インリン・オブ・ジョイトイの噂

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ナショナリズムは嫌いですか

異色グラビアアイドル
インリン・オブ・ジョイトイさん

 戦争好きのアメリカは大っ嫌い。その戦争に加担するくらいなら、日本は胸を張
って「平和ボケ」でいればいいと言い切る。セクシーな衣装で雑誌のグラビアを飾
りながら痛烈な発言を続ける台湾出身の異色アイドル。「テロと戦う」というアメ
リカの主張には賛同できない?

 「出来ませんね。テロに報復するというのは完ぺきに間違いです。テロがあって
、報復があって、またテロ、報復。それを繰り返している。でも、実際に死んでい
くのは私たちみたいに普通に生きて普通に暮らしている人たち。権力者は、それを
考えていない。自分の国の利益ばかり考えている。アメリカだって、イラクで治安
を守るとか何だとか言いながら、石油を仕切っている。結局、それが目的だったん
でしょって思う」
 アメリカが揚げる「正義」の危うさ、うさんくささ。それに追従する日本にも厳
しい批判の目を向ける。

 「イラク戦争のとき、北朝鮮の問題があるからアメリカについていくしかないと
いう街頭の声を聞いて、びっくりした。この人たちは、自分のことばかり考えてい
るんじゃないか。戦争があれば、罪のない普通の人たちが死んでいくのに、その痛
みを考えないのだろうかと。『平和ボケ』でいいと言っても、自分たちだけが平和
ならいいということじゃない。世界中が『平和ボケ』でいられないと」

 東京都の石原慎太郎知事は嫌いですか?
 「アジアの人々をすごく差別してるでしょ。ナショナリズムが強すぎです」

 日本の戦争を美化する漫画家の小林よしのりさんは?
 「嫌いですね。ファシズムで商売が成り立っている。それはそれでいいんじゃな
いですか。商売なんだから」
 背伸びせず、自分の考えを率直な日本語で話す。台湾では、政治や社会について
意見を隠さず、議論するのが当たり前。十歳で日本に来て、日本人が意見をはっき
り言わないことにとまどった。

 「ノーとひとこと言ってくれればいいのに『前向きに考える』とか。これはいい
のかなと思うと全然ダメだったり(笑い)。慣れるのに時間がかかった。日本では
同世代の友だちと遊んでいても政治や戦争の話は出ませんね。みんな興味ないのか
な。テレビのニュースも見ないんだろうか。不思議だなって思う」

 台湾の小学校時代、旧日本軍の残虐行為を記録した映像を授業で見た。日本とい
う国が嫌いにはならなかったが、戦争はイヤだと思った。

 「私はどこかに所属してるわけではないし、普通の人間として、平和のことを考
えているだけ。日本の若い人たちにも、もうちょっと平和について考えてほしい」
 父はカメラマン。小さいころから写真を撮ってもらうのが好きだった。高校時代
にアルバイトでファッション雑誌のモデルを始めた。「でも、お人形さんみたいに、
いつも笑ってるだけ」。次第に物足りなくなった。

 その後、日本人創作家のヒラオカノフスキー・クラタチェンコさんと出会って「
ジョイトイ」というプロジェクトを始めた。軍国主義を風刺するような写真集や女
性工作員が旧日本軍と戦う映像作品などを制作。公式ホームページではセクシーな
写真と一緒に戦争や差別、有事法制、住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)な
どに反対するメッセージを揚げ、ヒット数は三百万件を超した。

 「ジョイトイのテーマは女性の自立です。だから、こびた笑顔はイヤ。無意味な
笑顔も(笑い)。性の商品化とは考えないですね。私自身、かっこよくてセクシー
な女性を見るのが好きだし。男の人が見て『わあ、エロいな』って思うのは自由だ
けど、女の人が『気持ち悪い』と感じるような作品にはしたくない。ターゲットは
女性。『インリンって、はっきり物言うし、かっこいいよね』って共感してくれた
らうれしい」
 「かわいい」だけのタレントにはなりたくない。一度だけ、断り切れずに三カ月
限定でアイドルっぽい仕事を引き受けたが、「このギャラはもらいたくないと思っ
た」。全額を国際ボランティア団体の「国境なき医師団」に寄付した。「そんなに
大した額じゃないですけど」と笑う。

 芸能界では、過去に政治的な発言をしてドラマやCMから干された人もいる。が、
そんなことで自分を曲げるつもりはない。やりたい仕事を選び、わが道をゆく。

 「圧力のようなものを感じることもあるけれど、気にしません。自分の思いや考
えを捨ててまで有名になりたいとは思わない。私にしか伝えられない何かを伝えた
くて、この仕事を選んだのだから」
プロフィール
 1978年台北市生まれ。雑誌グラビアなどで活躍中。月刊誌でコラムも連載してい
る。趣味は人間観察。夢は中国映画に出演すること。「ハリウッド映画より中国映
画の方が心に残る」。写真集は多数。年内にはCDも発売の予定。

あと書き
 一緒に仕事をすることが多いヒラオカノフスキーさんのインリン評は「天然ボ
ケ」。動物のサイを知らずに周囲を爆笑させたこともある。歌にも挑戦しているが、
「下手なんです。私、上達が遅くて」。カラリと明るく、正直。「自立した女性」
がそこにいた。