固定ファンに守られていたクラシック音楽の硬派なイメージを突き破った「のだめ」は、聴衆の
新規開拓が大命題の音楽業界にとって、まさに「救世主」的存在だ。
「のだめ」連載中の講談社Kiss編集部、三河かおりさんは、「自分が周囲からどう見られて
いるかを気にしすぎて疲れることが多い今、自分たちの音楽に真剣で、周りにどう見られようと
気にしない個性的な登場人物たちに癒やされる人が多いのでは」とヒットの理由を分析する。
アイドル評論家の北川昌弘さんは「『ハチミツとクローバー』など芸術系大学を舞台にした
マンガが今、注目されている。普段足を踏み入れないが、面白いことが満載に違いない――。
そんな夢のある現実逃避を提供してくれる場所なのかもしれない」と話す。
さらに今回のブームを決定づけたのが、一晩で膨大な数の人が見るドラマの力。
ドラマの「ブラックジャックによろしく」を手がけたTBSの伊與田(いよだ)英徳プロデューサーは
「通常なら重厚すぎてドラマから浮きがちなクラシック音楽を、堂々と真正面から聴かせる環境を
巧みに作り出している。してやられた、という感じ」と評価する。
84年の映画「アマデウス」のように、音楽を題材にした作品はブームを起こしても音楽業界から
はブーイング、ということも多いが、「のだめ」はファンを自称する専門家が少なくないのも特徴だ。
音楽評論家の畑中良輔さんも「音楽をしている人の感じがよく出ている」と、毎回リアルタイム
でドラマを楽しむ。
◇父親世代も納得
大阪大助教授の伊東信宏さんは「『のだめ』は若者向けのドラマだが、旧来のファンがクラシックに
求める教養主義をも、うまく薄めて温存している。また、その見せ方がおちゃめだから父親世代の
ファン層もくすぐる。そのあたりの呼吸が絶妙」と語る。
「クラシックへの『入り口』として、『のだめ』は決して的はずれではない。ここからは音楽業界が、
そのファンをさらに深みに引きずり込む番です」
http://www.asahi.com/culture/music/TKY200612070191.html