私は、固まったまま動けない。
指の又に伝わる刺激が、神経を通ってビリビリと心臓の鼓動に重なる。
全身の力が抜けて、思わず宮咲さんの太い首にしがみつきたくなる。
何でいきなりこんなことを。
早朝散歩というこの静かな空間が、宮咲さんの突然の手の動きで壊れそうになっている。
このまま、宮咲さんの手に包まれていたい。
寒い日に被る毛布のように、いつまでもここから出たくない。
それでも、これ以上の刺激に出会うのが怖い。
宮咲さんに出会い、体と体が触れ合う距離になることを望んでいたはずなのに、
ブレーキをかけている自分がいる。
私と宮咲さんはこういう関係になってはいけないのだ。
「…ね、宮咲さん」
「ん」
「肉まんが冷えます」
「うん」
突き放すように聞こえてしまった気がして、言ったばかりの言葉に少し後悔をする。
私の手を離し、何事もなかったかのように荒々しく肉まんをほおばる宮咲さんを見て、
自分で作ったこの距離を恨まずにはいられなかった。