>>609 二人は、歩道から離れた薄暗いベンチに腰をかけた。
「今日はね、肉まんを買ってきましたよ」
私は、宮咲さんとの間に距離を作るように、コンビニの袋を二人の間に置いた。
「あ、いいですねえ。コンビニの肉まんっておいしいよね。あ、今日も色々買ってるね」
宮咲さんはうれしそうな顔で袋を覗き込んでいる。
どこかの有名でおいしい食べ物より、彼はコンビニのものが好きらしい。
前に、メロンパンを持ってきたときもそうだった。
肉まんを取り出そうと袋に手を入れてガサゴソしていると、
急に宮咲さんは強い力で私の手首をつかみ、
握ったままの手をコンビニの袋の下に隠した。
宮咲さんは何食わぬ顔で、犬のほうを見ている。
それでも、握りながら指先で私の手首の血管をなぞっている。
次第に指先は私の指の又に当てられ、柔らかな皮を摘まみはじめた。
隠された手は彼の手と袋越しの肉まんの温かさに挟まれてなのか、
次第に湿度を纏いはじめた。