【解答乱麻】 「ごちそうさん」で動く心 開善塾教育相談研究所相談部長・藤崎育子
ひきこもる子供の家庭訪問をくりかえす過程で、「やった!」と思う瞬間がある。中でも長
い間外出もままならなかった子供と一緒に、車で出かけ、ラーメン店などに行くことができ
たときは格別だ。今、NHKの朝のドラマ「ごちそうさん」が評判だが、一緒に食事ができ
るということがどれほど大事な意味を持っているか、いつも感じる。たとえ交わす言葉がわ
ずかであっても、一味同心、一緒に食べることができれば、子供にとって私が安心できる存
在になりつつあると思えるのだ。私が関わってきた不登校の子供たちは「お昼は何が食べた
い?」と尋ねても最初のうちは答えられない子がほとんどだ。「何がおいしいっていうもの
なのかよくわからない」という子すらいる。しかし、評判のラーメン店に連れていったら麺
だけでなく、つゆもしっかり平らげる。そのうちに「煮干しを使ったあの店に行きたい」
「かつおだしの方が好みだ」と言い出すようになる。おいしいものに目覚めたら、次は自分
で作ることに挑戦する番だ。日頃の家庭訪問の際の外出距離を伸ばしていき、慣れたところ
で、群馬の山奥での合宿に誘う。料理なんてと尻込みするが、「教えてあげるから大丈夫」
というとガゼン興味を示す。何かやってみたい、学びたいという気持ちをどの子も持ってい
るのだ。合宿では料理にじっくりと時間をかける。水道からは湧水が出る。おいしい水に昆
布(こんぶ)をひたし、だし作りの準備にかかる。時間をかけ、沸いたところに、かつおだ
し、そのだし汁を使って、地元自慢のキノコや野菜をたっぷり使ったみそ汁やら鍋やらを作
る。だしをとること自体、生まれて初めて体験する子も少なくない。