(日刊スポーツ)
吉田勝彦さんは1955年から嘱託で、そのだ・ひめじ競馬の場内実況をするようになり今年で55年目。
今や兵庫競馬の“行き字引”的な存在で、全国のファンや関係者に愛されている。
(吉田)「私は厩務員作業の経験が2年ほどあって、そこで競馬は多くの人間がもの凄い神経を注いでいることを知りました。
実況でも同じです。どの騎手がどのように馬を卸しているか、細かく見抜いてファンに少しでも伝えることを心掛けています」
91年まで14年連続で兵庫競馬のリーディングを獲得した田中道夫騎手が、南関東の佐々木竹見騎手が持つ15年連続の記録に挑んだ92年のこと。
吉田さんは田中騎手に「今、誰が怖い?」と聞いた。すると「ちょっとウルさいヤツが出てきたなあ」
それが小牧太騎手。田中騎手の言葉通り、その年のリーディングは19勝差で小牧騎手が獲得したのだ。
さらにその後、今度は小牧騎手を脅かす新人、岩田康誠騎手が現れる。
(吉田)「岩田が出てきた時は衝撃的でした。手首が凄く柔らかく、手綱捌きが絶妙。スタートが遅い馬でもビュンと出た」
当然、先輩からはうるさく言われる。ある時、吉田さんは岩田騎手に「今はスンマセンって謝っておけ」と言った。
すると口数の少ない岩田騎手が語気を強めていい返したそうだ。
(吉田)「岩田は『ボクだって勝ちたいんです。負けたくない気持ちは誰にも負けたくない。
どんな賞金でも、一番速くゴールを駆け抜けて、おいしい空気を吸いたい』と言いました。
彼は先日、今年のJRA年間100勝を達成しましたね。うれしかったなぁ・・・。地方馬はJRAにはかなわない。
でも、安藤勝己が門戸を開き、内田博幸、小牧、岩田、赤木とみんな上位で頑張っている。
地方騎手のレベルが高いことを証明してくれているんですから」
レース全体を見通せなくなるから、と吉田さんは馬券を買わない。無理を承知で「エリザベス女王杯の◎は?」と聞いた。
(吉田)「ブエナビスタをはじめ3歳馬は強そうですね。でも私の◎は岩田のチェレブリタ。
叩き2走目ですし、調子が良さそう。G1でどこまでやれるかでしょうが、強運を持つ岩田のこと、きっと見せ場をつくりますよ」