1 :
こんな名無しでは、どうしようもないよ。:
競馬研究書「ダービー・ポジション」の序文はこのように語っている。
「あなたが競馬から得るものは殆んど何もない。回収率に置き換えられたプライドだけだ。失なうものは実にいっぱいある。
歴代ダービー馬の銅像が全部建てられるくらいの銅貨と(もっともあなたにオペックホースの銅像を建てる気があればのことだが)、取り返すことのできぬ貴重な時間だ。
あなたがWINS新宿のモニタの前で孤独な消耗をつづけているあいだに、あるものはプルーストを読みつづけているかもしれない。
またあるものはガール・フレンドと『レーシングストライプス』を眺めながらヘビー・ペッティングに励んでいるかもしれない。
そして彼らは時代を洞察する作家となり、あるいは幸せな夫婦となるかもしれない。
しかし電光掲示板はあなたを何処にも連れて行きはしない。
審議の青ランプを灯すだけだ。走る、走る、走る‥‥‥、まるで競馬そのものがある永劫性を目指しているようにさえ思える。
永劫性について我々は多くを知らぬ。しかしその影を推し測ることはできる。
競馬観戦の目的は、自己実現にあるのではなく、自己変革にある。エゴの拡大にではなく、縮小にある。分析にではなく、包括にある。
もしあなたが自己表現やエゴの拡大や分析を目指せば、あなたは警備員に容赦なき報復を受けるだろう。
良きレースを祈る(ハヴ・ア・ナイス・レース)」
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3 :
こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2007/08/31(金) 18:04:01 ID:r5KDqzgT
「猫を探してるんだ」と汗ばんだ手の平をズボンでこすりながら言い訳するみたいに言った。
「1ケ月ばかり前から家に戻ってこないんだけど、このへんでみかけた人がいるんだよ」
「どんな猫?」
「大柄な雄猫だよ。鹿毛で、しっぽの先が少し曲がって折れてる」
「名前は?」
「サムソン」と僕は答えた。「メイショウサムソン」
「猫にしちゃずいぶん立派な名前ね」
「日本のダービー馬の名前なんだ。感じが似てるんで冗談でつけたんだよ」
「どんな風に似てるの?」
「なんとなく似てるんだ。歩き方とか・・でろっとした鼻とかがね」
4 :
こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2007/08/31(金) 20:37:54 ID:r5KDqzgT
「後ろの馬はちゃんとブロックしているのかしら?」
「わかりません」と松岡は正直に言った。
「私にだってわからないわ。きちんと説明して頂戴」
柴田はいかにも不快そうに顔をしかめた。
たしかに柴田が言う事のほうが筋が通っていた。
松岡は硬い馬の鞍に座ったまま、今しがたゴールを通り抜け、
今はウイニングランをしている武豊を眺めていた。
いったい何をどうすればディープインパクトを閉じ込めることができるのか見当もつかなかった。
府中にはわからないことがいっぱいある。
5 :
こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2007/09/01(土) 21:32:16 ID:N31OPPWk
「お前がガッツポーズを空しいと感じるなら、それはお前がまともな人間である証拠だし、
それは喜ばしいことだ」と池添は言った。
「ガッツポーズで得るものなんて何もない。馬鹿にされて、自分が嫌になるだけだ。そりゃ僕だって同じだよ」
「じゃあどうしてあんなに一所懸命するんですか?」
「それを説明するのはむずかしいな。ほら、ドストエフスキーが賭博について書いたものがあったろう?
あれと同じだよ。つまりさ、可能性がまわりに充ちているときに、それをやりすごして通りすぎるというのは大変にむずかしいことなんだ。それ、わかるか?」
6 :
こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2007/09/01(土) 21:49:49 ID:zGTWPNrm
ヤレヤレ
[やれやれ」
僕はうんざりしていた。武豊ばかり勝たせるJRAの体質に。
僕はこんな時、拳を握ってひたすら耐えるしかない。
何やっても、意味ないと、たとえわかってもね。
しかし、立ち止まってはいけない、たちどまったら。
とにかく動くのさ、踊るのさ、ダンスダンスダンス。
8 :
こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2007/09/01(土) 22:37:40 ID:N31OPPWk
「最近のジョッキーはみんな礼儀正しくなったんだ」と武は島本さんに説明した。
「僕が騎手の頃はこんなじゃなかった。ジョッキーといえば、みんなクスリをやっていて、半分くらいが性格破綻者だった。
でもときどきひっくりかえるくらい凄い騎乗が見れた。僕はいつも阪神競馬場の検量室に行って競馬を見ていた。そのひっくりかえるような経験を求めてだよ」
「そういう人たちが好きなのね、邦彦くんは」
「たぶんね」と武は言った。
「まずまずの素晴らしいものを求めて競馬にのめり込む人間はいない。
九の外れがあっても、一の至高体験を求めて人間は競馬に向かって行くんだ。
そしてそれが世界を動かしていくんだ。それが芸術というものじゃないかと僕は思う」
武は膝の上にある自分の両手をまたじっと眺めた。それから 顔を上げて島本さんを見た。島本さんは武の話の続きを待っていた。
「でも今は少し違う。今では僕は調教師だからね。僕がやっているのは資本を投下して回収することだよ。僕は芸術家でもないし、何かを創り出しているわけでもない。
そして僕はここでべつに芸術を支援しているわけではないんだ。
好むと好まざるとにかかわらず、この場所ではそういうものは求められていないんだ。
経営している方にとっては礼儀正しくてこぎれいな連中の方がずっと扱いやすい。
それもそれでまた仕方ないだろう。世界じゅうが田原成貴で満ちていなくてはならないというわけじゃないんだ」
直子は僕のものを口に含み、「逝くときは教えてね、飲み込むのが辛いのよ」と言った
10 :
こんな名無しでは、どうしようもないよ。:2007/09/04(火) 18:07:19 ID:xGw15cQO
「だから僕としても岩田さんに幸せになってもらいたいんです」
と川田はちょっと赤くなって言った。「でも不思議ですね。
あなたみたいな騎手ならどの馬にに行っても幸せになれそうに見えるのに、
どうしてまたよりによってアドマイヤさんみたいな人とくっついちゃうんだろう?」
「そういうのってたぶんどうしようもないことなんだよ。自分ではどうし
ようもないことなんだよ。アドマイヤさんに言わせれば、そんなこと君
の責任だ。俺は知らんってことになるんだろうけどね」
「そう言うでしょうね」と川田は同意した。
「でもね、川田君。僕はそんなに頭のいい騎手じゃないんだ。僕は
どっちかって言うと馬鹿で古風な騎手なんだよ。エージェントとか責任
とか、そんなことどうだっていい。調教して、好きな馬に毎週騎乗して、
たまに勝てればそれでいいんだ。それだけなんだ。僕が求めているのは
それだけなんだよ」
「アドマイヤさんが求めているのはそれとは全然別のものですよ」
「でも人は変わるよ。そうだろ?」と岩田さんは言った。
「馬主になって中央競馬の荒波に打たれ、挫折し、大人になり・・・ということ?」
「そう。」
「それは普通の人間の話です」と川田は言った。「普通の人間だった
らまあそういうのもあるでしょうね。でもあの人は別です。あの人は我々
の想像を超えて金を持っている人だし、毎年毎年セレクトセールで高馬を
買ってるんです。そして結果が出なければもっと無駄な投資をしようとする
人なんです。他人にうしろを見せるくらいならナメクジだって食べちゃうような人なんです。
そんな人間にあなたはいったい何を期待するんですか?」
「でもね、川田君。今の僕は待つしかないんだ」
と岩田さんはテーブルに頬杖をついて言った。
「そんなにアドマイヤさんのこと好きなんですか?」
「好きだよ」と岩田は即座に答えた。
11 :
こんな名無しでは、どうしようもないよ。:
京都府警の連中が3人やってきたのは1ヶ月後だった。一人はいつも私のところに来て
捜査していく生意気なキャリア組の若い男だった。
「本当に土曜日の新聞だったんですね?」その若いキャリア官僚が抑揚のない声で言った。
「これはとても重要なことだからよく思い出してください。あとで訂正はききません
からね。コンビニは何の根拠も無く無駄な行動はとらない。彼らがあなたが因縁を
つけているだけだと判断したなら、それは新聞は確かに土曜日に買われたものだ
という根拠があったからです。あなたが恐喝について何の認識もなかったとは考え
られないんですがね」
「そんなに頭がいいんなら、週末のメインの勝ち馬を教えてくれないかな?」
キャリア警察官はしばらくシャープ・ペンシルの先でこんこんと手帳のかどを叩いていた。
「勝ち馬はともかく、過去の事実関係についてはこれから調べ上げますよ。徹底的に
調べる。我々が真剣にやれば大抵のことはわかるんです。そしてもしあなたが何かを
隠していたことが判明すれば、これは厄介なことになりますよ。我々には国家がついて
います。というより我々が国家です。我々にできないことはないのです」