430 :
初恋:
「えりぃ、初恋はねぇ、実らんでもいいさぁ。
実らんほうがいいかもしれんよぉ」
「おばぁ…どういう意味? おばぁ」
「初恋というのはね、いい 思い出さぁ。
たとえ実らなくても、いい 思い出さぁ。
おばぁみたいにさ、こう歳を取っても、
思い出すだけで、なにか甘酸っぱい気持ちになってさ、
思い出すだけで、その頃に戻れる、
いい 思い出さぁ。
みんなが持っている、いい 思い出さぁ。
分かるね、えりぃ」
「…うん」
「でもね、えりぃは、今のままでは、
いい 思い出にならんかもしれんよぉ」
「えっ?」
431 :
初恋:2001/06/30(土) 21:09
「文也くんとのことが、
だんだん、つらい思いになってしまうさ。
あのね、今のえりぃは、あんまり好きじゃないさ。
えりぃは、逃げているんじゃないかと思うさぁ。
自分が傷つくことが怖くて、
『もう自分はいいさぁ あきらめたさぁ』
と言って、逃げているだけだと思うさ、おばぁは。
嫌な思いをすることから逃げていては、
幸せにはなれないよぉ。
ちゃんと、ぶつかってごらん、えりぃ。
そうじゃないと、いい 思い出にならんよぉ。
せっかくの、えりぃの初恋が。
おばぁはね、あの人を追って東京に来たとき、
逃げなかったよ。
ちゃんと、自分の思いを伝えたさ。
だから、いい思い出もできたし、
おじぃとも、幸せになれたさ。
おばぁは、そう思っているさぁ」
「うん」
「怖いね?
その気持ち、おばぁは分かるさ。
乗り越えなさい、えりぃ」