@@@@ 中谷美紀の噂 3 @@@@

このエントリーをはてなブックマークに追加
571中谷美紀
正直なところライヒのライナーノーツを書くなんて、私には分不相応なのではないかとおもい、
断ろうかどうしようか迷っていました。
しかし、ライヒが紡ぎ出す音楽にたびたび心を奪われ、その果てしなく続くかのように思われる音に、
いつしか遠い理想郷へ思いを馳せることもしばしば・・・。
日頃の恩恵に対する感謝の気持ちをライヒを愛して止まない若者のひとりとしてここにあらわすことにしました。
1996年に来日した際のコンサートで初めて、あの何度となく繰り返される旋律たちを生で感じて、益々その思いは募るばかりです。
1時間弱に及ぶ大作『18人の音楽家のための音楽』を決して若いとはいえないミュージシャンたちが演じ上げたとき、ため息がこぼれました。
覚えていますか?
すべてが終了した後に舞台の袖から聞こえてきた「Happy birthday to you」の大合唱を。

* ボックスCD『STEVE REICH WORKS 1965-1995』(日本版)に寄稿したライナーノーツ
572中谷美紀:03/04/11 01:37
旅先で鬱々とした夜に眠れず手に取ったのがカノンのビデオだった。
以前レイトショーで観たあの陰鬱な映画の続きだと書かれていた。
馬肉売りのその後。できればあんなに暗い映画の続きなど観たくなかった。
ここ数年旅先で目にする風景の中、必ずといっていいほど物乞いや、路上生活者が彼らの力ではどうにもならない社会を放棄して虚空を見つめているのが印象的だった。
573中谷美紀:03/04/11 01:37
あの馬肉売りもきっとそうに違いない。
涙も出ないほどの空虚と孤独。
彼を擁護するものなどひとりもいない。
その存在価値の希薄さは悲しさと結びつく余地もない。
憤りも哀しみもすべての彼の中でめぐり、誰も耳を傾けようとしない。
唯一の希望はひとことも話さない娘。
真実の愛。究極の愛。
574中谷美紀:03/04/11 01:37
絶対にあの男のようにはなりたくない。
カーテンの隙間から白む空を見上げながらそう思った。
働きもせず、体制を批判しているだけの人々は甘ったれの怠け者だなんて決して言えない。
暗い路地裏、排気口の近くには虫と一緒になって寒さを凌ぐ老婆の姿があった。

* 『GASPER NOE'S WORLD』(プチグラパブリッシング)に寄稿した映画『カノン』の書き下ろしレヴュー
575中谷美紀:03/04/11 01:37
人はただ生きるために日々の糧を摂取するのだろうか?
そこに喜びを見出し、人々とのコミュニケーションをはかる手段として共に食卓ににつき時間を味を共有しているのではないか?
「禽獣はくらい、人間はたべる。教養ある人にしてはじめて食べ方を知る」
ブリア・サラヴァンによる美味学の有名な一節。
人はなぜたべるのか?というシンプルでとても大切なことが、
この『美味礼賛』(上下巻・岩波文庫)を読むとよくわかる。
576中谷美紀:03/04/11 01:39
敬虔なクリスチャンであったヘッセが
その抑圧された環境から抜け出し神に背いて欲望に捕らわれていく姿が、
主人公のゴルトムントに投影されているのが『知と愛』(新潮文庫)。
著者の魂に備わっている、神への忠誠心と背徳の悦びという二面性が如実に表れており、
美しいものを描きつつ毒を含んだ語り口は読む者の関心を捕らえて離さない。
577中谷美紀:03/04/11 01:39
女優を職業にしていると、真実と虚構の世界との境がわからなくなったりする。
ウソの中に真実を探そうとしても無駄なのに、時々そうしようとして失敗する。
『脱走と追跡のサンバ』(筒井康隆・角川文庫リバイバルコレクション・品切れ)
を読んだ直後に何らかの影響を受けて仕事を辞めたいと真剣に思った時期がある。
誰にも自分を見られたくない、ひとりにしてほしいと。

ウソを真実と勘違いして拾ってしまったから。