●砒素
『ヒ素は無味無臭かつ、無色な毒であるため、しばしば暗殺の道具として用いられた』
「さて、エレーヌ・ジェガードは1833年から1851年までの十八年間に、
三十四人もの人間を毒殺したってすごい人です。彼女は女中として方々の家庭にあらわれるや、
だれかがかならず死に、ときには家族全員が殺されるということも稀ではなくて、
まさに死神のような女でした。表面はいかにも利口そうで、信心ふかそうで、
周りのだれもが彼女がそんなおそろしいことやってるなんて思えない、しかも彼女の
巧妙な毒殺のプロセスは無学な医者たちをまんまと騙しつづけ、
十八年間まるで捕まらなかったのです。」
「屍体愛好症‥ネクロフィリア、かな。そうとしか思えないような行動の数々だから、
現代ならたぶん不幸な精神病者、ってことになるのかな‥。
彼女が逮捕されたとき、もう彼女の犯行の大部分は法律的に無効になってました。
それでも逮捕当時、彼女には十一件の盗み、三件の毒殺、そして三件の毒殺未遂の容疑が
かけられてて、そしてエレーヌはそのすべてを否認します。
彼女はさいごまで自分の犯行を認めなかった。論理的に矛盾した証言をくりかえす彼女に、
弁護士も匙を投げたって伝えられます。」
「1851年に死神の毒殺魔エレーヌ・ジェガードはギロチンで首を刎ねられました。
‥彼女の精神は、私たちにうかがうことなんて、きっとできないね‥。
エレーヌは首が飛ぶ寸前まで、己の無罪を叫びたてていて、そして死にました。」