペンを放り出した。地図の裏面に、まるきりパソコン通信のログファイル
の用に大量の字が並んでいた
(本当は、ボールペンで字を書くぐらいならキーボードの方が良いが、喋りながらキーボードを叩いている音を盗聴されるのはあまりいた
だけないと思った)しかし、もう一度ボールペンを握って、書き足した。
“あまり良い計画とは言えない。無事に脱出できる可能性は低い。しかし、他には思いつかない”肩をすくめて、TAKUROの顔を見る。TAKUROがちょっと笑って書いた。
"やるしかないさ"
836 :
生姜:02/05/01 23:17 ID:VHK50Abc
AYA(Psycho le cemu・上G) は薄闇の中に身を潜めていた。
LEVINとやりあって以来、誰とも出会っておらず、無論殺してもいない。
二十四時間にわたってひとりの死人も出なければゲームオーバー、全員の首輪が仲良くドカン、というルールだが、
そんなに焦って殺して回る必要はない。
放送ごとの死者の増え具合は意外なほどで、そこから推すにこのゲームに乗った奴はおそらくひとりふたりではないはずだ。
時間切れという事態はまずあるまい、慎重を期すに如くはない。ことに手負いの自分は。
そう踏んでAYAは、しばしどこかに隠れていることにした。それがこの場所だ。
農家風の家の傍らにある、見てくれとしては波板の箱。口は二面に開いている。
どうやら農機具置場らしく、トラクターやら鋤鍬の類やらが雑然と並んでいた。
まともな建物ではかえっていざというときに対応しにくいと見てのことだった。
立て篭もるならいざ知らず、静粛に開閉する窓や扉は侵入者の察知を遅らせようし、きちんと掛かる鍵は逃げ道を塞ぎかねない。
その点ここならいくらかは外も見えれば音も通る。もちろん定時放送も聴ける。
ビニールトタンの壁はなんとなれば蹴破れるし手近な鍬でも使えばさらに容易に壊せる。
しばらくは、それこそ生き残りが片手の指で足りるくらいになるまではここで凌げよう。ちょっと、むさ苦しいけど。
だが――思いの外早く、AYAはそこを出ることになった。
837 :
生姜:02/05/01 23:17 ID:VHK50Abc
ひどく寒くそして暑く、喉が渇いて仕方がない。冬だというのに、一体この暑さは何だろう。
さほどの時を待たず、支給の水は空になった。
暑いのでなく熱いのだ、とやがて気付いた。つまり、自分が熱を出しているのだと。
発熱の原因は、LEVINに負わされた傷に違いなかった。
ただでさえそのために左手はろくに使えない、AYAはLEVINを恨みかけたが、むしろ逆で然るべきだろう、なにしろ――
LEVINを殺したのは誰だ?
そんなことより、水の調達手段を考えるべきだろう。
AYAは先刻、雨水を集めるタンクらしきものが母屋の裏手にあったのを見ていた。あれを開けるなり壊すなりすれば、
空ボトルを満たして余る水が手に入るに違いない。不味そうだが、この際背に腹は代えられない。
だが、外へ出るのは危険が伴うとわかっていた。なるべくなら避けたい。
それでAYAはしばらくは辛抱したが、どうにも耐えられなくなって腰を上げた。
外へ踏み出した瞬間に、視界の端で人影がびくっと足を止めるのが見えた。
もっともはたから見ればAYA自身もおおかた同じような反応をしていたのに違いないが。
ともかく――ほんの5メートルそこそこの距離に立っているそれが、AYAとは全く異世界の住人に等しい存在である、
JIRO(GLAY・Ba)であることはすぐにわかった。
838 :
生姜:02/05/01 23:17 ID:VHK50Abc
さらにJIROがその手に、ちょうどバットほどの、いわば手頃なサイズの棒切れを下げていることも。
何故彼がこんな所に?事務所も違うのに――しかし、今はそんな事はどうでも良かった。
逃げるかと思いきや、JIROは棒切れを振り上げて躍りかかってきた。
あるいはやけっぱちかもしれない、こちらの手にある銃が見えないはずもないのだから。
あれだけの超有名バンドのメンバーだ、死にたくなくて必死なのだろう。だけど、こっちだって死にたくない。
AYAは銃を持ち上げ、両手で構えた。続けて三度、引き金を引く。
JIROのセンスの良い高そうな服の腹が弾け、その身体が反転してうつぶせに倒れる。
左肩だけで掛けられていたデイパックが主を離れ、1メートルほど先にぼさっと落ちた。
同時に中身がこぼれて散らばる。
AYAの目はその中に混じった水のボトルへ吸い寄せられた。
引き剥がすのには少々努力と時間を要した。
幸いその間にJIROが起き上がることも、他の誰かが襲ってくることもなかった。
839 :
生姜:02/05/01 23:18 ID:VHK50Abc
AYAは改めて二呼吸ほど銃を構えたままJIROの様子を窺い、なんの動きも見せないことを――つまり仕留めたことを確認し、
さらに周囲を見回してからJIROの荷に近付いた。
屈み込んで、水ボトルのキャップを右手でひねる。
そのとき唐突に、まったく唐突に、AYAは後頭部に衝撃を感じた。
一瞬視界が暗くなる。立ち直る間もなく背後から、今度は喉へ圧迫が加わった。
まったく容赦のない力で絞め上げられて、呼吸ができない。
文字通り死に物狂いで右手の銃をJIROの胴に押しつけ――そこでやっと、銃なぞとうに手から離していたことに気付いた。
その事実は、AYAの気力を著しく削いだ。もちろん諦めたわけではないが、結局のところ、残った全てを費やしてさえAYAに
できたことは、自らの首にかかった腕を掴んで爪を食い込ませるところまでで――
それを振りほどくことはついにかなわなかった。
840 :
生姜:02/05/01 23:19 ID:VHK50Abc
だいぶ減ってきた禁止エリア以外のエリアを徘徊した結果、まずは農場らしき開けたスペースの側にあった倉庫であろう建物の中から、
あっさりと硝酸アンモニウムは発見された。また、そこには車から集めるまでもなく、燃料容器にたっぷりとガソリンも用意されていた。
滑車も、iBookを発見した家の隣の井戸から調達できた。
硝酸アンモニウムに並ぶ最大の問題はロープだった。
本部があるエリアを横切って張り渡すには、最低でも300メートルの長さが必要だ。しかも、作戦の決行直前までは主催者達に気付かれないよう、
かなり緩めておきたい。だから、本当はもっと長くとも良い。そんな長さのロープとなると、これは容易に見つかりそうにない。
農場の倉庫にもロープはあったが、せいぜい200メートルしかなかったし、それに、直径が3ミリもなく、強度に問題がありそうだった。
しかし、幸いなことに、あの、今はもう禁止エリアに入ってしまった港から海岸沿いに歩いたところで、個人用らしい漁具倉庫を見つける
ことができた。漁業用の、いささか潮にさらされ、風化したロープで、それに300メートル以上となるとひどい重さと量ではあったけれども、
そこは20万人ライブを決行したスーパーバンドGLAYのメンバー、HISASHIとTAKUROはひたすら気合いで手分けしてそれを運び、
農場の倉庫へと隠しておいた。
そして、材料は全部農場の倉庫へ隠したまま、二人は本部を見下ろせる山の上へ来ていた。
841 :
生姜:02/05/01 23:19 ID:VHK50Abc
TAKUROが肩を叩く。HISASHIはTAKUROへ顔を向けた。TAKUROが、ポケットから手帳を出して何かを書き始めた。
そう、動き出す前に、とにかく余計なことは一切喋らない、とメモ書きで確認しておいたのだ。
何せ――HISASHIがまだ何か“よからぬこと”を計画していると主催者達が知ったら、今度こそ容赦無く、遠隔操作でHISASHI達の首輪を
吹っとばすであろうことがはっきりしていたからだ。
主催者――つまり河村――がなぜすぐにHISASHIとTAKUROの首輪を吹っとばさなかったかはわかっている。
このゲームが“できるだけ、ミュージシャン同士を互いに戦わせる”ことをその目的としていること。
そして、自分達が賭けの対象になっているからだ。
胴元が賭けにポンポン介入するようでは信用を失い、賭けが成立しなくなってしまうからだろう。
勿論、賭けそのものを潰すような真似をすれば、あっさり殺されるだろうが。
――ただ、それがいつ起きても不思議ではないともいえる。何とか本部に爆弾をぶつけるまでそれが起こらないことを祈るばかり、
ということになる。
それは、勿論HISASHIの気には入らなかった。自分の生殺与奪の権を他人に握られて愉快な人間が居ようか。
しかし、それは今言っても仕方のないことだろう。本部から漏れる光を見ながらHISASHIは首を振った。
842 :
生姜:02/05/01 23:20 ID:VHK50Abc
TAKUROがメモを書き上げたらしく、また肩をつついたので、HISASHIは視線をTAKUROに戻して、それを覗きこんだ。
暗くて読みづらかったので、月明かりにかざしてみる。
“どうやってロープを張るんだ?”と書かれていた。
“ここからあんなロープを向こうまで投げるなんて無理だよな。それに、ロープはあの倉庫だ。一体どうするんだ?”
そう、そのあたりの説明はまだしていなかった。“ロープウェイ”の材料集めに必死で、それどころではなかったのだ。
HISASHIは小さく頷くと、自分もボールペンを取り出して手帳に書きつけた。普段はTAKUROが歌詞を思いついたときにでも活躍している
手帳なのだろう、それは角がかなりすり減って使い込まれていた。HISASHIは感傷に浸る間もなくボールペンを走らせる。
“糸を持ってきてある。それを張り渡し、向こうでロープと繋ぐ。あとでもう一度ここに来た時に糸を引っ張ってロープを手繰り寄せる。
決行の直前に”
TAKUROに渡す。TAKUROは目を凝らしてそれを読み、書いた。
“石か何かに結び付けて糸を飛ばすんだな?”
HISASHIは首を振った。TAKUROは、え?というように目を開き、それから少し考えて、書く。“弓矢みたいなものでも作るのか?それに
糸を繋いで飛ばす?”
HISASHIはまた首を振り、手帳を受け取ると、ボールペンを走らせる。
“それも良いかも知れない。なんせ俺は見ての通り肩が強い訳じゃないから300メートルはおろか100メートルだって遠投は無理。しかも、
狙いを外すわけにはいかない。もし外して本部に石だの矢だの当たってみろ。そうでなくても、失敗してどこかに引っかかって、
やり直そうとして引っ張って糸が切れたりしても、代わりはもうない。だから、もっと確実な方法をとる"
TAKUROはペンを取らずに首を傾げる。HISASHIは再び手帳を受け取ると、書いた。
843 :
生姜:02/05/01 23:20 ID:VHK50Abc
“こちらでとにかく糸をその辺の木に結んで、俺達は糸のもう一方の端を握って山を降りる。ぴんと張るのは向こう側についてからで
いい”
TAKUROはそれを読み、しかし今度は即座に不審そうに眉を寄せて、いそいそと書いた。
“無理だろ”と読めた。“絶対に木に引っかかるだろ、途中でさ”
それで、HISASHIはニヤリと笑った。TAKUROが不可能と思うのも無理はない。何せ、今更言うまでもなく、ここまでHISASHIとTAKUROが
たどってきたコースには、大小の木が無数に生えていたのだから。
本部のあるエリアを避けて糸を這わせ、後で糸を引っ張ったとしても、糸はそれらの木に引っかかってしまって、ただ、山の中に大きな
カーブを描くだけ、ということになる。いささか風変わりな屋外型の現代美術。
作品自体は巨大なものですが、5メートルも離れるともう見えないので全体は見渡せないのです。
前衛芸術家も首をひねるに違いない。おまけに木がたっぷり生えているのは本部のあるエリアも同じ。本部のすぐそばまでびっしりだ。
木を全部切り倒しでもしない限り、糸をスムースに本部の近くまで移動させることなど、どうしたってできないのだ。そんなことは
言わば当然。
だからこそ、TAKUROがロープをどうやって投げるのか(無理ですよ、でも)、と最初に訊いた所以でもある。
しかし、HISASHIは優雅に(とは言っても腹這いになっていたので効果はイマイチではあったが)両手を広げ、それから書いた。
“アドバルーンだ”
844 :
生姜:02/05/01 23:20 ID:VHK50Abc
TAKUROはそれを読みさらに眉を寄せたが、HISASHIは手を振ってTAKUROに岩から降りるよう促すと、とにかくそこから降りた。
岩の下に腰を落ちつけると、デイパックの中に手を突っ込んだ。
中身を引っ張り出して、地面に並べる。
殺虫剤くらいのボンベ缶が3個、100メートル巻きのたこ糸数個(これが農場脇の倉庫で発見できたすべてだった)、ビニールテープ、
それと、家庭用のゴミ袋らしき大きなビニール袋。
HISASHIは、そのボンベ缶を手に取り、TAKUROに示した。
それには青地に赤で英字が印刷されていて、ドナルドダックの絵が描かれてあり、ボンベの上には笛の吹き口のようなものが突き出している。
“実のところは”HISASHIが書く。
“俺がこの作戦をやれると思ったのは、これを見かけたのを思い出したからなんだ。iBookを見つけた家でね。これが何か、わかるか?”
そう、HISASHIは滑車を入手する前に隣の家に寄り、このボンベを持って来たのだ。
TAKUROはしばらくボンベを眺めていたが、ボールペンを取ると
“あれか、ガスを吸いこむと声が変わるやつだな”と書いた。
HISASHIは頷く。
845 :
生姜:02/05/01 23:21 ID:VHK50Abc
“そう、あのガァガァってアヒルみたいな声が出るやつだ。中身はヘリウムガス、わかるな?”
TAKUROはまだ釈然としないようだったが、HISASHIは実演した方が早いと思って、ゴミ袋の包みを破り、一枚取り出した。
口を開き、ボンベの吸い口を突っ込んで、ビニールテープで固定し袋を密閉する。それから、ボンベのスイッチを押す。袋は一気に
膨らみ始める。ほぼ一杯にガスを入れてから、HISASHIはボンベにくっつけてあるそのすぐ上をねじり、ビニールテープで縛った。
たこ糸のひと巻を取り、その糸の端をくっつけて、さらに縛った。それから、下側のテープを剥がして、ボンベから離した。念のため袋の
端を折り返し、もう一度テープで巻いた。
その手を離す。
ふわり、とそのゴミ袋が浮き上がった。
糸巻きから、糸がピンと上に伸びるところまで上昇し、糸巻きをもほとんど持ち上げるかに見えたが――しかし、止まった。HISASHIと
TAKUROの目の高さで。
「な?」
HISASHIは、これは声に出して言った。TAKUROはもう、作業の途中で気付いていたのだろう、何度も小さく頷いていた。HISASHIは
それから、風船の下から伸びている糸に、もう一つ別の糸巻きからほぐしたたこ糸を結びつけた。
846 :
生姜:02/05/01 23:22 ID:VHK50Abc
念のため、ビニールテープで頑丈に固定する。そして、風船から下がった二本の糸を両手に持つと、歩く人の足のように動かしてみせた。
それから、手近な木を指差す。また、糸を動かす。そう、すなわちこれが、巨人の脚。
TAKUROが、もうすっかり了解したのだろう、大きく二度、頷いた。それから、声は出さずに口だけを動かす。“凄いな、HISASHI”と読めた。
でもあるいは、“くどいな、HISASHI”かも知れない。まあ、どうでもいいことなのだが。
HISASHIはまた手帳を手に取って、書いた。
“もう一つか二つ、風船を作ってくっつける。けど、それでも、糸をどれくらい吊り下げられるかはわからない。それに、風の問題も
ある。しかし、まあとにかくやってみよう”
TAKUROがそれを読み、頷いた。
HISASHIは空を見上げた。黒い袋だ、月の方向からしてもスタッフ達にばれる心配はない。今のところ、風も強くない。だが、上空の
ことはわからなかった。
それから、言った。
「さ、早くしようか」
HISASHIはTAKUROに一個目の風船を持っておくよう手を振って示し、自分はゴミ袋をもう一枚、引っ張り出した。
847 :
生姜:02/05/01 23:24 ID:VHK50Abc
午後十時すぎになって、そろそろ移動を開始しようとした所でSUGIZOが異変に気付いた。
外に誰かいる。
3人は急いで逃げ出そうとしたのだが、その誰かは移動する方へ何故か先回りしてしまう。
裏口からでようとすれば裏口へ、玄関から出ようとすれば玄関へ。
Jが怪我のため身体の動きが不自由なのもあって、家の中を下手に徘徊するのは危険でもある。SUGIZOは舌打ちした。
どうしようもなくなってJもKOHTAも銃を構え沈黙していた所に声がした。
「PIERROTのTAKEOだ」そして続いた。「戦う気はない。返事してくれ。…3人とも一体誰なんだ?」
その瞬間、ずっと沈みがちだったKOHTAの目がぱっと輝いた。
ホントに?ホントに??TAKEOなのか??
「TAKEO?!TAKEOなのか?!俺、KOHTAだよ!!……SUGIZOさんやJさんも一緒だ!」
思わず大きな声を上げたKOHTAをSUGIZOは鋭く制し、ショットガンを構えたまま用心深くドアの脇に立った。
「両手を上げて、中に入ってこい。周りを警戒するのを忘れるな」
そう言うと素早く玄関のドアを開け、TAKEOを迎え入れた。
ああ、間違いない。TAKEOだ。KOHTAの顔が綻んだ。
「よかった、無事だったんだ」
「KOHTAこそ…!……無事で良かった。ずっと合流できないか探してた」
TAKEOも、信じられないと言った顔をしながらも嬉しそうに破顔した。
848 :
生姜:02/05/01 23:24 ID:VHK50Abc
SUGIZOは念のためボディチェックをしたが本当にTAKEOに戦う気がないのだとわかると「悪かったな」と言って笑った。
奇跡的な再会を果たし、KOHTAもTAKEOもこの巡り合わせに感謝した――が。
「TAKEO……アイジが、アイジが死んだよ」
そう言って唇を噛むKOHTAに、TAKEOは静かに頷いて見せた。
「俺が立ち会ったんだ、あいつの最期に」
「TAKEOが?」KOHTAは驚愕を隠しきれずに目を見張った。
「ずっとお前やキリトを探していたんだけど、その内、林の中を疾走していくアイジを見かけてそのまま見失って――どういう訳か
わからないけど、とにかくあいつが参加させられたのだけはわかったから追いかけた」
そりゃそうだ、アイジは裏切り者なのだ。自分のために平気で仲間を裏切るような奴だ。少なくとも参加者からはそう思われている。
そんな彼を見かけたら即座に殺そうとする奴がいてもなんらおかしくない。アイジもそう思っただろう。
アイジが恐怖に駆られ林の中を必死に逃げまどう姿が、KOHTAの脳裏に浮かんだ。
「それで――」TAKEOが続けた。「見つけた、アイジを。でも――遅かった」
それっきり黙り込んでしまったTAKEOに、KOHTAは何と言っていいかわからなかった。
放送だけでは信じることが出来なかったが、確かにアイジは死んだのだ。TAKEOが、その最期に立ち会った。
やっぱり、本当に、本当にアイジは死んだのだ――
KOHTAの中で、凄まじい喪失感が膨れ上がる。それはTAKEOも同様である。
849 :
生姜:02/05/01 23:25 ID:VHK50Abc
「とにかく」SUGIZOが沈痛な面もちで割り込んだ。
「今は生き残ることが優先だ。マシンガンの奴もまだ誰かわからない。アイジには悪いが――今は死者のことより自分のことを考えろ」
「…………はい」
そう答えたのはKOHTAで、TAKEOは黙りこくっていた。
「俺にはよくわからないが、SUGIZOがここから助かる方法を知ってるそうだ。TAKEO、お前も一緒にいたらいい」
Jがそう言うとTAKEOははい――と言いかけて、ややあって首を横に振った。
「……俺、一緒にはいられません」
「?!…何言ってるんだよ!」
KOHTAは思わず声を荒らげた。動き回ったらそれだけ死に近づくこの状況で一体何を言い出すのだろう。
「メンバーを見殺しにはできない。エゴだけど…俺はやっぱりこれ以上メンバーが死ぬのは嫌だ。助かるなら、みんなで助かりたい。
だから――キリトと潤を、探しに行く」
きっぱりそう言うTAKEOに、慌ててKOHTAは言った。
「じゃあ、俺も行くよ」
「ダメだ」TAKEOはにべもなく、言った。
「こういう状況なら、一人の方が身軽に動ける。それに、お前が俺に付いてきたらJさんはどうする?SUGIZOさん一人じゃ、Jさんを
かばいきれないかも知れない。SUGIZOさんに何かあったら助かるものも助からなくなるだろ?……俺は大丈夫だから、お前はSUGIZOさん
達と一緒にいるんだ」
「そんな事言ったってTAKEO、ろくに武器も持ってないのに………第一どうやって探す気なんだ?」
Jのその言葉にTAKEOはポケットから機械のような物を取り出した。
850 :
生姜:02/05/01 23:25 ID:VHK50Abc
「俺の武器はこれです。この機械はこいつに反応するらしくて」
そう言って自分の首を指した。
そこにはKOHTAにもJにもSUGIZOにも付けられている銀色の首輪が光っていた。
「ごく近いとこまでいけばスクリーンに表示が出ます。それが誰であるかまではわからないんだけど」
そこでKOHTAはようやく解った。TAKEOが何故自分達が3人だと分かったのも、そして移動するのに合わせて先回りできたのもこの機械の
おかげなのだと。そしてTAKEOがここに来たのも自分達が誰なのか確認する為だけなのだという事もわかった。
TAKEOは「じゃあ――」と言って踵を返しかけたのだが「そうだ」といってそれを止めた。
「サイコのYURAには気をつけて下さい。あいつはやる気になってる。少なくともそれだけは確かです」
「YURA?会ったのか?」SUGIZOが尋ねた。
「いえ、直接会ったわけじゃあ……ただアイジが死ぬ間際に、そう言って。あいつはYURAにやられたんです」
「YURAがアイジを――?」
KOHTAは心底驚きの声をあげた。あのコミカルな衣装に身を包んだ自称男前なYURAがこのゲームにのってしまったという事が信じられなかった。
あんまりよくは知らないけれど、YURAという男は少なくとも人を、仲間を殺すような奴ではないと思っていた。
それなのに――
自分が思っていた以上に敵は多いのだという事をKOHTAはこの時初めて知った。
SUGIZOが必要以上にTAKEOを警戒していたのも今なら分かるような気がした。
もうゲーム以前の事なんて信じててはいけないのだ。
それはとても悲しい事だけれど、その甘さは文字通り命取りになるのだから。
851 :
生姜:02/05/01 23:26 ID:VHK50Abc
黙ってしまったKOHTAをちらっと見てTAKEOはもう一度「じゃあ」と言って出て行こうとしたのだがその背中にSUGIZOが声を掛けた。
「TAKEO」
TAKEOが顔を向けるとSUGIZOはデイパックから何かごちゃごちゃした物を取り出した。
それはアイジもよくライブで使っていた光線銃だった。いや、今回のSWEET TRANCEでも確か使う予定だったはずだ。そのトリガーを引けば
ウーウーだの、ピロロロロロロ…だの、かなり賑やかで間抜けな音がする代物だ。
さすがギタリスト。こんなものをSUGIZOも持ち歩いているのかと思ったら、なんだかKOHTAは妙な可笑しさを感じた。
「俺達はもうすぐここを出なきゃならない」SUGIZOが言った。
「キリトと潤に合流出来ても出来なくても、俺達に会いたくなったら2つ焚き火をしろ。その煙をみたらこれを15分ごとに――そうだな、
15秒ずつ鳴らす。それを頼りに俺達の所まで来い。」
TAKEOは「わかりました。ありがとうございます」と頷いた。
「アイジは、YURAがマシンガンを持っていると言ったか?」Jが突然尋ねた。
「いえ――何発か背中に銃弾を食らっていたけれど、あれはマシンガンではなかったです」
「そうか」
マシンガンの奴はYURAではない――少なくとも、やる気になっている奴は2人以上は確実にいるということか。
「気を付けろよ」
「はい。……じゃあ、またあとで」
と背中を向けたTAKEOに「TAKEOくん」とKOHTAはもう一度声を掛けた。TAKEOが振り返る。
「俺達、またライブやるんだ。アイジの分まで、暴れよう。約束だよ」
TAKEOは微かに笑うと、頷いて出ていった。
852 :
生姜:02/05/01 23:26 ID:VHK50Abc
TAKEOを見送ってすぐ後に診療所をでたKOHTA達はとりあえず元いた場所に戻る事にした。
その途中、急に空から何かが降ってきた。
竜巻でも起こってない限り空き缶が飛んでくるわけなどない。
KOHTAがもう本能というのだろうか。それだけでその物体をキャッチし思いっきり遠くへ投げ飛ばした。
すると、かっという白い光が夜空を満たし続いてとんでもない轟音が響いた。
すぐに体を起こすとまた缶が飛んでくるのが見えた。
もう一度やらなければ――そう思ったが間に合う筈がなかった。
KOHTAはすぐに身を屈めたのだが爆発音がする事はなく代わりにばんっという銃声がひびいた。
見るとすぐ横にいるSUGIZOがクレー射撃よろしくその缶――手榴弾を撃ち落としていた。
「KOHTA!下がれ!」
SUGIZOが左手を大きく動かし同時にショットガンを右手一本で撃った。
ぱららららららららら、という別の銃声が聞こえた。
853 :
生姜:02/05/01 23:27 ID:VHK50Abc
KOHTAは訳がわからないままJを庇いながら畑をくぎるあぜの陰に伏せた。すぐにSUGIZOが銃を撃ちながら横へ滑り込んできた。
そしてまたぱらららららという銃声が聞こえ目の前の土が吹き飛んだ。
KOHTAもぎこちなくシグ・ザウエルを抜き出しSUGIZOがポイントしている方へ闇雲に引き金を引いた。
そして、見た。30メートル程むこう民家のブロック塀の切れ目に“何者”かの頭が引っ込むのを――
そして思い出した。この銃声。
もちろんマシンガンを持ってるのが1人だけとは限らない。
だがそれでも、今目の前にいる“誰か”は何の予告もなしに自分達を殺そうとしたのだ。それも手榴弾で。
DAISHIとLidaを殺したのは今目の前にいる“誰か”なのだとKOHTAは確信した。
二人の死に様が蘇り、怒りが噴き上がった。
「なんだ!なんなんだ、あいつは!誰なんだよ!」
「叫んでないでとにかく撃て!」
SUGIZOがKOHTAにスミスアンドウエスンチーフスペシャル三八口径――もともとこれはLa'cryma ChristiのTAKAの所持品だったが――を渡した。
KOHTAは両手に銃を持ってそのブロック塀に向かって次々に撃った。
SUGIZOもまたショットガンを撃ちこんだ。
ブロック塀の向こうから手がすっとのびた。
手はマシンガンを握っていてそれが再び吠えKOHTAもSUGIZOも頭を引っ込めた。
854 :
生姜:02/05/01 23:27 ID:VHK50Abc
間髪いれず“そいつ”は身を起こすと銃を撃ちつづけながらすぐにトラクターの陰に走りこんだ。
――距離が詰まっていた。 だが、闇に目がなかなか慣れてくれず、視界は全然開けてくれない。
「SUGIZOさん」2発続けて撃ってから、KOHTAは呼びかけた。
「何だ?」
SUGIZOがショットガンに弾を詰め替えながら答えた。
「も、元いた場所ですよね?」
KOHTAはやや噛みながら早口で続けた。また“誰か”の腕が伸びてぱらららと火花が吹いた。
「Jさんを連れて先に行ってて下さい。俺が“マシンガン野郎”をあそこに足止めします」
SUGIZOが驚愕したようにKOHTAを見た。
「何言ってるんだ」
「俺じゃ、Jさんを守りながら移動できません!だから、早く」
SUGIZOは一瞬迷ったように視線を虚空に彷徨わせたが、すぐにKOHTAを見た。それだけだった。了解したのだ。
「元の場所だ、KOHTA!待ってるからな!」
それだけ短く言うとSUGIZOはショットガンをKOHTAに押し付け伏せたまま後ろへ下がった。
KOHTAは息を吸い込みショットガンを3発立て続けに撃った。
それを合図にSUGIZOとJはもと来た方へ走り出した。
その時、SUGIZOは一瞬だけ、トラクターの方に視線をやって驚愕した。だが、それ以上の猶予はなかった。そのまま走り続けた。
855 :
生姜:02/05/01 23:28 ID:VHK50Abc
“誰か”がすっとトラクターの陰から上半身をだした。
慌てたKOHTAはまた立て続けにショットガンを放った。それで弾が尽きた事がわかりKOHTAはスミスアンドウエスンに持ち替えて更に
撃った。
撃ち続ける事が重要だった。
やがてスミスアンドウエスンも弾が尽き、今度はシグ・ザウエルに持ち替えた。
しかしそれもすぐに弾が尽きた。
予備マガジンはない、弾を詰め替えるしか手はなかった。
その一瞬にその“誰か”がマシンガンをぶっ放しながら先程と同じ様に走ってきた。
KOHTAは身を翻して走り出した。怖かった。冷や汗を大量に額から吹き出しながらKOHTAは必死で走った。
山の中に入ってしまえばそう容易に追って来れない筈だ。
KOHTAは東へ足を向けた。SUGIZOとJは元の場所まで西へ向かうはずだ。“マシンガン野郎”を少しでも二人から引き離したかった。
ダッシュ力だけが勝負だ。短い時間の内に可能な限り“マシンガン野郎”から離れなければならない。マシンガンというのは近距離なら
絶対に当たる銃器なのだ。
KOHTAは走った。
ヤンキー時代、悪さをしてはよく学校の教師や少年課の刑事に追いかけ回されたものだ。だからあまり誉められたことではないけれど、
逃げることにかけてKOHTAはかなり自信があった。
とにかく夢中で走っていた。
856 :
生姜:02/05/01 23:28 ID:VHK50Abc
あと5メートルで木立の陰に入れると思った瞬間、背後でぱらららという音が鳴った。
そしてKOHTAの左脇腹に思い切り殴られた様な衝撃が走った。
KOHTAはバランスを崩しかけたが走るのはやめなかった。
ゆるい傾斜面を上る方向へ向かう。
また、ぱらららという音がして今度は左腕が意思とは関係なく跳ね上がった。肘のすぐ上に弾が当たったのだ。
それでもKOHTAは走りつづけた。
また音がしてすぐ側の木がぱんとはじけた。
もう自分に当たったのかもわからなかったがただ追ってきてるんだなという事だけはわかった。
それでいい、これで少なくともSUGIZOとJには時間ができる。
木立の間、茂みの間を抜けKOHTAは走り続けた。
誰か闇に息を潜めている別の人間に狙われるかもしれないなどという事はもはやどうでも良かった。
もうどれだけ走ったか分からなかった。どっちへ向かってるのかもよく分からなかった。ぱらららという音が時々聞こえるような気も
聞こえないような気もした。
とにかくまだ安心できない。遠くへ。遠くへ行かなくてはならない。
その時ふいにKOHTAの足元が滑った。
857 :
生姜:02/05/01 23:29 ID:VHK50Abc
いつの間にか丘のような所を走っていてその斜面が急に切れ落ちていたのだ。
TAKAと格闘した時のようにSUGIZOは急な斜面を転がり落ちた。
体がその底でどん、と跳ねた。
そして、KOHTAは立ち上がろうとし―― 立ち上がれない事がわかった。
出血のせいで意識が混濁してるのか?いや――頭を打った?
そんな馬鹿な。これぐらいの傷で立てないなんて訳が………俺は戻らなくちゃならない。SUGIZOさんとJさんの所へ、戻らなくちゃならないんだから――
約束したんだ。みんなで助かるって、だから、だから――
体が起き上がりかけた姿勢から、ぐらりと前へ傾いた。
KOHTAは意識を失っていた。
858 :
生姜:02/05/01 23:33 ID:VHK50Abc
「なあ、まだか?」
真っ暗な中にTAKUROの声が響く。
HISASHIはTAKUROを手で制すると、再び手元で何かをいじる。
低い駆動音が倉庫内に響く。他の音は一切しない。異様に静かだ。
動くな……もう大丈夫だろうか。しかし、これがもし作動不良を起こしては、今までの作業がすべて水泡に帰してしまう。もう1回くらいは――
「なあ、早くしないと……」
TAKUROがそう言い、HISASHIは一瞬イラついた顔になりかけたが、何とか自分をなだめて、多少心残りながらも「わかった」と、それで
テストを切り上げた。
電池に接続していた小型モーターを取り外しにかかる。
本部のあるエリアにたこ糸を通す作業は存外に手間取った。最初にあの岩の後ろの高い木のてっぺんに糸の一方を結びつけ、それから
もう一方を持って木の間を抜け始めたのだが、上空は結構強い風が吹いているらしく、ゴミ袋の風船はすんなりついてきてはくれなかった。
HISASHIは実に、十回以上にわたって木によじ登り(TAKUROは図体ばかりデカくててんで役に立たなかった)、引っかかった糸を
外さなければならなかったのだ。おまけにどこに敵が潜んでいるかわからない闇の中、TAKUROのことも気遣いながらのその作業は、
HISASHIをすっかり疲弊させていた。
とにかくたっぷり三時間かかって何とか糸のセットを終え、今居るここ、農場脇の倉庫に戻ってきていた。0時前のことだ。
859 :
生姜:02/05/01 23:33 ID:VHK50Abc
それから漸くHISASHIは雷管の通電装置を作り始めたのだが、これも結構手間取った。
何せ充分な道具が無いうえ、かなり微妙なバランスが要求される仕掛けだ。
本部に衝突するその時のショックに反応して電気が流れるようにしなければならないが、しかし、“ロープウェイ”の途中、例えば
ロープの結び目を滑車が通過するときの振動でスイッチがオンになってしまうほど過敏なものでは困るのだ。
だがそれも何とかやっつけ、雷管の代わりにモーターをつないだ(TAKUROがたまたまポケットに入れていた髭剃りから外したのだ)。
それのテストを始めた直後、つまりさっき、午前0時の放送があったのだった。
誰かの名前が告げられたが、もう何の感慨も湧いてこない。ただ自分が生きていることを幸運に思う。
しかし、そんなことよりはよほど重要なことを東海林は告げたのだ。少なくともHISASHIとTAKUROにとっては。
即ち、HISASHIとTAKUROが本部を見下ろしたあの岩のあるエリアが、午前1時をもってかの禁止エリアの指定を受ける、と。
TAKUROがせかすのも無理は無い、あそこに入れなくなったら、すべては綺麗にご破算となる。
完全に、アウトだ。
凝った指し手でチェックメイト寸前まで行きながら、最後の一手を動かす先に地雷があって勝てません、という間抜けな話は避けたい。
HISASHIは手早く、懐から電気雷管を取り出した。
860 :
生姜:02/05/01 23:34 ID:VHK50Abc
闇の中、鈍く金属の肌を光らせている二つのパーツを組み合わせ、終端部から伸びるリード線のビニール被覆を剥がした。
それから、先に通電装置のスイッチになっているばね式のプラスチックの小片をテープで固定しておき、雷管のリード線の一方を、
通電装置から伸びている線の一本とより合わせた。それをテープでぐるぐる巻きにし、絶対に外れないようにした。
誤爆防止のためにもう一方は山の上で作業することにし、被覆を剥がした先をテープで電池の側面に貼り付けた。
「よし」
HISASHIはそう言って立ち上がり、完成した起爆装置をポケットに突っ込んだ。
「急ごう、準備だ」
TAKUROが頷いた。HISASHIは念のためラジオペンチや予備のリード線などもデイパックに放り込み、いくつかに分けたロープの山を肩に
担ぎ上げた。足元を見る。ガソリンと硝酸アンモニウムを混ぜて一杯に満たした灯油缶があった。酸素を補う工夫として、空気を入れた
エアクッションをちょうどひだのような形に詰め込んである。注ぎ口には今は蓋がしてあるが、その脇、雷管のホルダーとして別に
用意したゴムキャップが、把手からビニール紐でぶら下がっていた。
それから、時計を見る。0時9分だった。充分間に合う。
861 :
生姜:02/05/01 23:35 ID:VHK50Abc
オーケイ。いささか武者震いに近いような感覚を覚えながら、HISASHIは思った。
いろいろあったが、とにかくこれで材料はそろった。
用意したロープを全部繋ぎ、一端をあの山の上から目星を付けておいた木に固定する。
それから、今は石を置いて端を動かないようにしてあるたこ糸にロープのもう一方を結びつける。
ロープをほぐしてそこへ置いておき、本部を迂回して、山側に出る。
木のてっぺんに結んでおいたたこ糸を取り、それを一気に手繰り寄せる。
向こう側からロープがくっついてくる。
そうしたら起爆装置をセットした灯油缶にゴンドラよろしく滑車を付けて、そのロープを通す。ロープを本部の上へ一気に張り詰めて、
木か何かに固定する。
そうしたら、あとはお祭りってわけだ。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々ってか。俺は踊らされるのは勘弁だけど。
本部のコンピュータ、その電源系統か配線の一部でも破壊してシステムの不良を疑わせることができれば、いや、この装薬量なら
そもそもそのコンピュータ自体、いいやそれだけでは済まないか、本部が半壊するのを見届けたら、これは岩の後ろに隠してきた
タイヤチューブの浮き輪を抱えて走り、予定通り島の西岸から海上へと逃げる。
トランシーバでのニセ救難信号で上を攪乱し、計算どおり20分かそこらで近隣の島にたどり着けたら(ここが大海の孤島であるかも
しれないという最悪の想像はこの際あぼーんした)、そうだな、ヒッチハイクで空港まで行くか。場合によってはこのベレッタ、
ヒッチハイクに役立つだろうし。
862 :
生姜:02/05/01 23:35 ID:VHK50Abc
そこで、HISASHIはズボンの前に差し込んであるベレッタM92Fをちょっと見下ろした。
改造トランシーバで陽動はかけるつもりだが、それでも海上で発見されたときのことを考えて、数本のコーラ瓶に特製の硝酸アンモニウム
とガソリンのブレンドを詰め、しっかり蓋をしてデイパックに入れてある。
しかしそれは、起爆装置が無い以上、基本的にはただの良く燃える火炎瓶に過ぎない。
もし発見されそうになったら、機先を制して水中からでも船に近づき、こっちの方から船に這い上がって戦うのが上策だ。
うまくしたら逆に武器を手に入れられるし、船を動かせれば、それで逃げることもできる。
だが、そのためには、正確な射撃が必須となるだろう。
かすかに――気になった。今までこのベレッタを抱えて島を駆けずり回ってきたが、考えてみればまだ一発も撃ってはいないのだ。
そして、銃の撃ち方なんて、習ったことなどないのだ。
しかし、HISASHIは首を振る。いや、俺ならできる、大丈夫だ。何せ、あの偉大なるGLAYのギタリスト様だぞ、ミリオンセラーを
達成することと銃を撃つこと、どちらが難しい? 答えは、簡単だ。
「HISASHI?」
TAKUROが呼ぶ声がし、HISASHIは顔を上げた。
「準備できたか?」
「いや――」
TAKUROは情けない声を出し、それから、手帳を出して何か慌てて書いた。
HISASHIは、窓際の月明かりでそれを読んだ。“滑車が無い”
863 :
生姜:02/05/01 23:36 ID:VHK50Abc
ロープの半分と滑車は、TAKUROが持つ手はずになっていた。滑車はそもそも井戸で手に入れたときからずっとTAKUROの担当で、
ここに持ち込みどこかに置いたはずなのだ。
HISASHIはロープとデイパックを再び肩から降ろした。床に膝をついてとにかくそのあたりを覗き込み始めた。TAKUROもそれにならう。
二人でトラクターの向こうやら作業机の下の闇を手探りしたりなどしたが、見つからない。
HISASHIは立ち上がり、時計を見た。針は10分から15分を指しかけていた。まずい。
それで、デイパックから支給された懐中電灯を引っ張り出した。ランプ部分を手で覆って、スイッチを入れる。光が余分に漏れないよう
十分に注意していたつもりだったのだが、倉庫の中に黄色い光が広がった。
TAKUROの困惑した表情が見え――そしてHISASHIはその肩の向こうに、実にあっさりと、滑車を発見した。机の向こう、なんでもない
壁際の床の上、それは窓からの月明かりが届かない影の部分に転がっていた。TAKUROのデイパックの置いてあるところから、
1メートルも離れてはいない。
HISASHIはTAKUROに目配せすると、さっと電灯を消した。急いでTAKUROが滑車を拾い上げる。
「すまん、HISASHI」
TAKUROが心底すまなさそうな声を出すので、HISASHIは苦笑いした。
「頼むよ、TAKURO」
それから、デイパックとロープをもう一度担ぎ上げる。そして灯油缶。
864 :
生姜:02/05/01 23:37 ID:VHK50Abc
年間何十本とツアーを廻るプロミュージシャンとして体力には自信があるつもりだが(とてもそうは見えないと思うけど)、さすがに
これは大荷物だ。ロープの方は途中までだが、実に20キロの灯油缶は山の上まで運び上げなくてはならない。しかも急いでだ。
TAKUROもロープを担ぎ(半端な量ではないので、まるきり甲羅を背負った亀のようだ。うすらデカい亀。まあ、その点ではHISASHIも
同様だが)、二人で東側の引き戸の方へ歩いた。
引き戸は10センチばかり開いていて、そこから蒼白い月の光が一条、細い帯になって差し込んでいる。
HISASHIは灯油缶を左手に持ち替え、重い鉄製の戸に手をかけると、一気に開いた。
蒼い光の帯がぐうっと広がる。
左手に、本部から漏れる光が見える。その手前の木立の、ひときわ高い一本がロープを結ぶ予定の木だ。
HISASHIとTAKUROは、その左側に山から引っ張ってきたたこ糸の先を固定してきた。
つまり、あの糸は本部の脇を通って、一直線に山腹中ほどの岩のところまで繋がっている。実に、300メートル以上にわたって。
まったく俺も良くやるよな。あのたこ糸は、果たして切れることなく、山上までロープを引き上げてくれるだろうか?
HISASHIはため息をつき、それからちょっと考えてから口を開いた。別に、盗聴されても問題は無いはずだ。
865 :
生姜:02/05/01 23:37 ID:VHK50Abc
「TAKURO」
左側のTAKUROが、HISASHIの方に顔を上げた。「何だ?」
「俺たち、死ぬかもしれない、覚悟はいいか?」
TAKUROは即答した。
「何言ってるんだ、このゲームに放り込まれて何時間になるよ?」
「それもそうだった」
HISASHIは灯油缶の把手を握りなおし、笑った。TAKUROも笑った。
しかしその笑みはすぐに凍りついた。視界の隅を、何かがかすめたのだ。
周囲から低くなっている畑の中から、人の頭がのぞいている。
「TAKUROッ!」
HISASHIは言いざま、TAKUROの腕をつかみ、出てきたばかりのスレート壁の倉庫の中、引き戸の向こうへと走った。
TAKUROは重いロープを抱えていることもあり一瞬よろめいたが、それでもついてきた。
引き戸の陰に腰を屈めたときには、HISASHIはもう、その影に向かって銃を抜き出していた。
その影が喚いた。
「うっ、撃つな!撃たないでくれ!HISASHI!俺だよ!TERUだよ!!」
866 :
生姜:02/05/01 23:38 ID:VHK50Abc
深夜、生き物の営む音が途絶え辺りは痛いほどに冷え込んできた。
はあ、と口元に当てた震える手に白い息を吹きかける。
それからゆっくりと、潤は周りの様子を見回した。
風は凪いでおり、葉の揺れる音も、何かの気配もしない。
このゲームに参加させられて以来、五感が急速に敏感になっている。
気を抜いたらほぼ確実に殺られるのだから、当然のことと言えばそれまでだ。なんせ裏切り者の自分だ。
見つかったらただじゃ済まないだろう。
――殺される。俺も、確実に殺されるんだ!
夕方6時の放送でアイジが死んだことを聞かされた時、潤は自分もまるで死刑宣告を受けたかのような衝撃を受けた。
アイジが死んだ――
その事実は、潤を戦慄させた。
もともと一緒に仲間を裏切ろうと誘ったのは、潤の方からだった。
何故潤にその話が来たのかは今もってよくわからないのだが、アシスタントを募集しているんだけど、と河村から電話がかかってきた時、
潤は躊躇無く仲間を裏切ることに同意してしまった。
アシスタントの募集定員は3名。既に1名は決まっていてあとは2名しか募集枠がない。
全員は助からない。そう言われたも同然だったが、それでも潤は自分だけでも助かりたいと思ってしまった。
867 :
生姜:02/05/01 23:38 ID:VHK50Abc
他のメンバーを誘わなかったのは特に理由はないが、キリトは曲がったことが嫌いな性格だし、第一弟を見殺しにするわけがない。
なんだかんだ言って上手く立ち回ってその2名に自分たち兄弟が収まってしまうのではないかという気がしていた(それはあくまで潤の
思いこみなのだが)次いでTAKEOの携帯に電話を掛けたが繋がらず、次に掛けたアイジがワンコールで繋がった。
ホントに、ただそれだけだった。
ただ、今思えば割とボケているアイジを誘ったのは誤りだったかも知れなかった。
潤の話を聞き訳が分かってないままに「うん、じゃ俺もやるよ」と答えたアイジは、ゲーム開始直前、真矢を殺した瞬間からずっと
後悔していた。会場を出ていくバンドマン達の憎悪の視線に、怯えていた。
――そのアイジが死んだ、いや、殺された。
おそらくアイジのことだ、ロクな反抗も出来ずになぶり殺されたのだろうと潤は勝手に想像して、またしても戦慄する。
どくん、と心臓が嫌な波を打った。
どんなに怖かったことだろう、痛かっただろうか、苦しかっただろうか。死は安らかに訪れただろうか――?
そこまで考えて、潤は慌てて首をぶんぶんぶん、と横に振った。
俺は死なない。大丈夫だ、絶対に。俺は勝つ。勝てるさ――
868 :
生姜:02/05/01 23:39 ID:VHK50Abc
本部を出てほんの少し左寄りに北上していた潤は、今はミカン畑の中にいた。
いいねえミカン。冬はやっぱりこたつにミカン。定番だよな。
昨日の夜はまだ監視役だったので暖かい部屋の中にいられた。だが今は――凍えそうな寒さの中、惨めに潤は震えている。
ああ、こんなゲーム早く終われよー。家に帰りたい。そうだ、猫達どうしてるだろう。餌ちゃんと食べたかな。
トイレの砂も換えないといけないのに――
努めて家の愛猫達のことを考え、その事に集中してみる。そうしないと、寒さと恐怖で震える体を持て余してしまう。
ふと、ぼんやり視線を前にやると、視界の端に何かが見えた。
それは、銃をすっ、と構えてこちらを見て微笑む、YURAの姿だった。
869 :
生姜:02/05/01 23:43 ID:VHK50Abc
それで、HISASHIは、その影がTERU(GLAY・Vo)であるのに気づいた。
ああ、本当に何という偶然だろう!神サマも時には味なことをするね――とは、HISASHIは思わなかった。この時HISASHIの心を
占めたのは、かけがえのないメンバーに再会できた、仲間が増えたという安堵感ではなかった。むしろ、まずい、という気持ちに
他ならなかった。それで、HISASHIは、今になって他の奴が仲間になるということについて、あまり自分が良く考えていなかったことに
気がついた。
くそ、よりによってこれからって時に!
「TERUだ!!HISASHI、TERUだよ!!!」
後ろに居るTAKUROの声がHISASHIと再会したとき同様はずんでいるのが聞こえ、HISASHIはちょっと場違いな気がした。
TERUがそろそろと体を起こし、畑から這い上がってきた。左手にデイパックを提げ、そして右手には包丁のようなものを握っていた。
おそるおそる、といった感じで「光が、見えて、さ」と言った。
HISASHIは歯噛みした。それは、滑車を探すために一度だけ点けたあの光のことだろう。自分らしくもない、気が急いてライトを
使ったことを、HISASHIは後悔した。
TERUが続けていた。「それで――ここまで来たら、HISASHIとTAKUROだってわかったから、――何、してたの?今、担いでたのは?
ロープ?俺も、俺も仲間にいれてくれよ」
盗聴のことがあるので、TAKUROが眉をひそめてHISASHIを見た。その目が、少し丸くなったようだった。
HISASHIが銃口を下げていないことに気がついたからだ。
870 :
生姜:02/05/01 23:44 ID:VHK50Abc
HISASHIは空いている左手を動かし、TAKUROが前に出ないよう制した。「TERU、動くな」
「な、なんでそんなものを俺に向けるんだよ?HISASHI!?」
HISASHIは息を大きく吸い込むと、TERUに向かって再び「動くな」と言った。隣で、TAKUROが体をこわばらせるのがわかった。
「何だ、何だってんだ? 俺の顔を忘れたのか?!HISASHI、俺も仲間に入れてくれよ!」
HISASHIががちり、とベレッタの撃鉄を起こした。TERUの足が止まる。距離はまだ、7、8メートルといったところ。
「いいか、来るな」HISASHIはゆっくり、もう一度、言った。
「お前とは、組めない」
TAKUROが傍らで悲痛な声を出した。「何言ってるんだよ、HISASHI!TERUだぞ?!TERUなんだよ!!!」
HISASHIは黙って首を左右に振った。それから、ああ、そうか、お前にとってはこんなの馬鹿げた話だからな、と思った。
871 :
生姜:02/05/01 23:44 ID:VHK50Abc
TAKUROの歌をTERUが歌う。
それはGLAYなんだから当たり前のことだし、今までもこれからも変わることはない(これからってのはかなり曖昧な言い方だけど)
4人は函館出身でみんな仲がよくて、お互いのことは分かり合っているし、何もかもを一緒に共有してきた。
いわば自分たちは戦友だった。幾多の戦場を共にしてきた戦友だ。
いつか戦場を離れ静かに余生を送る日が来たとしても――それは永遠に変わらないだろう。
だけどそれは“GLAY”としての話で。
私生活その他に関して、実はHISASHIは結構TERUに迷惑を受けている。
いわずもがな、一連の不倫騒動だ。
あれのせいで、自分もフライデーだかなんだかに一時期追い回されて――
HISASHIの性格上、アレは本当に参った。JIRO辺りも相当キレかかっていたが、彼の場合はHISASHIとは違う質の怒りであって、もっと、
目に見えて熾烈だった。彼はマスコミに対してはっきり怒りを示すことで、自分の大切なプライベートを侵犯してくる複数の悪意を
見事はねのけて見せた。
872 :
生姜:02/05/01 23:45 ID:VHK50Abc
だけど、HISASHIは違っていた。彼は、オフを自宅に籠もって過ごすことでそれらをなんとかやり過ごそうとしたのだ。
お陰で、楽しみにしていた秋葉原散策も、その間は出来なくなってしまった。
行きつけのショップで取り置きしていた一点物の部品も、結局郵送して貰ったが配送中の手違いのせいで事故って不良品となってしまい、
HISASHIをがっかりさせた。
別に仕方ないさ、人間だから、生きていく糧にありつくためには世の中何でも面白オカシク書き立てて騒いだっていいでしょうよ。
それをTERUのせいだと逆恨みする自分もどうかと思うよ。だけど、ああ、どうしてくれるんだよ、メチャメチャ貴重なマザーボード!!
必死で探しても滅多に見つからないのに!いくらかかったと思ってんだよ。弁償してくれよ、誰でもいいからさぁ…
873 :
生姜:02/05/01 23:45 ID:VHK50Abc
オタク人間の細かい拘りと、それを踏みにじられた時の感情など、所詮オタクでない人間にいくら説明してもわかる物ではない。
HISASHIはそれを熟知していた。
だから、HISASHIは敢えて何もTAKUROには言わなかった。言っても、きっとわかって貰えない。
でも、今はこんな生死をかけたギリギリの状況だぞ?
こういう拘りって結構大事だろ?
「そうだよ」
TAKUROの言葉を受けて、TERUが両手を広げた。右手の文化包丁がきらりと月の光を撥ね返す。
ああ、綺麗だな。いっそ、次のライブではそれを持って歌ったらどうだ?
「俺たち――GLAYじゃないか」
HISASHIは、銃口を下げない。
TERUがHISASHIのその態度を見て次第に泣きそうな顔になり、ついに、文化包丁を地面に放り出した。
「ほら、俺、敵意なんて無いんだ。これでわかったろう?」
HISASHIは首を振った。「だめだ、早く消えてくれ」
TERUの顔に、今度ははっきりと怒りの色が浮き上がった。
874 :
生姜:02/05/01 23:45 ID:VHK50Abc
「何でだ! 何で俺を信用してくれないんだ!?」
「HISASHI――」
「黙ってろ、TAKURO」
その時、TERUの顔が、はっと緊張したように見えた。沈黙し――それから、視界の端の浮き輪を眺めて、言った。
「まさか――HISASHI、まさか、俺が泳げないからなのか?HISASHI?そうなのか?だから、俺を仲間に入れてくれないのか?」
HISASHIは銃をポイントしたまま、何も言わなかったが、ああ、そういえばTERUは水恐怖症だったっけ――とぼんやり思い出していた。
ああ、これで堂々とTERUを仲間に出来ない理由が出来たよ。よかった。
「HISASHI――」TERUの声がまた哀願調に変わった。ほとんど泣き声だった。
「なあ、HISASHI。俺、水はダメだけど、なんとか頑張るから、HISASHI――」
HISASHIは唇を引き締めた。TERUがどんどん自分たちの状況を言葉にしていく。泳いで逃げるつもりなのも暴かれてしまった、なんてこった!
俺達が助かったら、お前も助かるんだから今は黙って助けを待ってろよ!だけど、TERUはかけがえのない仲間なのだ。もし失敗して
自分たちだけ助かる、なんてことになったら、どうしよう――…一瞬、迷う。だが、その考えを振り払った。今、俺は一人じゃない。
TAKUROを危険に晒すわけにはいかない。TAKUROが死んだらGLAYは終わりだ。誰がこれからのGLAYの曲作るんだ――TERUがいなくても
GLAYは成り立たないのに、HISASHIは思い切り混乱していた。そして、午前一時のタイムリミットは刻々と迫っている……。
875 :
生姜:02/05/01 23:46 ID:VHK50Abc
「HISASHI――」
HISASHIは左手でTAKUROを制した。
TERUが前へ歩みだした。
「頼むよ。一人で居たら怖いんだよ。仲間じゃないのかよ、俺達」
「来るな!」HISASHIは叫んだ。
TERUは泣きそうな顔を左右に振って、また足を踏み出した。そろそろと、HISASHIとTAKUROに近づき始めた。
HISASHIは銃口を下に向け、初めてその銃の引き金を引いた。ぱん、という乾いた撃発音と共に、ベレッタから弾き出された薬莢が
月明かりに蒼白い軌跡を描き、TERUの足元で土ぼこりがわっと上がった。TERUは、それを何か、珍しい化学の実験でも見守るように
見つめた。しかし、それから、また歩みだした。
「止まれ! とにかく止まるんだ!」
「仲間にしてくれ。頼む」
TERUが、もはや前へ進むことを運命付けられたぎこちないぜんまい式人形のように、また足を踏み出した。
右。
左。
右。
左。
876 :
生姜:02/05/01 23:46 ID:VHK50Abc
HISASHIはぎりっと奥歯を噛んだ。TERUが何か包丁以外のものを抜き出すとしたら、右腕だ。
狙えるか? 今度は威嚇じゃないぞ? 正確に、間違いなく?
もう猶予は無かった。混乱しきったHISASHIはもう一度引き金を引いた。
――引き金にかけた指先が、ずるっと滑ったような気がした。
ぱん、という音がする前の一瞬に、HISASHIは認識した。汗だ。緊張して汗をかいているんだ、俺は。
あっけなかった。TERUが、左上半身を殴られたように、体を傾がせた。投擲直前の砲丸投げの選手のような形に両手を広げ、次の瞬間、
どさっと膝を折って、仰向けに横たわった。左胸の穴から、思い出したように小さな噴水が上がるのが、夜目にもはっきり見えた。
それも一瞬だけのことだった。
「HISASHI! 何するんだ!」
TAKUROが叫び、TERUに駆け寄った。その脇に膝をつき、丸く口を開いたTERUの体に手を置いて、それから、わずかの躊躇の後、その手を
首の方へ動かした。みるみる、TAKUROの顔から表情が抜け落ちていく。
「死んでる――」
HISASHIは、銃を構えた姿勢のまま、暫く動けなかった。自分が何も考えていないような気がしたが、そうではなかった。なんでだよ、
という声が、頭の中に響いていた。どうでもいいことだが、風呂場で独り言を言うときのように、エコーがかかっていた。
なんでだよ。どうして、待っているだけが出来ないんだよ。待っていれば助かったかも知れないのに。
877 :
生姜:02/05/01 23:47 ID:VHK50Abc
HISASHIは立ち上がり、そして足を前へ踏み出した。自分が突然サイボーグになったかのように、体が重く感じられた。
HISASHIはある朝目覚めると、サイボーグ手術を施されていた。そりゃ結構、仮面でも被ってバイクに乗るか。
ゆっくりとTERUの体に歩み寄った。
そのHISASHIを、TAKUROがきっ、と睨んだ。その目には憎悪の炎が燃えていた。
「何故だ!HISASHI!何で殺したんだ!」
HISASHIは、立ち尽くしたまま答えた。
「TERUが包丁のほかにも何か持っていたらまずいと思ったんだ。腕を狙った。殺すつもりは無かった」
TAKUROはその言葉を受けて、さっとTERUの体を探った。ほとんどHISASHIに見せつけるように、デイパックの中も調べた。
「何もありはしない! 何で、どうして信じてやれなかったんだ!」
HISASHIは、急速な脱力感に襲われた。しかし――必要なことだったのだ。俺は間違っちゃいない。
HISASHIは、何も言わず、自分を見上げるTAKUROの顔を見下ろした。だが――そうだ――急がなくては。
今はひとつのミスに拘泥している場合では――
TAKUROの顔に何かが走ったのは、HISASHIがそのことを言おうとした直前だった。その口が、わなわなと震える。
「まさか――HISASHI、まさか――」
HISASHIはその意味がわからず、ただ「何だ?」と聞いた。
TAKUROはぱっと飛び退った。HISASHIから距離を取ろうとしていた。そのTAKUROの震える唇から、なお言葉が漏れた。
「HISASHI、まさか――わざと――本当は――」
878 :
生姜:02/05/01 23:47 ID:VHK50Abc
HISASHIは唇を引き結んだ。左手に下げたベレッタをぎゅっと握り締める。
「俺が――俺が時間が惜しくてわざとTERUを撃ったって言うのか? それは――」
だが、TAKUROはぶるぶると首を振った。一歩、二歩と後ずさりながらだ。
「違う――違う――本当は――本当は――」
HISASHIは眉をひそめ、そのTAKUROの顔を見つめた。TAKURO、何だ?お前は何を言いたい?
「本当は――本当は――逃げるなんて――本当は――」
TAKUROの言葉は意味をなしていなかった。がしかし、HISASHIには何が言いたいのかわかった。まさか、とは思ったが。
要するに、TAKUROは、HISASHIがこのゲームに乗った、“やる気”になっているんじゃないか、本当は逃げる気なんかないんじゃないか
と言っているのだ。だから、あっさりとTERUを撃ち殺した――十何年も、付き合いのあるTERUを、いともあっさり。
「馬鹿言うな! だったら俺がお前と居る理由なんて無いだろう!」
TAKUROがぶるぶると首を振った。
「そんなの、そんなこと――」
879 :
生姜:02/05/01 23:48 ID:VHK50Abc
TAKUROはそれ以上言わない、いや言えなかったが、HISASHIはそれをも了解した。つまり、寝ているときの見張りなど、とにかくHISASHI
がTAKUROを利用しているだけだと、そう言いたいのだろう。いや、しかしちょっと待て。あのバカ主催者達に対抗するために俺はiBookを
操り、それが挫折した後も、これだけの準備をしてきたじゃないか。それもこれも、iBookも、携帯電話も適当にいじってTAKUROを
信用させただけだし、ガソリンや肥料を手に入れたのもただただ自分の身を守るため、このゲームで勝つためだと。手持ちの武器が
ベレッタ一丁である以上、この特製火薬は俺一人が勝ち残るためには有効な武器になるだろうと?
本部爆破の計画実行の直前になって、俺が“やっぱりやめておこう”というつもりであったと? クラッキングの件で“だめになった”
と言った時と同じように?
いいやしかしちょっと待ってくれ、じゃあ一体、本部の横に張り渡したあのたこ糸は一体何だと?一般電話回線が停止しているこの島で、
俺が独占的に糸電話会社を開設して一儲けするとでも? いや、TAKUROには思いもよらない俺ならではの利用法があるとでも?
全部、一切合切俺のトリックであると?
――そいつは考えすぎじゃないか、TAKURO。そりゃあ、疑い出したら何でも疑うことはできる。しかし、そいつは考えすぎだ、
ばかばかし過ぎる、お笑いだ。石橋を叩くだけでは不安だから爆破してしまったようなものだ。結構面白いぞ、お前、疲れで頭が
おかしくなってるんじゃないか? 理性のレベルではそう思った。そして、きちんと順序立てて話せばTAKUROだってそれらすべての疑いが
ばかげたものであることはわかったはずだった。いや、あるいはTAKUROは、そんなこんなことすべてを考えてHISASHIへの疑いを
口にしたのではないかもしれない、単に、疲れと、眼前で、TAKUROにとってかけがえのないメンバー(それはHISASHIも同様なのだが)が
死んだショックで、心の底に潜んでいたひとつの考えが、不意に顔を覗かせただけだったかもしれない。
だが――まさに、それは、そこにあったからこそ表れたのだ。その、自分に対する一抹の疑念は。HISASHI自身は、TAKUROを信頼していたのに。
880 :
生姜:02/05/01 23:48 ID:VHK50Abc
HISASHIの体を覆っていた脱力感が、一気に強くなっていた。俺は、何のために。
HISASHIはベレッタの撃鉄を戻し、TAKUROに向けて投げた。TAKUROが、戸惑ったように、それでもその銃を受け取った。
HISASHIは言った。不意に力が抜けて、がくり、と腰を下ろした。
「俺が信じられないなら、今、俺を撃て。かまわないから、撃て」
TAKUROが、目を見開いてHISASHIを見た。
HISASHIは俯いたまま続けた。
「俺は、お前の安全を考えて、TERUを撃ったんだぞ、ちくしょう」
TAKUROは一瞬茫然とした表情になった。それから、
「あ――あ――」とほとんど泣き顔になってから声を洩らし、駆け寄ってきた。
「すまん!すまなかった、HISASHI!俺、TERUが死んだから、気が動転して、それで――」
881 :
生姜:02/05/01 23:49 ID:VHK50Abc
TAKUROはほとんど小柄なHISASHIに覆い被さるようにして、肩を震わせはじめた。HISASHIはTAKUROの重さに仰向けに倒れないよう、
背の後ろに両手をついたまま、漆黒の空を見上げていた。月が、綺麗だ。が、傘がかかっている、明日は、雨か? いや、月が歪んで
見えるということは、俺が涙ぐんでいるってことか……。俺だって、TERUが死んで動転してるんだ――
心のどこか、無意識の領域にいる自分が語りかけていた。おいおい、そんなことやってる場合かよ、尚。いがみあいしてるなんて、
隙だらけじゃないか? 敵に囲まれてるってのを、忘れたのかい? 大体お前、時計見ろよ。もう時間無いぞ――。
しかし、その声はいいかげんすり減った神経、疲れ、それらに阻まれて、意識の領域にまでは届かなかった。
ただ、泣いていた。TAKURO、俺、お前を守ろうとしたんだぜ? 疑うなんて酷いじゃないか。俺は、お前を信じていたのに――ああ、
でももしかしたら、TERUも同じ気持ちだったのかもしれない。信じている相手に信じてもらえなかったその気持ちというのは。俺、酷いことをしてしまった。
その時だった。
その悲しみやら脱力感やら後悔がないまぜになった感情の中で、HISASHIは、ぱらららら、という、古いタイプライターのような音を
聞いた。忘れもしない、Psycho le cemuの二人を葬ったあの音だ……!
882 :
生姜:02/05/01 23:49 ID:VHK50Abc
と、認識するのとどちらが早かっただろうか。
HISASHIは全身に焼けた火箸でも突っ込まれたような感覚に襲われた。
それは、既に致命的といえる傷だったけれども、その痛みこそがHISASHIを覚醒させた。HISASHIに覆い被さっていたTAKUROのうすら
デカい体が、ずるり、と地面に倒れ伏した。その向こう、畑の脇にシルエットが見えた。
そのシルエットは、手に銃を――拳銃ではない、それよりも大きい、カステラの箱のような銃を――持っていた。それで、自分の体に
突き刺さった何か、それは銃弾で、しかもTAKUROの体を貫通して自分のところへやってきたものだ、とわかった。
体中が熱っぽく、何だかごわごわしていた。まあ、鉛弾で外科手術されたのだから当然だ。しかし、こんなヤブ医者に手術されるままでは
いられない。
HISASHIは瞬間的に右へ体を倒し、TAKUROが取り落としていたベレッタを拾い上げると、くるりと一転して立ち上がり、そのシルエットへ
向けて連射した。腹を狙って。
その“影”は、すいと右へかわすと、また、ぱららららと、死のタイピング音を響かせた。その手元が季節はずれの花火のように光った。
それで、先ほどに倍するショックが右脇腹、左肩口、左胸の辺りに襲い掛かり、HISASHIの手からベレッタがこぼれ落ちた。
だが、HISASHIはその時にはもう、倉庫の方へと走り出していたのだ。一瞬よろめきはしたが、しかし、体を下げ、足を飛ばして、一気に
頭から引き戸の向こうへと飛び込んでいた。
883 :
生姜:02/05/01 23:50 ID:VHK50Abc
弾着の列がそのHISASHIを追ったが、逃げ切った、と思ったその瞬間に、右足の先、革のブーツの爪先が吹き飛んだ。HISASHIの頭に、
今度こそ本物の痛みが突き抜けた。だが、HISASHIには痛がっている暇など無かった。引き戸の影においてあった灯油缶を引っつかむと、
トラクターやコンバインが並んだ闇の中を、まだ何とか動く左腕と左足で這いずりながら後退した。右手で灯油缶を引きずっている。
口から血があふれているのがわかった。多分、この体には10発以上の弾が入っている。それに――だらんと伸びた右足の爪先、もっとも
鋭く痛みを突き上げてくるにも関わらず、最早そこには何も無いブーツの先をチラッと見た。
もう、俺はライブでギタープレイを披露することはできないな。絶対に無理だ。仮にできたとしても、ヒーローにはなれない。ああ、
でもアンドロイドになれば可能かな。それだったら思い切り俺の望み通りなんだけど。電脳と音楽が融合する世界のヒーロー。かっこいい〜。
だが、HISASHIはそんなことよりも、TAKUROのことを考えた。
TAKUROは――まだ、息があるだろうか?
ちくしょう、大量殺戮者め――唇の端から血をごぼごぼこぼしながら、HISASHIは奥歯を噛みしめた。
884 :
生姜:02/05/01 23:50 ID:VHK50Abc
――上等だ。誰だか知らないけど、貴様はこのゲームに乗ったわけだ。だったら俺を追って来い。TAKUROはもう動けないが、俺はまだ
動くぞ、TAKUROに止めを刺すなんて後回しでいい、俺を、追って来い。頼むから、俺を、追って来い。
そのHISASHIの思いに応えるかのように、トラクターの下の隙間から見える引き戸、そこから伸びる蒼い光の帯に、影が差した。
次の瞬間、またぱらららら、という音とともにフラッシュをたくような光が連続し、建物の中に弾丸がばら撒かれた。どこかの農機具の
一部が吹き飛び、対面の窓が粉々に割れた。
そして、止んだ。弾が尽きたのだ。だが勿論、“そいつ”はすぐにマガジンを詰め替えるだろう。
HISASHIは、手近にあったバールのようなものを掴み、それを右手のほうに放った。何かに当たって、ガチン、と少々派手な音をたて、
次にコンクリートの床にガラン、と落ちた。
このキチガイ野郎はそこを撃つだろう、と思ったが、むしろ、そこを中心に扇形を書くように弾をばら撒いた。油断も隙もない奴。HISASHIは体を伏せてただそれが当たらないよう祈った。
程なく音が止み、HISASHIは首を上げた。
そして――“そいつ”の気配はもう、建物の中にあった。
そうだ――。HISASHIは血にまみれた唇をゆがめて笑った。俺はこっちだ、こっちへ来い――。
885 :
生姜:02/05/01 23:50 ID:VHK50Abc
HISASHIは右手で灯油缶を持ち上げ、自分の腹の上に載せた。そうして、極力音を立てないように注意しながら、また左腕と左足だけで
後退した。背中に何か硬い箱のようなものが当たり、それを迂回してさらに退がった。勿論、この音が聞こえていない筈が無い。キチガイ
野郎は、自分がこちらの闇の中に潜んでいることをもう知っているだろう。それに、この体からこぼれつづける血の痕こそ誤魔化しようが無い。
“そいつ”もまた、体を低くして、農機具や修理中の軽トラックやなんやかやの下を窺っているのがわかった。一つ一つ、確認しながら、
近付いて来る。
HISASHIはあたりを見廻した。建物の反対側、中二階の輪郭がかすかに見えた。そして、戸口のところからそこへ上る鉄の階段も。体が
十分な状態であったなら、中に入ってきたキチガイ野郎に、あそこから飛びつくこともできただろうに!
しかし、今となっては無理な相談だ。
東の壁側のほうに、台車があった。荷物を載せて運ぶための、小さな車輪が4つついた手押し車だ。そして、その向こうはもう建物の炭、
間仕切りされた事務所になっていて、すぐ脇に、外へ通じる通用口があった。引き戸の方はいっぱいに開けば車も通れるようになっていたが、
こちらは人間だけが出入りするためのものだ。ドアは、閉まっている。
あれは――確か――俺が、鍵を閉めた。他の全部の窓やなんかと一緒に。あれは――あの鍵をひねるのに、どれだけ時間がかかるだろう?
考えている余裕は無い。HISASHIは手押し車のほうへ体を引きずり、その横まで行き着くと、灯油缶をその上に置いた。注ぎ口の蓋を外す。
ビニール紐でぶら下げておいた、真中に穴が開いたゴムの塊を押し込む。
ポケットに納めておいた起爆装置を取り出し、傷のせいなのかうまく動かない指先で、しかし、何とか電池の脇のビニールテープを
剥がした。雷管から伸びているコードの一本が、それでぺろんと垂れ下がった。HISASHIはそれと、通電装置のコードの先を撚り合わせた。
886 :
生姜:02/05/01 23:51 ID:VHK50Abc
手早く、通電装置のスイッチからテープを引き剥がし、雷管を灯油缶のゴムキャップに深く突っ込んだ。電池と通電装置を灯油缶の上に
置いたが、最早しっかり固定する暇は無かった。
トラクターの右側、“そいつ”の厚底ブーツが、見えていた。
もちろん、そうだ。これは一縷の望みだった。だが、TAKUROも俺も傷つき、いまさら山上に這い上がることはできない。だから。
お前はそれだけやる気になっていて、これだけ強力な武器を持っている。きっと、たくさん殺ったのだろう。このゲームでも
ミリオンセラーってわけだ。
よくできました。おめでとう。だからこれはゴールドディスク大賞だ。ありがたく受け取れ、明日の日本のヴィジュアル界を背負って
立つアーティストさんよ。
HISASHIは台車を左脚で後ろから思い切り蹴ると、それが諸々のがたくたの隙間を抜けて、ごうっと“そいつ”の方へ滑っていくのも
もう確認しないまま、通用口のノブに飛びついていた。
ロックは0.2秒で回った。HISASHIはもう爪先も無い右足も動員して床を蹴り、ほとんどドアに体当たりするような感じで、建物の外に
飛び出していた。
そのHISASHIの背後で一瞬、倉庫のスレート壁がぐうっ、と膨らみ、そして、島を覆う夜の空気を、轟音が揺るがした。
“マシンガン野郎”がKOHTAに投げつけ、その耳を一時的に麻痺させたあの手榴弾の音よりも、それは数倍凄まじかった。
887 :
生姜:02/05/01 23:52 ID:VHK50Abc
HISASHIは、あ、完全に俺の鼓膜は破れた、と思った。どうしてくれる、ミュージシャンの大切な耳を。
伏せた体自体が爆風で地面を幾分か擦り、額の皮膚が擦り剥け、周りを何かの破片やら屑やらが吹き過ぎ、しかしそれでもHISASHIが
顔を振り向かせた時、本来建物の壁があった辺り、修理中の軽トラックが、実に、逆さになって宙に浮かんでいた。おそらく、ジャッキで
持ち上げられていた分、その腹の下に爆風が強い圧力を叩きつけ、吹き飛ばしたのだろう。ガラスやスレートやあるいはコンクリートや、
さまざまな破片(既に体にいくつか突き刺さっているような気がしたが、真っ直ぐ飛んできたものじゃなくて中空に吹き上げられた方)
に満たされた空間の中、それは、ゆったりと回転しながら大げさな放物線を描いて、横腹からぐしゃっ、と落ちた。さらに90度回転し
再び完全に逆さになって、止まった。後部の荷台が雑巾よろしくねじれて半ば引きちぎられ、タイヤのついていないホイールが、
どういう加減かくるくると回っていた。
888 :
生姜:02/05/01 23:53 ID:VHK50Abc
さらさらと細片が降り積もり、そして、先ほどの倉庫は、もうもうと吹き上がる煙の中、最早骨組みしか残していなかった。中2階のある
北側の方だけにわずかに壁が残り、しかし、その中2階は煙の向こう、丸見えになっていた。屋根も南側の方はほとんど吹き飛んでしまい、
中にあった農機具や何かがごろごろと横転し、そしてそのすべてが、夜目にもはっきりと、黒焦げになっていた。何かが燃えているのか、
明るい炎が2、3箇所に見えた。原が飛び出してきた通用口は、壁の残骸にその下側の蝶番だけをへばりつかせ、お辞儀でもするように
こちらに傾いでいた。間仕切りしてあった事務室も最早跡形もなく、そこには何も残っていなかった。いや、どういうわけだか事務机だけ
が、やはり爆風に押されたのだろうコンバインに尻を突っつかれるように、破壊を免れた壁に貼り付きまだ、その存在を主張している。
何か高く吹き上げられていたものがあったらしく、それがついに落ちてきたのだろう、酷く間の抜けたタイミングで、煙の中からこきん、
と高い金属音がなった、が、HISASHIにはほとんど聞こえなかった。
気が付けば体の周りを覆い尽くしていた壁や何かの破片から、HISASHIは上半身を持ち上げ、その建物の残骸を見て、「は」と言った。
そう、手製の灯油缶爆弾は、よくできていたのだった。その破壊力なら間違いなく、本部を消し去ることもできたに、違いなかった。
だが、それはもう、済んだことだ。今はともかく、目の前の敵を倒した。
そしてそれよりも――
889 :
生姜:02/05/01 23:53 ID:VHK50Abc
「TAKURO――」
つぶやきながら、HISASHIは漸く体を起こし、瓦礫の上に右膝をついた。そうして口を開いた途端に歯の間から血がどうっとこぼれ、
やはり胸から腹にかけてものすごい痛みが撥ねた。最早、自分が生きていることが不思議だった。しかし、両手を突っ張って右足を踵から
下ろし、次に左足を伸ばして、何とか立ち上がった。
TAKUROが倒れている方へ目をやって――
そしてHISASHIは見た。ひっくり返った軽トラックのドアが、おそらくそれもおかしくなっていたのだろう、がきっ、と鈍い音を立てて
開くのを。(それはかすかながら聞こえた、聴覚が戻ってきたのかもしれない)
シルエットが、すい、と地面に降り立った。紅蓮の炎に煽られて真昼のように明るくなった建物の残骸の前で、それが誰であるか、
HISASHIにはやっとわかった。キリトだ。PIERROTのキリトだ。
890 :
生姜:02/05/01 23:54 ID:VHK50Abc
キリトは何事もなかったかのように、カステラの箱みたいなマシンガンを、右手に掲げていた。
おい――
HISASHIは笑い出したい気分だった。いや、実際、その鮮血にまみれた唇は、笑いの形を作っていたかもしれない。
――冗談だろ?
SWEET HEART所属で一番の稼ぎ頭バンドのヴォーカル。伊達に藪に常日頃から叩かれてません、ですか。
個人のエッセイ集、そこそこ売れたみたいですね?キリトさん?
その時にはもう、キリトが撃っていた。
HISASHIは今度こそ正面から9ミリパラペラムのシャワーを浴び、瓦礫に覆われた地面を後ろへよろめき下がった。何かに背中が
押し付けられる。もはや何も確認する必要はなかったが、それは、駐車してあったワゴン車のフロントのようだった。そのワゴン車も
爆風で尻から後ろの電信柱に突っ込んでその木製の柱を幾分傾がせ、フロントガラスは衝突した何かの破片でくもの巣のようになっていた。
891 :
生姜:02/05/01 23:55 ID:VHK50Abc
建物の中から届く明るい色の光に縁取られて、キリトがただ静かに佇立していた。そしてその向こうに見えた、TAKUROが瓦礫に半ば
埋め尽くされるように俯せに倒れている。
すぐそばに、これは仰向けになったTERUの顔が、HISASHIの方を、向いていた。
思った。クソ、キリト、化け物め。結局俺はお前なんかに負けたわけか。
思った。TAKURO、俺は一瞬、気を抜いてしまったんだ。すまない。
思った。TERU、悪かった。俺はとんでもないことをした。許してくれとはとても言えない事を。俺もすぐにそっちへ行く。
思った。JIRO、今どこにいる?生きているか?俺達は先に逝くけどお前はせいぜい頑張ってこのゲームを――
もう一度キリトのイングラムが火を噴き、HISASHIの思考はそこで終了した。銃弾が、HISASHIの言語中枢を引き裂いたのだ。
頭の周りで、既にひびだらけになっていた車のフロントガラスが割れ、大方は車の中へなだれ込んだのだけども、ただ、細かい、霧の
ような破片が、とっくに埃にまみれ尽くしたHISASHIの体に、降りかかった。
それから、HISASHIはゆらりと前のめりに倒れた。ひとくれの瓦礫がかしゃん、と跳ね上がった。脳のほかの部分が死ぬまでには、30秒も
かからなかった。彼が、大切にしていたお気に入りの指輪は既に衝撃でひび割れ、血にまみれていたけれど、建物の中の炎の光を撥ね返し、
きらきらと輝いていた。
こうして、お茶の間にまで浸透した自称ロックバンドGLAYの誇るギターヒーロー、HISASHIは死んだ。
892 :
Nana:02/05/02 00:55 ID:wslndR5Y
凄い…迫力の展開でした。
生姜さん素敵すぎですわ…。
893 :
Nana:02/05/02 00:59 ID:.DbUQ/EI
更新乙カレ様です。
尚…ひとり頑張った挙句に報われねー。
894 :
生姜:02/05/02 01:17 ID:wTAX.zss
YURAは、穏やかに微笑んでいた。まるで敵意のなさそうな顔で。いや、敵意なんてありませんといわれたら信じたかも知れない。
その手に、銃さえ構えていなければ。
YURAが、嬉しそうにまた、にこり、と笑う。
だが、その笑みに潤は心の底からぞっとした。
「これはこれは♪潤さんじゃないですか♪…ゲームの監視役であるはずのあなたが今はこんな所にいらっしゃるんですか♪」
うるせえ、と内心潤は呟いたが、それは声にならなかった。スミスアンドウエスンをずっと握ったままの右手が、嫌な汗を掻いているのが
自分でもよくわかった。何故だ?どうして、俺はこんなにこいつに対して怯んでいるんだろう――?
「元裏切り者だけにさぞかし恐ろしい思いをなさっていらっしゃるんでしょうね♪大丈夫です、僕はアナタを撃ったりしません♪同じ
事務所の先輩に対してそんな失礼なことは出来ませんから♪」
そうなにげに失礼なことを混ぜつつまくし立てると、YURAは自分の唇の前に人差し指を一本、当てた。
「折角ここでお会いできたんですから、アナタにいいことをお教えしましょう♪」
「――いいこと?」
どうせろくな事じゃなさそうだ、と潤は改めてスミスアンドウエスンを握り直し、ジリジリとそれを胸元まで持ってこようとする。確か、
撃鉄を起こさなくても撃てるって説明書にはあったよな――
「僕、アイジさんを殺した人、知ってるんですよ♪」
「――?!」
895 :
生姜:02/05/02 01:18 ID:wTAX.zss
なんだって。潤はそのYURAの言葉に一瞬目の前が真っ白になった。
アイジを殺した奴?なんで、何でお前が知ってるんだよ――
それ以前に、自分と同じ立場であるアイジを惨殺――潤の脳裏にはもうそれしかなかった――したその『誰か』の情報の方が、潤にとっては
遥かに重要だった。
YURAは相変わらず涼しい顔で笑っている。その顔が、不意に笑みを消した。
「…僕が通りがかったとき、アイジさんは既に死んでました♪まだ温かかったなぁ…僕は慌てて周りを見回しました。――そしたら、
去っていく後ろ姿が見えたんですよ。ねえ、誰だと思います?」
「……………」
そんなん知るかよ、もったいつけねぇでさっさと教えやがれ――イライラした潤はいつでも撃てるよう、腰の辺りまで引き寄せてきた
スミスアンドウエスンの引き金に指を添えた。だが。
「――TAKEOさんだったんですよ♪」
そう言うが早いか、YURAはぱっと、ミカンの木の陰に隠れた。
「なんだと………?」
潤の目が見開かれた。嘘だ、何言ってやがる、こいつ。TAKEOがメンバー殺す訳無いだろ。そんな奴じゃねぇよ。…多分。
896 :
生姜:02/05/02 01:19 ID:wTAX.zss
「潤さん、アナタも気を付けた方がいいですよ♪裏切られたショックは、メンバーであるが故に余計デカかったみたいですから♪じゃ♪」
まるで歌でも歌うようにそう言うと、YURAは潤に背を向け、去ろうとする。
が、ここでついに潤の溜め込んだ衝動が爆発した。銃口をYURAの背中に向け、叫ぶ。
「ふざけるな!だからなんだって言うんだよ!このまま帰れると思うな!」
しかし。YURAは振りかえらずに言葉を返す。
「そうです、その意気です♪せいぜい楽しませてくださいね♪それと、安全装置は外しておいた方がいいですよ♪なんのための銃だか
わかりませんからね♪」
潤は慌てて自分の銃を確認する。――安全装置は掛かったままだ。
安全装置を外した時には、YURAの姿は無くなっていた。
(………くそっ!恥をかかせやがって………!)
潤が引き金に掛けたままの指は、震えていた。
897 :
生姜:02/05/02 01:19 ID:wTAX.zss
午前0時の放送にJは耳をじっと傾けていた。
KOHTAの名前は呼ばれなかった。
KOHTAのおかげで二人は元の場所にすんなりと辿り着く事ができた。
しかし1時間たっても2時間たってもKOHTAは現れなかった。
遅すぎる。いくらなんでもこんなに時間がかかる訳がない。
怪我をしたのだろうか、道に迷ったのだろうか?
それとも――
また嫌なイメージが頭に浮かびJはそれを打ち消すかの様に軽く頭を振った。
「遅いな、KOHTA」
SUGIZOも、同じ事を考えていたのだろう。曲げた人差し指の第2関節に軽く歯を立てながらポツリと呟く。
「戻ってくる。そのうち何でもなかった様な顔して帰ってくる」
「うん――」
そうJは自分に言い聞かせたが、やはり嫌な予感がどうしても拭えなかった。
後輩にしんがりを任せて退散してきたはいいが、こんなに後味が悪い思いをするなんて。
Jは少しイライラして左腕をすい、と持ち上げ――既に肘から下が無くなっていたことを思いだして決まり悪そうに下ろした。
898 :
生姜:02/05/02 01:20 ID:wTAX.zss
「キリトだった」
SUGIZOがそう半分呻くように言うと、Jもうん――と頷いた。
あのマシンガンをぶっ放してDAISHIやLidaを殺した男――SUGIZOは一瞬だけだったが確かに見た。月明かりに照らされて浮かび上がった
その面影は、確かにKOHTAの兄、PIERROTのキリトだったのだ。
「どういうことだ」SUGIZOはわからない、といったようにまた呻いた。「あいつ、KOHTAだと知ってて狙ったのか?」
Jも確かにほんの一瞬だけだが、キリトらしき横顔を見たのだ。
「わからん――だけど」
もしホントにあれがキリトだったら、あの弟思いのキリトがKOHTAを殺すなんて考えられなかった。
「俺は、知らなかったんじゃないかと思う」
KOHTAは、案外今頃キリトと合流できて喜んでいるかも知れない。
戻ってくるのに手間取っているのはもしかしてまた新手の敵――例えば、危険人物だとTAKEOが告げていたYURAに出くわしたとか――
と遭遇して交戦中なのかもしれない。
あのキリトと一緒なら、KOHTAも無事だろう。
899 :
生姜:02/05/02 01:20 ID:wTAX.zss
そう思い直して、Jは改めてSUGIZOの方を見た。考えてみれば、元メンバー同士、二人で話すことは今回のゲームが始まって初めてかも
知れない。
「――INORAN、あいつまで参戦、ってことはないよな」
SUGIZOがそう言うとJは黙ってしまった。そう、アイジも潤もGacktも、結局仲間を裏切ったのに参加させられてしまっている。
INORANだけが特別である保障が何処にあるだろう?
「それよりさ、お前、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「は?何が」
Jの質問にSUGIZOはにべもない一言を言った。
「何がじゃねぇよ、お前のプランとやらだよ」
「ああ、秘密」
「――秘密って…」
Jは呆れて思わずSUGIZOの顔を見てしまったが、SUGIZOはひどく真摯な表情をしていた。
「こればっかりはね、今種明かしするわけにはいかねぇんだな。悪い。ま、俺を信じてろって」
こう言われてはJは何も言う言葉が無くなってしまう。「ふーん」と素っ気なく言い、Jはふと、微かな銃撃戦らしき音を聞いた。
900 :
生姜:02/05/02 01:20 ID:wTAX.zss
「こんな時間になっても元気な奴ら…」
やや疲れた口調でSUGIZOは言い、Jは苦笑しようとしてはっとした。
――物凄い爆発音がした。
島の中央部に背を向けていたSUGIZOが慌てて振り返るほど、その音は凄まじい物だった。
島の空が、一瞬だけ昼間のように明るくなる。
「――な、なんなんだ」
Jがぼう然と呟いたが、それはSUGIZOも心の中で思っていることだった。
また、微かに銃撃の音が聞こえたような気が、する。
二人は、しばらく言葉もなくそちらの方角を凝視していた。
901 :
生姜:02/05/02 01:21 ID:wTAX.zss
KOHTA達と別れてからTAKEOはまだ足を踏み入れてなかった島の北西側へと急いだ。
途中、激しい銃撃戦の音を聞きつけて島の東側に向かうも、空振りで、それから2時間もしない内に今度は島の中央辺りで凄まじい銃撃戦
の音を聞いた。
そちらへ移動する途中、TAKEOは物凄い爆発音と衝撃波を受けた。一瞬だけ島全体が真昼のように明るくなる。次いで、あのぱらららら…
というマシンガンの音を聞いてタケオは思わず硬直した。
まさか、キリトか潤のどちらかがあの“マシンガン野郎”に襲われて交戦してるんじゃ――――そう思ったTAKEOは危険を承知で、銃声の
止んだ頃を見計らってそろそろと一旦登った山を下りていった。そこで、GLAYの3人の死体を見つけた。
―――違った。
安心すると同時に、疑問符がTAKEOの中に浮かび上がる。
どうして、GLAYがここにいるんだ……?
TAIZOといい、Gacktといい、微妙にSWEET HEARTとは関係のないアーティストの参戦――そこに何らかの意図があるのか、TAKEOには
さっぱりわからない。
わからないが―――
とにかく、20万人ライブをやるような凄いミュージシャン達だ。TAKEOは一瞬心の中で黙祷を捧げると、再び“やる気”のある奴が
ここに現れる危険性を感じ、そうそうにその場をあとにした。
902 :
生姜:02/05/02 01:21 ID:wTAX.zss
それから南の山の麓に移動し――南の山山頂の東側では、アイジが今も眠っている――そこでふと、TAKEOは、背後に人の気配を感じた。
後ろの茂みに、誰かいる………。手にしたレーダーにも、はっきりと表示されていた。
TAKEOは長い木の棒を拾い、茂みにむけ突いた。
「うっ」
TAKEOは茂みをかき分け、そこにいた奴を確認した。
YURA、だった。
ふいに、YURAが顔の前に両手を上げて後ろヘ退がった。
「殺さないでください!お、お願いです!!」
と、叫んだ。
「話しかけようとしただけなんです!僕、誰かを殺そうとなんか思っていません!お願いです!助けてください!!」
TAKEOはただ黙って、そのYURAを見下ろしていた。
その沈黙を、TAKEOに当座敵意がないと読み取ったのか、YURAはゆっくり、顔の前に上げた手をあごの下まで下ろした。
おびえた小動物の目で、TAKEOを見た。その目に、涙が光っていた。
「信じて――――くれるんですか?」と言った。
涙でくしゃくしゃの顔に光明がさし、かすかな笑みが目元に浮かんだ。
「あの―――あの僕――――TAKEOさんなら、信じられると思って――だから――僕、怖かったんです、ずっと―――ひとりで―――
こんなことになって、恐ろしくて――――」
TAKEOは黙って、YURAが取り落とした銃を拾い上げた。撃鉄がおきているのを見てそれを片手で戻し、YURAのところまで歩くと、銃把を
先にして差し出した。
「あ――ありがとうございます―――」
903 :
生姜:02/05/02 01:22 ID:wTAX.zss
YURAがおずおずと手を差し出した。
ピタッと止まった。
TAKEOが手の中で銃をくるっと回転させ、その手に握ったので。その銃口が、ぴたりとYURAの額に向けられていたので。
「な―――何。なにするんですか、TAKEOさん―――」
YURAの顔が驚愕と恐怖にゆがんだ―――少なくともゆがんで見えた。全く、見事としか言いようがなかった。
いくらYURAについて諸々の噂を聞いていても、YURAの笑顔を見てしまえば、大抵の者は、信じないわけにはいかないだろう。
ただ、今のTAKEOには、特別な事情があった。
「もういいんだ、YURA」
TAKEOは言った。
TAKEOは銃を構えたまま、少し背筋を伸ばした。
「俺はアイジに会った、アイジが死ぬ直前に」
「あ―――」
YURAは整った顔の、綺麗な目を震わせてTAKEOを見た。アイジに止めを刺さなかったことを後悔しているのだとしても、そんな色は
微塵も表れなかった。ただ、おびえた表情。理解と保護を求める表情。
「ち―――ちがうんです。あれは事故だったんです。そうです、僕、ずっと一人でいたわけじゃないんです。ただ―――アイジさんに
会った時―――アイジさんだったんですよ、僕を―――僕を殺そうとしたんです。そのピストルだって本当はアイジさんの―――だから
―――だから僕――」
TAKEOはさっき戻した銃の撃鉄をさっと起こした。YURAの目がすっと細まった。
904 :
生姜:02/05/02 01:22 ID:wTAX.zss
「俺はアイジとは前後してPIERROTに入ってもう7年以上の付き合いになる。俺の知っているアイジは進んで人を殺すような奴じゃないし、
狂ってむやみに誰にでも銃をぶっ放すような奴でもない。たとえこのくそゲームの最中だろうと」
YURAはしばらく呆然としていたが、やがてかすかに笑った。
「即死だと思ってましたよ、アイジさんは♪」
TAKEOは何も言わず、銃口をYURAに向けていた。
それからYURAはTAKEOを見上げた。
「どうですか、僕と組みませんか♪僕と組んでくれたら、いうことは何でも聞きますよ♪」
TAKEOは銃を構えた姿勢のまま、動かなかった。
「だめっか」YURAは言った。軽やかな口調ですらあった。
「自分の大切な仲間を殺した奴とは組めませんよね♪」
TAKEOはしばらく黙っていたが、
「………なんでおまえはそんな喜々としていられるんだ?これから死ぬかもしれないんだぞ?」
「………TAKEOさん、あなたに人を撃つ度胸がないからですよ♪」
「……………………。」
905 :
生姜:02/05/02 01:22 ID:wTAX.zss
「僕はですね、今まで誰にも言ったことはないですけど、ずっとイジメられっ子だったんですよ♪僕は小さい頃からどっか変わった子供
でしたから変人扱いされてましてね♪ほぼ毎日叩かれてましたね♪みんな、なんかあったらすぐ俺に突っかかるんです♪まあ、そんな
くそな環境でしたからね、おかげで鍛えられましたよ♪」
TAKEOは黙っていた
「それで今のバンドを始めたときも、やっぱり僕はいじめられました♪新しいことをやろうとすると、どうして人間って奴はいつもいつも
拒否反応をまず示すんでしょうかねぇ♪愚かしいですね♪僕は、メンバーのためを思って僕らをバカにする連中の矢面になっていつも必死に
頑張ったんですけどね♪でも、それでも僕らは叩かれ、コミックバンドとして、ヴィジュアル系の中でも異端者扱いされて―――未だに
されてるわけです♪」
YURAは続けた。
「この事務所に入ることになったとき、ある意味僕は嬉しかったんですよ♪だって、いろんなバンドがいるじゃないですか♪この中に
入れば、僕らもちゃんとヴィジュアル系バンドとして音楽性を見てもらえるかなって♪―――でも、そうじゃなかった。今回のイベント
だって、僕らの音楽をちゃんと聴きに来る人なんて殆どいない。みんなみんな、僕らの見かけばかりで僕らを判断しようとする。そんな
状況に、僕はもう疲れてしまったんです。自分が信じる物を否定されるのは――、傷つけられるのはもう沢山なんです。」
TAKEOはそこまでいうYURA達のパフォーマンスがいかほどの物であったか思いだそうとしたが、上手くいかなかった。
906 :
生姜:02/05/02 01:23 ID:wTAX.zss
「だから―――だから僕――こんなふうに―――」
YURAの右手が背中に回っていることにようやくきづいたが、そのときにはもう、TAKEOの右肩にナイフが深々と突き刺さっていた。
TAKEOののどからうめき声が洩れ、銃こそはなさなかったものの、痛みで後ろによろけた。
「平気で人を傷つけられるんですよ♪」
YURAはすでに、木々の間をすり抜け、―――すぐに闇に消えた。
もちろん、―――もちろん、YURAの話は、こっちの意表をつくための嘘だったに違いない。しかし、TAKEOはどうしてもそうは思えなかった。
YURAは真実を語っていたのだ。 何かを貫こうとする者なら必ず通る道。自分たちも未だに通らなければならない道だ。
しかし、彼はなぜあそこまで冷酷になれるのだろう。
「………アイジ、ごめんな…………」
TAKEOは、しばらく動けなかった。
(((*゚Д゚))ハラハラドキドキ・・・
908 :
Nana:02/05/04 14:25 ID:5S132DDc
こ、KOHTAは?!(ドキドーキ)
生姜さん凄すぎる!
909 :
生姜:02/05/04 23:34 ID:aFqkFtFo
東海林のり子による放送が終わるや、JIRO(GLAY・Ba)は腰を上げていた。
幾つか発表された次なる禁止エリアに、この場所が含まれていたからだ。
傍らに倒れているAYA(Psycho le cemu・上G) に通り過ぎざま一瞬だけ視線を落とし、右手の銃を握り直す。
――ありがとよ、お人好し(かどうかは知らないけど)。
声には出さず呟いて、そのままJIROは大股に小屋を出た。
AYAを死体に変えたのは他ならぬJIROであり、JIROの手にある銃をさきほどまで持っていたのはAYAだった。
はじめにJIROに支給されていた武器はごわごわした厚手のチョッキ。
冴えない、ファッションリーダーとも呼ばれる(自分でもかなり気を使っている)JIROにとって泣きたくなるくらいダサい灰色のそれは、
しかし、見てくれを裏切って至極役に立つ武器だった。
防弾チョッキ。
説明書に目を通して、JIROは考えた。手持ちが差し当りこれだけなら、どうすべきか。
撃たせて、死んだふりして、隙を見せたら後ろから――
少なくない数のミュージシャンが銃を持っているらしいこの状況だが、組みつけさえすれば銃を奪うチャンスだってもちろんある。
ただ正直なところ、JIRO自身そこまでうまくいくとは思っていなかった。
遭遇した相手が銃でない武器を持っていたらそもそも意味がないし、銃持ちだとしてこのチョッキが本当に弾丸を防いでくれるのか、
そうだとしても首やら頭に命中したら、とか、不安要素はいくらもあったのだ。
910 :
生姜:02/05/04 23:35 ID:aFqkFtFo
だがAYAは銃を持っていて、その弾はJIROを殺せず、しかもAYAはまんまと騙された。
そのうえ向こうから先に撃ってきたのでこちらの良心の痛みも軽く済むというおまけつきだった。もっともそれはどうでもいいことだったが。
そして現在、JIROの抱えていた不安要素はほとんど解消されていた。
JIROは銃を持っているから、飛び道具を持たない相手とは近付かずにケリをつけられる。
チョッキの性能の優秀さはすでに証明された。
さらに――農機具置場はガレージ兼用だったのかバイクとヘルメットが置いてあった。
そのヘルメットを拝借し(ホントはこんなにダサいのは被りたくないが、それでも死ぬよりはマシだと自分をなだめすかした)銃を持った
相手も首から上を狙いはすまいし逸れた弾が当たったにしてもなんとかなる可能性は格段に上がった。
加えて、選手がずいぶん数を減らしていることがJIROを大胆にさせた。
数が少ないということは単純に出くわしにくいということだ。
よほど大きな騒ぎでなければ誰の耳にも届かないのだろう。事実AYAは三発も撃ったのだがそれを聞き付けた誰かが漁夫の利を得にやって
きたなどということはなかった。
それゆえJIROは一応は周囲を警戒しながらも特に身を隠すでもなく歩いていった。
今歩いている場所がまもなく禁止エリアになるという事実が、JIROの足を早めている。その分周囲に払う注意はいささか散漫になっていた。
911 :
生姜:02/05/04 23:36 ID:aFqkFtFo
不意に、JIROは意外なほど近い距離に動くものを見、ぎょっとして反射的に銃を向けた。そしてそれが人間だと認識するや、ためらいなく
引き金を絞っていた。
銃弾は目標を逸れてそこらの枝を傷つけただけだったが、丈高い草を分けかけていた人影は一瞬の硬直ののち、薮に沈んだ。
JIROは舌打ちした、面倒なことになった。対応をとっさには決めかねる。
だがJIROが取る手を選ぶまもなく、薮からは声が発せられた。
「誰だ!?」
ヘルメットを着用している上薄暗がりでこちらがしかとは視認できないのだろうが、鉛弾に対して返すにはなかなかどうして間の抜けた
言い草だ。
だがその声で、JIROには相手が誰なのだかわかった。
PIERROTのTAKEOだ。
GLAYに入る前のJIROが入っていたバンドと同じ名前の、しかし中身はまるで違うヴィジュアル系バンドのドラマー。ヴィジュアル系と
いわれるのが大嫌いなJIROにとって(彼が昔在籍していた“ピエロ”もヴィジュアル系であることはこの際あぼーん)なんとなく嫌悪感を
誘われる相手であった。確か、JIROとはタメである。
TAKEOは言葉を続けた。
「待ってくれ! 俺は戦う気はないんだ!」
912 :
生姜:02/05/04 23:36 ID:aFqkFtFo
その台詞に、JIROは思わず口をぽかんと開けた。
PIERROTというバンドはかなりめでたい人種の集まりである、なんてJIROは聞いたことがない。なんだ?今のヴィジュアル系バンドの中で
1、2を争う売り上げを誇るお前らだろう?(ま、俺達GLAYには遥かに及ばないけど(w)それなのにそんなにおめでたくていいのか?
このゲームの中にあってやる気がない、というのはつまり自殺を決めたに等しいのに、そういう自覚さえ持っていない。いまだに、なにか
の間違いだと思ってでもいるのか。
だが、そういう奴ならこちらもやり方を変えるまでだ、と
JIROは銃を下ろした。もちろんTAKEOを薮から引き摺り出すための芝居だが。
「俺だ――GLAYのJIROだ」
左手でヘルメットの風防を上げる。
「すまない、その……怖くて、つい。怪我……しなかったか?」
JIROがばつの悪いような口調でそう言ってやると、もちろん疑いもしないであろうTAKEOは立ち上がってそのドラマーらしく逞しく
引き締まった胸より上を薮から出した。
「……大丈夫」
安堵した風のその言葉の終わらぬうち、JIROは再び銃を構え、引き金を引いていた。
だがその弾丸はさきほどと同じく、TAKEOのすぐ傍の草を揺らしただけに終わる。
そしてTAKEOはそれに即座に反応していた。
「ぎゃああああああっ!」
913 :
生姜:02/05/04 23:36 ID:aFqkFtFo
信じ難い激痛に、JIROは叫び声を上げていた。
無意識にその箇所、左手を抱え込むようにしてうずくまる。
一呼吸、二呼吸し、痛みはまさか薄らがないが、それでもJIROはほんの少し衝撃から立ち直った。
おそるおそる右手を引き剥がして覗き込むと、真っ赤に染まった左手の、これまた真っ赤に塗られた指の数が――露骨に足りない。
お、おおおおおおおお前!どうしてくれるんだよ!俺はGLAYのJIROなんだぞ!!ベースが弾けねーじゃんこれじゃ!!!
「やる気十分なんですね」
癪に触るほど沈痛な声に、JIROは思わずTAKEOを睨みつけた。
「撃ちたかないですけど――俺は撃たなきゃならないんです。どうしても」
そう言いながらTAKEOはなお数秒の間を取って、しかしついにはきゅっと口元を結び、引き金を絞った。
だが、TAKEOの銃はかちん、と小さな金属音を立てただけだった。
TAKEOがみるみる狼狽した表情になる。
もう一度撃鉄を起こし引き金を引いたが、同じことの繰り返しに終わった。
だからお前らのバンドはいつまで経っても一流になれないんだ、残弾を確認する頭もないとはな。
JIROは唇を歪めて嘲笑いながら、足元に転がった自分の銃に飛び付いた。
それを見てTAKEOは身を翻し山のほう、もと来たほうへ駆け出す。
その背中へ向けて、JIROは一発撃った。
ようやく弾丸は目標を捉え、TAKEOの右脚のあたりでぱっと血がしぶいたのが見えた。しかしTAKEOは一瞬身体を傾がせこそしたものの、
そのまま山へ消えていく。
どうやら掠っただけで、TAKEOを仕留めるどころか足を止める役にさえ立たなかったのだ。
914 :
生姜:02/05/04 23:37 ID:aFqkFtFo
――くそ!
JIROの傷口からは拍動に合わせて盛大に血が湧き出ている。とてもではないがTAKEOを追える状態ではない。
そう思った途端にわかに痛みを増した左手を抱えて、JIROは喘いだ。なにはともあれ、この手をなんとかしなくてはならなかった。
「……くそっ……」
中指をほど半ばから失った左手を覗き込んで、JIROは今度は声に出した。
この手ではもう2度とベースが弾けない。それはもう火を見るより明らかであった。よしんばもう一度武道館のステージに戻れたとして、
モニタではいつでも無駄に手元ばかりアップにされるに違いないのだ。
大変なハンデを乗り越えて、JIROが日本武道館のステージへ帰ってきました。
東海林のり子が楽しそうに電波の上で囀るのが聞こえるような気さえした。
「くそ、っ……!」
もう一度吐き捨てて、JIROは視線を前へ戻した。そして――凍り付いた。
さきほどまではいなかった誰かが、仁王立ちしている。
反射的に逃げ出そうとしたJIROが背を向ける前に、その手元で火炎が閃いた。
照らしだされた姿がキリト(またしても忌々しいPIERROT!!のVo)のものだとJIROが認識した瞬間、AYAに撃たれたときとは桁の違う
衝撃がJIROの胴を襲った。しかも、複数。
演技抜きで吹っ飛んで、背中から地に叩きつけられる。息が詰まって、呻きさえ出ない。
915 :
生姜:02/05/04 23:37 ID:aFqkFtFo
それでもJIROは、おのれの現在取るべき方策は忘れなかった。
死んだふりだ。
AYAと同じだ、キリトだって死人を警戒はしない――それもマシンガンなんか使って、確実に、完璧に、間違いなく、殺したのなら。
JIROはだから仰向けに倒れたまま、じっとして動かず、そしてキリトの様子を窺った。まだ右手は銃を握っている、背を向けたらぶちこんでやる。
だが、JIROの期待を裏切るように、大股に近付いてくるキリトの足音が響いた。
なんで――どうして。俺は、死んでるのに。そりゃあもう完全に、死んでいるのに!
冷汗をだらだら流すJIROの頭のすぐ脇へ、ついにキリトが立った。
「……GLAYか」
特になんの感慨もなさそうに呟いて、キリトはわずかに身を屈める。
かつん、と音を立てて、ヘルメットの透明な風防にイングラムの銃口が押し当てられた。その向こうでキリトが、いつものふてぶてしさを
湛えた表情でかすかに笑ったのをJIROは見た。
「これで全滅…と」
その瞬間にJIROはキリトの発言の意味を考える暇もなく、死んだ振りなぞすっかり忘れ、意味をなさない叫びを上げて暴れだしそうに
なったが、イングラムが火を噴くほうがわずかに早かった。
だからJIROの足やら腕やら胴が、でたらめに跳ね上がって見せた奇妙な踊りがJIROの最後のあがきだったのかそれとも死体が弾丸に
揺らされただけなのかはキリトにも、もちろんJIRO自身にもわからなかった。
こうして、JIROは既に自分の仲間達がキリトによって殺されている事なぞ知る由もなく死んでいった。
916 :
生姜:02/05/04 23:40 ID:aFqkFtFo
話し声。移動に伴う物音。
あるいは殺しても殺しきれないかすかな息遣いでも良かったが
YURA(Psycho le cemu・Dr)の耳に聞こえてきたのは何か金属のような物同士がキリキリと擦れるような音だった。ごく近くの藪の中
誰かが何らかの作業をしているのだとわかった。
(そう、この近くに稼働中の工場でもない限りは)
夜明けが近く首を上に向けると漆黒にかすかな青が滲み始めた空の色が見えた。
TAKEOと遭い、どうにか逃げおおせた後YURAがまず考えたのは銃が必要だという事だった。
Takashi(Plastic tree・Dr)と出会ったのはほとんどアクシデントだったのだが運良く銃を手に入れられた。
しかしその銃をあろう事かいつの間にか落としてしまっていたのだ。
慌てて探し回ったが既に遅く、困り果てていた所に貮方孝司(Waive・下G)と田澤孝介(Waive・Vo)の言い争う声が聞こえてきた。
そして二人を倒し、銃とあまり使えそうにはなかったが一応錆びた短刀も手にする事ができた。
銃があれば多少は大胆に行動しても平気だったし、それにTAIZO(元FEEL・G)とやりあった後のアイジを殺すのも簡単だった。
(しかしとどめを刺しておかなかったのは本当にまずかった。気をつけなければならない)
だけど今は丸腰だ。その銃も短刀も失ってしまった。手元には最初に自分に支給されたカマがあるきりときてる。
こちらも使えない訳じゃないのだが、何としてでも再び銃を入手する必要があった。
何故ならやる気になっているのは自分だけじゃない、あのDaishiとLidaを殺した(さすがのYURAもあれだけは自分棚上げで許せないと
憤慨した)マシンガンの奴がいるからだ。
917 :
生姜:02/05/04 23:40 ID:aFqkFtFo
そしてそのマシンガンの音は30分程前にもまた聞こえたばかりだった。
もちろんその分逆に、自分が無理して仲間を手に掛ける事もない、そいつに任せておいて自分はやれる時にやればいいとも言える。
けれども最終的にはそいつ、そのマシンガンの奴とやりあう事になる可能性が高い。
その時に銃がないのは絶対まずい。
銃とマシンガンでも厳しい事は厳しいのだがカマとマシンガンじゃそもそも勝負にならない。
そういうわけでYURAは島の中央を東西に抜ける道路にそって西へ進み、その後北の山まで移動して誰かを探し始めた。
それから約3時間が経過し――
今、ようやく耳に物音が届いている。
YURAはその音を頼りに藪を掻き分けて進んだ。
もちろん慎重に。こちらが物音を立ててはならない。
藪が切れた。
茂みのなかにぽっかり開いた小さな空間がそこにはあった。
正面も右手もやはり藪になっている。左手もまたそうで――
その隅に黒の革ジャンをきた男の背中があった。
918 :
生姜:02/05/04 23:40 ID:aFqkFtFo
キリキリという音が続く中、顔を落ち着きなく左右に振りむけている。
誰かに襲われやしないかと不安で堪らないのだろうが、それでその人物がAKIRA(Plastic tree・G)である事が分かった。
まあ、それが誰だという事よりも。
AKIRAが作業――どうやら、フェルナンデス製のZO-3ギターの弦を本体から外しているようだった――をしながらも右手にしっかりと
握っている物がYURAの目をとらえた。
――銃だった。やや大型の、回転式だ。
YURAの口元にまた笑みが浮かび上がった。
919 :
Nana:02/05/05 00:24 ID:hFDpLv.M
あげ
GLAY全滅か…HISASHIがんがってたのにな(;´Д`)
あと1回更新されたら表でも貼ろうかな。
AKIRAー!後ろ!後ろ!!Σ(´Д`)
弦外して何やってるんだ、明さん・・・・(;´Д`)
明さーん!後ろ、後ろぉぉぉぉ!(ナキ
922 :
Nana:02/05/05 12:19 ID:Mi.61DOE
YURA様がんばれ・・・(ボソ
923 :
Nana:02/05/05 13:16 ID:cKagMXtY
ていうか次のスレどうするの?
924 :
Nana:02/05/05 21:23 ID:oskEXyKM
明君殺したらイヤソイヤソ(藁
925 :
生姜:02/05/05 23:42 ID:kbHYXrGg
AKIRAの作業はまだ終わらない様だった。
片手のみで弦を外すのは結構骨が折れる物だ。
それでもAKIRAは相変わらず辺りを見回しながら、弦を一本一本丁寧に外している。
こんなところで、一体何をやっているのだろう?
YURAは訝しく思いつつ音を立てない様、ゆっくりとカマを右手に抜き出した。
弦を本体から完全に外す時、AKIRAは両手を使わざるを得ないだろう。無理して片手で済ませたとしても隙ができる。
その時があなたの終わりになるみたいですよ、どうもね♪
金属が擦れる音がまばらになり、一旦止まる――パチン、と音がして、今度は完全に止んだ。
AKIRAはまたきょろきょろと顔を動かすと、さっと両手を前に回した。そのときにはもう、YURAは完全にAKIRAの背後に忍び寄っていた。
AKIRAの後頭部が目の前に迫る。右手のカマを持ち上げかけた、その時。
誰かが背後で「あ――」と言うのが聞こえ、AKIRAがそれでびくっと振り返ったのだけれど、びっくりしたのはYURAも同じだった。
カマを振り上げるのは当然ながら止め、声のした方を振り返る。
TADASHI(Plastic tree・Ba)がそこにいた。金髪の、見た目は寡黙そうなイメージのベーシストである。右手にそれが武器なのか
金属バットを提げ、YURAを見つめて口を開いていた。
AKIRAがYURAを認めてこちらも「あ――」と言い、それから「くそっ」とYURAに向けて銃を構えた。
926 :
生姜:02/05/05 23:43 ID:kbHYXrGg
TADASHIの出現には驚いた様子がない所を見ると、二人は行動を共にしていたのだろう。これまたラッキーな、同じバンドの仲間同士。
YURAは内心歯噛みした。AKIRAはただ弦を外す作業の為だけにTADASHIから離れていたのだ。そんな事、洞察なんて出来るわけがない。
大体、こんな殺し合いの中で何のんきなことやってんねんこいつ?心の中で思わず突っ込んでみたがそれどころではない。
AKIRAの構えたリボルバーの銃口がまっすぐ自分の胸の辺りを狙っていた。
「AKIRA!!やめろ!」
TADASHIが恐らく状況に対する混乱と、今、目の前で人が殺されようとしている事への狼狽でか引き攣った声をあげた。
AKIRAは今すぐにでも引き金を引きそうだったが、銃鉄がおちる0・数ミリ前でその指を止めた。
「何でだ!こいつ俺を殺そうとしていたんだ!み、見ろ!カマか?!カマなんか持ってるじゃねえか!」
YURAは「ち、ちがいます」と喉の奥から消え入りそうな声を絞り出した。語尾を震わせ、もちろん体を竦ませるのも忘れずに。
またまたこの度の主演男優、YURA様の見せ場ってわけだ。目を開けてよっく見とけよ。
「ぼ、ぼく」カマを捨てようかと思ったが、握りっぱなしの方が自然に見えそうだったのでやめた。
「話し掛けようとしただけです。そしたら、あ、AKIRAさん銃を持ってるって分かったから怖くなって――」
YURAは少し俯き、おびえた振りを続けた。「だから、だから僕………」
しかしAKIRAは銃を下げなかった。
「嘘をつくな!お前は俺を殺そうとしてたんだ!」
927 :
生姜:02/05/05 23:44 ID:kbHYXrGg
銃を握ったその手がぶるぶると震えていた。多分、引き金を引くのを躊躇わせているのは実際に人を撃つ事の恐ろしさだけだろう。
YURAを見てすぐのついさっきなら、勢いにまかせて撃った所だったろうがTADASHIに止められて考える余裕ができた分だけ、ためらいが
生じたのだ。そしてそれは――
あんたの負けっていうことですよ♪
「やめろよ、AKIRA。やめてくれ」TADASHIが懇願するように続けた。
「さっき言ったじゃないか。俺達仲間を増やさなきゃって――」
「冗談じゃねえよ」AKIRAが首を振った。「こんな奴と一緒になんかいられるもんか。お前、こいつの噂知ってるだろ?あの――DAISHIと
Lidaをやったのだってこいつかもしれないんだ。仲間を平気で裏切るような奴、うちの事務所にはゴマンといるからな!」
「ち、違います――僕そんなこと――」YURAは目に涙を滲ませた。
TADASHIが必死な口調で言う。
「YURAはマシンガンなんて持ってないじゃないか。銃だって持ってない」
しかしAKIRAの方も必死だ。声を荒げて応戦する。
「そんなのわかるか!弾がなくなって捨てただけかもしれないだろ!」
それでTADASHIは、少しの間沈黙したが、ややあって「AKIRA、大声あげたらダメだ」と言った。
それは今までとはちょっと違う、落ち着いた、穏やかな声だった。
AKIRAが虚をつかれたように、薄く口を開いてTADASHIを見た。
YURAもちょっと、おや、と思った。
928 :
生姜:02/05/05 23:44 ID:kbHYXrGg
TADASHIは事務所内の仲間内でも比較的大人びたというか(まあ、大人なんだけど)、落ち着いた印象がある。それなのに随分堂々とした
感じにそれは聞こえたのだ。
TADASHIが首を振り、諭す様に続けた。「それに証拠もないのに疑うなんて駄目だ。考えてみろ。YURAはお前を信用したからこそ、話し
掛けようとしたのかもしれないだろ?」
「じゃあ――」AKIRAが眉を寄せTADASHIを見た。相変わらず銃口をYURAに向けていたが引き金にかかった指の緊張は幾分ゆるんでいるよ
うだった。
「じゃあ、どうしろって言うんだ?」
「どうしても信用できないなら、俺達がYURAを交代で見張ってたらいい。それに、今YURAにどこかに行くように言ったって、それでお前の
不安が解消される訳じゃないだろう?また、隙を狙われるかもしれない」
YURAはますます感心した。なかなかやりますね、先輩♪論理的だし、話しぶりも適切だ。
まあ、やろうとしてる事の当否は別にしてだけど。(今撃った方がいいんですよ♪ほんとはね)
AKIRAがそれで、ちょっと唇をなめた。
「な?俺達、仲間を増やさなきゃダメなんだよ、やっぱり。それで、なんとか抜け出す方法を見つけなきゃ――しばらく一緒にいたらYURA
が信用できるかどうかも分かるだろ」
TADASHIが駄目を押すように言い、AKIRAはまだ疑わしげにYURAを見ていたけれども、ようやく頷き、疲れたような感じで「わかった」と
言った。YURAはほっと全身の力を抜いた(様にみせた)。
そして涙を滲ませていた目を左手でちょっと拭う。
「そのカマを放せ」AKIRAが言い、YURAは慌てた様子でそれを地面へ投げ捨てた。
929 :
生姜:02/05/05 23:45 ID:kbHYXrGg
AKIRAは「よし」と頷き、それから「TADASHI。この弦でこいつの手を括れ」と言った。弦、言わずもがな、さっきまでAKIRA本人が
一生懸命ZO-3ギターから外していたあの弦である。
TADASHIは、ちょっとむっとしたような視線をAKIRAに向けたが、AKIRAも銃を構えたまま譲らない。
「それが俺の条件だ。もしそれが駄目だと言うなら、俺は今すぐこいつを撃つ」
TADASHIはやれやれと言ったように小さく首を傾げて、ため息をついた。だからYURAは「構いません、どうかそうしてください」と
自分からしおらしく言った。
ややあってTADASHIは小さく頷くと、弦を一本取って軽くYURAの手首を括った。
「悪いな。少し痛いかも知れない」TADASHIがそう呟くと、相変わらずYURAに銃を向けながらAKIRAが言う。
「どうせなら弦全部使って括ればいいのに」
「何言ってんだ、ブービートラップ作るって言ったのはお前だろう?」
TADASHIのその言葉で、AKIRAが必死に弦を外していた理由がわかった。多分、彼らはどこかの民家にあったこのアンプ内蔵ギターを
見つけてきて演奏――なんてこんな状況の中でやらかしたら即命取りだが――、もとい、弦を使って簡易なブービートラップを作ろうと
していたのだ。
TADASHIは黙ってしまったAKIRAに苦笑を返し、ただ黙ってYURAの手首に軽く弦を巻き付けた。
意外にスチール弦は丈夫で、何があっても切れそうにない。下手をしたら自分の手首がスパッと逝きそうだ。下手に解こうと動くのは
危険だ。
素直に手を前に差し出したまま、YURAは考えていた。
全く、カマを持ち上げる前に見つかったのは不幸中の幸いだった。(カマの血も拭ってあった。大ラッキー)
さて。どうしようか。
930 :
生姜:02/05/05 23:45 ID:kbHYXrGg
Gacktは白々と明けようとする空にちら、と視線を走らせ、一つため息をついた。
明け方の気温は余裕でマイナスに到達する。ここが日本の東北寄りの孤島であることを立場上知っていたGacktは念のため懐に忍ばせて
おいた携帯用カイロが河村に没収されずに済んだことを、ちょっと感謝した。
悴む手に、カイロの熱が心地よい。
しばらく茂みに身を置いていたGacktは、やがて意を決すると、また茂みの中を歩き始めた。
彼が今回のゲームのアシスタントとして自ら志願した理由――それは、参加を余儀なくされるであろう友人を助けるためであった。
友人、既にゲームの初めの方で死亡したTAKAである。
所詮SWEET HEARTのスタッフが作り上げたプログラムなんてたかが知れている。
アシスタントをする振りをして上手くプログラムに手を出して、機を見て破壊してやろうと企んでいた。
だが、そろそろ活動をしようと言うときになって、あろうことか彼の友人は錯乱したままPIERROTのKOHTAに襲いかかり、返り討ちに遭って
あっけなく死んでしまった。
――何だよ、それ…
結局無駄足となってしまったGacktに残された道は、参加者としてゲームに放り出されることしかなかった。
しかも、ご丁寧にアイジの時にはなかった参加表明付きのサービスだ。全く、有り難くて涙が出る。支給された武器も、まだちゃんと
確認したわけではないがどうも救急セット(絆創膏に包帯、薬その他。ああ、メスやピンセット、注射器も入ってたかな)らしい。
これで、何をどう戦えと。寧ろ、自分の持っている薬を狙われて逆に危ないんじゃ…
Gacktはもう一度、ため息をついた。
931 :
生姜:02/05/05 23:46 ID:kbHYXrGg
こんな事になるのなら、初めからアシスタントに志願などしなかったものを。自分は甘かった。甘すぎた。
だけど、わかっていながら友人を見捨てることなど、Gacktにはどうしてもできなかったのだ。
それにしても――Gacktは改めて今回のプログラムの異常さを顧みた。
本来、このSWEET TRANCEプログラムはあの事務所所属のミュージシャンのみが対象の筈である。
それが、自ら志願した自分はともかく、既に死んだTAIZOやGLAY、もう事務所を放り出されたSHAZNAなど、明らかに事務所と関係のない
彼らまで巻き込まれているのはどういう事なのだろうか?
アシスタントをしていたので、今回のバックにYOSHIKIが控えていることはGacktにはわかっている。だが…
たとえばGLAY。彼らももしかしたらもう死んでいるのかも知れないが。
あれだけ売れているアーティスト全員がもし死んでしまったら(てか死ぬだろうが)、事務所は、いや、YOSHIKIはどうやって補償をする
つもりなのだろう。
GLAYに限らず、ファンやレコード会社に対する補償は?イベンターや衣装、製作会社、タイアップその他諸々…
そもそも馬鹿げているこのプログラムを、過去に類を見ないほど規模をデカくして損失を拡げることの意味は一体何なのだろう?
「………まさか、とは思うけど」
Gacktは整いすぎている顔に僅かに憂愁の色を浮かべてじっと思案する。と、その思案はすぐに途絶えた。
目の前に凄惨な姿で無惨に横たわる死体を見つけたからだ。
――探していた、TAKAの死体だった。
932 :
生姜:02/05/05 23:47 ID:kbHYXrGg
「だからどうしても誰かを探さなきゃって思ったんだ。」
TADASHIはそう言い、YURAの顔をちらっと見た。
もうすっかり夜が明けて、その顔が泥で汚れているのがはっきり見えた。
茂みの中で二人は並んで腰を下ろし話をしていた。
最もYURAの手には相変わらずギターのスチール弦が巻かれていたし、持っていたカマはTADASHIがズボンの後ろに差していたけれど。
AKIRAは、銃を自分の手にハンカチでぐるぐると巻きつけた状態で少し離れた所で寝息を立てていた。
YURAがとにもかくにもこのチームに合流したあと、AKIRAは交代で眠ろうと言い出した。疲労の限界なのだ。
TADASHIがメンバーを気遣ってお前が先に寝ろ、と言うと今まで一睡もできなかったのだろう。ほんの十数秒で寝息が聞こえてきた。
それで、TADASHIとYURAはしばらく黙っていたのだけれど、そのうちにTADASHIが話を始めた。
昼の間は動くに動けなかったらしく夜になって慎重に行動を開始したという事、そしてYURAに会う2時間ほど前にAKIRAと奇跡的に
出会った事、二人で脱出の方法を考えたがいい案がさっぱり出ず、とにかく仲間を増やそうと言う結論に辿り着いた事。
「最初は怖くて誰も信じられないと思ったよ。だけど、ほとんどの奴は俺と同じ様にここから逃げようと思ってる筈だって考え直した。
…竜太朗もTakashiも、早いうちに死んでしまったけど、あいつらもやる気になってて殺された訳じゃないと俺は思ってる」
TADASHIはそこで言葉を区切り、またYURAの方をちらっと見た。
TADASHIの口調は終始淡々としていて、YURAと目もまともに合わせようとしなかった。
同じ事務所のアーティストといってもアプローチの仕方がまるで違うYURAとは壁があるのかもしれない。
それでも――そうして話し掛けるTADASHIに、YURAを警戒する様子はさほど感じられなかった。後輩を信じている、いたいのかも知れない。
それでYURAも安心した風を装って訊いた。
933 :
生姜:02/05/05 23:48 ID:kbHYXrGg
「AKIRAさんはあのピストルを持っていたんですよね♪TADASHIさんは怖くなかったんですか?今だってあれを握って離さないじゃないですか♪」
TADASHIはそれを聞いてちょっと笑った。
「あいつもかなりナーバスになってるから…確かに凄い警戒はされたけど、銃を向けられたりはしなかったし………それにAKIRAと俺は
ずっと一緒にやってきた仲間だ。だから信じてる。疑う方がどうかしてる」
「けど」YURAは青ざめた感じの表情を浮かべてみせた。
「見ましたよね?うちのDAISHIとLidaが死んだとこ――やる気になってる奴はいるんです。AKIRAさんがそうじゃないなんて分かりませんよ?現に、アイジさんや潤さんは、平気で仲間を裏切って――(まあ、アイジさんは殺したけど(w )」
言ってから少し俯き、続けた。「だからAKIRAさんだって僕を疑うんだ」
TADASHIは少し口元を引き締め、何度か小さく頷いた。
「そうだな。でもじっとしてたって死ぬだけだし、それなら何かやった方がいいだろう?少しずつでもいい、俺はやっぱり死ぬのは嫌だ。
みんなもそうだと思う。だから仲間を増やしたいって思った。それにAKIRAが銃を離さないのも仕方ない。あいつも怖くて堪らないん
だろうから」
YURAはそれを聞き少し笑みを見せた。
「凄いですね、TADASHIさんって。そんな風に勇気のあるところも、こんな状況でも人の気持ちを考えられる所も」
それでTADASHIは少し照れた様に視線を地面に落とした。そしてぼさぼさの金髪を掻きながら「そんな事ないさ」と言った。
934 :
生姜:02/05/05 23:48 ID:kbHYXrGg
「でも――だからお前の事疑うの許してやって欲しい。あいつ、人間不信になってるだけだと思うから………」
YURAはまた微笑したが、溜息交じりに言った。
「仕方ないですよ。僕、疑われても――TADASHIさんだって僕の事怪しいって思うでしょう?第一、僕たちはまだ新人ですから、よく
わかって貰えてないと思うし」
TADASHIは少し間を置いて、長い事YURAの顔を見つめていた。
それから「いや」と言って、また地面へ顔を向けると続けた。
「怪しいって言うなら、AKIRAも俺も同じさ。そりゃあ――」
足元の草を千切って、朝露に濡れたそれをまた両手で細かく切る。
「そりゃあYURAの事を俺は全然知らない。けど。でもこんな状況じゃ関係ない。案外、外では善人面をしている奴の方が見境なくなった
りするし」
千切った草を足元へ放ると、YURAのほうへ顔を上げた。「それに、俺はお前はそんな悪い奴じゃない気がする」
YURAはその言葉にちょっとだけびっくりした。TADASHIがただのお世辞やたてまえで言ってると言う感じがしなかったからだ。
「どうしてですか?」YURAが正面から見ると、TADASHIはまたそっと視線を外した。
「目だよ、目」
「目?」
TADASHIは少し疲れた表情を傾けたまま続けた。
「俺、多少お前よりは人生経験あるからな。今まで色んな奴に出会ってきたから言えるんだけど……ホントにやばい奴の目は、なんていうか
こう――もっと、淀んでるもんだ」
935 :
生姜:02/05/05 23:48 ID:kbHYXrGg
YURAはTADASHIの横顔を見つめながら、その話を黙って聞いていた。
「だから、俺は今思った。お前は多分、そんなに悪い奴じゃないと。もし悪い事をしてるんだとしても、そうでもしなきゃいられないよう
な理由があるんじゃないかと」
何だか随分恥ずかしげな、好きな女の子に告白でもする様な緊張した声音でそう言った。
「少なくとも俺は、それが分からないようなつまらない男にはなりたくないって、いつも思ってる」
YURAは心の中、溜息をついた。もちろん――甘すぎますよ、TADASHIさん、と思っていたのだけれど。
しかし、「ありがとうございます」そう言った自分の声はびっくりする程敬意が込められたものだった。
そう装ったのではあるけれど、それがYURAにとっても出来過ぎと思える演技になり得てるのだとしたら――
それはもしかしたら、その言葉にほんのちょっとばかり、本物の感情が混じっていたのかもしれない。
TADASHIは頷くと、黙ってYURAの手をとり、その皮膚に食い込んでいる弦をほどき始めた。
「TADASHIさん――」YURAは本当に少し驚いて言った。「いいんですか?AKIRAさんが怒りますよ」
TADASHIは視線をYURAの手首に集中させながら答えた。
「いいよ、武器は俺が預かってるし。それに、後輩を縛ってそのままなんて、なんか後輩イジメみたいで気分悪い」
936 :
生姜:02/05/05 23:49 ID:kbHYXrGg
弦が外れると、YURAは手首をさすりながらもう一度「ありがとうございます」と言った。そして
「良かったです、僕、TADASHIさんみたいな先輩と会えて。僕ずっと怖かったんです。僕らのバンドは…SeekもDAISHIもLidaもAYAも
死んでしまって、一人っきりで。きっと誰かに会っても信用なんかされないだろうなって思ってて……AKIRAさんにもやっぱり疑われるし。
わかってるんですけど、それだけ僕たちはまだ新人という事で先輩達から敬遠されてる、仲間に入れてないって事で。でもTADASHIさんが
ああ言ってくださって、本当に嬉しかったです」
と涙まじりに話した。TADASHIは少しはにかんだ様子で
「大丈夫だよ。俺はちゃんと分かってるし、AKIRAだって――みんなだってちゃんとわかるさ。この事務所の奴らは、みんな良い奴だよ」
と言った。
YURAはもう一度ありがとうございますと言うと「TADASHIさんは、本当に良い方ですね」と笑んでみせた。
TADASHIは驚いた様子で顎を何度か引いた。それが頷くというよりも照れ隠しのため大雑把にさっさと切り上げたと言った方が正しい
ような感じだったのでYURAはそれでまたちょっと笑った。
自分でも思ったのだが、その微笑みには悪意は含まれていなかった。
まあ、多分、ほとんど♪
937 :
Nana:02/05/06 00:06 ID:uIbP6Phk
正サンカッコよすぎるYO!…もう氏ぬのかな?
938 :
Nana:02/05/06 00:18 ID:VbEuH7t.
正さん…大人だ…。出来れば死なないでホス
ィ(;´д`)
>>925の生姜サソのメール欄みて思ったんですが
新スレはいつ立てた方がいいですかね?
もう427KBですし…デッドラインは512KBらしいと聞いたけど
やはり小説ってこともあって長文投稿も多いし容量くうだろうし
950行く前に立てた方がいいのかな?
それともあと1回生姜サソが更新したら立てた方がいいのか…
>>920で
>あと1回更新されたら表でも貼ろうかな。
と言いましたがここもあと1回生姜サソが更新したら終わりそうなので
やめときます。
一応登場人物表と新スレの準備(このスレのアドなど)もメモ帳に作っておきました。
新スレ立てちゃってもよろしいようでしたらすぐ立てて誘導貼りますね。
でしゃばって失礼。
941 :
Nana:02/05/06 02:48 ID:6f7usBI2
もう新スレ行って良いんじゃないでしょうか?
小説だし…長いから…
生麦さんの状態も分かりませんが
微妙な所で切れたらこまるなぁとか…
1読者の意見。
942 :
nana:02/05/06 02:48 ID:sBF3QQ7w
いつも楽しみに見てます。
朝ねずみさんみたいに整理してくれる人がいるとありがたいッス。
>>941 わかりました、今から立てて誘導貼っておきますね。
確かにこのスレと新スレまたがって更新しても大変でしょうし。
あと、生麦(なまむぎ)さんでなく生姜(しょうが)さんですね(ワラ コマカイツッコミスマソ
>>942 読みながら表作ってるから作りが適当で見難いんだけどね(;´Д`)
とりあえず今から立ててみます。
945 :
Nana:02/05/07 23:50 ID:3VTEZMJ2
にゃあ
946 :
Nana:02/05/11 13:16 ID:O3KuL4.I
あげてみる。
947 :
Nana:
はあ・・・(ため息)