珍しそうに見ている子に、手に手をとって作り方を教える。だしを取り始めると、部屋中
によい香りが漂う。各地から合宿にやってきた子供たちに包丁を持たせ、食材の切り方を教
え、一緒に料理の下ごしらえをしていくのだ。人とコミュニケーションを取ることを苦手と
する子供たちだが、料理という共同作業の中では、自然に助け合う。食事の時間、たくさん
作ったみそ汁も、お代わりをする子が続き、あっという間に残り少なくなる。日頃食べてい
るみそ汁とひと味違うらしい。「家でやってみようかな」という子も出てくる。どんな味が
おいしいのか、わからないと言っていた子がだしのうまみを知って変わる。子供の頃、小さ
くなったかつお節を祖母が大事に削っていたことを覚えている。せがんで削らせてもらって
もうまくいかない。終わると、かつお節と削り器は祖母の手で、大事に戸棚にしまわれた。
昔は多くの家庭で見られた光景が、今の子供の目の前にはない。和食が無形文化遺産に指定
されたときは単純に誇らしく思った。しかし、あらためて考えると、伝えていかなければな
らない文化遺産となってしまったのである。ただ、だしひとつでみそ汁の味が変わることに
気づいた子供たちに希望はある。だしは子供の舌に忘れられない味覚を育ててくれる。食べ
ることは生きること。これからも、だしをとることを大事にしよう。子供と一緒に作ったり
食べたりを楽しみたいと思う。願わくばもうこれ以上私の体重が増えないことを祈りつつ。