◆神経症性うつ病〔neurotic-depression/neurotische-Depression/depression-nevrotique〕
神経症性うつ病とは、フェルケル〔H.Volkel〕の提唱した概念です。本病は抑圧された神経症的な葛藤によって生じる
抑うつ状態と定義されていて、現在はICD-10の気分変調症や適応障害に分類されています。発病は、抑圧された
葛藤によって心的な体験が歪み、葛藤に関連する情勢や観念を受け止めきれない状態に陥った時で、生物学的な
危機や日々のストレスが引き金となります。症状は内因性うつ病より軽いものの経過は動揺的で治り辛く、外部環境
の影響を受けやすい為に病象が曖昧で、境界性人格障害やアパシーシンドローム(退却神経症)と酷似した症状を
示す事もあります。また、抑うつ状態が生じる前には、不安・精神的な制止状態・自己不確実感・集中力欠如・吃音・
夜尿症・夜驚症・爪噛み等の幼児期まで遡及しうる神経症的な橋渡し症状や時々機能的器官障害への移行が見ら
れます。病人の多くは家庭環境に問題を抱えていて、過干渉・放任・無視・残忍性・粗野な面や抑うつ神経症的な発展
の原因となる過度の禁欲・過保護・家族内の冷戦が確認される事があります。一方で病人自身には、人格的な努力や
体験での顕著な分裂や限りの無い依存欲求と過代償的に厳しい拒絶の並存が見られます。好発期は10代後半から
20代前半の青年期に発病する若年群と中年期から初老期に発病する高年群があります。治療には、自己実現を援助
する精神療法が不可欠とされています。