653 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
そこには、とてつもなく長い行列が続いていた。並んでいる人たちは皆、疲れ
はてているように見えた。はるかかなた先には広場があり、行列の先頭が検閲
を受けており、そこからさらに3つに分かれた列が続いていた。私はとりあえ
ず手前の行列の最後に並んだ。
「コーポーレートの方はいらっしゃいますかあ」
前の方から制服の若い係員が拡声器で叫びながら前の方からやってきた。何人
かの男が名乗りでると、係員は身分証明と手元の名簿を照らしあわせ別の列に
並ばせていった。私の前にいた初老の男切羽つまった顔でその若い男に詰めよっ
た。
「わしはどうしても今日じゅうに着かなきゃならんのです。お願いですから、
なんとかしてくれませんか」
男は怪訝な顔をしながらも、ていねいな口調で聞いた。
「コーポレートの方ですか。お手数ですが証明書を拝見」
「いや、違います。だけどわしが今日むこうに着かんかったら・・・」
「それならおとなしく並んでろ!」
若い男は急に口調が変わり、終わりまで言わせず乱暴に初老の男を列に戻そう
とした。危うく倒れそうになったので、私はささえながら言った。
「大丈夫ですか。ずいぶん乱暴な奴ですね」
「ああ、すまんかった。連中は相手がリテールだと見ると、いつもこうです
じゃ。本来、資金繰りが厳しくて振替期日を守らにゃならんのはわしらのほう
なんじゃが。おや、あんたは随分立派な身なりをしてらっしゃるがコーポレー
トの方じゃないのかな」
「いや、その、コーポレートとは何のことなんですか?」
「それじゃ、ここからは大変ですぞ。支店コードはもうつけかえてもらってる
のかね?」
「支店コード?デスティネーションアドレスのことですか?」
「アドレス?おや、どうも変だと思ったらあんたはIPパケットだね。ここはあ
んたの来る世界じゃないですぞ。どこでどう間違えられたのやら。ここにいた
らどんな目に合うかわかったものじゃない。早く戻りなさい」
654 :
名無しさん@お腹いっぱい。:02/04/09 13:38
その時、空から轟音とともに飛行機が落ちてきて前の広場に墜落した。爆発音
とともにたくさんの悲鳴が聞こえてきた。私はあわてて老人をかばいながら身
を伏せた。
「おやおや。またRCが落ちたようじゃ。またたくさんの電文が犠牲になってお
るわ。これでは本当に向こうにたどりつくのはいつになるやら」
「あの人たちは・・・」
「いや心配はない。わしらはあんたらと違い到達性がネットワークレベルで保
証されておる。どこかで再生されてくるので消えてしまうことはない。だが」
その時、後で二人の男がつかみあいの喧嘩をはじめた。
「なんだとこら、もう一度言ってみろ」
「何度でも言ってやるよ。おめえの方がニセモノに決まってる」
「なにお」
あわてて止めに入ろうとした私は、二人の男の顔を見て思わず凍りついてしまっ
た。どちらも全く同じ顔をしていたのだ。
「先週から、二重引き落としが発生しておるんじゃ。全く同じ摘要と金額を持っ
た男たちを何組も見た」
「ここでは何か異常事態が起きているようですね」
「そうじゃよ。何かとんでもないことが起きておる。しかも事態はどんどんお
かしな方に進んでおる」