統合失調症と発達障害
私が治療している統合失調症のケースで、状況から来る不安で幻聴が大きく変動する人が居られ、
よく聞いてみると、服装のこだわりなどもあり、また愛着の対象の母親の前とそうでないところで認知と
行動が大きく違うことなどが分かり、AS(アスペルガー)の可能性があることが分かった。
もともと生真面目で強迫的、また認知自体が被害妄想的で、イライラから暴れたりするので、 ただAS
というだけでもよく統合失調症と間違えられる。この鑑別は幼少期の自閉症的エピソードの有無を聞けば
容易である。
他方、ストレス下に精神病的混乱を来たすADHDも多く、幻聴や被害妄想、思考障害も一時的には
生じうるため、またこちらも統合失調症に間違えられる。このケースはすぐに薬を切っても悪化しないことで
鑑別できるのだが、「そのまま統合失調症にされてしまう」ADHDが多いように思えてならない。
統合失調症は発病前の発達は普通で、自閉症的な特徴は(たまたまの合併はあると思うが)多くは無い。
幼少期の生活歴を詳しく聞くかどうかで鑑別できるので、ぜひとも関係者の皆さん頭に発達障害の可能性を
置いて置いてください。
医療法人賢作会兼城医院 "後藤 健治"先生
高機能広汎性発達障害と統合失調症
最近の研究から
昨年度、高機能者の適応の障害に絞った研究を請け負い、私はこの問題にいよいよ取り組まざるを
得なくなった。長年のお付き合いがあり、 良く知っている12歳から27歳の高機能広汎性発達障害青年
59名を対象に、機械的に統合失調症の症状を持ったことがあるかどうか検討をしてみた。 その結果、6名が
過去あるいは現在において診断基準を満たしていた。特に全員に幻聴様の体験が認められた。しかし
詳細に検討をすると、そのうちの4名は自閉症圏独自の病理であるタイムスリップの延長線上に生じた
ものと考えられた。
例えばある少年は、いじめっ子からいじめっ子の好きな女の子の家に行き、写真を撮る手伝いを
強要された後、自分がストーカーをしてし まったと深く悩み、その後、いじめっ子の声が常に聞こえ、雑誌や
新聞の少年の写真がすべてそのいじめっ子の顔に見えると訴えた。
これらの4症例ではいずれもフラッシュバックの特効薬である選択性セロトニン再取り込み阻害剤(:SSRI)
が著効した。また1例は、解離性の幻覚と考えられる症例であったが、これは次回に取り上げたいと思う。
誤診を受けている可能性も
しかし1例のみ、途中から急に適応が不良となり、奇異な行動や生活全般の退行があって、SSRIは
あまり効かず、新しい非定型抗精神病薬を用いたところ著効をした青年が存在した。つまり大多数の例では
広汎性発達障害の病理の延長に生じた症状と考えられるが、統合失調症の発症を疑わざるを得ない
症例も認められたのであった。
このように、大多数の症例は統合失調症と診断が出来なかった。しかしこの調査を通して感じたのは、
広汎性発達障害の児童や青年が統合失調症と誤診をされる可能性の問題である。一般に成人精神科医は、
生育歴を丹念に聴取する習慣を持たない。発達障害の経験がなければ、未診断、未治療の高機能
広汎性発達障害に気付かないで統合失調症と診断を下す可能性は十分に考えられることである。
あいち小児保健医療総合センター保健センター長・心療科部長 "杉山 登志郎"先生