【ヤクザ】 競馬ブックの藤井嘉夫 9 【エス】

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668こんな名無しでは、どうしようもないよ。
できるだけ端折ったが、どうしても長くなるので分割する。

(一)

慰安旅行ではなく、ちょっとした親睦旅行。一泊二日。
箱根観光して、芦ノ湖に泊まって、翌日にはバスと新幹線で帰るものだった。
内炭さんは栗東で留守番。大坪は誘ってやったのに返事をよこさず欠席だったのを覚えている。

事件が起きたのは、宴会も一通り終わり、テーブルを横にどけて畳の上でTM数名が雑談をし始めたときだった。

酔うた松本憲が今は亡き中西さんに向かって、「馬なんか見ても何も分からない。これからはデータだ」などと嫌味を言い出した。
やんわりと諌めに入った山田御大に対しても、「あなたのようなやり方は関西でしか通用しない!」とか次々と暴言。
さらに、「あーた方と違い、私は将来を見据え、若手を育てている。彼は馬の見方を知っている」とペーペーの吉岡を自慢し、
「他社から誘いが来ている。独立という選択肢もある。自分は会社にしがみつくような男ではない」などと、酒の勢いとはいえ言いたい放題。

さすがに関西も若手が黙っておれず、たしか米満さんだったと思うが、1名がビール瓶を持って立ち上がった。
村上さんが止めに入った。米満さんと海士部さんが部屋を出て行った。
669こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2013/10/01(火) 16:52:38.17 ID:kfTwe3mO
(二)

松本憲の暴言はとどまるところを知らず、「ダービー8連敗の栗東が何を言っても負け犬の遠吠え」と吐き捨てた。

次の瞬間、「あんた、新聞や週刊誌で達者に能書き垂れてはりまっけど、全然当たってまへんがな」と藤井さんが登場。
「こないだダービーでちゃんとアイネスに印打ったんか? まさか無印ちゃうやろな?
言うてみコラ! 栗東8連敗とか人のこと言う前に、お前自身どやねん? おもくそ外してるやろ、ボケ!!」とヒートアップ。
しかし松本憲は藤井さんに対しても、「口が達者なのはあなたでは? あなたのユートジョージは何着で?」と悪態。
藤井さんも負けずに、「動きも毛ツヤも一番良かったんじゃ。俺がこれやと決めたことに口挟むな!」。
「それは、あーたに馬を見る目がないということでしょう?」と返す松本憲。
「勝ち馬に無印、ライアン二重丸の分際で、己を棚に上げて何言うとるんじゃ?
そういうたらオッサン、ハクタイセイが恐い恐い言うとったのう。ハクタイセイの上がり知ってるか? 一番遅かったんじゃ!
距離持たん馬に印打って新聞汚すな、恥を知れ! 新聞を印刷した人、配達した人、買った人、全てに謝れ! このドアホ!!」と藤井さんも譲らない。
さらには、一升瓶を手にした藤井さんに向かって、「障害本紙止まりのあーたに、私が日々さらされている重圧は理解できない」と松本憲。
「お前、勘違いすんなよ。前任者が夜逃げでおらんなってもうて、他に人おらんし、繰上げで本紙にしたっただけじゃ」と藤井さん。

このような論争が2〜3分続いただろうか。藤井さんの右手には一升瓶。左手を掴んで万一に備える村上さん。
670こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2013/10/01(火) 16:55:37.32 ID:kfTwe3mO
(三)

「まあええわ、オッサンが調子こいてられんのも今だけじゃい。見とれ。関西の時代が来るど。
関東なんかペンペン草も生えんようになるさかいのう!」。そう言うと藤井さんは一升瓶を畳に強く置いた。

このあと、松本憲の一言が藤井さんを本気で怒らせる。「おうおう、暴力か? これだから関西は怖いんだよ」。

ガッシャーン!!

藤井さんは再び一升瓶を手にとって立ち上がり、机に叩き付けた。一升瓶は先の方が割れ、立派な凶器に変身した。
藤井さんは、村上さんの制止を振り切り、「暴力いうんは、こうすること言うんじゃい!」などと怒鳴りながら、松本憲に飛びかかった。
さすがにビビったか、松本憲は廊下へ逃げた。一同があっけに取られている間に、浴衣姿、しかも裸足の中年2人は旅館を飛び出た。
追う者は誰もいなかった。走り回って疲れたら帰ってくるだろう、と。
671こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2013/10/01(火) 16:58:34.42 ID:kfTwe3mO
(四)

翌朝、飯を食ったらすぐチェックアウトなのだが、2人とも帰ってこなかった。飯を一緒に食うかどうかで朝も少し揉めた。
関東が何を言ってきたかは知らないが、関西は中野さん、松本晴さんが関西の各寝室を回って、和解を提案した。
山田御大がこれに強く反対し、若手を中心に同調の声があがった。
結局、部屋数に限りがあるとのことで、最終的には前日宴会を行った大部屋を襖で2部屋に分けて朝食を取った。
関西は合議して藤井さんの荷物をフロントに預けて帰ることに決めた。新幹線の時間があるし、バスを待たすことは出来ないからだ。

部屋で井尻さんが寝てたことを忘れたまま出発してしまい、10分ぐらい進んだところで誰となくそのことを思いだした。
山田御大は「ほうっといたらええんですよ」と言ったが、そうもいかず川田さんがタクシーでホテルに戻ることになった。
川田さんがホテルに戻ったとき、掃除のおばさんの好意で後回しにされた井尻さんはまだ寝ていたという。
井尻さんを起こし、再度チェックアウトのためフロントに行った川田さんは、「つい先ほど藤井さんが現れ、荷物を受け取って帰った」と聞かされたそうだ。

藤井さん、井尻さん、川田さんの3名を除く一行は、京都で飯を食って、井尻さん、川田さんを待つことにした。
ところが、京都に着き、会社に電話すると、なんと藤井さんはもう栗東に戻っており、社宅で寝ているという。
一行が藤井さんがどうやって帰ったのか議論しているうちに、井尻さんと川田さんは我々より1時間ほど遅れて京都に着いた。
672こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2013/10/01(火) 17:00:48.92 ID:kfTwe3mO
(五)

翌日、朝の調教が終わって、内炭さんが何人かのTMを呼び出し、事情聴取となった。
昼飯のあとだったか、内炭さんは山田御大と藤井さんを屋上に呼んだ。何が話し合われたかは分からないが、
怒られたのではなく、むしろ褒められたのだという噂が駆け巡った。
午後、目の周りをパンダのように腫らし眼帯を装着した松本晴さんを多くの人が目撃している。
内炭さんに殴られたという噂がまことしやかに流れていたが、真偽の程は不明だ。

関西に松本憲の消息を気にかけるTMはいなかったが、週刊誌の担当者が連絡を取っているという情報が出回っていたし、
週末の新聞には印も入っていたので、とりあえず生きることだけは許されたようだ。

なお、この事件を境に、ダービーは関西馬が席巻する時代に突入する。藤井さん、恐るべし。

かなり端折ったが、これが伝説の「事件」の始終である。

───── 終 ─────

※ この物語はノンフィクションであり、実在する人物、団体とは密接に関係があります。