(大スポ)
「郷に入っては郷に従え(と解釈している)」
ブエナビスタに騎乗したスミヨンの通訳は控えめな表情で本人の心情を伝えたが、
検量室から出てきた時の紅潮した顔色からは内心は穏やかではなかったはずだ。
「自分か?って驚いていた」と、裁決に呼ばれた際のスミヨンの様子を伝えるのはブエナを担当する山口厩務員。
「この程度でどうして審議の対象になるの?」という思いが、こうしたリアクションを取らせたのは言うまでもない。
スミヨン自身の“問題のシーン”に対する説明はこうだ。
「内の白帽子の馬(ヴィクトワールピサ)とローズキングダムが接触し、そこでローズが下がってスペースが空いたところに入っていった」
この際、右ムチを振るっていることから、自らの意思でスミヨンが内に進路を切り替え、
手応えの良かったヴィクトワールピサに馬体を併せにいこうとしたのが分かる。
恐らくスミヨンの判断は「スペースができたのだから、入っていっても問題ない」
自身が拠点としているヨーロッパでの感覚のまま一連の行動を取った。しかし、日本ではこれが許されなかった・・・ということになる。
ブエナを管理する松田博調教師もこの裁定には納得していない。
「まず、ファンに失礼。なんであんなに時間がかかるんだ。決めるなら早く決めればいい」と24分に及ぶ長い審議を批判したが、憤慨はこれにとどまらない。
「いちいち騎手を呼んで話を聞かないと(処分を)決められないのか。自分たちのやることに自信がないなら、辞めたらいい」
と裁決委員を痛烈にこき下ろした。降着シーンについても「あれで降着はないやろ。あれでアウトなら他にもたくさんあると違うか」
そもそも、松田博師は裁決部門に日頃から不満を感じていた。ブエナビスタにとって最初の降着となった昨年の秋華賞(2着→3着)の際も
「少し外に膨れただけ。結局は声の大きいもんの言うことを聞くだけ」と、委員の無能ぶりを嘆いていた。
検量室の中という“密室”での出来事だけに、第三者からは不透明な面もあるが、
今回も「結局はユタカがワーッと言ったからそうなるんだよな。馬じゃなくて人で決まっちゃう」(山口厩務員)
という発言通り、有力騎手のアピールに負けたと感じている。
松田博師の嘆きは続く。
「日本もパートT国になったんだ。となれば、どんどん外国人騎手が来る。今の日本の騎手で太刀打ちできるか?
凱旋門賞を見ても分かるように、あれだけダンゴになって馬体をぶつかっても向こうの騎手は『それが普通』としか思っていない。
それに比べ日本の騎手はどうだ。ちょっと前をカットされただけでワーワー言うし、
『声をかけたのに進路を開けなかった』なんてことで文句を言う。そんな甘いことでこれから乗り切っていけるのか?
安全はもちろん大事だが、裁決の基準を『世界基準』にして、厳しい競馬を経験させていかないと・・・。この先の日本の騎手は生き残れなくなってしまう」
もちろん“この程度か”どうかは当事者が判断することではないが、前記のように現状のJRAの裁決基準はあいまいな部分が多い。
「場の雰囲気に流される」ジャッジを続けていれば、危機的状況に陥ると松田博師は警鐘を鳴らしているのだ。