中高年で鬱病になった人たちのスレッド 2

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日本経済新聞 平成13年10月5日  夕刊 1面

あすへの話題
心の病、制度の揺らぎ --- 青木 昌彦

 ニューヨークの同時テロの後始末で、リポーターは「みんないつもよりナイスです」といっていた。相互扶助は危機における共同体の生命力を高めるだろう。
ニューヨーカーは普段はおしなべて利己主義者であるが、あの時、彼らがしたたかな損得勘定によってのみ助け合ったとは考えにくい。
 こうした一見統一性を欠いた行動の例はたくさんある。たとえば、自動車会社の忠実な組織人は、一生懸命に車を売るだろう。
しかし、与党のスキャンダルに憤激して、投票場では排出ガス規制の強力な推進者である野党候補に一票を投ずることもあるだろう。つまり人間の脳はすべての目的に使われうる統合的なコンピューターのようなものではないようだ。
 実際、最近の進化心理学や認知科学によると、人々の心の働きは、モジュール化(システムの部分への分割)しているそうだ。つまり人間は経済取引に従事するときには、損得計算に特化した脳の一部を発動させる。
共同体的な文脈、組織的文脈、投票場などの場での情報を処理し、行動選択を行う時にはその目的に対応した脳の一部が働く。こうした脳のモジュール化に対応して、経済学、社会学、組織科学、政治学などの社会科学が分岐したともいえるだろう。
 しかし、個人が統合的な人格を持つには、様々な心のモジュールの間に何らかの整合的な繋がりがあるはずだ。その整合性にひびが入ったときに人は心の病になるとされるが、そのメカニズムはまだよくわかっていないようだ。
 一つの推測は、様々な社会領域において働く心のモジュール群の繋がりと、対応する社会領域において当然とうけとられている制度群の繋がりとの間には、似たような構造が進化するということだ。
こう観ると最近日本において異常な犯罪が多発したり、中高年男性の自殺が増えているのも、諸制度の整合性が社会において揺らいでいることと無縁でないかもしれない。 (スタンフォード大学教授)