尾崎豊は殺された

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  以下、週刊現代に掲載された、
  支倉逸人・東京医科歯科大名誉教授の著書、
  「検視秘録」(光文社刊)の抜粋。
<<検視官の話によると、男性は自宅で死亡したが全身に無数の傷があるという。
「男性は他人の家の敷地内で傷だらけで倒れていたところを発見され、
救急車で都内の病院に運び込まれています。
病院では入院を勧めたが家族が、家に連れて帰ったそうです。
ところが家に帰ってから容態が悪くなって急死してしまった。
全身に無数の傷があるし、障害致死の疑いがありますので
司法解剖をおねがいします・・・・・・」
ベテランの検視官はそう説明した・・・・・・。
 青いビニールシートの上に遺体を横たえ、改めて全身を観察した。
体の至るところに擦り傷や打撲があった。いずれも軽度の傷だったが、
無傷のところを探すのが難しいほど全身に傷が広がっていた。
 背中には紫色の死斑が出ていた。これとは別に、赤茶色や黒ずんだ傷跡が
頭、顔、手足、胸腹部、背中などに見られた。(略)
 立会いの警察官がうなずきながら話した。
「空き地で倒れているのを発見されたとき、
仏さんが裸で地面に体をこすりつけて、
のたうち回っているのを目撃して人がいるんです。
何でも地面に顔をたたきつけていたそうです。」
 警察では当初、傷害致死を疑っていたので、
男性が亡くなるまでの足取りを調べていた。
とくに男性がだれかと争っているのを目撃した人がいないかを調べたが、
目撃証言はなかった。
 私は皮膚の擦過傷と打撲傷をじっくり調べた。
だが他殺をうかがわせるようなものはなかった。(略)
 手拳によって殴られると、皮下に出血を生じコブ状に青く膨れれるものの、
皮膚の表面に擦過傷は生じない。ところが男性の打撲傷は、
ことごとく皮膚の表面にこすった跡があった。
つまり、男性の傷は殴られたせいではなく、地面などに自らをこすりつけたり、
打ち付けたせいで生じたものと推定された。
 自分の体や頭を地面にぶつけ、こすりつけるのは明らかに異常だが、
覚醒剤中毒患者にはよく見られる行動である。
私は、男性は覚醒剤中毒ではないかと疑った。>>
<<内臓の解剖所見も覚醒剤中毒を強く疑わせるものだった。
 まず、胃、十二指腸、小腸上部の中が、すっかりただれて
粘膜が真っ黒になっていた。これは直接、覚醒剤を飲んだために
粘膜がただれて、血液が壊れていることを意味する。(略)
 また、肺にはすっかり水が溜まっていて、重かった。
肺の中に水が溜まっていることを肺水腫というが、
男性の肺を切るとジャーッと水が流れ出した。
・・・・・・毛細血管は普通、水を通さない。
ところが覚醒剤の中毒症状を起こすと、欠陥から水が漏れるようになる。
そして、そのまま水がどんどん漏れだすと、肺の中が水浸しになるのだ。
 こうなるといきができないから、・・・・・・
やがて溺死に近い症状で亡くなるのである>>
<<胃と血液の中には、約百マイクロモール程度のメタンフェタミンが
証明されたことになる。百マイクロモールは17ミリグラム。
・・・・・・過去に中毒死した事例から考えて、
服用して死亡したとしても不自然ではない濃度といえた。(略)
メタンフェタミンが見つかったことで、男性の死亡原因が
覚醒剤中毒による不慮の事故であることは疑う余地がなかった。>>
<<「これは、どう見ても覚醒剤中毒だね」
 私が検視官に報告すると、なぜか彼は困った表情を浮かべた。
「うーん、覚醒剤ですか。覚醒剤の捜査になると、また別の捜査が必要になりますねえ」
 そして、しばらく思案を巡らせてから、
「死因としては直接原因の肺水腫というところだけを発表しましょう」
と一人、納得していた。
 覚醒剤による中毒死となると他課との調整が必要だ。
入手先などの捜査のためには、ここで覚醒剤が出たことは伏せておかなければならない。
そう考えての発言だろう。
・・・・・肺水腫が直接の原因なのは間違いではないし、
警察が覚醒剤のことを伏せて肺水腫のみを発表するという以上、
われわれ裏方の法医学者が口出しする問題ではない。>>
<<人を殺害させるためには、確実に殺せる方法を取るのが当たり前で、
酒や覚醒剤は人を殺害する手段としてはあまりにも確実性に欠ける。
覚醒剤の致死量は個体差があるから、これだけ飲ませたら死ぬという基準がない。
しかも、たとえ飲ませても吐き出してしまうこともある。
人を殺害する手段として、あまりにも不確実なのである。>>