脳内麻薬様物質(オピオイド)
最期にもたらされる残酷な救い
脳内麻薬様物質(オピオイド)は交感神経系の興奮によって、GABA神経系から分泌されるエンケファリン、
β-エンドルフィンなどを指します。オピオイドは阿片などの麻薬に極めて近い構造をもちます。
オピオイドの大量分泌により、精神活動の麻痺や感情鈍麻といった状態に入ります。これは、闘争も回避もでき
ない深刻なストレスにさらされた生物に、「最期の救い」をもたらします。精神活動の麻痺や感情鈍麻によって、完
全な降伏と受身の態勢をとり、現実感のなさによって、生物は「静かに捕食者の餌食となる」のです。
長期間反復的に回避不能のストレスにさらされた個体は、脳内オピオイド受容体の感受性が上昇します。これは
阿片などの麻薬を反復投与された個体に見られるものと同じ、生理的な反応です。そしてこのような個体にストレ
ス刺激や麻薬の反復投与を急に中断したり、オピオイドの拮抗物質であるナロキソンやクロニジンを投与すると、
同じような退薬症状(禁断症状)を呈します。そのため、オピオイド受容体の感受性が上昇した個体は、強烈なスト
レス刺激……自分で自分の命を危険に晒したり、自分の身体や心を痛めつける行為……なくしては生きていけな
くなります。
オピオイドの過剰放出は、大脳辺縁系の扁桃体、海馬などにダメージを与えることで知られています。扁桃体に
損傷を受けた個体は、「恐ろしいもの」「いやなもの」に直面しても、避けようとしなくなります。
マラソン中にオピオイドが分泌されることはわりと有名で、マラソンによってオピオイドが分泌された状態のことを
「ランナーズ・ハイ」と呼びます。オピオイド濃度の上昇は、他にも手術、接食障害者の嘔吐などで確認されていて、
また、リストカット、車での暴走等の自傷行為によってもオピオイドは上昇するそうです。
オピオイドの大量分泌は離人症的な症状をもたらします。現実感の喪失、自己と外界を隔てる透明な壁のある
感じ、自分のことを遠くで自分が観察している感じ、自分の手足の消失する感じなどです。
神経伝達物質・脳内ホルモン
http://trauma.or.tv/1nou/3.html